BATTLE ROYALE
死線の先の終末(DEAD END FINALE


34:陸上の華

 再び舞台は夜の大激戦地になりつつある、住宅地。
 その住宅地のはずれ、B−7ポイントに家の裏で休んでいる少女がいた。
 海音寺中学校陸上部・女子長距離の星・三国 晶(女子18番)である。
 は持ち前の脚力で、誰よりも早く住宅地にたどり着いていたのである。会場の南部分が序盤の激戦地になると踏んで、早々にこの北の安全地帯に避難してきたのだ。

 はこのゲームに参加することを拒絶していた。昨日まで普通に友達と語り合い、何も考えずただひらすら走ることのみ専念していた自分を思い出した。
 別に正義をかかげるわけではない。
 いい子ぶる気なんてさらさらない。
 だが昨日までの自分ならクラスメイトを、人を殺すなんてことは考えもしなかっただろうし、絶対しないと思っていた。

 は非常に向上心旺盛な女の子であった。常に自分を鍛えることがのすべてであったし、昨日までの自分を超えることがの今日の目標でもあったのだ。
 そんな性格のは中学に入り陸上部に入部した。別になんでもよかったが、小学校の友達に誘われたのが理由だった。
 そしては陸上は素人並であったにもかかわらず、その性格ゆえ努力に努力を重ね、3年には陸上選手では結構名が知られる選手になっていた。そして最後の夏、は3年間の結晶を夏の大会で見せるつもりだった。
 だが、待っていたのはこの世の地獄。
 は迷うことなく、ゲームの参加を放棄した。最低の人間に堕ちるくらいなら、死を選ぼう・・・ はそのような子であった。

 しかし迷ってもいた。の放送で次々と死亡者が発表されているのを聞いてからの心情は確実に変化していった。
 確実にこのゲームに乗っている奴らがいる・・・ はそのような人を殺すことにためらいのない奴らに、何の罪もないクラスメイトが殺されることに憤りを隠せなかった。
 そのような相手に出くわしたとき、私は本当に命を差し出すことができるだろうか?
 そんな気持ちでいっぱいだった。
 はプログラムを放棄した瞬間から、命を捨てる覚悟があった。クラスメイトが生き残るためだったら、喜んで命を差し出しただろう。だが、命を、人殺しを何とも思わない人間に命を差し出すことなど自分の"信念"が許さない。
 それなら相手をするのも・・・ だが人を殺せば私も・・・

 そのような思いには迷っていた。
 そんなことを考えていると、住宅地に入る道から人影がこちらに向かって歩いてきた。
 誰・・・?
 目を凝らしてみてみる。次の瞬間、その人影から火花が散った。

 パララララララララ!!!

 陸上で鍛えた脚力と天性の反射神経で、はとっさに建物の影に隠れた。自分がさっきいた地面がはじけとんだ。
「な・・!?」
 間違いない、こいつはやる気だ!
 そしてそっと相手の顔を見る。そこには、すでに3人のクラスメイトをあの世送りにした能登 刹那(女子13番)がそこにはいた。

 パララララララララ!!!
 刹那のイングラムが再び火を噴く。建物のコンクリをえぐる感じがした。
「・・・・能登 刹那!」
 イングラムが当たる前に隠れたは相手を見て、確信した。この女は人を殺すことにためらいがない・・・ こいつは人を殺している!
 思えば、廃校を出る前、の説明の後、刹那はただ一人質問をした。誰にでもわかるやる気のある発言を・・・

 この女は完全にやる気だ・・! そしてこの女に命をくれてやる気は全くなかった。
 パラララ・・・・
 マシンガン音が切れると、はとっさに反応した。
 自分の手に握っていた『H&K USP』の引き金を引いた。

 バァン! バァン!

 しかし、初めて撃つ銃の反動のせいで、は正確な射撃を行えなかった。どうやら2発ともはずれたらしい。
 刹那を見てみると、右手のイングラムではなく、今度は左手の筒のようなものをこちらに向けていた。
「・・・! なんかやばい!」
 そして建物の反対側にダッシュした。
 ボシュゥ!!
 その筒から、最強の弾丸が発射された。場所はさきほど晶がいた場所。

 ドカァァァァァァァン!!!!!

 その轟音と共に建物の一角と地面がえぐり取られていた。
 は走った。まさしく最強の武装をした刹那に戦慄を覚えたからである。
 だが吹き飛んだところから刹那が姿をみせた。
「くっ!」
 今度は右手のイングラムをこちらに向けている。
 は反対側の建物の影に飛び込んだ。

 パララララララ!!!
 間一髪、は奇跡的にイングラムの弾丸を避けた。
 だが確実にジリ貧だ。このままでは殺られる!
 は絶対、こんな奴の手で死ぬのはごめんだった。
 ふいに自分の後ろを見てみる。すると森が見える。
 あそこまで行ければ・・・
 だが森に入る前に確実に刹那のイングラムの餌食になるだろう。少し距離がありすぎた。

 が手詰まりで手をこまねいているとふいにイングラムの音が止む。
「まずい・・! またあれが!」
 そう思い、覚悟を決め、走ることにした。
 が、その時!

 ドン!! ドン!! ドン!!

 刹那から見て自分よりさらに向こう側の建物の影から銃声が響いた。
「・・・!!」
 刹那がグレネードランチャーの装填をしている最中だったので、隙をつかれた形になった。弾は当たらなかったが、思わぬ攻撃は刹那を焦らせた。
「今だ、晶ァ!! 走れぇ!!!」
 !? この声は!
 そう思った時にはは走っていた。
 建物を抜けるとそこには見覚えのある人物が自分と同じくすさまじいスピードで走っていた。

 刹那が建物の影に入っていった頃には二人はあっという間に森に入る前であった。刹那は追いかけながらイングラムをぶっ放した。
 パラララララ!!!
 刹那は森の中に入って追走したが、邪魔な木々と暗闇、そして尋常じゃない二人の足に追撃を諦めた。
 そして、極度の疲労が刹那を襲った。
 スタート直後から縦横無尽に動き回り、松浦 英理(女子16番)との戦闘、そしてとの鬼ごっこ、これを半日たらずでこなして疲れないほうが不思議だった。
「・・・しかたない。休むか・・・」
 そう言った天使はひと時の休息をとるため、休めるところを探した・・・


「ハァ・・・ハァ・・・」
 随分前にイングラムの音が聞こえなくなったが、は走り続けていた。そして自分と並んでいる人物が声を掛けてくる。
「・・・おい、! ハァ・・・ハァ・・・ もういいだろ!」
 その声に反応して、は足を止める。
「ハァ・・・・ハァ・・・ まったく、長距離は苦手なんだからよ・・・」
 そしては声を掛ける。
「ハァ・・・! どういうつもり? 由紀夫」

 を助けた人物、それは同じ陸上部の仲間の橘 由紀夫(男子9番)だった。
「どういうつもりって・・・」
「私を助けて、どうするつもりだったの?」
「お前・・・、助けたいと思うのに、理由なんて必要か?」
 その言葉には納得した。ああ・・・、由紀夫はこんな奴だったね・・と。
「いや、悪い意味で聞いたわけじゃないよ。悪かったね」
「いや、いいさ。俺もこんなゲームに乗る気なんてないしな。開始早々、ここが安全と踏んで来たんだが・・・」
 そう言って口を濁した。
「どうしたの?」
「どうやら住宅地、やばそうだぜ。さっきの能登以外にも転校生の女も途中で見た。どうやらこっち方面に向かってるようだ」

 転校生の女・・・、あのやばそうな女か・・
「何にしてもあの武装の能登のところに帰るのは御免だな。とりあえず住宅地は避けようぜ」
「そうね・・・ 廃校方面に戻るの?」
 そう言うと由紀夫は頷いた。
「確かに危険地帯だが、確認している危険に飛び込むよりかはましだろ。とりあえずゆっくりした話は橋を渡ってからにしようぜ」
「わかった」
 そう言った二人は暗闇の森を進みだした・・・

【残り・・・19名】
                           
                           


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