BATTLE
ROYALE
〜 死線の先の終末(DEAD END FINALE) 〜
52:生きる意味〜死者か生者か〜
張本 佑輔(男子13番)と小船 麻理夜(女子8番)と別れて、本来の目的である鵜飼 守(男子3番)の捜索に乗り出した御手洗 武士(男子14番)。
だが2人と別れても、なお武士の中を駆け巡る迷いは晴れることはなかった。
自分の亡き恋人・美津 亜希子(女子19番)のことを思う。
亜希子は・・・果たして俺が復讐をすることを望んでいるのだろうか?
俺が人を殺すことをあいつが望むだろうか?
復讐を果たした俺は・・・、亜希子に笑って会えるだろうか?
現在、武士の心は疑念と憎悪が葛藤し続けていた。佑輔に会う以前もこのようなことはあったが、その時は圧倒的に憎悪が勝っていた。だが今はだいたい同じくらいで競っており、それが武士の迷いへと繋がっていった。
それは佑輔と麻理夜の姿を見たことにより、亜希子との思い出が武士の中ではっきりと甦ったからだ。
楽しかったあの頃・・・ 周りには慶司・健吾という親友がいて・・・、そして隣には亜希子がいる。もう戻ってこない懐かしい思い出・・・
どうしてこんなことになったのかな・・・?
だがその迷いの意識は自分の後方から聞こえるすさまじい銃声にかき消された。
な・・・!? 銃声だと!
その方角は間違いなく佑輔たちと別れた場所であった。ふいに二人が殺人鬼・鵜飼 守(男子3番)に襲われる姿がフラッシュバックする。
「佑輔・・・! 小船・・・!」
くそ! もう俺の仲間を誰一人殺させてたまるかよ!
そう思い、遠く銃声が鳴り響く場所へと戻ろうとする武士。その顔は確実に覚悟を決めた顔であった。
ドカッ!!
「ぐあぁああ!!」
ふいに自分の右足に激痛が走る。その痛みにより思わずよろめく武士。
一体何が・・・!?
そして自分の右足を見てみる。そこには一本の矢が武士の右太ももを確実に貫いていた。
そんな一瞬の自己判断をしているうちに右手のほうから草を掻き分ける音がした。
振り向いてみると、一人の生徒がこちらに向かって走ってくるではないか。片手には刀らしきものを携えて。
「くっそおおおぉぉ!!」
そういって自分が握っていたH&K PSG−1を相手に向ける。
初めての発砲、迫り来る相手、傷の痛み、そして改めて人を殺すという行為への躊躇が武士の精神力を大きく左右した。
ガァァン!!!!
一発の銃弾は相手の肩を掠めただけでその突撃スピードを一向に緩む気配はない。銃の反動に少し怯んだ武士は次の銃撃を行おうとする。今度は相手も確実に近づいており、発砲すればはずしようのない距離だった。
だが相手は銃口を向けられているにも関わらず、冷静な動きで姿勢を少ししゃがませた。それが武士の狙いを少しブレさせる動きもあったのだが、そこから右の上段蹴撃・・・ハイキックを武士のPSG−1の横っ腹に当てた。いや当てたというよりかは弾き飛ばしたと言った方が正確であった。
かろうじて離さなかったものの、武士は銃をもっている右手ごと振り回されるように弾かれた。
蹴撃を放った相手はそのまま蹴った右足を戻そうともせず着地して、左手に持った日本刀を水平に構えた。出来事は一瞬であった。
ドス!!!
日本刀の半身が武士の体の後ろから覗き込んでおり、その瞬間まるで時が止まった感覚がした。
襲撃してきた男は武士の腹部に刺さった日本刀を両手で握り締めている。武士はもう何が起こったかわからない表情をしていた。
そして力が抜けたように右手に持っていたPSG−1を地面に落とす。
そして勢いよく襲撃者は武士から日本刀を引き抜く。
「ぐあああああ!!」
抜かれた瞬間、武士の腹部は焼かれるような熱さと八つ裂きされたような痛みを感じた。
傷口から止め処なく血が流れ出してくる。
血が・・・止まらねぇ・・・。
ふいに三国 晶(女子18番)のことを思い出していた。確か晶も血が止まらず、そのまま息絶えていった。
三国も・・・、こんな苦しみを味わいながら・・・死んでいったのかな・・・
もはや自分は立っていなかった。無様にも座り込み、自分の傷を見つめてみる。そして自分を襲った襲撃者の顔を見るため、自分の目の前に立っている男を見上げる。
普通くらいの髪の長さ・・・そして、太い眉に細い目・・・ 自分の目の前に立っている男が李 小龍(男子17番)と認識するのに時間はかからなかった。自分を串刺しにした血染めの日本刀・・・、それを左手に握り締め静かに佇んでいる。
「李・・・、いつの間に・・・こんな近くに・・・」
自分にとって無意味な質問だったがなぜだか口から出た。
「お前らの探索の途中からだよ。お前と張本が一緒に行動してるところを発見してね。お前が小船とあってしばらくすると単独行動を取り始めたのを見て、お前をターゲットにした。銃声が聞こえた瞬間君の警戒が途切れたのを見て襲撃を仕掛けた。ただそれだけさ・・・」
そう淡々と答える小龍。その言葉に武士は怒った。
「テメェ・・・人を殺して・・・・・何とも思わないのかよ・・・・!」
その質問をぶつけると、小龍の表情が変化した。悲哀を含むなんとも悲しそうな顔に・・・
「俺だって・・・できるだけ殺したくはない。でも俺は・・・帰らなくてはならない。生きて会わなきゃならないんだ・・・、蓮花に」
「レンファ・・・?」
苦しそうながらもそう呟く武士に小龍が質問をぶつける。
「御手洗、お前は何のために人を殺す? 恋人の・・・・美津のためか・・・・?」
その時、武士は初めて気づいた。
俺はあの時、確かに殺意があった。襲われた時発砲した。相手を殺すつもりだった。
なぜ? 当然だ、生きたかったからだ。亜希子を殺した鵜飼を殺すまで俺は死ねなかったのだ
「俺は・・・生きている者のためにこのサバイバルを闘っている。御手洗・・・、『死者』のために闘ってお前はどうしようというんだ・・・・?」
『死者』・・・・!
その言葉が武士の中で大きく弾けた。
俺は・・・亜希子を『死者』と形容したことがなかった・・・
その言葉を口にすれば何が崩れるような気がして・・・、亜希子が二度と戻らないような気がして・・・・。
鵜飼への復讐はそれを紛らわすためだったのかもしれない・・・
もし俺が鵜飼への復讐を果たした後、残るものはなんだろうか・・・? 決まっている、認めたくない最愛の者の『死』・・・ その現実を認識させられる瞬間が待ち受けているのだろう・・・
そこで味わうものは絶望・・・悲しみ・・・、そして『殺人者』という自分の現実・・・
祐輔の前でも麻理夜の前でも俺は『亜希子は死んだ』とは言わなかった。『鵜飼に殺された』と言っただけだった・・・ どこかで『死』を拒絶した自分自身がいた。
たぶん・・・・俺・・・・認めたくなかったんだ。亜希子が『死んだ』ってことを・・・
しかし目の前の男ははっきりと言い切った。『死者』と・・・
「お前が人を殺しても残るものは絶望だけだ・・・ 死者を糧に生きる者の末路などたかが知れている・・・ 復讐を果たしたとしても残るものは・・・、待っているのは自分自身の『死』だけだ・・・ 俺にはわかる・・・・・・」
そう言って虚空を見上げる小龍。明らかに目には哀愁の光が宿っていた。
だがどうでもよかった。もう復讐もどうでもいい。すでに憎悪もなかった。
ただ『復讐者』としてではなく、亜希子が愛してくれた『御手洗 武士』として死ねることを喜ばしいことだと思った。
「李・・・、2つ頼みがある・・・・」
口から吐血しながら武士は喋りだした。
「すでに俺に・・・、憎しみはない・・・ だがあえて頼む・・・ 鵜飼を・・・・、殺してくれ・・・」
他人に自分の復讐を任すのは気が引けたが、小龍が優勝を目指す以上鵜飼は避けて通れない敵だと思った。だからそんな小龍への警告の意味もかねていた。
小龍は自分の意図を理解したのかわからなかった。だがその口からでたものは意外な答えだった。
「わかった。鵜飼は俺が殺す・・・」
小龍が自分の理不尽な要求を飲むとは思っていなかった。
こいつになら・・・・託せるかもしれないな・・・・・
安らかな気分に包まれた武士は言葉を続けた。
「頼む・・・・ あと一つは・・・・、楽に逝かせてくれ・・・・ 亜希子の所へ・・・・・」
もはや死への恐怖などどこかに消し飛んでいた。ただ亜希子の所へ行けるという気持ちが、武士を安堵させていた。そのまま木にのしかかり、手を広げて小龍のとどめの一撃を待った。
そして小龍は深く頷いた後、こう言った。
「御手洗・・・・、お前のことは忘れない・・・・ もう苦しむことはない。逝かせてやるよ・・・・、彼女の元へ」
そう言って菊一文字を振り上げる。武士はおびただしい出血をしているにも関わらず、優しい微笑みを作った。
「ああ・・・頼む・・・」
死の瞬間、笑える人間など何人いるのだろうか・・・?
小龍の日本刀はそんな美しい微笑みを宿す肉体へと振り下ろされた・・・
「・・・・・ん・・・?」
気だるそうに目をこすり上げる武士・・・ 目を開けてみると、周囲は真っ白だった。見渡す限り白い世界・・・、ただ一方方向だけ光が満ち溢れていた。
「俺は・・・確か・・・長野県の森の中で・・・鵜飼を探している最中に・・・・・李に襲われて・・・・」
記憶を必死に読む武士。
しかしその思考は光輝くところから歩く人物を見た瞬間、消し飛んだ。忘れるはずもないその顔。
「・・・・亜希子?」
武士は呆然としていた。そこには確かに自分の目の前で息絶えたはずの亜希子がいた。亜希子は涙を浮かべながら、こちらに走ってきた。
「武士ィ!!」
呆然とする武士の胸に亜希子は飛び込んだ。武士の胸を必死に抱きしめる亜希子。
「亜希子・・・・亜希子ォ!!!」
武士は呆然とした顔から嬉しさと悲しみからぐちゃぐちゃの顔になり、涙が止まらなかった。
ただ・・・会いたかった。そしてその人物が胸の中にいる。ただそれだけで十分だった。
「武士・・・・ごめんね・・・ごめん・・・ 私のせいで・・・・武士が苦しんで・・・・」
自分が先に死んだことを悔いているのだろう。亜希子は涙を流しながらも申し訳なさそうな顔していた。
「いいんだ・・・、亜希子がいるだけで・・・・俺は満足だよ・・・ 俺はそれだけで・・・・」
そして力いっぱい亜希子を抱きしめた。
もう決して離さない・・・、もう別れるなんて嫌なんだ。
それは両者一致の意思であった。
「もう離れたりしないよね?」
亜希子は自分の瞳を見つめながらそう言う。俺はそんな亜希子の瞳を見つめ返し、言い切った。
「もう離れない! ずっと一緒だからな!」
そして二人の距離は徐々に縮まり、唇は一つとなった。
彼らの魂は死してようやく救われたのだ・・・
すでに亡骸となった武士を見下ろす小龍。
そんな魂の邂逅を知らない彼でも武士の満足そうな死に顔から恋人に会えたことが想像できたかもしれない。
だが、彼に死者を構っている暇などなかった。
ただ死んでいった者の遺志と魂は受け継いでいくだろう。それが彼なりの死者への鎮魂となると彼自身が思っているからだ・・・
そしてすぐに小龍はその場をあとにした。その数分後に別方面で殺戮を終えたデビット=清水(男子19番)が着いた時には、一つの遺骸しか見つからず武器らしいものも消えうせた後であった。
【男子14番御手洗 武士 死亡】
【残り・・・8名】