BATTLE ROYALE
死線の先の終末(DEAD END FINALE


42:探索者との邂逅

 住宅地で天使が堕ちた頃、南の森で激情に支配された男がいた。
 亡き恋人の復讐に燃えるその男、御手洗 武士(男子14番)は恋人の仇である「3」の人物・・・つまり鵜飼 守(男子3番)を探していた。

 恋人・美津 亜希子(女子19番)が最後に残したメッセージ、「3」を示す人物は2人いる。そのうちの一人、井口 友香(女子3番)亜希子が死んだ時の放送で死亡が流れていたので違うと思った。
 すでに誰かに殺されると少しは思っていたがすぐに掻き消えた。なぜなら亜希子をはじめ、亜希子たちのグループが黛 風花(女子16番)を除いてすべて殺されていたのである。読書少女であった友香にそんな芸当ができるはずもない。
 さらに亜希子の死因はなんらかの刃物で深い傷を負っていたのである。そんなものを振り回す膂力が普通の女の子にあるはずがない。

 そうした結論から、武士は間違いなく亜希子を殺したのが鵜飼だという確信を持っていた。
鵜飼・・・絶対、俺の手で殺してやる!!」
 そうした決心を胸に武士は復讐の鬼となり、鵜飼だけを必死に探し回った。

 最初は廃工場にいったが、誰もいなかった。その後、家島 舞(女子2番)真中 冥(女子15番)が来るわけだが、武士はその前にこの工場を後にしていた。
 近くにいると思ったのか、次に向かったのが学校であった。すさまじいスピードで駆け抜ける武士。復讐にとらわれた武士にとって疲れなど感じていなかった。亜希子の無念を晴らす・・・ただその思いだけを抱き、必死に森を駆けていった。
 それで学校についたはいいが、見つけたのは陸奥グループのメンバーの死体と秋文 将(男子2番)の死体だけであった。だが武士にとってはそんなことはどうでもよかった。早々に学校を後にして、禁止エリア外を探して森をさまよっていた。

鵜飼・・・・どこだ・・・」
 復讐の怨念に取り付かれた武士の感覚は普段ではありえないほど研ぎ澄まされていた。だがその集中力は天才と呼ばれる運動神経を誇る武士の体でも非常に消耗するものだった。さすがに日没後になると疲れが見え始めていた。
「ハァ・・・ハァ・・・、・・・かい・・!」
 意識はまだ動こうとするが体が動いてくれない。とうとう武士はひざをついた。
「う、鵜飼ィィィィィィィィ!!!」
 わき目も振らずそう叫んだ。
「どこだ! どこにいるんだ!? さっさと出て来い! 俺はここだぁ!!」
「そんな声だしていると誰かの的になるよ」

 武士はその声に即座に反応した。素早くH&K PSG−1をその声の向けた方向に向けた。
「誰だ!!」
 武士はその方向を睨む。すると草むらからその人物は素直に出てきた。
「ボクだよ」
 眼鏡を掛けた人物・・・ こいつは・・・ 
張本・・!」
御手洗君、廃校以来だね」
 張本 佑輔(男子13番)は余裕というか普段どおりの顔でそこに佇んでいた。銃を向けられているにもかかわらずにだ。

「何の用だ、張本。俺を殺しにでもきたか?」
 そう言うと佑輔は答える。
「もしその気なら声をかけないで、問答無用で襲い掛かると思うけど?」
 だが武士は警戒をとかない。
「どうかな? お前は頭がいい。油断させてから俺を殺そうって魂胆も考えられる。俺の武器は銃だしな」
 あくまで疑ってかかる武士佑輔はふぅっとため息をつきながら答えた。
「人を探している」

 そう一言。
「人?」
「ああ・・・、知ってるかと思って声を掛けたんだけど」
「奇遇だな。俺も人を探しているんだ」
「ちなみに鵜飼君なら知らないよ。見てもいないし、第一ほかの人には興味ないしね」
 その言葉に驚いた武士
「・・・どうして俺が鵜飼を探していることを・・!」
「どうしてって・・・、さっき君が思いっきり鵜飼君の名前を叫んでたじゃないか。あれで気づくのは自然だと思うけど」
 そういわれて武士は急にカッとなり銃を再び構えた。
「お前・・・馬鹿か? 俺がやる気になっているとでも思っていないのかよ」
 すると佑輔は冷静に答える。
「君の性格からいってほぼありえないね。それに・・・君も標的以外には興味なさそうだし・・」
 そう言われて武士は冷静になった。

 俺は何をしているんだ! 俺の目的は鵜飼を殺すことだろ? 目的以外の人間まで手にかけちゃそれこそ奴と同じじゃないか!
「・・・お前の武器は何だ?」
 だがあくまで銃は下げない武士
「こいつさ。こいつがあるから夜まで待ってた」
といって持っているものを差し出す。こいつは・・暗視ゴーグルか?
「『ナイトスコープ』それがボクに支給された武器。まあ暗闇の中、人を探すのには適していそうだけどね」
 そう言われて初めて武器を下げた。
「で・・・誰を探してるんだ?」
 すると佑輔ははっきりとした口調で答えた。
小船さんだ」
小船?」
 小船って・・・小船 麻理夜(女子8番)のことか?

 張本とは全く接点が見当たらない。小船は病弱な女の子、張本は大病院の御曹司。学校一の頭脳を誇り、将来医者確実とまで呼ばれる男だ。
「なんで探しているんだ・・?」
 すると佑輔は迷わずこう言った。
「告白するためだ」
「・・・・は?」
 思わず間の抜けた声を出す武士。今、告白っていったよな・・・
「告白って・・・何、告白するんだよ?」
「そこまで聞く? 野暮だな。決まっているだろ。自分の思いを相手に伝える。これが告白だろう」
 照れもせず堂々と言い放つ佑輔
「しかし・・・、お前小船と話したことあるのか? 学校じゃあまり接点ないぞ」
「当然だよ。学校じゃなくて、病院であった。ボクの父親が経営している張本総合病院で」
 佑輔の中でその出会いが思い出される。


 佑輔は小さい頃から、父親に将来りっぱな医師になるように言われ続けてきた。医者になるための英才教育、救急治療方法、医師としての技術、それらを見事に教えてきた父親。
 だが佑輔が受け継いでいたのは医者の技術だけであった。一番大切な医者のココロは佑輔には全く伝わっていなかったのである。

 少年は自分のなかで命の価値観というものがはっきりわかっていなかった。
 父親の教育のため、よく病院に行っていた。その中で少年が見たものは、簡単に怪我をするもの、病気で苦しむもの、そして・・・死。そうした環境が佑輔の中の命の本当の価値を欠落させていった。

「人間なんて脆いものさ・・ 医者がいなければすぐ死ぬ」

 そうやって育ってきた少年の心を変えたのが小船 麻理夜であった。
 麻理夜との出会いは中3になった頃のことか・・・ いつものように病院に出入りしていた佑輔はある一人の少女に出会った。少し顔色が悪く、よろけていた。佑は危ないと思い、抱きとめてやった。
「あ・・・、どうもすみません・・・」
「顔色がよくない。大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です・・・あ!」
 なぜか少女はボクを見て驚いている。何だ? ボクの顔に何かついているのか?
張本君・・」
「ん? なぜボクの名前を? どこかであったか?」
 すると麻理夜は口を開く。
「どこって・・・、私と同じクラスでしょ? 張本君
 同じクラスの奴・・・ あまり覚えていないな。

「すまない。覚えていない」
「ううん。いいの、私も病院通いが続いてちょっと学校休んでいたりするし」
 すると佑輔は疑問を投げかけた。
「どこか悪いのか?」
「うん・・・、ちょっと心臓・・がね。あ! そろそろ診察の時間だ。じゃあ張本君。またね」
と言って麻理夜は診察室に入っていった。

 同じクラスの子・・・ということで気になったのだろう。佑輔麻理夜のカルテを見せてくれるよう担当医に話した。張本院長の息子さんということで断りきれず、その医師はカルテを見せた。
 ずいぶん幼い頃から患っているようだな・・・ 治る可能性は非常に低い・・・
 そうだな・・命ってすぐ壊れる。人間は平等っていうけど、絶対平等じゃない。病気にかかる人間とかからない人間は確実に存在するのだから・・・

 だが次に麻理夜と話す機会を得た時、その考えが根底から崩された。病院の待合室で再び出会った二人。
「私ね、夢があるの」
 そう言って自分の夢を楽しそうに喋りだす少女。佑輔はなぜ自分の命が絶望的なのにここまで楽観できるのかが不思議でならなかった。
「なあ、小船さん
「え・・・、どうしたの?」
 話している途中だったので戸惑う麻理夜
「君は不安じゃないのか? もし病気が治らなかったらとか、死んでしまうんじゃないかって」
 そういうと麻理夜は少し肩を落としたが力強く答えた。
「確かに不安じゃないっていったら嘘になる。でも私は生きてるよ。こんなに心臓が弱い私も生きているんだよ。だから理不尽な運命に踏み潰されるんじゃなくて、精一杯生きてみようって思っていたんだ。私の体は必死に戦っているのに、私の心が戦わなきゃ自分の体に悪いでしょ?」
 そういってニコリと笑った。

 この時、佑輔は初めて命の価値観を知った。人は戦っているから生きているんだな・・・ 怪我から、病気から、死から、自分から・・・・
 そしてそれを教えてくれた麻理夜に感謝したかった。
「ありがとう小船さん。おかげで一つ学べたよ」
 そう言うと麻理夜は照れたようなのか明らかにあたふたしだした。
「え・・! いや、その、わ、私、何か教えたっけ?」
「ああ、とても重要なことだ」
「そっかぁ・・ 学校一の天才に私が何か教えたのかぁ・・・ これって自慢になるかな?」
 フフフと麻理夜は微笑む。それ以来、佑輔麻理夜は病院で話すことが多くなっていった。そして佑輔は微笑む麻理夜を見るのが好きになっていった・・・


 もし麻理夜に会う前の佑輔だったなら、間違いなくゲームに乗っていたかもしれない。だが今の佑輔麻理夜のためだったら、命は惜しくないと思っていた。しかし麻理夜は誰も死ぬことは望んでいないだろう・・
 自分が何をすべきかはまだわからないが、麻理夜を探し出すことが先決だった。そして、最低でも自分の思いを告げてから死にたい。
 とりあえずそれを当面の目標とした佑輔は自分の武器がナイトスコープだとわかると昼の間は休息を取り、夜になって行動を開始することにした。昼にやたらに動けば敵に出くわすと思ったからだ。その間の放送では麻理夜の死亡が流れないことを祈っていたが。
 そして夜になり行動を開始すると目の前には武士が何かぶつぶつ言いながら歩いている。観察していると突然叫びだしたので、思い切って声を掛けたのである。

「で・・・どうなんだ? 小船さんを見たか?」
 あっけにとられていた武士は我を取り戻し、答えた。
「いや、見ていないぞ。まだ死亡が放送されていないってことは生きているってことだろうが・・・」
「そうか・・・」
「なぁ・・、張本
 武士はどうしても聞きたいことがあった。
「なんだ?」
「お前・・・、小船と会って告白してどうするつもりなんだ?」
 この問いかけにも佑輔は凛として答えた。
「さぁね。会ってみないとわからないが・・・、とりあえず決定していることがある。小船さんはボクが命にかえても守ってみせる。ただそれだけ」

 この言葉に武士は胸を打たれた。
 こいつは・・・、俺ができなかったことをやろうと・・しているのか?
 ふいに亜希子のことを思い出す。

――あなたのことは死んでも忘れないよ――

 息絶える中、亜希子が残した最後の言葉。
 こいつに俺と同じ気持ちになってもらいたくない。大切な人を守りきれなかった思いを・・・
「まあ知らないならしかたないな。君にも目的がありそうだし、ここでお別れだ」
 そういって佑輔は立ち去ろうとする。
「待てよ」
 そういって呼び止める武士
「なんだい?」
「一人じゃつらいだろ? 俺も探してやる」
 この言葉には佑輔も驚いたようだ。目を白黒させている。
「しかし、君は・・・・」
「俺の相手は逃げやしねーよ。でも小船は別だ。ほうっておいたら殺される可能性だってある。だから探してやる。ただそれだけだ」
 普段愛想のない佑輔も少しはにかんだようだ。
「・・・御手洗君。ありがとう」
「お礼は小船を見つけた時に言えよ。んじゃ行くか!」

 こうして、一人の探索者を救うために探索の手伝いをすることになった武士。だがそれが復讐の鬼と化そうとしていた武士を逆に救い出したのにはもちろん気づいていない。


【残り・・・15名】
                           
                           


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