BATTLE ROYALE
死線の先の終末(DEAD END FINALE


35:もう一人の"最凶"

 腕が痛む。全身から汗が止まらない。苦しい・・・! なんで私がこんな目に・・・

 先ほど春日部 大樹(男子4番)に右腕を折られた神部 姫世(女子5番)は完全に日が落ちきり、月の光が照らす暗闇の森を一人、さまよっていた。
 折れた腕になんの処置も施さなかったため、骨折部分は完全に紫色に変色していた。
 だが痛みを勝る屈辱感が姫世の足を決して止めようとはしなかった。

「・・・春日部・・! 絶対、殺してやる・・!」
 頂点に立っていると思っていた自分を現実に引き戻した大樹姫世は復讐を誓っていた。
 だが大樹は強い。今の姫世ではとてもじゃないが勝てる相手じゃない。かといって、自分の武器はもう取られてしまったので、他人を襲うことすらできない・・・
 そこで、当初の目的、自分の拠所でもある彼氏の陸奥 海(男子15番)を探していた。
 を利用して大樹と対決させる方法をとることを考えていたのである。もしの武器が銃なら大樹を殺してもらい、その後隙を突いてを殺す。
 銃以外なら他の奴を殺して大樹を殺させる、もしくはを殺して武器を奪うかということである。
 骨折している姫世を殺せるかという思考はもはやできていなかった。ただ自分にこのような傷を負わせた大樹を殺すことのみ、考えていた。

 姫世が頂点にこだわる理由は、幼少期の親に原因があった。
 姫世の親は姫世が幼い頃、小さな会社を経営していた。姫世は社長の子供として何不自由ない生活を送っていた。だが親の会社は倒産、姫世の父親は首をくくって自殺した・・・
 そして姫世の扱いも恐ろしく激変した。一気に世界が変わる様を見た少女はこう理解した。
「頂点に立てば、また幸せな生活が送れる」と・・・
 唯一、自分の保護者になった母親は夜の町で必死に働いていた。だが姫世はそんな生活に満足できるはずもなかった。売春行為に近いことをしてお小遣いを稼いでいたりした。
 そしてを彼氏にしてからというもの、幼かった社長の子供の時の待遇を手に入れた。自分は再び頂点に返り咲いた気がしていたのである・・・

 姫世は何もしたくなかった。だがすべてを手に入れたかった・・・

 そして、久しく忘れていた幼少の頃を思い出していると目の前に誰かいるのが見えた。
 あの顔、あの姿・・・あれは!
カイ!!」
 やっと探していた者に出会えた感激で姫世は我を忘れて近づいた。
「よぅ、姫世
 はなんてことない返事をした。

カイ・・・、よかった。無事だったんだね」
 心にも思っていないことを姫世は口にした。
「バーカ、俺が殺られるわけねぇだろ。それよりお前のほうは無事ってわけじゃなさそうだな?」
 姫世の右腕を見ては言った。
「そうなの! この腕、春日部の奴に・・ ねぇ、カイ!! 春日部の奴を殺ってよ! カイの女を傷つけたのよ!」
 そう言うとは言った。
「・・・お前、春日部とやったのか? 見た限りじゃあ武器も持ってなさそうだがよ」
「あ・・、うん。少しでもカイの手助けになればなって思って春日部の奴を襲ったんだけど・・・・ 腕折られて、武器もとられたの・・・・」
 そう言うとはニヤリと笑った。
「そっか。じゃぁテメエにはもう用はねぇよ」

 そう言って手に持っていたUZIを姫世に向けた。
カイ!?」
姫世ぉ、お前も俺の女なら俺がこんな行動に出るってことくらいわかってたはずだよな?」
 顔面蒼白になりながら姫世は続けた。
カイ、そんな!? 私は・・・」
「お前は俺に惚れて近づいたんじゃねぇ。俺の権力に惚れてただけだ。俺の力に、な。ヒデたちと何の変わりもしねぇよ。まぁ、俺も承知の上だったけどな」
 姫世は完全に自分という人間が読まれていることに気づいた。
「そんなお前だ。俺と春日部を当てて、両方とも殺ろうって気だろ? だが残念。俺はお前なんかに未練はねぇし、役立たずのお願い事を聞く気なんぞ少しもないしな」

 そんな・・・私は頂点に立つのよ! こんな所で死ぬわけには・・・
「待って! カイ!!」
「じゃあな、姫世

 バララララララララララララララ!!!!!

 姫世の体はできそこないのマリオネットのように揺れた。そしてそのマリオネットは無数の穴を開けられて、その場にひれ伏した。
 頂点を目指した少女は、地面に這いつくばったまま二度と飛び立つことはなかった・・・
女子5番神部 姫世 死亡】


「ククククククク! おもしれぇ! 人を殺るってのはこんなにもおもしれぇことだったとはな!」
 は愉悦に浸っていた。人の命一つを刈り取ることがここまで快感だとは思っていなかった。
 殺された相手が築き上げてきた歴史を俺が壊し、俺が終わらせる・・・ まるで神ではないか! 自分が選ばれた存在になったかような快感には酔いしれた。

 はその凶暴性から人を殺しているとの噂があったが、さすがのもブタ箱に入れられるのは勘弁だった。ゆえにほとんど相手は半殺しでやめていた。
 だがこのプログラムで秋文 将(男子2番)を殺したことで完全にたがが外れた。
「ハハハハハハ! 何を恐れることがあるよ!? 俺は強え! 全員の命、俺が狩ってやるよ!!」
 社会の法律という鎖をはずれた猛獣を止めることなぞ、もうできるわけもなかった・・・


「・・・オイ! 起きろ、遠山! いい加減、目を覚ませ」
 なんだよ・・・もう少し寝かせろよ。そんな気持ちになりながらも遠山 慶司(男子10番)は目を覚ました。
 ここは、診療所。そのベッドで仮眠をとっていたのだ。
 そして、目の前にいる男は本条 龍彦(男子20番)。現在、俺が同行している人物だ。

「やれやれ・・・ やっと起きたか」
 龍彦はさっそく文句を言ってきた。
「うるさいなぁ、疲れてたんだからしかたないだろ?」
 実際に死の危険の連続だったので体は疲労しきっていた。
「・・・まぁいい。とりあえず日も暮れた。そろそろ住宅地に向かうぞ」
 窓の外を見てみると、完全に夜を迎えていた。

 そう・・・、俺たちは日が昇っているうちに住宅地に行くのは危険という龍彦の提案を受け、診療所で仮眠をとることにしたのである。
 まず最初は龍彦が1時間ちょっとくらい、どうやら俺は数時間眠っていたようだな・・・
「朝っぱらから行動してるやつらもそろそろ疲れがでるころだろう。今のうちに住宅地に行って、目的のものを手に入れる。その後はすぐどこかに移動するぞ」
 その言葉に慶司は首をかしげた。
「なんで移動する必要があるんだ? 建物の中で夜をすごせばいいじゃないか?」
 そういう慶司龍彦は深いため息をついた。
「ハァ・・・ いいか、この地図を見てもただでさえ施設が少ないんだ。やる気になっている奴らは間違いなく闇雲に森を探すよりも施設の中に居る奴らを狙ったほうが効率がいいと思うだろうが。しかも住宅地は廃校からの林道から一直線だ。ゆえに激戦区になっていてもおかしくはないってことだ」
 言われて納得した慶司。さすが兵士だけあるなと思ってしまった。

「わかったのなら行くぞ。あまりここにも長居しないほうがいい・・・」
「わかったよ」
 そして慶司龍彦はその「激戦区」住宅地へと向かった・・・

【残り・・・18名】
                           
                           


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