BATTLE ROYALE
死線の先の終末(DEAD END FINALE


32:笑いを凌駕する闇

 日も完全にくれて、夜の闇が当たり一面を支配しだした。
 その中を浜田 亮三(男子12番)はさらに暗闇に支配されるだろうD−7の森林地帯にいた。いつもお調子者でクラスの中でもお笑い担当だった彼の今の表情は普段とはかけ離れていた。
 一言で言うと蒼白である。極度に緊張し、人差し指の爪を噛むという不安なときにしかやらない癖もだしている。


 その原因はそれより2時間前に遡る。亮三は住宅地を目指していた。そこなら食料もあるし何よりクラスメイトがいるかもしれない・・・
 自分はクラスの中でも人気があると強く自負していた彼にとって、仲間ができるのは当然と思っていた節があるのだ。

 しかし万が一、やる気になった生徒・・・、あの転校生たち能登 刹那(女子13番)、あと個人的には陸奥 海(男子15番)もやばいと思っていた。陸奥の非情さは知っている・・・
 ある日、校舎の裏庭で陸奥のやつが狩谷たちと一緒に後輩をリンチしているのを目撃したときだった。狩谷たちは適度に止めていたが、陸奥はやめなかった。
 それどころか危うく相手が死ぬところまで殴り続け、救急車を呼ぶ騒ぎにまで発展した。しかし、その後輩は決して警察に真実を話そうとはしなかったらしい。陸奥に脅されていたのかもしれない。
 だが亮三は違う考えを持っていた。おそらく・・・怖いのだ、陸奥が。
 あの時、殴り続けていた陸奥の顔・・・ 最後のほうは高らかに笑っていたのだ・・・

 そんな陸奥が取り巻きの狩谷たちと行動していることは容易に想像できた。だが陸奥は必ず本性をあらわにすると思った。そして間違いなくあいつはやる気だと確信していた。
 そういったやる気の者達に万が一あった場合自分に対抗する術はない。まして相手が銃器をもっていたら・・・即THE ENDだろう。

 亮三の武器は『木製バット』。お世辞でもいい武器とは言いにくかった。
 そうした危惧から何の障害物のない林道を通るのは危険と判断して、すぐ脇にあった森林を通って、住宅地にでようとしたわけである。森林なら銃器を持った相手でも逃げられる可能性があがる。

 ここまで亮三はいたって冷静な判断をしていた。
 だが亮三は途中、見てはならないものを見てしまったのである。
 亮三が見てしまったもの・・・それは口より上がスイカ割りのように吹っ飛ばされている死体であった。顔が判別できないので亮三にはわからなかったが、それは亮三が警戒していた人物の一人・デビット=清水(男子19番)に殺された深矢 萌子(女子14番)の変わり果てた姿だった。

 亮三は知る由もなかったがデビットD−5の橋を渡って学校に行っていたのに対して、亮三D−8の橋を渡って住宅地に向かった。
 つまりちょうど入れ違いになったわけである。もし亮三D−5の橋を渡っていたら亮三の命はなかったのだが、そういった意味では幸運だった。

 亮三はこの無残なクラスメイトの成れの果てを見て、吐いた。
 そしてそれと同時に底知れぬ恐怖と不安が体を支配していった。冷静な判断をしていた亮三は、初めて見た死体によって、ここが地獄の修羅場ということを再認識されたからである。
 そしてその死体から一刻も早く離れたいと思い、走って逃げ出したのである。

 そして、しばらく走った後、亮三に一つの疑問が浮かんだ。
 このまま住宅地に向かっていいものなのだろうか?

 確かに亮三は冷静な判断をしていた。
 だが忘れていることが一つあった。住宅地にやる気になっている者のいる可能性である。萌子の死体を見たことにより亮三はその存在が近くにいることを認識した。
 そしてその「やる気」の者が自分と同じ進路をとって、自分とは違う目的、・・・クラスメイトを殺すために住宅地に向かうのではないか・・・と急に思い出したのである。

 殺人鬼が近くにいるかもしれないという恐怖と自分の行くところに殺人鬼がいるかもしれないという不安。この2つの感情は亮三の足を完全に止めてしまった。
 その直後、の2回目の放送もあった。現在も殺し合いが行われていることがさらに追い討ちになり、亮三は一歩も動けず、あたりを警戒してその場所にとどまっていたわけである。


 こうしてなんとか生き残った亮三だが辺りが闇に包まれていく中で、その精神は徐々に蝕まれていった。
「じょ、冗談じゃないぜ・・・ 俺には殺される理由はない・・・ むしろ、笑いが取れるってことは素晴らしいステータスだぜ・・・ その俺が・・なんで・・・」
 一人での孤独と殺人鬼への恐怖、さらに迫り来る闇によって亮三の冷静な判断はだんだん失われていった。

 亮三は人が笑うのを見るのが好きだった。
 そういった意味では玉野 笑美(女子10番)と同じではあったが、亮三の場合、性質が異なっていた。笑美は笑顔を見ることによって自分自身が幸せに感じたのに対して、亮三は人が自分に笑顔を見せることによって自分の存在が認められているという実感を得ていたのである。
 人を笑わせること・・・、つまり俺は他人に娯楽を提供しているんだ。そういった意味で自分は欠かせない人物なんだ・・・という実感が亮三という人間を形づくっていった。

 人を笑わせる限り、俺の存在は消えない・・・ 亮三の「お笑い芸人」の形成にはこのような信念が見え隠れしていたのである。

 だが今の修羅場はどうだろう? 自分の存在を消そうとする奴らが存在して、自分の命を狙っているかもしれない。ここでは笑わせることで自分の命が確保できる場所ではないのだ。

 俺の存在を消さない方法・・・
 わかっていた、頭の中では・・・
 だがずっと否定してきた、人間としての倫理観から。
 出発前のの言葉がはっきりと甦る。

『やらなきゃやられる』

「・・・そうだな。俺は勘違いしてたな」
 他人と一緒にいて何の得があるだろうか? どうせ生き残るのは一人だ。だったら・・・
「俺は笑わせるのではなく、笑って人を殺す・・・か」
 そう思うと恐怖も不安も消えた。過酷な現実に耐えるには狂うしかなかった。亮三は理性を放棄したのだ。
「さて・・・そうと決まったら武器の調達を・・・」

 パララララララララララ!!!!

 突然、闇夜を切り裂く銃音が響き渡った。その弾の何発かは確実に亮三の身体を貫いたのである。何がなんだかわからなかったが、亮三は苦痛で立つこともできなかった。
「ご・・・ゴホ・・!」
 ゆっくりと近づいてくる人物を見ると、そいつは亮三が危険人物に認定したうちの一人、残虐な天使・能登 刹那であった。
 その右手に握られていたイングラムをこちらに向けると亮三は最後の言葉を吐き出した。
「ま・・・・て・・・俺に・・は・・・殺さ・・れる・・・理由・・・が・・・」
 その亮三に対して刹那は非情な宣告をした。
「理由もなく殺すのがこのプログラムのルール。理由もなく殺されるのが僕たちのいるプログラム。そうでしょ、浜田君

 パララララララ!!!
 再びイングラムの銃弾が亮三の体を貫通する。数回痙攣した後、亮三の身体の機能は完全に停止した・・・
男子12番浜田 亮三 死亡】


 刹那は場違いな発言をした亮三に対してこう吐き捨てた。
「哀れな男・・・」

【残り・・・19名】
                           
                           


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