BATTLE ROYALE
死線の先の終末(DEAD END FINALE


37:狂った歯車

 住宅地の中に入った遠山 慶司(男子10番)本条 龍彦(男子20番)
 その先頭をひた走る龍彦はなんの当てもなく走るのではなく、しっかりと目標を的確に定める感じで走っていた。

 そしてある家についた。表札には「波山」とだけ名前があった。
「ここだ・・・」
 龍彦が言う。慶司は到着したところで龍彦に問いかける。
「なぁ・・、そろそろ教えてくれてもいいだろ? 探してるものって何なんだ?」
 すると龍彦は厳しい口調で言う。
「ダメだ。計画はギリギリのところまで教えられない。ここでもお前には入り口を見張ってもらうしな」

 そういわれて驚いたのは慶司だった。
「な!? 俺一人で見張れってのかよ!」
「俺が調達するものを見られるわけにはいかないしな。 ・・・心配するな、これを貸してやる」
龍彦慶司に自分のコルトパイソンを手渡す。
「お前くらいの身体能力があれば使えるだろう。両手で撃て。さもないと腕を痛めるぞ」
 渡された銃を見て慶司は言う。
「この銃で俺に人を殺せってのかよ!?」
「そうは言っていない。だが敵が来た場合は迷わず撃て。さもないとお前は犬死だ」
 そう言われて慶司はさらに困惑する。
「俺は死んでも撃たない。クラスメイトは殺せない・・・」
 そういう慶司龍彦は語りかける。
「お前がそう思うならそれでもいい。だが戦場ってのは人を狂わせるものだ。お前のクラスメイトの何人かは確実に自分を見失ってるだろう。お前を襲ったあの女のようにな」

 慶司はすでに死亡の放送を受けた深矢 萌子(女子14番)を思い浮かべた。
 あの時の萌子は確かに正気ではなかった。完全に殺意がある萌子に撃たれたのである。
「あの女はまだましな方だ。本当に狂うってのはさらに非道いものだ。そんな奴らにお前は命を奪われてもいいのか? 助けたい奴がいるんじゃないのか!?」
 しだいに怒気を強める龍彦
「もしそんな狂った相手を前にして、まだ無抵抗を決め込むつもりなら俺は止めはしない。だがお前に俺は銃を預ける」
 そして入り口に入る前にこういった。
「もしそんな時が来たら思い出せ。俺がこう言ったことを」
 そして、その言葉は俺が死ぬまで決して忘れることはなかった。

「死ぬな。お前はまだここで死ぬような人間じゃねぇよ」

 そしてその家の中に入っていった。
 急に龍彦に預けられたコルトパイソンが重く感じた。
 龍彦の言葉は慶司の心に確実に響いていた。
 俺には助けたい人がいる、守りたい人がいる・・・ だが、だが! そのために殺してもいいのかよ・・・? それが狂った人間や殺人鬼であっても・・・ 同じだろ? 意味ある殺人と意味のない殺人なんてどっちにしろ同じだろ・・・
 人を殺すってことには・・・変わりない。
 だが龍彦の言葉が響く

――死ぬな。お前はここで死ぬような人間じゃねぇよ――
 俺は・・・どうしたらいいんだろうか・・・
 そして門の前で悩んでいると、急に光がこちらを照らしてきた。
 間違いない、懐中電灯の光だ! 誰だ!? なんて最悪のタイミングでやってきやがる!
 慶司はその方向を見た。
 そしてそこには・・・男がいた。見覚えのある男・・・それは・・・
リーダー!!」

 慶司は思わず歓喜の声を上げた。自分たちが探してた人物の一人、大和 智一(男子16番)であったからである。
リーダー! よく無事で・・・」
 だが慶司は止まった。なぜ止まったはわからなかった。だが悪い予感はしていたのかもしれない。
 なぜなら智一の性格なら「慶司! よかった、無事だったんだな!」というようないつもの心配する台詞が聞こえてくるはずなのである。
 だが智一は黙ったまま。
 しかし、声が聞こえだした。
「・・・・ヒヒヒ。イヒヒヒヒ」
 そして猟銃のようなものをこちらに向けている。

 まさか・・・!?
 萌子に一度襲撃されている慶司はとっさにその照準から避けた。
 ドォォン!!!!
 普通の銃とは一味違う轟音が響き渡る。慶司のいた壁は何発も撃たれたように削れていた。
 智一の銃の威力のすさまじさを感じた。
リーダー!? どうしたんだ! 俺だよ、慶司だ! 目を覚ましてくれ!!」
 だが智一はもはや正気じゃない声で言った。
「ヒヒヒ・・・! 死ね・・・! 死ねしねしねシネシネシネ!! 僕の前に立つ奴は皆殺しだあああああ!!」
 そして智一の銃が火を噴く。
リーダー!!」
 ドォォン!!!
 その声は銃声にかき消された。


 智一はさきほどまでは狂っていなかった。いたって冷静な判断をしていた。
 スタートしてから一直線に住宅地に向かい、食料と信頼できる仲間を探すつもりだった。食料は見つかったが肝心の仲間のほうは結構広い住宅地ということで結局見つかることはなかった・・・
 そして、放送により自分の仲間が殺されていることに深い憤りを感じていた。

 智一は天性のリーダーシップを持っていた。他人を思いやり、他人を引っ張る行動力、そして他人を纏め上げる統率力。何よりクラスのみんなはその智一の他人に対する優しさから、慶司をはじめ、クラス全体から信頼を寄せられていた。
 しかし最近の智一はそんな風に見られている自分に一種の嫌気がさしていた。

 僕は引っ張っているばかり、誰も僕に道を示してくれない。

 そんなノイローゼ気味な気分になったりしてもいた。
 だがその気分も他人と接しているときは微塵も見せなかった。だが一人になるとどうしても考えてしまうのだ。
 自分の行動に対して、信頼以外の見返りが欲しかった・・のかもしれない。
 そういった爆弾を抱えていた智一は、長時間の孤独とさらに徐々に広がる闇に、その爆弾が音を立てだ・・した。
 なぜ、他人は僕に何ももたらしてくれない?
 なぜ、僕は見返りも貰えないのに頑張っているんだ?
 なぜ、僕はリーダーって呼ばれているんだ? 利用されているだけじゃないのか?
 そのような疑念が頭のなかを駆け巡っていた。
 だがその考えはあっという間に吹き飛んだ。そんなことを吹き飛ばすことが起こったからだ。

 パラララララ!!!

 突然の銃声! とっさに外を見てみる。
 そこには・・・イングラムを撃ち込んでいる能登 刹那(女子13番)の姿があった。自分とは反対方向の建物に銃を撃ち込んでいる。刹那の銃声が止むと、今度は撃っていた方向から誰か出てきた。
 三国 晶(女子18番)だ。そして、
 ドン!! ドン!!
という銃声と共に自分のところの隣の窓ガラスが割れた。
 間違いない・・・、この二人は銃撃戦を繰り広げているんだ。殺し合いを・・・・
 初めて見る殺し合い。
 その中で智一は、表情を変えず死の弾丸を撃ち続けている刹那から目を離せなかった。
「・・・・美しい・・・」
 正直な感想が言葉として出た。
 彼女は本能に従って、なんのためらいもなく人を殺そうとしている。いや、殺しであんな綺麗な顔ができるだろうか・・・ まるで・・天使。
 怒りも憎しみも喜びもない、ただ少しの哀しみを宿しながら人を殺そうとしている刹那を見続けていた。
 それに比べて智一は自分が矮小に見えた。他人に見返りを求める自分の心を恥じた。

 僕は他人に見返りが欲しいのか?
 僕が僕であればいいんじゃないか? そのように生きればいいんじゃないか?
 でもここはサバイバル。能登さんのような冷酷な殺戮者もいる。
 生半可な態度じゃ生き残れない。
 ましてや他人を心配してたんじゃ即死亡だ。ましてや他人を助けるなんて自殺行為だ。
 どうする・・・どうする、どうしよ、どうすれば、どうしろと!!!
 頭で無数の自問自答をする智一の精神は限界を迎えていた。

 そして・・・その精神は崩壊した。
「・・・・なんだ。簡単じゃないか・・・ 殺せばいいんじゃないか・・・・ 目の前に現れたすべての人間を・・・・ そうすれば僕は救われる・・・・ ・・・・ひ、ひひひひ。そうだよ、殺せ! ひひ、みんな壊れてしまえばいいんだ! ヒャハハハハハハハ!!!」
 そして自分の武器『ベネリM3』ショットガンとデイパックを持ち、自分にとって邪魔な存在を排除するため歩き出した。
 その表情はもはや人間とは思えないほど醜く変形していた・・・


 ベネリの轟音が再び響いた。これも慶司はなんとか避けた。だがショットガンの弾の破片が自分の腕をかすったらしい。左腕に傷ができていた。
「痛ぅ!!」
 ここに居たのでは確実に殺される!!
 慶司は逃げ出していた。足の速さには自信があったからだ。
「ひひひ、死ね死ねぇ!!! みんな壊れてしまえぇぇぇぇ!!!」
 狂った智一慶司を追ってくる。

 必死の鬼ごっこは続く。
「はぁ・・・はぁ・・・・」
 そして突き当たりを右に曲がる。
「! くそ!!」
 だが右は行き止まりだった。あわててもと来た道を戻った。
 だがT字路で智一とばったり会ってしまったのである。慶司は青ざめた。
リーダー! 目を覚ましてくれ!」
 だが狂った智一に正気な意見は通じない。
「ヒヒヒヒヒヒ。イヒヒヒヒ。殺せ殺す殺せ殺す。死ね死ね死ね死ね死ねシネェェェ!! イヒヒヒヒヒ!!」
 もはや意味不明なことを口走る智一。目は血走り、口からはよだれを垂れ流している。しかしベネリの銃口は確実にこちらに向いていた。

 死に直面して、ふいに龍彦の言葉が甦る。
「お前には助けたい奴ががいるんじゃないのか!?」
「死ぬな。お前はまだここで死ぬような人間じゃねぇよ」
 俺は・・・俺は!!
手に持っているコルトパイソンに力が入る。だが智一がベネリの引き金を引くのが早い!
「しっねええええええ!!」
その瞬間、なぜかコルトパイソンを構えている慶司がいた。

 俺は・・・誰も殺さないんじゃなかったのか・・?

 ドス!!
 何かが刺さるような音がした。
 目の前にはベネリの引き金を持っている左腕に包丁が刺さっている智一がいた。
「ぐっあああああああああ!」
 あまりの痛みにベネリを落とす智一
 T字路の右を見るとそこには龍彦がいた。少し離れていたがあそこから包丁を投げ込んだらしい。

「今だ! 遠山、撃てぇ!!」
 しかし狂った智一も黙っていない。
「くそぉ! 死んでたまるかぁ!! お前が死ねぇぇ!!」
 右手でベネリを拾い上げる。だが慶司は迷っていた。
 人を、クラスメイトを、友達を撃っていいのか!?
遠山! 何をしている! 早く撃てぇ!!」
「死ぬのはお前だ! お前が死ねぇ!」
 二人の声が慶司の思考をより混乱させる。
 一人は自分を守れと殺人の銃を渡した男、一人はみんなから尊敬されていてすでに狂って自分を殺そうとする男・・・

 生か・・・死か・・・!!

 ドクン・・・・ドクン・・・・ 心臓の音がまるで太鼓の音のように耳に響く。
「撃てぇぇぇぇぇぇ!!!」
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」
「うわああああああああああ!!!!」
そして決着の号砲は鳴り響いた・・・

【残り・・・18名】
                           
                           


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