BATTLE
ROYALE
〜 死線の先の終末(DEAD END FINALE) 〜
33:野心と武心
場所を移して、スタート地点の廃校の西に広がる森の中・・・、数々の死闘が繰り広げられた激戦区の中に神部 姫世(女子5番)はいた。
数々の殺戮者たちから発見されることもなく、運良くここまで生き残ってこれたのである。
スタート当初、姫世は陸奥 海(男子15番)と一緒に行くためスタート地点の森林に身を隠していた。
待っている途中銃声があったが、それでも海を待った。
自分の頼れる彼氏を・・・
そして海が出てきた。「カイ!!」姫世が海を呼ぶ。
感動の再開・・・になるかと思いきや、姫世の声を聞くや否や、海は走って反対側の森に入っていってしまった。姫世は何がなんだかわからなかった。
実は海にはこの行動が読めていた。姫世は必ず俺と合流するために入り口で待っている・・・ そこで一旦森に入って、姫世をまいてから、自分を待っているだろう英寿たちのところに行く魂胆だったのだった。
しかし自分が見捨てられていることに気づいていない姫世は、海が自分を敵と間違えたのではないかと思い、叫びながら追いかけた。
「カイ! 私だよ、姫世だよー! 止まってよーー!!」
しかし海は止まることなく森を駆け抜ける。男と女の体力の差か、さきにバテた姫世は結局、廃校西の森に取り残される結果となった。
しかし姫世はそれでもなお、海を探す他になかった。海なしではこのプログラムを生き残れないことを姫世は知っていたからだ。
姫世はしたたかな女である。自分は女性の頂点に立つのだという明確な意志があった。
しかし自分にはその力がないことも自覚していた。
ならば他人の力を借りればいい。誰が力を持っているのか?
姫世が選んだのは"裏"の力だった。
そしてこの界隈でも一目置かれる危険な存在がこの学校にはいた。通称「海音寺の鮫」陸奥 海・・・すべてを食い散らすその様からそんな異名がつくほど、獰猛かつ頭がキレる男。
姫世はそんな危険な魅力があふれる海を自分の男・・・、頂点に立つ手助けをしてくれる男として選んだ。
幸い、姫世は才能は凡人並であったが、美貌は違った。
同じ美貌でも松浦 英理(女子16番)の美貌とは違っていた。例えるなら、英理はトップモデルの美貌、姫世はグラビアアイドルの美貌ということである。要は姫世は男ウケする美貌の持ち主であったのだ。
姫世は野心を胸に、その持ち前の美貌で海にせまり、「陸奥 海の彼女」の座を手に入れたのであった。
姫世の思惑通り、海の権力はすばらしく、学校内はおろか、学校外でも姫世は「あの陸奥の女」として一目置かれるようになったのである。校内の女性も裏を取り仕切る海が怖いのか、誰も口を出してこようとはしない。
姫世はこの上ない快感を覚えていた。
「私はこの時、頂点に立ったんだわ!」
そんな思いでいっぱいだった。
確かに自分の力ではないのかもしれない。しかし、自分の彼氏・・・そう自分の「アクセサリ」を装備したおかげで姫世は女性の頂点に立てたのだ。
そうよ・・・男なんて自分のアクセサリにすぎないのよ。私を高めるための道具。すべては私のために・・・・
いずれ海を超える存在が現れたなら姫世は迷うことなく、海と別れて新たなる頂点の者に切り替えるだろう。そう・・・、流行遅れのアクセサリを捨てて最新のファッションに身を包むように・・・
だが今の現実は違う。闇夜に包まれた姫世はようやく気づいた。
自分がいかに無力な存在なのかを。
海と付き合ってまだ数ヶ月だったが、姫世は海の本質に気づいていた。海は自分と非常に近い存在だということに・・・
海は姫世の美貌のみに心が惹かれただけで姫世を愛していたのではない。おそらく頭のいい海のことだ、自分の野心にも気づいているだろう。
つまりお互いが利用しあう関係だったのである。おそらく海は自分に飽きたり、他に魅力のある女が現れたら迷うことなく私を捨てるだろう。
そう、海は私をさらに残虐かつ非情な、そして力ある存在だということを彼女として徐々に理解してきた。
それに気づいた姫世だったからこそ、自分は見捨てられたことに気づいた。このサバイバルに役立たずな私は、海にとっていらない存在として認識されたのだ。
このままでは私は生き残れない・・・
これほど自分の非力さを呪ったことはなかった。
自分より実力のある相手はクラスの半分以上だろう。さらに武器によっては増えるかもしれない、徒党を汲んでいる奴らも厄介だ。
さらに姫世の武器。『サバイバルナイフ』・・・、武器のランクとしてはどう見ても下位のランクに入るものだ。それを決定づけたのが、朝と昼に聞こえた、銃声と爆発音・・・ 少なくとも支給武器には銃と爆発物が入っていることが容易にわかった。
自分は今、危険な立場にいる。
なんとか海に証明しなければ・・・、私が役に立つってことを・・・
そのためには姫世は自分が相手を殺すことだと思っていた。
しかし相手は選ばなくてはならない・・・ 銃を持っていれば勝ち目はない。なんとか接近戦で勝てるような相手でなくては・・・
そう思い、弱い獲物を探すため姫世は森を駆け巡っていた。
ほどなくして前方に人影を発見した。
「いた・・・!」小声でそう呟いた姫世はまず相手の確認にでた。
だが広がる闇から顔が判別できない。だが相手の拳がキラッと月明かりに照らされ光るのが見えた。
あれは・・・・『メリケンサック』!
自分より明らかに弱そうな武器を持つ相手・・・ こいつだ、こいつしかない・・・
そして、ゆっくりと近づき、座っている相手にナイフを突きつけるために、近くに寄った。そして間髪いれずに、
(死ね!!)
と心の中で叫び、ナイフを相手の体に刺す!
ガッ!!
だが刺さったのは相手が寄りかかっていた木で、相手は目の前にはいなかった。
とっさに避けられたのであった。
「オイオイ、危ないなぁ。もう少しで殺されるとこだったぜ・・・」
殺したと思った人物が横から声を掛ける。
こ、この声は!! とっさに相手を見る。
「か・・、春日部・・・!」
自分の眼前にいる春日部 大樹(男子4番)を見つめた。
なんてやばい奴に手をだしちゃったんだ、私は!
確か大樹は空手の有段者で春の選抜大会で全国に行ったこともある猛者だ。
素手での戦闘でこいつに勝てるやつは校内でも皆無だろう。普通のやつがメリケンサックなんて装備しても怖くないが、大樹が装備するとそれはたちまち人を殺せる凶器になる!
「神部・・・いつもいる陸奥はどうした? もしかして、見捨てられたのか?」
この大樹の言葉に姫世はカチンときた。
「見捨てられたですって!? カイは私を見捨てたりはしない! アンタを殺してカイの手土産にしようって思っただけよ!」
その言葉に大樹は暗い表情をする。
「そうか・・・、お前もやる気なんだな?」
「フフ・・・、おもしろいことを言うのね、春日部クン。これはサバイバルよ! 殺らなきゃ殺られるのよ!」
その言葉に大樹は微かに笑った。
「・・・・ッ! 何がおかしいのよ!」
「お前・・・言ってることが矛盾してるぞ」
「何がよ!」
「確かにこれはサバイバルだ。だがお前は俺を陸奥の手土産にするといった。だが、もし陸奥がこのサバイバルに乗ってたらお前はどうするんだ?」
「う・・・・!」
「どうせ殺されるなら彼氏の手で、とでも思っているのか? 殊勝なことだな」
この言葉に姫世は激昂した。
「冗談じゃないわよ! ・・・そうよ、油断させてカイも殺すのよ! 利用するだけ利用して、最後になって後ろから殺してやるのよ!」
この言葉に大樹は、
「救えないな・・・・」
と言う。姫世は殺意をむき出しにして言い放った。
「アンタに救ってもらう気はないわ! 私を救う気ならここで死ね!!」
姫世はサバイバルナイフを振り上げ、こちらに突進してくる。
大樹は姫世がナイフを振り上げてくる瞬間、後ろにステップで下がり、右足の蹴撃を放った。その蹴りは見事に振り上げてきた姫世の右腕の手首の少し手前に命中した。
ゴキィ! という鈍い骨折音が響いた。
「あ、あがあぁぁぁぁあああ!!」
折れた部分を押さえながら姫世が倒れこむ。その隙に大樹は姫世が落としたサバイバルナイフを拾い上げ、姫世の前に立った。
「ヒ、ヒィィィ!」
「・・・・」
姫世は殺されると思い、命乞いをした。
「お、お願い! 助けて!!」
大樹はさきほどまで殺意あふれていた女が惨めに命を乞う姿に、醜いと感じながらも哀れとも思った。
「・・・行けよ」
意外な言葉に姫世も固まった。
「え・・・?」
「俺は今のところはプログラムに乗る気はないしな・・・ かといってお前と行動する気はさらさらない。だから見逃してやる。さっさと行け」
そう言われて自分の武器を持った大樹は森の奥へと消えていった。姫世は呆然としていたが、大樹に折られた右腕が痛み出し、我に返った。そして走って逃げ出した。
「ハァ・・・ハァ・・、冗談じゃないわよ・・! 見てなさい、春日部! カイを見つけてアンタを殺してもらうんだから!!」
頂点にいると思っている自分を傷つけた大樹に深い復讐心を持ちながら、姫世は死の森を駆けていった・・・
「ふぅ・・・俺も甘いかな・・?」
姫世を見逃した大樹はそう言った。
大樹は迷っていた。乗るか乗らざるべきか・・・ だがなかなか結論がでる問題じゃない。
「まぁ、ゆっくり考えるか・・・」
このプログラム中になんとも能天気な考えを巡らす大樹もまた死の森を歩き始めていた・・・
【残り・・・19名】