BATTLE ROYALE
死線の先の終末(DEAD END FINALE


49:地獄に挿し込む光

 こちらはさきほど那節 健吾(男子11番)と死闘を繰り広げた浪瀬 真央(女子20番)。途中偶然見つけた泉で傷口の洗浄を行っていた。
「フンフンフ〜〜〜ン♪ フフフフ〜ン♪ キャハハハ♪」
 普通なら傷口に染みるはずだが、生まれてこの方痛覚というものを味わったことのない真央にとっては何のためらいもない作業であった。
「さってと〜、ではさっそくやりますか♪」

 そう言って自分の手を傷口に突っ込む。
 グチ!! グチャ!!
 肉の嫌な音がする中、真央は鼻歌混じりでそのようなことを平然とやっていた。
「あ、あったあった! そ〜れぃ!!」
 自分の体の中で何かを発見すると、それを引き抜いた。それは真央の体を貫いた健吾のスコーピオンの弾丸だった。
「ふぅ〜、それじゃあ消毒、消毒♪」
 弾を抜いたことを確認すると、自分の私物である消毒液をたっぷり傷口に塗った。その後、包帯などで応急処置を手際よくした。
「こ〜ゆうことはママにたっぷり習ったからねぇ〜♪ 役に立つものだね、ホント♪」
 無痛覚症という特異な症状を持つ真央にとって、傷を傷として認識できないゆえに、処置が遅れれば手遅れになる場合もある。
 そういった危険性から真央の母親は普段から真央に応急処置の方法などを常に教えていた。さらに緊急の応急セットの携帯も義務づけていた。そういった知識から自分の体内に弾丸があったままだと命にかかわることだということも認識していた。
 そしてバックからカプセル式の錠剤と取り出す。
「ふ〜、それじゃこの錠剤を飲んでっと・・・・」
 それは熱を抑える薬であった。錠剤を一飲みするとだいぶ落ち着いてきた。

 しかしさきほど自分のUZIで貫いた健吾の姿を思い浮かべると、体の芯が熱くなる感覚がした。
「あの人、死んだかなぁ〜。あぁ…死ぬ瞬間が見れないってのも、何かヤキモキするな〜、キャハ♪」
 そんな妄想に興奮していると、ガガッとスピーカーの電源が入る音が聞こえる。どうやら定時放送のようだ。

「おう! 頑張ってるな〜、愛しい我が生徒たちよ! 2日目の昼ってことでそろそろ慣れてきただろぉ! 最後まで気を抜くなよ! それではおなじみになった死亡報告と禁止エリアを発表するぞ! 死亡者・男子から行くぞ。男子9番橘 由紀夫男子11番那節 健吾男子15番陸奥 海、以上だ! 次は女子だ。女子18番三国 晶、一人だ! 最後に禁止エリアの発表だ! 1時間後にA−1、2時間後にD−7、4時間後にH−4、5時間後にF−2だ。おまえら〜、ついに4分の一まで絞られた! 栄光の勝利まで後もう少しだ! しっかり頑張って生き残れよ! では健闘を祈る!」
 ブチッと放送が切れる。真央はその放送を聞いた後、不快感をあらわにした。
「なぁに〜、もう10人しかいないのぉ〜! これじゃ楽しみが減っちゃうよ〜!」
 しかし根っからの楽天的思考から再び顔が笑顔に戻る。
「ま、いいか♪ まだ10人もいると考えれば。まだまだ快感が味わえるのよねぇ・・・・、キャハハハハ♪」

 真央はひたすら快楽を求めていた。真央を表現する時、「快楽殺人者」という表現は適切であるが完全に当たっている表現ではない。
「殺人中毒者」・・・麻薬中毒者のような存在で、殺人こそ唯一の快楽だった真央は殺人を犯さずにはいられない体になっていた。


 真央は生まれた頃から、非常に特異な障害を持っていた。
「痛覚神経機能不全症候群」・・・大東亜でも非常に稀な病気で通称「無痛覚症」として認定されている病気だ。一切の痛みを感じない病気なのだ。
 その無痛覚症と合併して起きたのが、「欲求の欠如」であった。要は痛みを感じず、快感も感じることのない真央にとって、欲望が沸き起こらないのは当然の結果といえた。

 何も欲さず、何事にも従順に従う。自分の意志を持たず、ただひたすら物事をやる。だが真央は達成感や爽快感を一切味わうことはなかった。 傍目から見ると「生きた屍」のような存在・・・それが浪瀬 真央であった。
「何が楽しいのかな?」
「何が苦しいのかな?」
「何が痛いのかな?」
「何が悲しいのかな?」
 母親が泣く姿、友達が笑う姿、父親が自分を見て苦しんでいる姿、弟が怪我した時苦しむ姿、何もかもが真央にとって不可解な世界であった。

 しかし、この病気の本当に恐ろしいところは別にある。痛みを感じないということは怪我を放っておくことである。こんなことをしていればいずれ確実に死ぬ。
 そういったことから、無痛覚症の人の死ぬ原因の8割がこういった事故である。
 だが真央の「欲求の欠如」という合併症は、動物の本能にもかかわった。性欲はもちろん、食欲、睡眠欲というものも全く感じない存在なのだ。つまり自分から寝たい、食べたいと思うことはない。つまり放って置けば、真央は寝ないで体を壊すし、食べないで餓死する。
 言うなれば重度の身体障害者であった。そんな真央の親は懸命に真央を一人前にしようと努力した。
 欲求が起こらなくても、必ず睡眠、食事をとることを義務付けた。かならず救急の医療道具を持ち歩くことや、簡単な応急処置の方法も教えた。さらに社会に適合させようと陸上をやるように勧めた。

 それらを真央は何の疑問も持たずやり続けていた。
 だって何の欲望も感じないお人形なのだから・・・ そう自分に言い聞かせながら。
 しかし、真央の親や真央自身でさえ気づいていないことがあった。医者ですらそんなことは微塵にも感じていなかっただろう。
 真央の中で徐々に蝕んでいくストレスに・・・ 一切の痛覚を感じない真央であったがゆえ、体に溜まっていくストレスを脳が感じることはなかったのである。
 そして積もりに積もったストレスが真央の知らない所でとてつもない「闇」を形成していた。ストレスの解消を体が求めた時、真央のある感覚を覚醒させようとしていた。
 人間の負の感情・・・・・「破壊衝動」である。

 そしてそれを完全に覚醒させるきっかけとなったのは、1年前に母親と一緒に見ていた映画であった。ある快楽殺人鬼をテーマしたホラー映画であった。その映画の殺人鬼は嬉々と人を殺している。
 真央が初めて「殺人」という行為に興味を持った瞬間であった。それは体が欲している「破壊衝動」と結合した結果であったのだが。

 あれって楽しいのかな・・・
 ドクン・・・
 私もあんなことをやったら楽しくなのかな・・・
 ドクン・・・ドクン・・・
 試してみよう・・・
 ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・

 急に胸が高鳴りだした。それを従来なら「興奮」というのだが真央にとってはそれを感じるのは初めてであった。すぐさま真央は台所から包丁を手に取っていた。
 そしてそのままリビングに行って、母親の胸を刺した! 
 グサ! 
 その時、真央の中で何かが弾けた。もう一刺ししてみる。
 フワァ! 
 今度は頭の中で何かが漂った。
 初めて感じる感覚に真央は夢中になった。そして何度も何度も母親の体を刺し続けた。そのたび、真央は言い知れぬ興奮と快感を感じていた。

 そして母親の心臓に包丁を刺した瞬間、母親の体が力尽きた。
 その瞬間、真央は初めて絶頂というものを感じた。言い知れぬ開放感、達成感、爽快感、そして・・・・快感。
 これまで真央が一切感じることができなかった感覚が一気に真央の中を駆け巡った。別に自分がやりたいことでもないことを押し付ける他人がうっとおしかったのかもしれない。
 あらゆるストレスをため続けた真央は初めてストレスを解消したのである。
「ハァァァァ・・・・・、これが・・・快感って奴・・・なの?」
 生まれて初めて感じる感覚に真央は非常に満足していた。
「・・・・もっと感じたい・・・感じたい!」
 そしてそれらを、もっともっと貪りたいという衝動が起きた。
「これが・・・欲望ってやつぅ・・・、真央は・・・感じることのできなかった・・・もの・・・・・」
 そしてそれらを感じることができなかった真央にとって、初めての快楽は真央の心を鷲づかみにした。そして愉快になっていった。唯一自分が欲するものを見つけた愉悦感に対して。
「ハ、ハハ・・・・キャハハハハハ! いい、いいよ! もっともっともっと感じたい!! もっともっともっともっと殺したいよ、キャハハハハハ♪」

 そして、その包丁を持ったまま自宅2階にいる弟をこれまた惨殺し、帰ってきた父親も殺した。そのたび真央は快感を感じ、もうその事以外、何も考えられなくなった。
 こうして「新潟連続猟奇殺人事件」は起こった。
 最初の日に長女を除く一家3人が、2日目にはカップルが、3日目には4人家族が、4日目には独身男性が殺された。最後の独身男性に至っては、生きている状態で体をバラバラにするという見るも無残な方法で殺されていた。
 しかし、最初に殺された長女が行方不明ということで警察が捜索していたので、ほどなく真央は発見され、血痕が付着していることからその場で現行犯逮捕された。
 この凄惨な事件を起こしたのがわずか14歳の未成年の少女ということで連日、世間を賑わせた。そして当の真央の処分はというと、10人という人を殺害したにもかかわらず、精神異常が認められたことと、少年法の存在から、少年少女鑑別所での精神治療と療養が言い渡された。
 しかしそのような療養も真央の破壊衝動と言う名の「闇」にストレスという「餌」と与えることを意味していた。
 一度知ってしまった快楽を人間が忘れるわけもない。ましてや真央にとって初めて快楽を味わったわけである。唯一の快楽・・・、そんなことを忘れろと言うほうが無理であった。

 そして、真央が中学3年になった時、ある軍隊関係者が真央に面会を求めてきた。そしてその男は真央にあるチラシを渡した。
 それは「プログラム志願者求む!」と書かれたチラシであった。政府がここ数年、プログラムを円滑に進める目的で導入した「志願者応募システム」に関してだ。
 そしてその軍隊関係者の話を聞いてみると、そこでは真央が望む殺人が何の制限もなく、そしてそれが許される空間だと知った。
 真央は狂喜乱舞した。そのような夢の世界があることを。

 真央は即座に応募した。
 しかしプログラム運営委員会もすぐには許可しなかった。犯罪者を参加させてもいいものかという倫理的な協議が行われたからだ。
 しかし結局は軍上層部と、トトカルチョを盛り上げるためという政府高官からの圧力により、このプログラムへの真央の参加が決まった。
 そして真央は嬉々としてこのプログラムに乗り込んできたのだ。

「ウフフフフ・・・、まぁ今回はこれでいいかもねぇ♪ ま〜だぁ中学3年生が終わるまでは資格があるわけだしぃ〜、キャハハ♪」
 真央は今回、優勝することができたのなら、再び志願者として応募する気だった。すぐには了承されないだろうが、いずれ参加の許可がおりるだろう。
 真央にプログラム参加を勧めてきた軍隊関係者は、かなり政界にコネクションを持つ人物で、圧力をかけてくれるからだ。
 真央は自分に快感をもたらしてくれるこのプログラムに感謝していた。そしてこのような天国に居続けるためなら何でもすると思っていた。

 しかし焦りは禁物だ。
 疲れというものに鈍感な真央は自分の体調に人一倍気を使っていた。
「そういえばプログラム開始から寝てないなぁ〜。しかたないね〜、寝ようか、キャハ♪」
 そして魔女は少々の休憩ととることにした。しかるべき後に快感を得るため、獲物を狩る体力を蓄えるために・・・

【残り・・・11名】
                           
                           


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