BATTLE
ROYALE
〜 死線の先の終末(DEAD END FINALE) 〜
43:最凶同士の決闘
森の2日目の朝の放送が流れた頃、浪瀬 真央(女子20番)はE−6ポイントにいた。
自分が手傷を負わせた能登 刹那(女子13番)を追うこともできたが、やめた。真央の目的は優勝でもなく、戦闘に勝つことでもなく、ただ人を殺したいという欲求を満たすことだけであったからだ。
「手負いの獣ほど厄介」というように容易に追撃してこっちが死んでは元も子もない。そもそも手ごわい相手と戦う気など全くなかった。それにグレネードランチャーを手に入れたことで真央は大分満足していた。
しかし刹那を避けるため、元の道を戻っていた時に自分の奥底から湧き上がる新たなる欲求を抑えきれなくなっていった。夜に刹那を逃がして、要はお預けをくらった形となった真央の殺人欲求はもはや暴発ギリギリのところまできていた。
「キャァ・・ハハハァ・・・ハハァァ・・・♪」
美人と思われる顔はありえないほどに歪んでおり、完全に欲望が抑えきれない状態までになっていた。
真央は次に自分が人を発見したら、問答無用で襲いかかろうとしていた。真央はそれほど飢えていたのである。
すると目の前に人影を発見した。真央の顔は一気に明るくなり、声を上げて突進してしまった。
「キャァァァハハハハハハハハ!! み〜〜〜っけ♪♪」
しかしその人物はこちらに気づくと少し驚いていたようだが、手に持っていた銃をこちらに向けた。その銃は真央がつい最近みたものと同じタイプの銃に見えた。
覚醒状態の真央はその武器の危険をいち早く察知して、障害物の陰へと身を隠した。
バラララララララララ!!!!
連射音とともに地面や木々がはじけ飛ぶ。間違いなくサブマシンガンの音であった。
「真央ってついてるのか、ついてないのかわからないや。キャハ♪」
二度もサブマシンガンを持った相手と対峙した真央は確かについてないといえる。だがそんなことはどうでもよかった。真央は自分の欲求を満たすために銃を撃ち始めた。
「キャハハハハ! あったれ〜〜♪」
バーン !バーン! バーン!
もはや御馴染みとなったタイタンを連射する。
その人物も身を隠した。
「チッ! あのイカレ女、銃を持っていやがったか」
そう言い放った、マシンガンの男・・・陸奥 海(男子15番)は舌打ちしながらも真央のタイタンの弾切れを待っていた。そして銃声が聞こえなくなると、UZIの引き金を再び引き始める。
バラララララララ!!!!
少しでも距離を縮めて真央を殺すつもりだった海はUZIを撃ちながら、真央に近づく。
「死ねや、コラァ!!」
だが真央は姿を出さず、こちらに筒のようなものを向けている。
「ん・・? ありゃあ!!」
危険を察知した海も横っ飛びする。
「キャッハハハァ♪♪」
ボシュゥ!! 少しでも反応が遅かったら当たっていただろう。海は紙一重でなんとか回避した。
ドカァァァァァァァン!!!!!
爆音と共に炸裂するグレネード弾。
「あのアマ・・・、ぜってえぶっ殺す!!」
後一歩で自分が殺されていた現実に海がキレた。今度はある程度距離を保ったまま、UZIを連射する。
バララララララララ!!!!
反撃する間もなく、降り注ぐUZIの弾雨にさすがの真央も手詰まりだった。
「う〜〜ん・・・・弾切れ待つしかないかぁ・・・」
そう思っているうちにUZIの音が止む。
「キャハ♪」真央が顔をだそうとした瞬間、
パァン!!
と言う音と共に真央の顔を銃弾が掠めた。真央の顔には一筋の傷が刻まれていた。あともう少し出ていたら、頭を打ち抜かれていただろう。
パァン!! パァン!!
海はUZIの弾切れと同時に今度は腰に挿してあったコルトトルーパーを撃ち始めたのである。とっさに真央も隠れる。
「はぁぁ〜、危なかったなぁ。もう少しで欲求不満のまま死ぬとこだったね、キャハ♪」
しかしこのままでは手詰まりだ。頼りのグレネードランチャーも連射はできない。タイタンでは火力が違いすぎる上、相手は銃を2丁もった奴。
そしてなによりさっき相手の顔を見た。笑っていたのである。
あの人も人を殺すことを楽しんでいる・・・?
真央はこの相手は自分に近い存在だということを認識していた。だからこそ、この男の死は真央にとって至極のご馳走になるだろうと思っていた。そしてそれがこのグレネードランチャーでの死ならば、真央の絶頂は果てしないところまで届くだろう。
その殺戮の欲望は、真央の全神経をさらに覚醒させた。悪魔のような笑みを浮かべたのち、この男を倒す算段に乗り出した。
一方の海もこの膠着状態をあまり心よく思っていなかった。
「さっきの爆弾を撃つ奴が厄介なだけだ・・・ そうだな・・・」
大分撃ち込んだおかげで落ち着いてきた海はグレネードランチャーを撃たす狙いを持っていた。どうやら連射できないものらしいから、最初の一撃を回避してその後、一気にUZIとコルトトルーパーを撃って突撃する。
装填するする暇も、銃を撃たせる暇も与える気などさらさらなかった。
蜂の巣にしてやるぜ! この陸奥様を怒らせたことをあの世で後悔しな!
そしてUZIを撃ち止める。
さ〜て、さっきの奴を撃って来いよ!
真央は姿を現し、銃を撃つ・・・かと思ったが何かをこちらに投げてきた。
ヒュンヒュン!! 回転しながらこっちに飛んでくるのはなんと鎌だった。女の力で投げたとは思えないスピードでこちらに一直線に飛んでくる。
「んだと・・!」
思わずUZIの引き金を引く。
バララララララララ!!
弾雨の前に鎌が弾かれる。
「あのアマ! 何の真似・・・・!」次の瞬間、
ドガァ!!!
と言う音と共に海の体に強烈な衝撃が走った。腹の辺りから来た衝撃は一気に激痛に変わり、陸奥は自然と後ろに下がる。
「あ・・・・ぁ・・・がは!!」
あまりにも強い衝撃のためUZIもコルトトルーパーも落としてしまった。そして木に寄りかかるように倒れこんだ。
い・・一体・・・何が・・?
そう思った海は衝撃のあった腹を見てみる。すると・・・なんと自分の腹部に「槍」が刺さっていたのである。いや、それは正確には槍ではなく、ある程度削った木刀に包丁を紐と鎖で先端に固定した、真央が改造した特製の「投槍」であった。
「あ、あああああああ! お、俺の腹があああああ!!!」
思わず叫んでしまった。無様に、恐怖のあまりに。
海は力を争うことで負けたことがなかった。喧嘩では無敵であったし、抗争でも自分の部下を率いて無敗を誇った。
その彼についた彼の通り名は「海音寺の鮫」。すべてを食い尽くす獰猛な性格、そして自分のやったことを決して表沙汰にすることのない狡猾な頭脳、誰も負けることのない無類の強さ。彼は悪の憧れであった。
彼のポリシーは「他人なんぞ、俺のコマに過ぎない。俺は誰にも負けることのない存在。他人は俺が負けないための道具に過ぎない」己を絶対的に信じ、他人を絶対的に信じなかった海はこれまでその信念の元に無敗の人生を送ってきた。
だが今のこの状況はどうだろうか? 自分は他人に負けて、無様にも木に寄りかかり、無様にも叫び声を上げている。海にとって屈辱以外何者でもなかった。
「キャハハハハ♪ 残念だったね!」
おおはしゃぎでこちらに駆け寄ってくる真央。グレネードランチャーの銃口はもちろんこちらに向いている。
「て・・テメェ・・」
「ウフフフ、驚いたでしょ〜♪ 実は真央って陸上選手だったんだよ! 得意なのは『や・り・な・げ』♪ まさか当たるとは思ってなかったけどね〜、キャハハ♪」
そういうことかよ・・・
素人でここまでの芸当ができるはずもない。その手のアスリートなら可能なことかもしれなかった。
「あなたってぇ〜、殺人に快楽を求めていなかった?」
ニコニコ顔で真央が問いかける。
「そ・・・それがどうしたよ?」
確かに人を殺すごとに自分の勝利が確信できていた。
「でもあなたって〜、それ以外にも快楽って感じることができるでしょ?」
「んなの・・・当たり前だろ・・・がぁ」
当然だ。人を殺すなんて俺にとっては勝利への一時の快楽。所詮は娯楽の一種に過ぎない。喧嘩に勝っても、煙草吸っても、女抱いてもスッキリできることなんぞ山ほどある。
「やっぱりね〜。あなたも違うのねぇ。ちょっと残念だな〜」
ガックリと肩を落とす真央。それを見て怪訝そうに海が声をかける。
「へ・・・テメェみたいな女と・・・一緒なんぞ・・」
「真央はねぇ、殺人欲求しかないんだ〜♪」
ふいに真央は喋りだす。殺人欲求・・?
「真央はねぇ〜、偉い先生が言ってた話では、あらゆる欲望を感じない特異な病気にかかっているんだって〜。性欲も、食欲も、物欲も、な〜んにも感じないお人形みたいだったんだよ〜♪」
海はぞくっとした。あらゆる欲望が感じないだと? そいつは人間なのかよ?
「陸上も〜、ママが無理やりさせてただけで〜、真央も適当にやってたんだよ。でもねぇ、ある日、テレビで殺人鬼の映画をやってたの〜。そしたら真央もやってみよ〜って気になってぇ♪」
そして恐怖の出来事を言い放った。
「その場に居たママを殺したの♪」
「な・・・なんだと・・・」
「そしたら真央ね! 初めて感じたの! 欲望ってやつを! それで、イッたの! 快感だったな〜、あれは、キャハ♪ それで帰ってきたパパも殺したの。弟も殺した。そしたらも〜〜、この世と思えないくらいいい気持ちになって♪ 3回イッたのよ、3回!! 人生で一番至福だったな〜♪♪」
うっとりとした顔をしている真央。だが海は蒼白になっていた。
こいつは・・・本当に人間なのか!?
「それで3日間で7人殺したんだけど〜、警察に捕まっちゃって〜、結局精神病院や鑑別所にいれられちゃって〜。ほら、知ってる? 1年前に新潟であったんだけどぉ」
それを聞いて思い出した。
新潟県連続猟奇殺人事件・・・・新潟県で起こった最悪の悪夢・・・わずか4日で10人が殺されるという凄惨を極めた猟奇事件。しかも10人目は見るも無残な方法で殺されていたと言う。
そして逮捕されたのが当時わずか14歳の少女であったこと。そしてその少女は最初に殺された一家の長女ということがセンセーショナルに取り上げられて、話題を呼んだ。
海も自分と同年代の人間がこんなことをやるんだなと思って記憶に残っていた。
「でも鑑別所に居た頃は、つまらなくて〜。でもあるチラシを見たの。プログラム志願者募るってチラシを。真央の大好きな殺しが好きにできるなんて、夢の世界だと思わない!? それで参加したんだけど〜、いいよ〜ここは、キャハハハハ♪」
海は初めて恐怖というものを感じた。自分とは明らかに違う「未知の生物」に対して。
こいつは・・・・人間じゃない・・・悪魔だ・・・・
「あ・・・ああ・・・あくま・・・」
だが完全に陶酔しきっている真央は海の声など聞こえていない。
「まぁ、近いってことで真央みたいじゃないみたいだしね、あなたは。でもぉ、あなた殺したらすごい快感だと思うんだぁ〜。それとこれで殺してみたいの〜。人間がバラバラに吹き飛ぶってのを感じたいの、キャハハハ♪」
そしてグレネードランチャーの引き金に指を掛けた。そして一定の距離を取る。
「う、うわああああ! やめろ! やめろぉぉぉぉ!!」
完全に恐怖に支配された海に勝利者の威厳はもうなかった。
「じゃね〜〜、キャハハハハハハハハハ♪」
ボシュゥ! 海の人生を終わらす弾丸が迫る。そして着弾した瞬間、陸奥 海の体は原型を留めていなかった・・・・
【男子15番陸奥 海 死亡】
【残り・・・14名】