BATTLE
ROYALE
〜 死線の先の終末(DEAD END FINALE) 〜
41:無垢の白・神威の黒
浪瀬 真央(女子20番)との戦闘で、左肩に傷を負った能登 刹那(女子13番)はひとまず退却していた。肩の傷を手当てするためだ。
そのため夜明け前だったこともあって、少々の危険を承知で住宅地に行くことにしていた。
傷の手当てをするなら診療所にいくのが一番いいのはわかっていたが、余りにも遠すぎた。それに出血が少量とはいえ、ほうっておいては化膿したりするかもしれないし、致命傷にもなりかねない。
それに幸い、出血は浅く、弾も近距離だったため貫通している。これなら診療所じゃなくても、普通の家の救急道具などでなんとかなると判断した。
判断した後の刹那の行動はテキパキしていた。その後住宅地に入り、家の救急箱をとり血止めをして、裁縫道具で傷を縫った。縫う時、かなり痛かったが、ほうっておくと大変なことになると知っていた刹那は迷わず縫った。知識はそれだけ豊富だったから・・・
刹那を色で例えるとそれは「白」だった。穢れを知らない白・・・
他を相容れない純粋な心をもった女の子が刹那であった。
刹那はこの世を信じていた。穢れなく、誰もが偽りなく過ごせる世界だと。自分が正しいと思える世界だと信じて疑わなかったのである。
だが現実は違った。
自分の都合でささいな嘘をつく人。
何の理由もなく人を騙す人。
矛盾に気づいているにもかかわらず、あえて黙認する人。
好きでもない人を付き合いということで嫌々友達にする人。
世の中は刹那が信じている世界とはかけ離れた矛盾を多く抱えていた。なかでもこの大東亜共和国は矛盾の権化だったのだ。
そのような世界に生まれた純粋な天使はその世界を容認するのでもなく、また反抗するのでもなく、ただ傷ついていた。純粋ゆえそれらの出来事にあうたびに自らの心が傷ついていったのかもしれない。
疑うことを知らない刹那、その刹那に対する世界の「裏切り」はただ刹那には苦痛になっていった。
だがそのような矛盾だけに疑問を唱えているわけでもなかった。
人を傷つけること、人を殺すこと・・・
これらの人間の禁忌に刹那は大きな疑問を持っていた。
「肉や魚を食べるのに動物を殺すのに、どうして僕は人を殺してはいけないの?」
「人を傷つけても許される人がいるのに、どうして僕は人を傷つけてはいけないの?」
親は自分がやられると痛いだろ? 刹那も痛い思いをしたくないだろ? だからさ。
と言った。だが刹那は納得いかなかった。
自分がやられると痛いから? じゃあ痛くなかったら殺してもいいの? 傷つけてもいいの?
親は困ってしまってなんとなくごまかしている感じだった。
その後両親は交通事故で亡くなってしまった。幸い、両親の莫大な財産があり生活には困らなかった。しかし、親戚も誰もいなかったので刹那は一人暮らしを始めた。それがなんと中1の時の話だった。
親がいなくなったので先生にその質問を投げかけた。すると先生は
法律で禁止されているからだよ、と言った。
なぜ法律で禁止されているのですか? と聞くと
だめなことだから、と言った。
なぜ駄目なのですか?
そういうと答えは返ってこなかった。
人を傷つければわかるのかしら・・・
そう思って不良がたまっている所に行ってみた。案の定、女の不良が刹那に駆け寄ってきた。しかし両親に習っていた合気道がここで役に立った。そこにいる不良を全員返り討ちにしたのである。しかも無抵抗の不良ですら残虐に殴り続けていたという。
傷つければわかるか? その理由だけで不良たちをただ一人で再起不能まで追い込んだ刹那はいつしか残虐無用、極悪非道のレッテルを貼られ、クラスからも敬遠されることとなった。
なぜ、どうして? 子供の頃から持っている素朴な探究心。年を重ねるにつれてその現実から目をつぶることで大人になっていく子供。しかし刹那はその純粋さからまったくその現実から目をそらさず今も見続けている。
そしてその純粋さゆえにいまだ傷つき続けているのである・・・
前の担任の首を吹き飛ばした森先生にも刹那は多大な疑問をもっていた。
自分が気に食わないから、殺す。今まで聞いていたことと、今担任が言っていることは全然違う・・・ 刹那の胸がチクリとした。
そして森は殺し合いと言った。
わざわざ実験に参加して殺し合いをするわけだから、勝ったら何か貰えるのだろうか?
そんな疑問から刹那は森に「やる気」と思わせる質問を投げかけたのである。しかし理由のわからないプログラムに参加すること自体、刹那の心を傷つけていった。
だから覚悟した。自分が死ぬことを。自分が生きるために人を殺すことを。そして優勝したら森に一つ質問することを。「プログラムの意味って何ですか?」と・・
最初殺した赤平 吉平(男子1番)は正直、クラスでも得体の知れない会話を繰り広げ、気味の悪い笑いをするので「気持ち悪い」と思っていた。
次に殺した松浦 英理(女子16番)は自分の美貌ばかり気にするはっきりいって「うざい」女の人だった。
狂い始めていた浜田 亮三(男子12番)は最後にこのプログラムとは矛盾なことを言っていた。そして正直「哀れ」と思った。
刹那の行動から見ていても、刹那は矛盾した行動をしていない。この15年間、自分に矛盾がない行動をしてきたからである。刹那は正直で、残虐で、そして悲しい人間であった。
傷を縫い終えた刹那は処置が終わったのを自己確認して、家を出た。しかしそこでばったりと人にあってしまったのである。
目の前にいるのは真中 冥(女子15番)。
「あ・・・あの・・能登さ・・」
言い終わる前に刹那はイングラムを撃ち出した。
パララララララ!!!!
容赦なく冥の胴体部分にイングラムの弾が全弾着弾した。
「・・・ぁぁ・・・」
そう言って冥は倒れた後、ピクリとも動かなかった。刹那は踵を返した。
「僕は・・・・どこまで・・・傷つくのかな・・・?」
そう呟いた瞬間、首に圧迫感を感じた。
「あ・・・・・!」
だが刹那の意識はそこで真っ白な世界に辿り着いた。
そうか・・・終わったんだね・・・
刹那は瞬時に悟った。
この世界は僕を傷つけてばかりだった・・・ でも、もういいよね・・・、お父さん、お母さん。
刹那は微かに微笑んだ。
今は静かに眠りたいや・・・僕・・・・
冥は縄でしっかりと刹那の首を絞めた。絞殺は時間がかかると思い必死だったが、刹那の全体重が一気に崩れた。
「え・・・?」
もっと必死に抵抗してくると予想していた冥はあっけにとられて縄を外していた。
刹那はその場に倒れこんだ。その顔は目をつぶっており安らかな顔で、まるで眠っているように見えた。
「気絶・・・したのかしら?」
そう思って口に手を当ててみる。だが息をしていない。首に手を当てたり、心音を聞いてみたりした。だがまったく生命反応がない。
「うそでしょ・・・? まさかあれぐらいで・・」
と思った冥だがピンときた。
そういえばうまい具合にやれば首吊り自殺って楽に死ねるって話を聞いたことがある。つまり自分はその急所をうまい具合に絞め、刹那を苦しまず死なせたということになるのである。
そんな仮説が頭を通過していった。
「・・・くく・・ あははははは! なんて慈悲深いの、私って! こんな罪人に無痛の死を与えるなんて!!」
愉快でたまらなかった。一瞬で人を葬ったことに自分が選ばれた者だということをより確信した。
「しかし、これってすごいわね。井口さんに感謝しないと。罪人とはいえ、このようなモノを残してくれたんだから、あなたはきっと天国に行っているでしょうね」
そういって自分の制服の下に着込んでいるものをさすった。
それは井口 友香(女子3番)を殺した時に手に入れた武器・・・正確には防具だが『防弾チョッキ』であった。被弾したのが全部胴体だったことは、冥の強運だったと言えよう。
喜びに打ち震える冥はさらに自分の「裁き」の手伝いになるイングラムを拾い上げた。
「ふふ・・・、これで私は無敵ってわけね」
そしてガガっという音が聞こえる。
「定時連絡・・・ もうそんな時間なのね」
そして森の大声が朝日こぼれる空に木霊する。
「おはよう! 諸君! 殺し合いをしているお前らが大好きな森だ! 今日も元気にしっかり殺せよ! それではおなじみの死亡者と禁止エリアを発表するぞ。男子4番春日部 大樹、男子17番大和 智一、以上だ。女子はなし・・・いや、今入った情報だ。女子13番能登 刹那。女子は以上だ。次に禁止エリアの発表だ! 1時間後にB−6、2時間後にH−3、4時間後にB−7、5時間後にD−2だ。お〜い、みんな! ペースが落ちてるぞ、ペースが! 最初にも言ったが生き残れるのは一人だ! 他人を信用するな! 自分が生き残ることだけ考えろよ! それではまた6時間後に連絡するからな〜!」
放送が終わる。
そして冥は、自分のそばに眠っているように横たわっている刹那が改めて死んでいることが確認できた。
まるで天使が寝ているようにも見えた。このような美しいものを傷つけるのは神もお喜びならないでしょうね・・・
「能登さん、1時間後にはここも禁止エリアになるでしょうから、あなたはここに綺麗なまま放置してあげる。あなたは罪人だけど、この執行者の私にこのような武器を授けてくれたのです。きっと天国にいけるでしょう」
そしてニコリと死体の刹那に笑いかける。
「それではごきげんよう、能登さん」
そういうと、冥は走り去っていく。純粋天使は安らかな眠りについたままだった・・・
【女子13番能登 刹那 死亡】
【残り・・・15名】