BATTLE ROYALE
死線の先の終末(DEAD END FINALE


38:生死を分けた瞬間

 暗い・・・ここはどこだ・・? 俺は何をしていたんだ・・・? いまいち記憶にない・・・
 すると、誰か立っている。よく見るとそれは大和 智一(男子17番)であった。
リーダー!」
しかしリーダーの表情がおかしい。何か哀しみのような表情を浮かべている。
リーダー?」
慶司・・・、信じてたのに・・・、お前は絶対信じられるって・・・」
 わけのわからないことを言う智一
「何言ってるんだよ、リーダー! 俺はずっとお前を探して・・・」
「じゃあ・・・なんで・・・」
 するとみるみるリーダーの顔が青くなっていた。よく見ると顔の上左半分がなくなっていた。
「う、うわああああああ!!」
「なんで僕のこと殺したんだよぅ・・・」

 そして慶司の肩を掴む智一
「人殺し・・・、人殺し・・・、ヒトゴロシ・・・・!」
 呪詛のようにその一言を繰り返す智一慶司は心の奥底から叫び声を上げた。


「うああああああああああああ!」
 そう叫ぶと目の前には智一はいなかった。そこは暗闇の空間ではなく月明かりに照らされる森の中だったのだ。自分は夢を見ていたことに気づいた。
 そうか・・・夢か・・・
 よく見ると体中汗をかいていた。シャツもぐっしょり濡れている。
「・・・目が覚めたか・・」
 横のほうから声がした。振り向いてみるとそこには自分が同行している本条 龍彦(男子20番)がいた。
本条・・・」
「まったく、心配させやがって」
 口を開いた龍彦はまた皮肉を言っていた。
「・・・・すまない」
「いや、いいさ。何も知らない奴があれを見たら、気絶したくなる気持ちもわからないでもない」

 龍彦の「あれ」というので慶司は自分が何をしていたのか思い出した。
 なぜ気絶したのかも・・・ だが信じられなかった。
「なぁ・・・、本条
「ん?」
「正直に答えてくれ。リーダーは・・・・?」
「・・・・死んだよ」
 自分の想像通りなら・・・それは・・・ 現実が怖かったが訊くしかなかった。
「・・・誰が殺したんだ・・・」
 体中が震えだしている慶司を見て、龍彦は少し躊躇したが意を決して告白した。
「あの状況で殺せるやつは一人しかいねぇよ。・・・そうだ、お前が殺したんだ」


 狂った智一と駆けつける龍彦の声が木霊する。
「撃てぇぇぇぇぇぇ!!!」「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」
 その瞬間、慶司の頭は真っ白になった。そして本能に従った。

 死にたくない! 死ぬわけにはいかない! そのために・・・殺れ!!!

 慶司は本能のままにコルトパイソンの引き金を引いた。
 バァン!!!
 智一がベネリの引き金を引くのより、慶司がコルトパイソンの引き金を引くほうが早かった。慶司の銃声が響き渡った。
「・・・・ぁ・・・・ぁぁ・・」
 目の前の智一はうめき声を出すばかりだ。
 それもそのはず、コルトパイソンを至近距離で撃ったため、素人の慶司の弾は幸運にも智一の顔面にヒットしていた。そして智一の上左半分の顔は吹き飛ばされて消滅していた。それにより思考能力が低下したのだろう。まだ息があるが助けを求めるがごとく、呻いているのである。
 そしてしばらくよろよろと立っていた智一の目に生気が失われ、そのまま倒れた。彼の片目に命が戻ることはもう二度とないだろう・・・
男子17番大和 智一 死亡】

 その智一の面影のない姿を見て慶司は震えだした。
 俺・・・が・・・? 俺が・・・殺した・・のか?
 そして顔の一部のない智一の顔を再び見て、慶司は自分の犯したことに気が遠くなった。
 悪い・・・夢・・・なんだろ・・? 早く・・・覚めてくれよ・・
 慶司はそのまま気絶してしまった。

 崩れ落ちる慶司龍彦が見事キャッチした。
「おい、遠山! しっかりしろ!!」
 最初、どこか撃たれたのかと思っていたが、外傷はない・・・
 どうやらショックで気絶したようだな・・・ 龍彦はそう判断した。
 しかし・・・この銃声で敵が確実にここに殺到してくるな・・・ 冷静な判断を下した龍彦智一のベネリとデイパックを担ぐと自分と慶司の荷物を抱えて、さらに慶司をおんぶしているにもかかわらず、すさまじいスピードで駆け抜けていった。


 慶司龍彦の告白を聞き、自分が人を殺してしまったことを改めて認識した。
 自分は誰も殺さない・・・そう決めていたのに!
「俺は・・・俺は!!」
 自分を責め始めた慶司龍彦が話しかける。
「あの状況じゃ仕方なかったのさ。お前が殺らなきゃ、死んでいたのは遠山、お前だ。」
 しかし慶司龍彦を睨み付ける。
「でも俺は人を殺したんだ!! 友達を・・・リーダーを!! 人を殺すのにいいも悪いもあるのかよ!? 俺と殺人鬼に何の違いがあるっていうんだよ!!? 人を殺したことには変わりないだろ!!!」

 そういってすべてをぶちまける慶司龍彦がその胸倉を掴む。
遠山・・・、じゃあお前はあそこで死んでもよかったのかよ! お前はあの状況で何がしたかったんだ! 誰も殺さないと誓っていたお前が引き金を引いたのはなぜなんだ!!」
 そう言われてあの極限状況で自分が判断したことを思い出していた。
「最初、俺と会ったときのお前なら間違いなく死んでいただろうな。だがさっきは違った。お前は引き金を引いた。相手を殺した!! なぜならお前は生きたかっただろ!!」

 そうだ・・・、俺は死にたくなかった・・・ だから引き金を・・・
「前にもいったが、お前にははっきりとしたやるべきことが残っているんだろ! だから生きたかったんだろうが! そして生き残った。だが今のお前はなんだ? 自分のやったことに後悔しているばっかりじゃないか! そんなんじゃ殺された相手だって浮かばれないぞ!!!」
 龍彦の怒涛の叱責に慶司は聞くしかなかった。そして龍彦の言葉が途切れて、慶司も何も喋らなくなっていた。

 しばらくの沈黙・・・ そして慶司は喋りかけた。
「なぁ・・・・本条
「・・・なんだ?」
 まだ怒っているのか不機嫌だ。だが構わず慶司は続ける。
「お前は・・・人を殺したことがあるのか・・・?」
 その言葉に龍彦は即答した。
「・・・こんなクソみたいなプログラムがある国だ。俺たちは予備軍とはいえ、戦場にも出される。・・・そこで生き残るってのは、殺すことと同じだ・・・」
 自分より多くの人を殺している龍彦慶司は訊きたかった。
「お前は・・・・苦しくないか? 自分が人を殺したってことに・・・ それとも兵士ってのは悪夢を見ないのか・・・?」

 龍彦は自分とは違う生き物なのかと問いかけている慶司に、龍彦は答えた。
「・・・俺だって人間だ。最初は苦しんださ。お前のように悪夢も見た」
「え?」
 意外な答えに慶司は心底驚いていた。
「兵士といっても俺だって中学生だ。・・・認めなくない現実だってある。だがそれでは駄目だと思った」
 龍彦は強い目をしている。
「俺は人を殺したって現実を克服する方法は2つあると思っている。狂うことと、受け入れることだ」
「受け入れる?」
 慶司は聞き返した。
「ああ。自分は人殺しだと認めることだ。人間ってのは厄介でな。人を殺したにもかかわらず『しかたなかった』『殺す理由があった』という理由をつけて殺しを正当化しようとするんだ。その成れの果てが狂うことだ。『自分は殺しが好きだ』『どうせならすべてを壊してやる』ってな。そう言った人間は確かに救われるが、そいつはもう人間じゃない」

 龍彦慶司を見据えて続ける。
「大切なのは受け入れることだ。俺は確かに人を殺した。そいつらにも輝かしい未来があっただろう。俺はそいつらの未来を奪った。それには何の変わりもない。だからこそ俺は生きる必要があるんだと思う。俺が自分の未来を輝かせなかったら、俺に殺された奴らは無駄死ってことになる。もしあの世があるなら、俺は殺した奴らに土下座して謝るつもりだ。そして『お前らを殺した人間はこういう誇らしい人生を送ったんだ』って報告するつもりだ」
 そんな龍彦の本音に慶司は食い入って聞いていた。
「奪ったものは返してやれないけど、その代わり俺は前へ進むつもりだ。進んで進んで・・・もし死んだらちゃんと謝罪するつもりだ。でも俺は今は振り返らない。ちゃんとした『お土産』を作るまではな・・・」

 龍彦の目は強く、力強く輝いていた。
遠山、確かにお前は人を殺した。この現実は決して曲げようがない真実だ。だがお前はそれに後悔して立ち止まる気か? 命を奪われた相手にどう言うつもりだ? 俺の信念をお前に押し付けるわけじゃないが、俺はあえて一言、お前に言うぞ。・・・進め、遠山! 立ち止まってんじゃねぇよ!」

 慶司はなにか重りが取れたような気がした・・・
 俺は・・そう言って欲しかったのかもしれない・・・ 慰めじゃなく、叱責じゃなく、俺がやったことを認めて欲しかったのかも・・・
「バッカヤロ・・・・、一言じゃねぇ・・・だろがよ・・・!」
 慶司は涙が止まらなかった。
「そんな口がきけるなら、もう大丈夫だな。」
 龍彦は普通の顔に戻る。慶司は涙を流しながらこう言った。

「・・・本条、ありがとな」
「いいさ。ぐちぐち言う奴より、めそめそしてる奴のほうがましだ」
 相変わらずの悪態をつく。
「へっ! ・・・・・それで、これからどうするんだ?」
 すると龍彦は答える。
「とりあえず仲間探しだが・・・・、南は後回しだ。まずは北から探す。診療所付近をな」
 慶司はその答えを不思議に思った。
「なんで南は駄目なんだ? そもそも住宅地はいいのかよ?」
 その答えに龍彦は答えた。
「南はある時間帯までは決していかない。・・・・まぁ理由は後々説明する。住宅地だが、前もいったがここは最激戦区になる可能性が高い。しばらくは近寄らないほうが懸命というものだ。それより診療所付近のほうが人がよる可能性も高い。だからさ」
という説明に慶司は納得した。
「・・・わかった。従うよ」
「それじゃとりあえずこの付近を離れるぞ」
 そう言って、早々にこの戦線から離脱していった。もう夜も更けてきた頃であった。

【残り・・・17名】
                           
                           


   次のページ   前のページ  名簿一覧   表紙