BATTLE
ROYALE
〜 死線の先の終末(DEAD END FINALE) 〜
45:気高き魂
「はぁ・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」
三国 晶(女子18番)は橘 由紀夫(男子9番)の遺言通り、ひたすら走って逃げていた。誰でもいい、鵜飼 守(男子3番)のことを伝えるために。
しかし鵜飼の思惑通り、晶の体に銃弾は撃ち込まれていた。体の腹部に被弾し、しかもそこから出血は止まらないのだ。
おそらく、自分も長くない・・・、でも今の自分を超えなきゃ・・・ 由紀夫に会えないよ。
その思いを胸に走り続けていた。
森を抜け、林道に出た後、そのまま森に入った。だが、そろそろ晶の体力も限界に達そうとしていた。
しかし、その瞬間、人がいるのが見えた。しかも二人だ。その安堵感がいけなかった。急に力が抜けてその場に倒れこんでしまった。
ガサガサッ! と音を立てたのでその二人の人物はこちらに寄ってきた。
「こ、これは・・・!」
「三国、三国! しっかりしろ!」
男の人の声が騒々しく聞こえる・・・ ゆっくりを目を開けるとそこにいた人物は・・・
「み・・・御手洗君・・?」
自分を抱きかかえている人物は紛れも無く、御手洗 武士(男子14番)であった。心配そうな顔でこちらを見ている。
「張本ォ!! 頼む、見てくれ!」
その隣にいたのは、学校一の秀才・張本 佑輔(男子13番)だった。なんとも奇妙な組み合わせだ。普段の付き合いからは全く考えられなかっただろう。
「み、御手洗君・・・なんで・・・かは!」
晶の口から血が逆流してくるのがわかる。
「しゃべらないで、三国さん」
そう諭す佑輔がゆっくりと自分の傷口を見始める。
最初は真剣に見ていた佑輔だが、どんどん表情が曇っていく。
「どうなんだ? 張本!」
だが佑輔は答えない。沈黙するばかりだ。
「張本ォ!!」
「もう・・・いいよ・・・御手洗君」
佑輔に食ってかかろうとする武士を止める晶。晶は力を振り絞って言った。
「自分の体だもの・・・、わかるよ・・・」
「何言っているんだ、三国! 張本、お前も何とか言えよ? 傷はたいしたことはないっとかよ」
武士が佑輔に返答を求めるとようやく重い口を開く。
「・・・この出血だとおそらく臓器に銃弾が達している。しかも最悪なことに銃弾が体内に残ったままだ・・・ おそらくもう・・・」
真実を言いかける佑輔に武士は罵声を浴びせる。
「なんだと!? じゃあ三国を見捨てろってのか! お前それでも・・・」
「わかってないのは君だ! ボクだって助けたい! でもここは長野の山奥だ! 医療に必要なものは何一つないんだ! この現実の前にボクらはあまりにも無力なんだよ!!」
常にクールな佑輔が初めて放つ怒声に武士も怯んで沈黙してしまった。
「ありがとう・・・御手洗君・・・、張本君・・・ でも・・・もういいの・・・」
必死に痛みを堪えて、言葉を紡ぐ晶。
「でも、最後に・・・伝えたいことがあるの・・・ 由紀夫との・・・約束なの・・・」
「橘との・・・約束?」
怪訝そうに晶を見る武士。
「私たちは・・・さっきまで一緒にいたの・・・ でも・・襲われて・・・・由紀夫は・・・・私をかばって・・・・」
そう言うと、晶は涙を流し始めた。出血し続けるところに勝るとも劣らない勢いだ。
「私・・・逃げたくなかった・・・ でも・・・由紀夫の・・・願いを・・聞き遂げたかったから・・・ そして・・・約束を・・・果たさなきゃ・・・由紀夫に・・・会えないから・・・」
そしてありえないほどの吐血をする晶。晶の血が抱きかかえている武士の制服に付くほどだ。
「三国、もういいから・・・喋るな!」
だが晶は頑なに拒否した。
「私たちを・・・襲ったのは・・・鵜飼君よ・・・気をつけて・・・・」
武士はその言葉を聞いた瞬間、体が熱くなるのを感じた。再び怒りの炎が再燃しかかったのである。
「鵜飼ィィィ!!」
だが晶の容態がさらに急変すると、再び理性を取り戻した。
「三国!」
「三国さん!!」
二人が覗き込む晶の姿はもう苦しくて死にそうな顔を浮かべた哀れな女性だった。
「ゆ・・き・・・お・・・ わたしは・・・あなた・・・が・・・・」
次の言葉を言った瞬間、晶は事切れた・・・
由紀夫・・・、私。あなたに並べたかなぁ・・・・
あなたと肩を並べて走れるような人間になりたいな・・・
今は後ろを見つめながら走っていても、絶対追いついてみせるからね!
そして・・・、あなたに並んだら言うんだ・・・
自分の胸に秘めている大切な想い・・・・
そう思って帰り道をランニングで走っている晶。すると目の前には自分がさきほどまで考えていた人がいる。
並べ・・並ぶんだ!!
そして・・・並んだ。
「よう、晶! 速くなったな、お前」
そう言って笑顔を浮かべる由紀夫。晶は自分の胸にしまっている大切な想いを解き放った。「由紀夫・・・・私ね・・・あなたのことが・・・」
「・・だい・・・すき・・・」
最後の瞬間まで自分を超え続けようとした晶。最後の最後で自分の目指した橘 由紀夫に追いついたのかもしれない。彼女はゴールのテープを切ったのかもしれなかった・・・
【女子18番三国 晶 死亡】
ただ残ったのは二人の沈黙者とすべてを達成した骸だけであった。
さきに口を開いたのは佑輔だった。
「三国さん・・・、橘君のことが・・・」
「そうだな・・・」
武士はただ相槌を打つだけだ。
「どうするんだい? 鵜飼君を・・・追うのか?」
途中で話を聞いた限り、すでに彼は8人の級友を殺している。その中には武士の恋人・美津 亜希子(女子19番)ももちろん含まれている。 すでに怒りのボルテージは最高潮に達しているだろう。
だが意外な答えが帰ってきた。
「もちろん、小船を捜す。そうだろ?」
佑輔は呆然としている。そんな佑輔に喝を入れた。
「お前は小船がこんな姿になったらどうする気なんだ? お前に俺や三国の気持ちを味わわせる気はねぇよ。だから早く探そうぜ」
武士のあまりの冷静な判断力に佑輔はただ驚嘆するばかりであった。
しかし、武士の心中は決して穏やかではなかった。いつ怒りの炎がこの身を焦がすかわからなかった。だが屈するわけにもいかなかった。この連鎖する悲劇をとめなければならない。武士はそう決心したからだ。
「ほら、急ぐぞ!!」
「・・・・ああ!!」
二人は晶の亡骸を丁寧に横たえると、再び麻理夜捜索に乗り出した・・・
【残り・・・12名】