BATTLE
ROYALE
〜 死線の先の終末(DEAD END FINALE) 〜
50:探し当てた探索者
5回目の放送により、ここにも深い絶望を味わわされた男がいた。御手洗 武士(男子14番)である。
「う・・・ウソだろ・・・?」
自分の親友である那節 健吾(男子11番)が死んだのが信じられない武士。
運動神経なら学校一と呼ばれる健吾、その健吾が死んだ・・・ 何よりまた大切なものを失ったことは武士に深いダメージを与えていた。
「御手洗君・・・・・・」
一緒に行動している張本 佑輔(男子13番)はかける言葉が見つからなかった。
自分の大切な人である小船 麻理夜(女子8番)がまだ呼ばれなかったことには安堵したが、武士が心配だった。恋人・美津 亜希子(女子19番)に続き、親友の健吾まで失うという、人生でも1度経験するだろうかという衝撃を二度も受けたのだ。
心中は恐ろしいほどの悲しみが満ち溢れているだろう。
「くそ・・・畜生・・・・」
そう切り出した武士の頬には涙が溢れ出していた。
「ちくしょおおおおおおぉぉぉぉぉおお!!!」
佑輔にはそれが魂の慟哭か、亡き友への哀愁なのかわからなかった。
だが武士の想いはしっかりとわかった。その悲しみがいつ自分の下に降りかかるかもしれないという恐ろしさも・・・
しばらくうずくまって動くことすらできなかった武士だが、それに一言もかけず自分を労わってくれている佑輔の姿を見ると瞳に生気が戻った。
「すまない、張本・・・・ 迷惑かけたな・・・・」
そう言われた佑輔は表情を変えなかったが、微かに笑ったように見えた。
「いいよ、ボクにも君の気持ちはわかるから・・・ それより先を急ぎたい、行ける?」
武士は強い光を瞳に宿しながら、言い放った。
「ああ・・・! これ以上犠牲者を出してたまるかよ! 小船さんを探そう・・・!」
その言葉に佑輔も力強く頷いた。
そして二人は灼熱の森のなかをひたすら歩き回っているわけである。だが一向に見つかる気配すらなかった。
佑輔は不安でしかたなかった。そもそも麻理夜がこの時点で生きていることが不思議でならなかった。
残っているメンバーはボクたちを除くと、転校生3人、遠山君、李君、鵜飼君、黛さん、真中さん、そして小船さん。残っているクラスの女子はどの人も身長も低く、運動神経もさほどない人たちばかりだ。
しかし残っているところを見ると・・・、男子に守ってもらっているか・・・、この殺し合いに乗っているかだ。小船さんが乗るはずもない、だがもし乗っている人に無用心に近づいていったら・・・・
それが佑輔にとって気がかりだった。麻理夜は人見知りをしないタイプであったため、逆にそれが佑輔の不安の種になっていったのである。
くそ・・・・、どこにいるんだ・・・小船さん・・・!
焦りと思える感情が徐々に佑輔を蝕んでいった。
大切なものを失ってまで生きていけるほど佑輔は強くなかった。
そういった意味で佑輔にとって武士はすさまじい精神力の持ち主だと思った。尊敬できる・・・と思える部分もあったが、逆に恐ろしくも感じた。
御手洗君の両足を支えているのはもはや鵜飼君や政府への復讐・・・憎しみの感情だけだ。彼はそのためなら命すら悪魔に差し出すだろう。
逆に言えば、危ういとも感じた。死んだ美津さんや那節君はそんなことを願っているだろうか・・・・
だがそこで思考を止めた。自分が感じていることは所詮何も失っていない者の論理だと感じたからだ。自分がもし麻理夜を失ったとき、どんな心理状態になるかは容易に想像できた。
だがそんなことにはならない! 必ず・・・・必ず、見つけてみせる!
そう堅く決意した矢先のことだった。
「ん・・・・?」
そういって声を上げたのは武士だった。
「どうしたの?」
武士の声に佑輔も反応する。
「いや・・・、何か声が聞こえた気がしたんだが・・・気のせいか?」
そう言われて佑輔も耳を済ませてみる。
「・・・・・・・・・ぅ・・・・・・」
確かに声が聞こえる・・・・人の声だ!
「こっちだ。行ってみよう!」
そういうが早いか、佑輔と武士はその場に直行した。そしてその場で見たものは・・・・
「うぅ・・・・・・」
「小船さん!!!」
驚きの声を上げる佑輔。そこには胸の方を抑えて苦しんでいる小船 麻理夜の姿があったからだ。おそらく持病の心臓病がでたのであろう、苦悶の表情を浮かべ、汗がにじみ出ている。
「張本・・!」
「御手洗君、ボクのバックから薬を出してくれ!」
麻理夜の体を持ち上げて、そう告げる佑輔。
「早く!!!」
そう言われて佑輔のバックを探し出した。するとなにやら白いケースがあるのを見つけて取り出した。
「それだ! こっちに貸してくれ!」
そう言った佑輔の片手にはすでに麻理夜のものと思われるペットボトルが握られていた。すぐさまそのケースを渡す武士。
「小船さん、聞こえる? この薬を飲んで・・・」
わずかに開いた口から、ケースから取り出したカプセルと水を麻理夜に飲ませる。
そしてしばらく優しく抱きかかえている佑輔。
武士はその姿を見て、亜希子との最後の別れを思い出した。
腕の中で徐々に命の灯が消えていく亜希子。
それを認めたくない自分。最後に愛を確かめ合った自分たち。
俺は・・・何がしたいのだろうか? 復讐? 復讐を成して俺は亜希子に笑って会えるだろうか・・・?
だが内なる黒い炎はそんな疑問を包み込み、焼失させた。
理屈ではないんだ、死者のためだとかそういうことではない。ただ、憎いんだ。自分から幸せを奪った・・・鵜飼 守(男子3番)が!
2人とも、麻理夜が起きるまで一言も声を発さなかった。佑輔は麻理夜の身を案じて、武士は再燃しかけた復讐心からと、理由はそれぞれ違ったが。
その沈黙を破ったのは武士の方だった。
「・・・なぁ、張本」
自分の腕の中で眠る麻理夜から目をはずし、武士の方を向く佑輔。
「なんだい?」
「お前がどうして・・・、小船の薬を持っているんだ?」
さきほど感じた小さな疑問に対して、佑輔は静かに答えた。
「小船さんの病気はいつ起こるかわからないからね・・・ 主治医から特別に貰っているんだ。緊急用の薬をね」
麻理夜が通っている病院の院長の息子ならそれも可能だと、武士は思った。それより武士は麻理夜を抱きかかえる佑輔が少し羨ましく感じた。
両者無事で会えたことに関して・・・
「う・・・・・ん・・・」
そんなことを考えていると眠っていた麻理夜が目を覚ましたのだ。
「小船さん! 大丈夫かい?」
心配そうにしながら、優しい笑みを投げかける佑輔。
「・・・・張本くん・・・?」
信じられないような表情で佑輔の顔を見つめる麻理夜。
「ああ、そうだよ。体は・・・」
佑輔が言葉を言い切る前に、麻理夜は佑輔に抱きついていた。
「よかった・・・、よかった・・・、張本君が無事で・・・・ 生きて・・・もう一度会えて・・・・よかったよぅ・・・・」
今まで一人での孤独といつ爆発するかわからない病気と闘っていたのだろう。それから一気に解放された麻理夜の目からは涙が溢れていた。そして佑輔はそっと麻理夜の体を抱きしめる。
「ボクも・・・、小船さんが無事で・・・・本当によかったと思っている。本当に・・・・」
優しい空間が二人を包み込む。武士はこの時直感した。この二人・・・、両思いなんだなと・・・
「張本、よかったな」
そういって笑いかける。するとその声のした方向を見た麻理夜はみるみる顔が赤くなっていって、とっさに佑輔から離れる。
「み、御手洗君!」
顔を真っ赤にして自分を呼びかける麻理夜。
「ああ、御手洗君。一緒に探してくれたことを感謝するよ。ありがとう」
別になんてことないように話しかける佑輔。
その後、麻理夜と佑輔、武士は今までの行動の経緯を話し合っていた。
「そうか・・・・、出発してからずっとここに・・・」
佑輔がつぶやく。
スタートしてから死の恐怖に頭が混乱していた麻理夜は、体が弱いことなど気に留めず、森の中を走っていったらしい。そして昨日、今日とずっとこの場所で過ごしていたらしい。周りはブッシュで囲まれており、確かに発見しづらい。
そしてさきほど持病の心臓病が再発し始めたが、終業式のあとに病院に行く予定だったので薬がちょうど切れていたのだ。それで苦しんでいるところを佑輔たちに発見されたわけである。
「うん・・・ あとで考えたらね・・・、なんで張本君や墨田さんを待っていなかったんだろうって思っちゃって・・・ 墨田さんが死んだって放送を聴いたとき、すごく後悔して・・・」
「小船さん、自分を責めないで。誰でも死の恐怖はある。それはしかたのないことなんだ」
自己嫌悪気味の麻理夜の言葉を遮る佑輔。
「だから張本君に会えた時ね・・・すごく嬉しかったんだ・・・ 本当に・・・・」
そう言って佑輔に笑いかける麻理夜。すると意を決したように話し始める佑輔。
「ボクも・・・小船さんに会えてよかった。伝えたいことがあったから」
「え?」
おいおい、まさか・・・・
武士は内心、佑輔に突っ込んでいた。そして予想通りの言葉が佑輔の口から吐き出された。
「小船さんのこと、好きだってこと。もちろん、友達としてではなく、一人の男として小船さんが好きなんだ。これをどうしても伝えたかったんだ」
一瞬、時が止まる。麻理夜も呆然としている。
「え? え? あ・・・・あの・・・・」
佑輔の突然の告白にみるみる頬が赤くなっていく麻理夜。武士がそばにいることもあってか、麻理夜はかなり戸惑っていた。
「おいおい、俺がいないところでやれよ・・・、そういうことは」
「別に、隠れて告げるほどやましいことじゃないし。恥ずかしいことじゃないしね」
いや・・・、普通恥ずかしがれよ。お前はともかく、小船はすごく恥ずかしいと思うが・・・
告白した方が堂々としていて、告白された側があたふたしている・・・ その場をおもしろいと思いながらも、一本ネジが飛んでいる佑輔に告白された麻理夜をちょっと哀れと思った武士であった。
「あ・・・あの・・・・」
「小船さんは・・・、ボクのことをどう思っている?」
真っ赤な顔をしてあたふたしている麻理夜に佑輔は冷静な顔で答えを求める。
「え! え・・・・と・・・ね・・・。私・・・嬉しい・・・・よ。私・・・も・・・・張本君のこと・・・・・す、好・・・きだったから・・・・・・」
小声ながらもはっきりと自分の答えを言い切った麻理夜。
かなり野暮だな・・・俺って。
告白を聞いておきながら心中ではそう思っていた。張本はともかく小船にとっては死ぬほど恥ずかしいだろう。
少しでも張本に気を使うって精神があれば、俺にどこか行っていてくれくらい言うのになぁ。
佑輔のあまりの唐突な告白に動くに動けなくなっていた武士。
だが二人の微笑ましい姿に心が安らぐ気がした。
そして佑輔の目標が達成された以上、自分の内なる炎が再び武士を包み込み、呼びかける。
鵜飼を殺せと・・・・
「さて、二人の邪魔をしちゃいけないし、俺は行くよ」
そういうとさっきまで恥ずかしくて俯いていた麻理夜は問いかける。
「え!? 御手洗君、どこに・・・」
「探さなきゃいけない奴がいるんだ。絶対にな・・・」
静かにそして重みのある言動をする武士。
「じゃあ私たちと一緒に・・・!」
そういう麻理夜。だがそんな麻理夜を片手で制した佑輔が答える。
「鵜飼君を・・・・探すんだね?」
佑輔の言動にコクリと頷く武士。そこにはすでに覚悟の表情が目に見えた。
「ボクには・・・君を止めることができそうもないよ・・・ そんな顔をされちゃ・・・」
悲壮な表情を浮かべる佑輔に武士は言葉を紡ぐ。
「張本、慶司に会ったら言ってくれないか? お前と健吾と過ごした時間は確かに大切だった。でも・・・」
躊躇しながらも言葉を続ける。
「一番大切だったのは亜希子と過ごした時間だった。だから俺は・・・俺の道を行く。すまない・・・てな」
その遺言とも取れる言葉にも顔色を変えず佑輔は深く頷いた。
「張本! 小船を絶対に守れよ! 俺みたいになるな・・・、それがたった一つの俺からのアドバイスだ」
悲しみの運命をたどった男が放つ重みのあるアドバイス・・・、佑輔は武士という男の伝えたいことをすべて受け止めた。学校ではあまり話すことはなかったが、共に行動することによって二人の友情は確かに築かれていった。
これが今生の別れになろうとも悔いは残してはいけない。佑輔はそう思った。
「御手洗君・・・。いや、武士。後悔だけはしないでくれ。それが・・・ボクからのアドバイスだ」
そう言ったあと、手を差し伸べた。武士も手を差し伸べ握手をする。
「じゃあな、佑輔!」
「じゃあね、武士!」
握手のあと、武士は振り向いてそのまま走って森の中に消えていった・・・ それを静かに見送る佑輔と麻理夜。
「御手洗君・・・・可哀想・・・・」
復讐に走るしか道が残されていない武士は、麻理夜の目には可哀想に映ったのかもしれない。
「でも、彼は強い男だよ。だけど悲しいかもしれない。だから後悔せずに生きて欲しいんだ」
そして麻理夜の方向を向く。
「ボクも・・・後悔したくない。だから小船さん・・・、いや、麻理夜のことを命をかけて守るよ! 例え人殺しになっても・・・」
その瞬間、麻理夜は佑輔に抱きついた。
「そんなこと言わないで! ・・・私だって張本君・・・佑輔君に生きていて欲しいって思ってるのよ! 軽々しく命をかけるなんて言わないでよ・・・ それに・・・佑輔君に人を殺して欲しくないよ・・・」
佑輔はとまどいながらも麻理夜の言葉を聞いていた。
「いつか話したよね・・・ 命の尊さのことについて・・・ 人間の命は平等だって。私にとって佑輔君の命が一番大事だよ。でもそれを守るからって他の人の命を奪うなんて理由にならないよ! それに私のために佑輔君の命が失われるなんて・・・イヤなの・・・! だから・・・そんなこと・・・言わないで・・・」
自分の胸で静かに泣いている麻理夜の心に、優しい心に再びふれ、佑輔はなぜ麻理夜を好きになったのかを思い出した。
彼女の命に対する優しさ、考え方に強く惹かれていったのがきっかけだったのだ。そのうち『小船 麻理夜』という人間を好きになっていったのだ・・・
「わかった。ごめん・・・こんなことを言って」
すると麻理夜は顔を見上げて微笑んでくれた。
「ううん、いいの。私も嬉しかったから・・・、佑輔君にそう言われて・・・」
その微笑む姿を佑輔は綺麗だと思った。そして後悔だけはすまいと思った・・・ 例え少しの間しか生きていられなくても、後悔する生き方だけはしないでいよう・・・
「ところで・・・、麻理夜の武器って何だったんだい?」
すると少しハッとしたような顔になった麻理夜。
「大丈夫、人を殺したりしないよ。ただ威嚇になるような武器があると助かるんだけどね」
そういうと麻理夜の顔から曇りが消えた。少し明るくなったような表情だ。
「あ、うん! えっとね、私の武器は・・・」
そうやってバックから何か取り出して差し出す。
「これね。なんか『コルトガバメント』っていう・・・」
ドォン!!!!
その一発の銃声が南部戦線に大きく影響を与える号砲となった。
【残り・・・11名】