BATTLE
ROYALE
〜 死線の先の終末(DEAD END FINALE) 〜
51:誰がために鐘は鳴る
一発の号砲が鳴り響いた瞬間、張本 佑輔(男子13番)にとって目の前のすべてがスローモーションに見えた。
目の前にはさきほど支給武器を持ってきて見せようとしてくれた小船 麻理夜(女子8番)がいる。
自分が命をかけて守りたいと思った存在、自分に何が大切かを教えてくれたこの世で一番の存在。
それが胸に穴を開けて、赤い液体を流しながらこちらに倒れてくるではないか。
とっさに佑輔は麻理夜を抱きかかえる。
目にはすでに生気がない。首からも脈拍が感じられない。
正確に麻理夜を長年蝕んできた心臓を一撃で撃ち抜いているのだ。麻理夜は全く苦しみを与えられることなく逝っていた。
「麻理夜・・・?」
その少女は幸せだったかもしれない。今まで苦しめられてきた分、最後には幸せに包まれそのまま苦しみもなく逝ったのだから・・・
【女子8番小船 麻理夜 死亡】
「OH〜! 今度ハシッカリト命中シマシタネ!」
そうやってブッシュから悠然と出てきた人物がいた。中学生離れした巨体、金色の長髪、青と黒の魔性の瞳・・・ 命中したことを嬉しがるデビット=清水(男子19番)がそこにはいた。
右手のデザートイーグルの銃口はしっかりとこちらを向いていた。だが佑輔にとってはそんなことはどうでもよかったのかもしれない。
「カワイイ彼女サンデスネ。デモヨカッタデショ? 何ノ苦シミモナク逝ケタノダカラ」
麻理夜・・・、ごめんよ。ボクは君を守れなかったよ・・・
こんなボクを・・・君は許してくれるかい?
そんなことを思いながら麻理夜の遺体を正面にして、空ろな瞳のまぶたをそっと閉じた。「何セ心臓ヲ狙ウノハ結構難シイノデスヨ! 命中シテヨカッタデスヨ〜、HAHAHAHAHA!」
麻理夜・・・、もう一つ謝らなければならないことがあるよ・・・
どうやらボクはこいつを許すことができないらしい・・・
蒼くどす黒い炎がボクの心を燃やすんだ・・・
今なら武士の気持ちがよくわかる・・・
そうやって佑輔は一筋の涙を流した。その表情はすでに覚悟をした顔をしていた。
だから・・・、許して欲しい・・・ そして・・・・見守っていてくれ。
そして佑輔はそのまま麻理夜に口付けをした。
最初で最後のキス・・・ まだ体温がありその唇は温かったが、絶望ともいえる『死の味』が佑輔を包み込んだ。
その口付けで張本 佑輔という人物は死んだ。今、デビットの前にいるのは・・・復讐の炎に包まれた鬼であった。
「Umm、ソンナニソノ人ノコトガ好キダッタノデスネ〜。死体ニKISSヲスルナンテ〜」
そして佑輔は麻理夜が残した『コルトガバメント』を握った。ただ一つの感情が突き動かす・・・、『復讐』という闘いを始めるために。
「ソンナニ好キナラスグニ・・・!」
完全に放心状態にあった佑輔に完全に油断していたデビットだったが、その感覚がすさまじい殺気を感じると、鋭い視線を佑輔に向けた。
すでに銃口の先には佑輔の姿はなく、真横に移動して、コルトガバメントの銃口をこちらに向け、引き金に指をかけていた。
バァン!!!
デビットはそれまで体に染み込ませた戦闘経験からとっさに横に転がるように銃弾を避け、反撃の一撃を佑輔に放った。
ドォン!!!!
とても中学生とは思えない反射神経で佑輔はデビットの銃弾を避けきり、そのまま木へと逃げ込む。逃げ込む瞬間、佑輔のコルトガバメントがデビットに向けて銃弾を放つ。
バァン!!!
その銃弾はデビットの頬を掠め、一筋の傷を作っていた。その頬から血が滴り落ちる。
「ク、クックックックッ! マサカココマデノ獲物デストハネェ!」
軍人としての血がたぎるのか、それとも本能がそれに歓喜したのか、デビットはこのプログラムに来て最高の笑顔を作った。狩りがいのある獲物に出会えたハンターのように・・・
自分の頬に伝う血をそのまま舌で舐めまわし、凶暴な笑みを浮かべた狂戦士は銃撃を避けるため自身も木の影に隠れた。
「ククク! イイ高揚感ダ・・・」
そう呟くデビットとは対照的に佑輔は蒼い炎を身に納めながらも氷のように冷たい頭脳をフル回転させていた。
自分にとって相手・・・デビットとは戦闘の経験スキルが違いすぎるということはさきほどの身のこなしでわかった。素人の動きじゃない・・・、明らかに戦闘関係の能力が高い人物だ。軍隊、もしくは格闘関係のスキルを取得している可能性が高い。
ゆえに自分が相手に勝る武器・・・、自分の頭脳を信じるしかなかった。身体能力で劣る以上、判断能力、距離感、予測能力で上に行くしかない。冷徹な判断を下し、相手の出方を待った。
「相手はボクを見下しているはず・・・!」
そこに勝機があると確信していた。
そして案の定敵の方が先に動いてきた。
「ハッハッハッハ! 楽シミマショウ!!」
ドォン!!!! ドォン!!!!
重厚感あるデザートイーグルの発射音が響き渡る。狙いはかなり正確で佑輔の隠れている木にヒットし、そのたびに木が削られていく感じがした。
しかしそんな状況でも頭は冷え切り、次の行動を的確に思考し、導き出していた。
・・・・今だ!
ドォン!!!!
デビットが木に向かって撃った瞬間、佑輔はとっさに飛び出した。
気づいた時にはコルトガバメントをこちらに向けた状態で発射準備OK状態だった。佑輔はデビットの発射間隔を計り、デビットが発砲する瞬間を読み取りそして其の瞬間飛び出す作戦に出たのであった。
「OH! Great!」
ドン!!! ドン!!!
その作戦は確かに功を奏した。だが佑輔の予想を上回るデビットの銃に対する反射神経。とっさに横に手をつけて側転宙返りをしながら銃弾を避けたのである。銃弾はデビットの右足の肉をそぎ取った程度であった。
そして映画俳優顔負けのアクションの後、しゃがんだ状態で銃口はこちらに向いていた。
だが退路も計算しておいた佑輔。ずっと横に移動したまま銃を撃っていたので、すでに盾となる木がすぐそこにあった。すぐさまデビットの反撃を避けるために木に隠れる。
ドォン!!!!
削れたのはもちろん盾となった木。佑輔はまんまとデビットの反撃から逃げ切ったのである。
「アノ冷静サ、判断力、予測ノ早サ・・・。上質ノ戦士デスネェ・・・」
そう言いながらデザートイーグルのリロードを行うデビット。
だが自分が負ける気は全くしなかった。これほどの相手を目の前にしても負ける気がしない・・・ ある種の虚無感に襲われるデビット。
だがそれも一瞬だった。再び獲物を狩る昂揚感に気持ちが高ぶった獣はその獰猛な気配を押し殺し、冷静に狩る姿勢を整えた。其の顔は「狂戦士」ではなく、「冷徹な兵士」の顔であった。
ドォン!!!!
再びデザートイーグルの轟音が響き渡る。
だが佑輔はその後のある違和感を見逃さなかった。急に銃音が聞こえなくなったのだ。
弾切れ・・・!
そうでなくてもなんらかの隙ができたことには変わりなかった。
佑輔は勝負にでた。
リロードするストックもない自分からすればこの残弾数で確実に相手をしとめなければならない。そう考えるとこの隙を見逃すわけにはいかなかった。この思考をするのに1秒もかかっていなかった。
そして佑輔は飛び出した。すると案の定、デビットはデザートイーグルのマガジンを抜いたところだった。
弾切れだ!
そう思い自分のコルトガバメントを相手に向けた。しかしデビットの顔に狼狽の色は見られない。それどころかさきほどの喜悦の色は消えうせ、非常に冷めた表情をしている。
するとデビットは自分が持っているデザートイーグルを横からこちらに投げてきた!
あまりの勢いに体勢を崩しながらもそれを避ける佑輔。
視線はデビットを捉えて離していない。
デビットは横向きでこちらを向いている。
終わりだ!
自分のコルトガバメントの指に力を入れる。
バン!! バン!!
ふいに自分の腹部に鈍い激痛が走った。さきほどの銃撃は自分の銃から出たものではなかった。
じゃあどこから・・・!?
ふいに自分の目の前にいるデビットに視線を戻してみると・・・、自分の右手を後ろに回し、硝煙が漂っている銃を持つデビットの姿がそこにはあった。
そうか・・・、そういうことだったのか・・・!
だが思考をする前に自分の銃の引き金を引こうとする佑輔。だがそれをも予期していたようにデビットは一瞬で間合いを詰めて、持ち前の体格から繰り出されるリーチの長い蹴りを右手に食らわせた。
その衝撃で銃は真上に上がり、佑輔の手元から離れていった。そして佑輔は腹部の強烈な痛みからその場に蹲ってしまった。
バシ!
真上に上がったコルトガバメントを見事左手でキャッチするデビット。その右腕にはもう一つの銃、トカレフTT−33が握られていた。
つまり、デザートイーグルのリロードは頭の回転が早い佑輔をおびき寄せる罠であり、そのリロード中の銃を投げて一瞬の隙を作る。その後、体を横向きにして自分の腰の後ろに指してあったトカレフを抜き、そのままの体勢で早撃ちをして、佑輔の体に穴を開けたのである。
よほどの銃撃訓練をしない限り、こんな無茶な発砲体勢で体に当てることなど不可能だったが、デビットの『訓練』は完璧だった。
「フッフッフ、楽シカッタデスヨ。ソシテ残念デシタネ」
トカレフを佑輔に向けて余裕の表情で話すデビット。
「クッ・・・・ぅ・・・く・・・!」
「アナタトノ決定的ナ差ハ戦闘経験デス。予測可能ナ範囲ナラ対処デキタデショウガ、アナタハ予測デキナカッタ。コレガスベテデスヨ」
そう、あの体勢からの銃撃なんて佑輔は予想もできなかった。その思考と勝利への虚構が佑輔の敗因だった。
でも、もうそんなことはどうでもよかった・・・
自分はこれから死ぬことを自覚できたからだ・・・
「デモアナタ、ナカナカ優秀デシタヨ。ソレニ敬意ヲ表シテ、一言聞イテアゲマショウ。死ヌ前ニ何カシタイコトハアリマスカ?」
俺が最後にしたいこと・・・、そうだな・・・それは・・・
「麻理夜の・・・」
「ン?」
「麻理夜の・・・そばで・・・死にたい」
「・・・・・・・」
デビットは何かを考えているようだった。喜悦の色はいつのまにやら無表情に変わっていた。
そして少しの沈黙の後、
「・・・イイデショウ。タダシ抵抗スレバ即座ニ殺シマスヨ?」
そう言ってデビットは佑輔を腕から引っ張った。かなり乱暴だったが、自分を殺そうとした相手に肩をかけて運ぶわけにもいかないのだろう。
自分で歩けと言われないだけでもましか・・・と思った。
そして麻理夜が眠るその場所へとやってきた。
佑輔は目の前で蹲り、そして麻理夜の手をとって両手で握り締めた。
麻理夜・・・、君がいなかったらボクは命の大切さを一生わからないまま大人になっていっただろう。
世界が灰色に見えたまま、心が晴れないまま、大人になっていっただろう。
それを救い出してくれた君に・・・・ボクは・・・・
「最後ノ別レハスミマシタカ?」
デビットは右腕のトカレフを佑輔の側頭部に標準を合わせる。佑輔はゆっくりと目を閉じた。
ボクは・・・感謝したい・・・ あの世なんて信じていないけど・・・、君に会えるなら・・・あっても悪くないな・・・
「デハ、サヨウナラ・・・・」
その瞬間、佑輔は心から笑みを作り、こう言った。
「ありがとう・・・・、麻理夜」
バン!!
張本 佑輔は最後まで自分の愛しい人のことを考え、そして逝った。
奇しくもこのプログラム中で笑って死んでいった美津 亜希子(女子19番)や那節 健吾(男子11番)のように彼も最後は幸せに逝けたのだろうか? そう思わせるように彼の笑顔は晴れやかなものだった・・・。
【男子13番張本 佑輔 死亡】
「ナゼ敗北シテ死ヌトイウノニ満足シテ死ネルノデショウ・・・」
自分は常に勝ち続けなければならない・・・ 生きて勝利することで満足を得ることこそ無上の喜びなのだ。それなのに目の前の敵は敗北しながらも、最後は笑って死んでいった。
人間にとって死は絶対避けなければならないことだ・・・それなのにどうして・・・
「マァ・・・・、イイデショウ・・・!! ・・・・」
そして遠くから銃声らしき音が聞こえた。どうやらまだ近辺に敵がいるらしい。
「ホホゥ・・・」
少し考える表情から、再び狂戦士の顔に戻ったデビット。
死に行く者に安らぎが与えられ、生きる者には闘いの地獄が待ち構えている。その地獄を笑顔で渡り歩くデビットは幸せなのだろうか? それは本人にしかわからない・・・
【残り・・・9名】