BATTLE
ROYALE
〜 死線の先の終末(DEAD END FINALE) 〜
29:"最凶"の欲望
「ウフフフフ・・・はっけ〜〜ん♪」
と言って墨田 剣子(女子9番)に銃を発砲した魔女・浪瀬 真央(女子20番)は悪魔の笑みを浮かべた。
「く・・・ごほ!」
と吐血する剣子。かろうじて立っているもののかなりの重傷には間違いなさそうだ。
「あらん、無理しないほうがいいわよ〜、キャハ♪」
だが倒れるわけにはいかなかった。
アタシはおそらくここで死ぬ・・・ でもこいつを生かしておくとあいつにまで魔手が届くかもしれない・・・ こいつはここで刺し違えても・・・!
そんな思いが剣子の足を崩そうとはしなかった。
「アタシとしては〜、死ぬ間際を楽しみたいのよね〜。しかもゆっくりと。だから・・・、倒れてくれるぅ?」
といって剣子の足に向かって手に持っていたタイタンの引き金を引く。
バーン!!
しかし剣子の足を貫かず、側面をかすっただけであった。
「あぅ!!」
かすっただけとはいえ、激痛が襲う。しかし木刀を杖にして決して足を崩さない。
「あっれ〜、おかしいなぁ。まだ慣れてないせいか、うまく当たらないや〜、キャハ♪」
無邪気な笑顔を浮かべる真央。
まだよ、早く近づいてこい!
真央の油断を剣子は待っていた。それしか逆転の方法はないと思ったからだ。しかし、
「う〜ん。お姉さんなかなか諦めないね。まあいいや、ゆっくり楽しむのは後ろの人だけにしよ〜う。一瞬で楽しむのもいいや、キャハ♪」
そう言って真央はタイタンの銃口を剣子の頭に合わせる。
「クッ・・!」
そうして剣子は近づいてこないとわかった瞬間、間合いをつめるため最後の力で近づく。
「アアアアァァァア!!!!」
そう言って近づく・・・が真央が引き金を引くほうが明らかに早かった。
「キャハハ♪」そして銃声が響く。
小船・・・! 自分の探していた人を思った・・・
剣子が小船 麻理夜(女子8番)と知り合ったのはついこの前・・・
剣道部の部活の帰り、いつものように練習を終えた剣子がいつもの通学路で歩いているとうずくまって苦しんでいる一人の女生徒を発見した。 思わず声をかけた。
「オイ!! 大丈夫か!?」
そう言われた女生徒は気丈に声を返す。
「だ・・・大丈夫です。ちょっと・・・持病がでただけですから・・・」
そう言う声に覚えがあった。
「小船・・・?」
そう、自分のクラスメイトだ。
「あ・・・、墨田さん・・・」
その後、近くの公園で休んで様子を見ることになった。
「大丈夫か?」
「あ・・・、はい。もう大丈夫ですよ」
そういった麻理夜は少しは顔色がよくなったようだ。
「しかし・・・、心臓病とは大変だね」
「ええ・・・、でもこれも私の体ですから・・・、うまくつきあっていくしかないと思います」
そういう麻理夜には一点の曇りもなかった。
「・・・小船は強いな」
そう言うと麻理夜は照れたようなのか、
「え! そんなことないですよ! 墨田さんのほうがよっぽど強いと思いますよ!」
と言う。その言葉に剣子は表情が曇った。
「アタシは弱いさ・・・ そう・・弱いのさ・・・」
「墨田さん・・・?」
剣子は麻理夜の言葉に自分の姿を思った。元々剣道は好きではなかった。だが墨田流の剣道道場を持つ父に幼いころから剣才を見出されてやらされていただけだった。才能と練習もあり、剣子は確かに強くなっていった。だが心の奥では迷っていたのだ。
自分はこのままでいいのか・・と。ほかに自分にやりたいことがあるのではないかと。
「・・・墨田さん。夢ってあります?」
いきなりそういった麻理夜に剣子は首をかしげた。
「夢・・・?」
「私はありますよ。いつかこの心臓の病を克服して、この国を出て世界中を旅することなんです。この国だけが世界の全てではない・・・、そう思うからです」
そう言い、続けた。
「だから苦しいことがあっても、その夢のためなら我慢できるんです。夢のために・・・強くなれるのかもしれません・・・ 墨田さん・・・、あなたは強いです。でももし迷っているなら、夢を抱くといいかもしれませんよ。もちろん、確実じゃないと思いますけど・・・」
そういわれて自分はこの病弱な少女に比べてなんと弱いことだろう・・・とふいに思ってしまった。そして口が動いた。
「小船・・・」
「はい?」
「もしよかったらでいいが、お前の夢・・・アタシも応援させてもらっていいかな・・?」そういわれて一瞬驚いたようだが麻理夜は笑顔でこう言った。
「喜んで!」
小船・・・アタシは駄目だったけど、アンタだけは・・・!
バーン!!!
それが剣子の最後の思いとなった。真央の放ったタイタンの銃弾は、今度は確実に剣子の額を貫いたからである。剣子の決して倒れなかった両足が崩れた。
その体が二度と起き上がることはなかった・・・
【女子9番墨田 剣子 死亡】
剣子を銃殺したあと真央は震えていた。そしていきなり叫びだした。
「あ・・・ああ! あああ!! アアアアアアアァァァァアアアッッッ!!!」
そして全身の震えが止まった。剣子に右腕と左わき腹を折られていた天王寺 君代(女子11番)は苦しみながらも真央を見た。
そこには恍惚の表情を浮かべた、女の姿があった。例えるなら、絶頂を迎えた瞬間・・・といったところか。
「キャ、キャハハハハハハハハハ♪ さいっこう!! お陰でまたイケたわ! 二度もイケるなんて、あの時以来だわぁ、キャハハハハハ♪」
人殺しを行ったにもかかわらず歓喜に沸くこの女を見て君代は思った。
悪魔・・・・・と。
その場からすぐにでも逃げ出したかったが体の痛みに加え、恐怖でうまく動かない。すると、目の前に悪魔はいた。
「さ・て・と〜♪」
左手に自分の鎖鎌、右手には殺した剣子の木刀が握られていた。
「ヒィィイィィ!」
「今日の晩御飯、お・い・し・く・いただきますよ〜、キャハ♪」
その戦慄の魔女を前に君代は必死に命乞いをする。
「お、お願い! 助けて! お金ならいくらでもあげるから! お父様に言ってもらえばなんでもしてくれるから!!」
「お・・金?」
少しピクッと動くような気がした。これを見逃さず君代は畳み掛ける。
「そ、そうよ! お金さえあればなんでも買えるわ。食べ物、住まい、いい男、権力、地位、名誉!! なんでもあなたのものよ!」
そう言うと真央はがっかりしたような表情を浮かべた。
「な〜んだ。じゃ、いらな〜〜い」
そういって持っていた木刀を君代の右足に叩きつけた。
ボキ!! 見事に右足が折れた。
「ああああぁぁああ!!」
涙を流す君代に真央が続ける。
「あ、でもそのお父様がなんでもしてくれるのよね? ん〜〜〜」
といって再び考え出す真央。
「そ・・・、そうよ。お父様なら・・・なんでも・・・」
「それじゃ、真央ねぇ、欲しいものがあるんだ〜、キャハ♪」
とお願い口調でしゃべりだす。苦しみながらも君代は語りだす。
「な・・何・・?」
「人♪」一言真央はそう言った。
「ひ、人って・・・どんな人なの?」
するとサラリとこう言った。
「殺してもいい人♪ 今すぐ用意できたらあなたを諦めていいよ、キャハ♪」
その答えに心底恐怖した君代。
「殺したいって・・・、あ、あなたには他に欲しいものがないの・・?」
「うん! 真央はそれ以外何も欲しくないよ〜、キャハハ♪」
そして痺れを切らした魔女はこういった。
「ん〜、やっぱ我慢できないや」
そういって木刀で君代を滅多打ちにした。
バキ! ドカ! ゴキ! ドカ!
「が! おね・・ぐは! や・・め・・ギャア!!」
そして全身ボコボコになった君代を見て真央はまた震えだした。そして君代の正面に馬乗りになり鎌を振り上げた。
息遣いが完全に荒くなり、目は完全に血走っている。この目の前の女を見て君代は、薄れいく意識の中でこう思った。
こ、この女は・・・殺人しか・・・興味がない・・の? と。
「ハァ・・・ハハァ♪ それじゃ、いっただきま〜〜す。キャハハハハ♪」
ブンと真央の鎌が君代の額に振り下ろされた・・・ ブラックアウトした君代にとってはそんなことはどうでもよかったことかもしれない。
【女子11番天王寺 君代 死亡】
「天王寺さん、あなたは誰にお賭けになったのですかな?」
と紳士風の男はもう一人の男、天王寺 君代の父である人物に話しかけていた。
「私かね? 私は本条に賭けたよ。全体的にバランスがいいようですし」
「おや、確か娘さんがご出場でしたよね? よろしいのですか?」と紳士風の男が問うと、
「ああ、君代か。ここで死ぬようならそこまでの娘ということだ。第一私にはまだ娘はいますからな。それに・・・先妻のあの娘より、今の妻の娘のほうが才気あふれておりましてな。その娘に家業をついでもらいたいと思っていたところですよ」
「それはそれは、では今回のプログラムはちょうどいいということになりますな」
「いやはや、まったくです。ハッハッハ!」
醜い父親の非情な宣告は遠く離れた娘の下には届くことはなかった・・・
【残り・・・24名】