BATTLE ROYALE
死線の先の終末(DEAD END FINALE


26:刃狼伝説

「う・・・鵜飼が? あいつが怪物だって・・・?」
 遠山 慶司(男子10番)は驚いていた。
 鵜飼 守(男子3番)のことはそこまで知っているわけではなかった。不登校気味で特に友達もいない。だが授業の半分以上は登校してきている。そんな不思議な奴だと思っている程度だった。
 そんな彼が会った当初から「やばい」と一目で感じた転校生よりさらに危険人物だということに驚かされていた。しかしその転校生、本条 龍彦(男子20番)は続けた。

「無理はない。奴は完全に猫をかぶっている。俺も顔を知らなければとても信じられなかったからな」
 そして龍彦鵜飼の伝説について語り始めた。

「奴のことは軍でもトップシークレットにあたる人物だ。奴が始めて戦場に立ったのはわずか6歳のことだったらしい。その戦場で奴はすでに数人の敵兵を殺している」
 な・・・6歳だって!?
 そんな幼い子供が戦場で殺し合いをしている現実に心底驚いていた。
「奴は特別な存在だ。政府の極秘計画『OMEGAプロジェクト』の産物らしい」
「オメガ?」
 聞きなれない言葉だった。
「Over Man Explosive Growth Achievement。『人間を超える爆発的成長の達成』という意味らしい。どういう内容なのかは知らないが、その過程で鵜飼のような怪物が生まれたのは確かだ。だが奴の伝説の始まりはそれから4年後、10歳のころの話だ」
 龍彦の現実味のない話に慶司は全くといっていいほどついていけなかった。

 極秘計画? オメガ? 人間を超えるだって? さっぱり意味がわからなかった。だが龍彦の話は続く。
「今から6年前の『チェチェン独立紛争』の頃だ。当時、大東亜共和国はロシア政府側に付いて、軍を派遣した。その中にはもちろん鵜飼もいた。だが戦況は独立軍のゲリラ戦法に悩まされ、政府・支援軍は劣勢だった。その圧倒的劣勢を覆したのが鵜飼だ」
 一人の人間が悪い状況を覆すのがすごいことは慶司にも読み取れた。だがその内容は驚く慶司をさらに驚愕させた。
「奴は・・・、刀一本でチェチェン独立軍一個中隊を全滅させた。もちろん銃火器を完全装備した軍隊であるにもかかわらず・・・だ」
「な・・! 刀だけだって!? じゃあ、鵜飼はスーパーマンだとでも言うつもりかよ!?」
「いや奴の身体能力は確かにアスリート並だと報告があるが、超人的ではない。・・・にもかかわらずこの戦果をあげた。その戦果で政府軍は一気に勢いづき、現在の歴史的勝利・・・『大東亜の同盟国・大露連邦無事反乱鎮圧』という歴史が残った。以来、奴はありとあらゆる特殊作戦に参加し、その戦闘のほとんどを刀で切り抜けた。しかも、単独でだ。味方から見ると刃を持った一匹の狼に見えたんだろうな。やつの異名は『刃狼』と呼ばれるようになり、敵側からは『ブレイド・ウルフ』として恐れられるようになった。以来、2年前の『ルワンダ紛争』で戦死するまでその戦歴は続いた」

 ん・・・? 戦死だって・・・!? 慶司は思った。
「戦死って・・・。今も生きてるじゃないか・・」
「それには訳があるんだが・・・、今話すのはこれくらいでいいだろう・・」
「な!? もったいぶる気かよ!」
「勘違いするな。さっきも言ったが俺はボランティアじゃない。完全に信用していない相手にここまで話すだけありがたいと思え」
 ぐ・・・こいつ・・
 文句でもいってやりたかったが、一理あった。
「だがこれだけは覚えておけ。あいつが殺した人間は数百人・・・数千人を超えている。さっきあった女とは違い、躊躇なく殺しにやってくる。それを覚えておけ。まぁ、今の装備で遭ったら間違いなく俺たち二人とも殺されると思うがな」
 恐ろしいことを平然と言い放つ龍彦

 そして気を紛らわすために龍彦の握っているものを見る。
「・・・なぁ。その銃って・・本物なのか?」
 慶司は疑問を投げかける。
「こいつか? こいつは『コルトパイソン』リボルバー式の拳銃だ。威力としてはさっきの女が持っていたデザートイーグルと遜色がないくらいのハンドガンとしては桁外れの威力を誇る銃だ。まあ、腕力がない奴が使うと腕を痛めてしまう・・・さっきの女みたいにな」
「え・・!」
「知らなかったか? あの女は俺が撃ったんじゃない。自分の銃の反動で腕を脱臼したんだ。普通の女があの銃を片手で撃つなんて自殺行為に等しい」
と言われると急に慶司は不安になってきた。

「じゃあ・・・、深矢が今襲われると・・やばいじゃないか!」
「お前・・・、本当に馬鹿か? 自分を殺そうとした女をどうして心配する?」
「そんなの当たり前だろ! クラスメイトだからに決まってるじゃないか!」
 何のためらいもなくそう言う慶司の曇りに一点の迷いもなかった。
「・・・まぁいいさ。だが女を心配する前にお前の信頼できる奴のことを心配しろ。そしてそいつらを集めることが最重要事項だ」
「くっ・・・!」

 本当は否定したかったが、こいつの言うことは的を得ている。一刻も早く健吾たちと合流することは慶司としても歓迎すべきことだ。
 それに・・・こいつ、本条はこのプログラムからの脱出方法を知っている。プログラムに乗る気のない慶司にとってはそれに賭けてみたかった。 慶司にとってもまだ完全に龍彦のことを信用したわけではなかったが、すでに死ぬ覚悟をした慶司はこの龍彦に乗ってみようと思っていた。
「・・・わかったよ」
「よし、それじゃまずは住宅地に向かう」
「住宅地だって?」
「調達したいものがあるのでな・・・ お友達探しはそれからだ」
と言って、龍彦は再び歩き始めた。慶司も休憩を終え、龍彦の後に着いていった。日も大分落ちかかっていた・・・

【残り・・・27名】
                           
                           


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