BATTLE
ROYALE
〜 死線の先の終末(DEAD END FINALE) 〜
後半戦
36:闇夜の道中
遠山 慶司(男子10番)と本条 龍彦(男子20番)は夜の闇に乗じて、橋を渡り、そろそろ住宅地へと到達しそうなところまできていた。
今回は森の中ではなく、道を警戒しながら行くということだったので慶司もなんなく龍彦についていくことができた。
「なんだ。ちゃんとついて来れるじゃないか・・・」
龍彦が感心したようだ。慶司は少しムッとなる。
「だから言ってるだろうが。お前が異常だって。だいたいあんな舗装もされていないような森の中であんなスピードで走って疲れないほうがおかしいっつうの」
慶司は文句を言ったが、龍彦は冷静に言う。
「戦場は舗装された道で行うわけじゃないからな。大抵は山や道なんか無いところで行う。だからそういった所を行軍する訓練を受ける。俺たちが受けている"授業"とはそんなもんさ・・・」
授業・・・と聞いて慶司はふと疑問に思っていることがあった。
「なぁ・・本条。お前、学校に行っているのか?」
すると龍彦は言う。
「少年予備隊では普通の義務教育もやっている。要は優秀な兵士の養成所だ。学校なんて行く暇もないくらい厳しいものさ・・・」
そう言った龍彦を見る。
自分と同じ15歳・・・、だがとても15歳とは思えない肉体、知識、そして意志の強さ・・・ 自分たち普通の中学生とはかけ離れた生活が龍彦を形成していったのだと思った。
「・・・じゃあさ、友達っているのかよ?」
「ハァ?」
龍彦は意外な質問に驚いたようだ。多少考えている面持ちで言った。
「・・・・戦友ならいる。友達か・・・・」
ふいに哀しみの色が出た。
「・・・・いたさ。・・・昔はな」
初めて見せる龍彦の顔に慶司は思わず誰なのかが聞きたかった。
「なぁ・・・」
しかしその慶司の言葉を遮る不快音が響き渡った。
ガガッ!
「オゥ! 我が愛しい生徒たちよ! 午前中はおつかれ! だが夜になっても油断するなよ。ペアで居る奴はいつ相手が自分に襲い掛かってくるかもわからんからな! ハッハッハ! それでは恒例の死亡者と禁止エリアを発表するぞ!」
あいかわらず大声で不快な森の放送が耳に届く。
この先公は・・・、騒音って言葉を知らないのかよ!?
「ではまず死亡者から行くぞ。男子2番秋文 将。男子5番狩谷 英寿。男子6番久慈 雅人。男子8番椎名 潤一郎。男子12番浜田 亮三。男子は以上!」
「秋文・・・・、死んだのか・・」
廃校をでてから自分を襲撃した将。その将がすでにこの世にいない・・・ あまり話さなかったが決して悪い奴だったわけじゃない。
診療所につく頃、深矢 萌子(女子14番)が死んだとの放送があったのを聞いたときと同じショックを受けていた。これで自分を襲った人間はもうこの世にはいないことを意味していた。
だが慶司は安堵よりも怒りを感じていた。クラスメイトを奪われていくことに・・・
すべてはこのプログラムが・・・!
「次、女子だ。女子5番神部 姫世。女子9番墨田 剣子。女子11番天王寺 君代。以上だ!」
「な・・・!」
墨田さん、もう死んでるだって!?
自分たちが探している一人がもうこの世にいないという宣告を受けた慶司は非常にショックを受けた。
「本当にお前たちは優秀な生徒だ! 1日もしないうちに22名の脱落者を出したんだ! 先生はお前たちを誇りに思うぞ〜。では次に禁止エリアの発表だ! 今から1時間後にE−1、2時間後にA−7、4時間後にF−8、5時間後にH−6だ。ちなみに40人での最速記録は38時間24分だ! みんな、それを目指して頑張れよ〜」
そして森の放送が途切れる。
放送が終わった瞬間、龍彦がしゃべりだした。
「これで一人は消えたな・・・」
龍彦の非情な言葉に慶司は食ってかかった。
「・・・ッ! 本条! そんな言い方があるのか! 人ひとり死んでるんだぞ!!」
だが龍彦は冷静に言い放つ。
「死んだ奴のことを悔やんでもしかたないさ。お前だってわかってるはずだ」
「わかってる。わかってるけどよ!」
吼える慶司を龍彦が諌める。
「それより、今は生きている奴を助けるのが最優先じゃないのか? これ以上犠牲者を増やさないためにも」
その龍彦の他人をいたわる発言に慶司は驚きを隠せない。
「本条・・・・」
「この場でぐだぐだ言っててもしかたない。移動しながら話すぞ」
といって龍彦は進みだす。慶司もそんな龍彦についていった。
その間、ずっと沈黙が続いた。龍彦の非情さに慶司が納得できなかったからかもしれない。
だが慶司は自分を責めていた。
俺が休まず行っていればもしかしたら・・・ そんな気持ちでいっぱいだった。
しかしそんな沈黙を破ったのは意外にも龍彦のほうだった。
「遠山・・・ さっきの死亡者についてだが・・・何か気づいたことはあるか?」
「え?」
意外な質問だった。なぜこのようなことを聞くのだろう?
「俺は顔は知っているがクラスの奴らの特徴は知らないからな。何か死亡者の間で特徴的なことはあったか。それが知りたい」
特徴的・・・・ そう言われて、慶司はあることに気づいていた。
「一つだけ・・・・気になることがある」
「なんだ?」
「狩谷と久慈、椎名、そして神部・・・ こいつらは本来グループだったんだが、一人だけ生き残ってるやつがいる」
「誰だ?」
「陸奥 海。俺たちの近隣ではかなり凶暴な男として有名だった奴だ。俺もできるだけなら関わりたくないくらいだ」
そう言うと龍彦はそれに答えた。
「それじゃぁ、十中八九そいつはこのプログラムに乗っているな」
「なんでだよ。仲間が誰かにやられただけかもしれないだろ?」
「その陸奥ってのは男子15番だろ?」
なんでわかったんだ、こいつ!? 慶司はそんな顔していた。
「前にも言ったが俺は最後に廃校を出たんだ。そのさい、全員の顔を見ている。そして・・・だいたいこのゲームに乗りそうな奴の目星をつけるんだ。お前らのクラスで鵜飼以外でやばい男子は・・・その陸奥だった」
「なんでそんなことがわかるんだよ」
「俺はそういう人間を見る目は鋭いほうでね。あいつの目は・・・そうだな、自分以外何者も信じてはいない。自分以外の人間は自分に利用される存在と思って他人を見ている。そういう危険な男だ・・・ そしてこういうタイプは戦場ではためらいなく人を殺す。だからだよ」
なんとなく納得していた。海がヤバイ存在なのは慶司も十分承知の上だったからだ。
「じゃあ、俺はどうなんだよ。お前から見ると」
ふとそんなことを思い、聞いてみる。
「お前か? お前は大甘ちゃんだ」
「なっ!!」
「誰も殺さず誰も死なないことを望んでる。この狂ったゲームにおいてもそれを変えようとしない。誰か殺すくらいなら自分は死んでもいいと思っている。狂おうとも壊れようともせず、理想を追い求める、まさに今世紀最大の大馬鹿者だな」
自分の酷い言われように反論をしようとした。
「だが」
そう本条が言った。
「それだからこそ、お前と行動する気になった。お前の信用している奴らもおそらく俺と同じ気持ちを持っているだろう。だからお前の仲間を探す気にもなっているんだろうな」
龍彦のこれまた意外な言葉に慶司は文句を言う気も失せた。
「本条・・・」
「ったく、恥ずかしいことを言わせやがって」
どうやら照れているようだ。
「本条」
「なんだよ」
「俺もお前を信じている」
「俺は一言もお前を信じていると言った覚えはないぜ」
「でもお前、言ったよな。『お前の信用してるやつらと同じ気持ち』って。これって俺を信用してるってことだろ?」
ニヤリと笑う。
「フゥ・・・ 勝手に解釈してくれ。それより急ぐぞ」
そういうと龍彦は一気にスピードをあげる。
「あ! おい! 待てって!」
初めて中学生らしいところを見せた龍彦を慶司は必死に追いかけた。
もしかしたら、こいつとなら・・・ そんな思いを抱いて。
そんなことをしているとついに目的地・住宅地に着いた。
「さて・・・、さっそくだが入るぞ。早々に探し物をしなきゃならないからな・・・」
慶司は頷いた。そして、すっかり夏の夜に包まれた住宅地に足を踏み入れた。当然、あるだろう明かりは一切灯っていない本物の闇の住宅街へ・・・
【残り・・・18名】