BATTLE
ROYALE
〜 死線の先の終末(DEAD END FINALE) 〜
39:慎重な暗殺者
一方再び南方の廃校西の森・・・おそらくH−3ポイントあたりに一人の男が森をかきわけ、闇夜の中を進んでいた。つい数時間前に襲い掛かってきた神部 姫世(女子5番)を撃退した春日部 大樹(男子4番)である。
安眠を妨げた姫世を退けたあと、ゆっくり休息と取ることと、これからのことを考えることができる場所を探していた。その途中、自分が逃がした姫世が放送により死んでいることがわかった時は、さすがに驚いたがさして気にも留めなかった。
「薄情なのかな・・・俺は」
そうつぶやきながらも、決して歩みを止めることはなかった。
大樹は今年の春、全国大会に進出するほどの実力を兼ね備えた空手家としては全国区の選手だった。そもそも空手を始めたのは父親にこういわれたのがきっかけだった。
「弱いものを守るため強くなれ!」
父親が福祉関係の仕事に従事していることもあって、弱者に優しくあれとの教育を大樹もまた受けた。幼い大樹にとって守ることとはどういうことなのか? 大樹がたどり着いた結論は、子供ゆえの単純な思考である。
弱い人を強く横暴な人から守るには、正義のヒーローのように強くなくっちゃ!
こうして大樹は「強くなる」ために空手を始めた。性格自体がのんびりな大樹であったため、練習もマイペースにやり、他人を倒すとか、他人を追い落とすとかの思考は欠落していたが、空手の実力自体はその性格とは裏腹に、メキメキと力をつけていった。
しかし他人に対しての思いやりはすさまじいものがあった。こんなエピソードがある。
中2の夏あたりだろうか、ある日大樹は昼寝をしようと屋上に行こうとしていた。だが一人の女子が複数の男子にからまれていた。
この女子は実は旭 千歳(女子1番)だったのだが大樹は当時千歳とは全然面識がなかった。千歳は暴行の件で呼び出されて脅されていたのだ。
その場面に遭遇した大樹は持ち前の正義感で、千歳を助けようと割って入った。
「んだぁ、テメェ!」
「女一人を何人で囲っているんだ? やめとけよ・・・」
「ルセェ、ぶっ殺すぞコラァ!!」
「お前らに俺が殺れるならな・・・」
この言葉に不良たちは逆上して大樹に襲い掛かっていた。しかし大樹は弱いものイジメをする人間には容赦がなかった。完膚なきまでに全員を叩きのめしたのである。
この後、先生も駆けつける事態になり大騒ぎになったが、千歳が弁解したことにより大樹にはお咎めなしとなった。
その後千歳と話すことになった。
「あ・・・ありがと・・」
「いいさ・・・、お前。D組の旭だろ?」
なんで知ってるの? という顔で大樹を見る千歳。
「あんなでかい自殺騒ぎを起こしたら有名にもなる・・・」
「あ・・・そうね・・・」
千歳は1ヶ月前校内で手首を切って、自殺未遂事件を起こしていた。
「・・・・あいつらに脅されているのか・・?」
「・・・・」
千歳は答えなかった。おそらく何か理由があるのだろう。
「・・・・今度あいつらとはまた話をつけるつもりだ」
「・・え!?」
千歳は驚いた顔をする。
「どうせ、俺が叩きのめしたってのはすぐに伝わるだろうしな。こっちから行ってやるつもりだ。お前の件もその時言ってやる」
「・・・なんでそんなにアタシのこと・・・気にかけるのさ・・?」
当然の疑問を投げかける千歳。
「ただ単に弱いものを守りたいだけさ・・」そういって大樹は一人、帰っていった。千歳はそんな大樹の姿をずっと見続けていた・・・
後日、大樹はその不良のリーダーを話をする機会を得た。だがこの不良たちのリーダーというのが「海音寺の鮫」・陸奥 海(男子15番)だったのである。
「テメェがC組の春日部か。確か空手やってるって話だよな・・・」
「ああ・・・」
威圧感を漂わせる海に大樹は静かに答える。
「陸奥さん! やっちゃってくださいよ。」「なんなら俺らも・・!」
そう言って先日大樹が半殺しにした不良たちが騒ぐ。
「うるせぇよ・・・、静かにしてろ・・!」
陸奥は睨むような言葉を自分の配下たちに浴びせた。それに完全にひるんだ形で不良たちは全く動けなかった。
「おっと、話がそれたな。それで・・、なんで俺の部下たちに手を出したんだ? 場合によっちゃぁ、ここで殺すけどよ?」
それに大樹も答える。
「俺が昼寝しようとしたら、そこの奴らが女を脅していたんでな・・・ お前も知っているだろ。D組の自殺未遂の事件を・・ どうやらその原因がそいつららしいんだがな・・・」
そういわれてビクッと不良たちが驚く。
「ほぅ・・、それで・・?」
「俺は弱いものを虐げる奴が大嫌いでね・・・ 二度とそんなことできないようにしてやるってのが俺の望みだ。まぁ、あの時はそっちが先に手を出してきたわけだが・・・」
海は考え込んだように言った。
「で、お前は何が言いたいんだ?」
「俺の要求は二つ。俺に手を出すな。それと二度と旭に関るな。この二点だ。飲めないようなら俺は力ずくでも言うことを聞かせる」
「おもしろいな・・・ お前、俺の噂を知らないわけでもないだろ?」
「知っている。だが自分の信念を曲げるようなら、俺は死んだほうがましだ」
そういった後、しばらく沈黙が支配した。
そしてそれを破ったのは海だった。
「わかった。お前の要求を飲もう」
意外な答えに春日部同様、不良たちも驚いていた。
「ただし、もうお前も俺らに関わるな。それができなきゃ、次はやりあうことになるぜ・・!」
「・・・ああ、わかった」
そういって大樹はその場をあとにした。
「陸奥さん! なんでッスか!?」「俺らの仇、とってくれるんじゃ・・・!」
そしてその瞬間、海が話していた部下の腹を思いっきり蹴り上げた。
「ごうぇ!!」
「勘違いすんなよ。俺はアイツとやるよりお前らを切ったほうがマシだと判断したんだ。まぁお前らの替わりなんて腐るほどいるからいいけどよ。それに・・・」
冷酷な視線を投げかける海は続ける。
「女を自殺未遂に追い込むっていう証拠を残すような馬鹿どもの尻拭いなんぞ、やってられるかよ! テメェラ全員、今日から俺とは何の関係もねぇ。・・・まぁ、夜道には気をつけろよ?」
そういって海は追いすがる元部下たちを散々脅してその場を後にした・・・
そういった経緯があるように大樹の他人に対する思いは相当なものである。
大樹は人を殺すべきかということに悩んでいた。さきほど姫世を逃がしたのもそのような思いがあったからである。救えない奴まで俺は慈悲をかけるのか・・・、そんなジレンマに迷いが生じていた。
そんなことを考えて進んでいるとさすがの大樹も疲れ始めていた。そろそろ休息を取らないとまずいか・・・ そういって木に腰掛けた。
ドス!! と音と共に大樹の左腕に激痛が走った。
「ぐっ!! ・・・な!」
左腕をみると見事に矢のようなものが貫通していた。
「・・・・どうやら命中したようだな」
そういって矢の放たれた方向から姿を現す一人の人物。
「・・・李!!」
その人物は学期末に転校してきたばかりの李 小龍(男子17番)であった。手にはボウガンと支給武器『日本刀・菊一文字』が握られている。
「待っていたよ、お前が気を抜く瞬間を。さすがに武道家だけあるな。なかなか警戒が強くて隙も見当たらなかったが」
「・・・ずっとつけていたのか?」
「神部が襲っているあたりからな。あっちを追ってもよかったが、あの女はいずれ自滅する。それより手ごわそうなお前を狙ったわけだ」
そういって小龍はボウガンを置いた。
「普通の戦いをしてもよかったんだが、慎重に行こうと思っていた。これからも戦いがあるわけだし、傷を負っては厄介だ。ボウガンもどこかに当たればよかった。」
そういって大樹は立ち上がる。
「・・俺は左手を負傷しただけだ。まだ甘いな、李!」
そういって大樹は小龍に走って近づく。小龍は菊一文字を地面に刺した。
大樹の顔面を狙ったハイキックをなんなくかわし、右の手刀を大樹の矢の刺さっている傷口に叩き込む。
「ぐあぁぁあ!」
ひるんだ大樹の懐に近づき、ほぼ間合いがない状態になる。両腕を持ち上げ、そこから強烈な当身をお見舞いする。
ボキボキ!!!! と何本か骨が折れた音が聞こえた。その当身の衝撃で大樹は近くの木まで吹っ飛ばされた。
「悪いな。俺は幼い頃から韓半民国人の祖母からの秘伝の暗殺拳を教え込まれている・・・ お前と変わらない・・・実戦闘ではお前以上の腕前は持っている」
「ぐ・・・、ごふぅ!!」
どうやら折れた肋骨が肺に刺さったようだ。呼吸は困難になり、体も動かない。自分はもう助からないと悟った。苦しくなる意識で悔しい思いでいっぱいだった。
俺は・・・このまま・・誰も守れないまま・・死ぬのか?
そして小龍は菊一文字を持ち、大樹の前に立った。
「本当に悪いな・・・ だが俺は死ぬわけにはいかない・・・ アイツが待っているから・・・」
その瞳にはとても狂った殺人者にはありえない悲哀の感情が篭っていた。
そうか・・・こいつも・・・苦しんでいるんだな・・・
「・・・・李・・・、できるだけ・・苦しませずに・・・・逝かせてくれ・・・・」
小龍は了解したように覚悟を決めた。
「わかった。春日部・・・、お前の分まで生きる。安らかに眠れ・・・!」
そう言って大樹を即死に至らせる一撃は振り下ろされた。
月下の森の中、一人の勝者が立ち尽くす。骸になった大樹の目をそっと閉じる小龍。
「俺は・・・死ねないんだ・・・ そうだろ、蓮花(レンファ)・・・」
死者の冥福を祈る武神に一筋の涙が流れ落ちた・・・
【男子4番春日部 大樹 死亡】
【残り・・・16名】