BATTLE ROYALE
死線の先の終末(DEAD END FINALE


48:那節健吾

 那節 健吾(男子11番)浪瀬 真央(女子20番)が交戦する少し前・・・、遠山 慶司(男子10番)本条 龍彦(男子20番)は診療所南の森に入っていた。
 本当は診療所付近で待機しているつもりだったのだが、診療所に誰か来た跡があるのを龍彦が発見したため、付近の捜索に乗り出したのが理由だ。

「この草を掻き分けた跡・・・、間違いない、人が通った跡だ。」
 龍彦はわずかに踏みつけられた草を頼りに診療所に立ち寄ったであろう人物を追っていた。
「しかし・・・、よくわかるな。こんな跡でさ」
 慶司の言うとおり、常人なら簡単に見落としてしまうほどの跡だったのだ。
「注意深く観察することこそ、戦場で生き抜く術になる。いつ狙撃されるかわからないからな。しかし・・・」
 龍彦は空を見上げて押し黙った。
「どうしたんだ? 急に」
「いや・・・、もう少しで昼になる。5回目の放送が流れるだろう。そろそろだな・・・・」

 慶司はピンときた。龍彦の言う「脱出計画」に関することかもしれない・・・、そう思ったのだ。
 そんな時、遠くから銃声が聞こえた。
「なんだ・・・!」
「・・・! この音は・・・サブマシンガン! しかも一つじゃないな・・・」
 冷静だが語気を強める龍彦
「行くぞ!」
 慶司はもう勢いで走ろうとする。それを手を掴んで止める龍彦
「待て、遠山!! 誰かもわからないのに突っ込む気か!? そんな無謀な真似をしていると・・・」
 必死に諭そうとする龍彦の腕を慶司は強い力で振り解く。
「もうイヤなんだ! 命を奪うのも! 奪われるのも!! 俺は誰であろうと止めてみせるぜ!! 反対するならここでお別れだ!!」
 そういって猛烈な勢いで走り始める慶司
「フゥ・・・、やれやれだぜ・・・・」
 そういいながらも龍彦慶司の後をついて走り始めた。

 二人がその場に着くまでに銃撃音と爆発音が木霊したが、急にやんだ。二人はその場に必死に急行した。
「終わったのか・・・?」
 龍彦がそう呟く。だが遠くから人影が複数見えた。
 しかも一人は相手を撃とうとしている・・・
「な・・・!」
 慶司は急いでそこに駆けつけようとした。

 ドォォン!!!!
 しかし後ろから轟音が響き渡る。龍彦がベネリショットガンの引き金を引いたのだ。
本条!? なにを・・」
「威嚇と陽動だ。叫べ、遠山!!」
 龍彦の指示通り慶司は叫び始めた。

「もう闘いはやめろぉ!!!!」

 その一撃で銃を向けていた方はこちらを向いたようだ。しかし、蹲っている相手側が今度は発砲した。
 バババババババ!!! 
「くそ! なんで殺しあうんだよぉぉぉぉ!!」
 思わず上空に向かって龍彦から渡されたコルトパイソンを撃っていた。
 バァン!!!
 この音を聞いた銃を構えた相手は、木に隠れていたがそのまま逃げ出していった。

 そしてだんだん近づくに従って視界が明らかになっていく。
「いやぁぁあぁ! 那節君那節君!! しっかりしてよぉ!!!」 
という聞き覚えのある女の子の声が聞こえてくる。
 現場についた二人が目の前にしたもの・・・・、背中に複数の穴が開いている自分の親友・那節 健吾(男子11番)と、その健吾に寄り添うように泣き叫んでいる自分の親友の彼女の友達、自分の女友達でもあった黛 風花(女子17番)であった。
 慶司は一瞬、時が止まった感覚に襲われたが、すぐ健吾のそばに寄った。
健吾ぉぉぉぉぉ!!!!」
 そして風花のそばに横たわっている健吾を抱きかかえる慶司
・・・けいじ・・・か・・?」
「ああ!! そうだよ! 慶司だよ、健吾!! しっかりしろよ!!」
 必死に呼びかける慶司だが、徐々に健吾から生気が失われていく。

黛さん! 一体何があったんだ!」
 泣きじゃくる風花に問いかける。
那節君・・・ヒクッ・・・私を・・・・庇って・・・ヒクッ・・・・こんな大怪我を・・・」
黛さん・・・・自分を・・・責めないで・・・・俺が勝手に・・・・カハァ!」
 自分を責める風花に優しく語りかける健吾。だが吐血によりそんな言葉も遮られた。
本条! 診てくれよ! 健吾が・・・健吾が!!」
 慶司は切実な願いを龍彦にぶつける。だが誰の目にも健吾が助からないことは目に見えていた。龍彦は目を瞑り、首を横に振った。

けいじぃ・・・・」
 弱々しい声で慶司に語りかける健吾
「なんだ?」
まゆずみさんのこと・・・・たのむ・・・よ・・・」

 何言ってるんだよ、健吾? まるでこれからお別れみたいじゃないか・・・
 嫌だよ・・・嫌だよ!! 
 なんで俺たちがこんな目に会わなくちゃならないんだ?
 健吾が何かしたか? 
 俺が何かしたか!? 
 みんなが何かしたのかよ!!? 

健吾ォ!! 何言ってるんだよ!! お前、黛さん守るんじゃなかったのかよ? 死ぬほど好きだって言ってたじゃないかよ!! お前が先に死んでどうするんだよ!!」
 この言葉を聞いた風花はさらに強い衝撃を受けた。

 え・・・・? 那節君が・・・私を・・・? 
 那節君が好きな人って・・・私・・・だったの? 
 それじゃ私を庇ってくれたのは・・・

 自分の無神経さを呪った風花健吾に近寄った。さらに涙が溢れ出していた。
「ごめんなさい、那節君!! 私・・・あなたの気持ちもしらずに・・・・あんなこと・・・! 私・・・・わたし!!」

 あ〜ぁ、慶司の奴、余計な真似を・・・ 俺の気持ちは墓場に持っていくつもりだったのに・・・・な。黛さん・・・泣かせちゃって。
 でも、慶司・・・お前しかいないんだ。黛さんを幸せにできるのは! 

 悲しむ風花に痛みを堪えて優しく微笑む健吾
まゆずみさん・・・・泣かないで・・・、俺のことは・・・きにしない・・・で・・・」
 しっかりと目を見開いた風花を見つめながら健吾は続けた。
まゆずみさん・・・・幸せになって・・・・、それが俺の・・・しあわせだから・・・・さ・・・」
 最後まで笑い続けている健吾、それはこれから死を迎えようとする人間が浮かべる表情ではなかった。そして慶司の顔を見つめた。
けいじ・・・・生きろ・・・・、まゆずみさんを・・・泣かせたら・・・・承知しないからな・・・」
 慶司にも最高の笑顔を向けている健吾。そしてふいに力が抜けていくのがわかった。
健吾!!
那節君!!
 二人とも悲痛な表情で健吾の顔を覗く。健吾は最後の言葉を紡いだ。
「おれは・・・・しあわせ・・・もの・・・だよ・・・」

 そうだな・・・・幸せ者だよ・・・ 最後の瞬間、自分の親友と自分の最愛の人に看取られるなんてそうそうできないよな・・! 武士にも会いたかったけど・・・
 それに・・・父さん母さん・・・・・ごめんな、帰ることができなくて。でも悔いはなぜかないんだ・・・ 俺、精一杯生きたよ! 
 武士慶司! 俺の分まで生きろよ!! そして黛さん・・・、絶対に幸せになってくれよな!! 

 そして那節 健吾は逝った。最後の最後まで友と愛する人の身を案じ続けた男の表情は優しい微笑みを留めたままだった・・・
男子11番那節 健吾 死亡】

健吾・・・?」
 とても死んでいるようには見えなかった。だって笑っているんだぜ? このまま起き上がって「冗談だよ!」て言ってもおかしくないんだぜ? 

 だが健吾は生命活動を完全に停止していた。
健吾!! 健吾!! 健吾ォォォォォォ!!!」
「イヤアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!!」
 慶司風花はひたすら泣き続けた。それほど那節 健吾という男の存在は二人にとって大きかった。
 慶司はまた人を守れなかったことを悔いた。風花はまた大切な人がいなくなってしまうことに絶望した。
 そして数分間、彼らは健吾の亡骸にしがみついたままだった。
 いくら悲しんでも悲しんでも涙がこみ上げてくる。一向に動く気力が起きなかった。

 そんな二人に喝を入れたのが龍彦だった。
遠山、そろそろ行くぞ。さっきの奴が来ないとも限らない。ここを離れるぞ」
 冷静な判断をする龍彦だったが、慶司はあえて問いかけた。
「離れる・・・・? じゃぁ健吾はどうするんだよ・・・? こんな風に笑っている健吾は・・・?」
 慶司は狂いかけていたのかもしれない。本条は少し怒気を含み言い放った。
「いい加減にしろ、遠山!! そいつはもう死んでいるんだ! 本当に敵が来るかもしれないんだ! 一刻も早くここを離れるんだ!!」
 この言葉に慶司はキレた。
「死んでいるからって健吾をここに放置するのかよ!? こんな優しい奴だったのに・・・、一人っきりにして放っておくのかよ!! それでもお前・・・人間なのかよ!!」
 だが言うが速いか、龍彦慶司の胸倉を掴んで言った。
「お前はこいつの遺言を聞いていなかったのか? こいつはお前に『生きろ』といったんだぞ? 決して『そばにいて欲しい』とか『そばに来て欲しい』とか言ってないはずだぞ!! お前のやっていることこそ、こいつの魂に対する冒涜だ!!!」
 怒りが満ち溢れていた慶司の体が一瞬で冷え切った。そして今度は静かに語りかけた。
「お前がそんなのでどうするんだ・・・ お前は彼女を託されたんじゃないのか? 遠山、お前が彼女を守らないでどうするんだ・・・?」

 慶司はその瞬間、健吾の声が聞こえたような気がした。
黛さんを頼むよ、慶司!』
 そして龍彦の肩を掴んだ。そしてありったけの嗚咽をはき始めた。
「う、うぁ・・・・うわあああああああああああああ!!!!」


 それから3人は健吾が眠る場所から離れた場所にいた。その途中、5回目の放送があり当然、健吾の名前も呼ばれた。そして今は無言のままで3人とも一緒にいる。
 風花は最後まで健吾の亡骸にしがみついたままだった。そして今も呆然としている・・・
 無理もないよな・・・・友達に続いて、自分と一緒にいてくれた人まで・・・・
 慶司風花を気遣ってか、話しかけることができなかった。

 しかし、意外にもその沈黙の場を破ったのは風花だった。
遠山君・・・私ね・・・・あなたのことが好きなの・・・・」
 え・・・ええ!?
 突然の愛の告白にわけがわからなかった慶司は困惑して風花を見つめた。
 黛さんが・・・俺を!? 
 この発言には龍彦も驚いたようで風花の方を驚愕の表情を浮かべて見ている。
「そのことをね、那節君にも言ったの。そしたら那節君ね、『一緒に慶司を探そう』って言ってくれたの。その後も優しくしてくれた・・・・。まるで死んだお兄ちゃんのようだったの・・・」

 この言葉で慶司健吾の遺言のすべてを悟った。健吾風花を幸せにしてくれという願いを自分に託したのだ。あいつはそういう奴だよな・・・・
「でもね・・・わたしぃ・・・・・・ 那節君の気持ちに・・・・一つも気づいてあげられなかった・・・・ 酷い女だよね・・・、自分のことばっかり考えて・・・、死んだお兄ちゃんの代わりみたいに見ていて・・・、那節君が傷ついてるの・・・・気づいてあげられなかった・・・」
 再び泣いている風花。おそらく彼女は押しつぶされそうになっているんだ。自分自身を責め続けているんだ・・・
「最低な女だよ・・・・私。那節君・・・・きっとあの世で私を恨んでいるよね・・・・」
「それは絶対にないよ」
 風花の泣き言を慶司はきっぱり否定した。
健吾はそんな奴じゃないよ。あいつは優しい奴だよ・・・優しすぎるんだよ。失恋しても、相手の幸せを願う奴だよ。だから・・・」
 慶司風花の肩に手を置いた。
黛さん、自分を責めないで。だってそれが健吾が一番悲しむことだから。健吾は俺に言ったよ、『黛さんを頼む』って。だから俺は黛さんを全力で守るよ。全員で生き残るんだ! それが健吾に立てた俺の『誓い』だから・・・」
 そういった慶司の瞳には力強い光が宿っていた。
 そしてその言葉はくしくも公民館前で健吾が落ち込んでいる自分に言った言葉そっくりだったのだ。風花慶司の姿に、今は亡き健吾の姿を垣間見たのだ。
 そしてそのまま風花慶司の胸に頭を預けた。そして風花はそのまましばらく泣き続けた・・・・

「・・・・落ち着いた?」
 胸を貸していた慶司は泣きつかれた風花に問いかける。
「うん・・・・、少し・・・」
「大丈夫だよ・・・・、絶対に守ってみせるから・・・」
「あ・・・、うん・・・・・・」
 そんな慶司が非常に頼もしく見えた。
 風花は言い知れぬ幸福感に包まれていた。さきほどまで大切な人を失い、悲しんでいた男女。そんな中で幸福にひたるなんて、もっての他だけど・・・、いつまでも悲しむわけにもいかない。
だって、それが那節君を悲しませることになるんだもん・・・・

「・・・・あ〜、お二人さん。盛り上がってる所、申し訳ないんだが・・・」
 抱き合っている状態の二人は声のした方向を見る。
「俺がいること・・・忘れてるだろ・・・?」
 龍彦がその場にいることを二人は思い出し、一部始終をずっと見られていたことを感じた時、二人の顔はみるみる真っ赤になり、とっさに二人とも離れた。
本条!!」
「あの、その、あの・・・・」
「まったく・・・、イチャつくのは後にしてくれ・・・」
 呆れた表情をしている龍彦。あたふたと慌てまくる慶司風花。ようやく重苦しい空気から開放された3人の表情は曇りが晴れた顔をしていた。

 お互いの情報交換と自己紹介が終わった後、3人はこれからの進路を話し合っていた。
「すまないがこれからしばらくは南には行けない」
 そう龍彦が話しかけていた。
「南にいけないって・・・どういうことだよ」
 当然の質問を慶司龍彦にぶつけた。
「例の計画が始まるからだ。開始までおそらく半日もない・・・ それまでは診療所付近で人を待つ形になる。すまないが、そういうことで了承してくれ」
 龍彦がそう言って頭を下げる。慶司風花にしても御手洗 武士(男子14番)を探したかったが、脱出計画自体を頓挫させるわけにはいかない。
「わかったよ」
本条さんに従います」
 二つ返事で了承した二人。
「よし、それじゃ診療所に向かおう。慶司黛さんはお前が守れよ。あ、そうそう、ほら!」
 そう言って龍彦がこちらに何かを投げてきた。見るとそれは銃だった。
「Vz61スコーピオン、那節の形見だ。それでしっかり守れ。コルトパイソンは俺が持つ。」
 武器の交換を的確に行う龍彦
 それを尻目に天国にいるであろう健吾に心で誓っていた。
 健吾・・・、見守っていてくれ。お前が守り通した黛さんは俺が必ず守ってやるからな!
 一人の大切な人を失った悲しみを胸に3人は歩きだした。それぞれがその男から何かを学び、何かを亡き男に誓ったのである・・・

【残り・・・11名】
                           
                           


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