BATTLE
ROYALE
〜 死線の先の終末(DEAD END FINALE) 〜
殲滅戦
53:妨害者
昼下がりの午後に静かに休息を取る男・・・ しかし周囲の警戒を一切怠らないその男こそサバイバルという場にふさわしいのかもしれない。
李 小龍(男子17番)というサバイバーはただ一つの思いを胸にこれまでクラスメイトを二人殺した。
だが一切の狼狽も罪悪感もなかった。
『蓮花に会いたい』という思いがそれを麻痺させているのか、それとも自分の中に流れる『血』の由縁なのか・・・
皮肉なものだな・・・ 尊父が教えてくれた『不殺』の信念はここでは何の役にも立たないのに、祖母がほとんど強制的に叩き込んでくれた『暗殺』という武術や生き残る術がここでは最大限に役に立っている。
そう思い、二人の姿を思い浮かべる。
優しかった尊父・・・、祖母といつも喧嘩していた尊父・・・、大好きだった尊父・・・、そして俺を置き去りにして大東亜に逃げた尊父・・・・・
厳しくも優しくあった祖母、一族の業と呼べる暗殺技術を俺に叩き込んだ祖母、何より逃げた父と・・・・・俺の妹を案じていた祖母・・・・
二人のことを思うと加えてある人物のことを思う。
最愛の妹・・・・俺のすべてとも言える存在・・・・『蓮花』を。
小龍の生まれた場所は韓半民国・・・、大東亜共和国の隣国にあたり、大東亜にとって数少ない友好国・・・ そして小龍は韓半民国人である父と、外交官であり現地の大使館に勤めていた大東亜人の母との間に生まれた・・・
国籍は韓半民国人であったが、大東亜の国籍も取ろうと思えば取れる存在、それが李 小龍という存在だった。
だが小龍の父の家系は一筋縄でいくようなものではなかった。父は忌み嫌っていたが、李家は韓半民国で伝説上に語り継がれる高名な『暗殺手』を輩出する一族であったからだ。
祖父はすでに亡くなっており、一族の長は祖母にあった。祖母自身も韓半民国の裏の世界で名の知れた暗殺手で、政財界の要人から様々な暗殺を引き受けてきた。
現在は引退したが今も韓半の政財界の要人には顔のきく存在であった
だが父はそんな暗殺家業に反対していた。もちろん家業を継ぐ気などさらさらなく、地元で暗殺拳とは無縁の道場を開いていた。
そしてそこから父と祖母の確執が始まったといえる。家業を継げと薦める祖母に、断固として反対する父。そんな二人の骨肉の争いは妹である蓮花が生まれた後もずっと続いていた。
そんな折に最悪の事件が起こってしまった。あれは小龍が12歳、蓮花が6歳の時だっただろうか? 母が交通事故であっけなく命を落としてしまったのだ。
犯人は捕まらなかったが、父はここで最悪の発想に至った。
『これは母に対する自分の当てつけなのだ』と。
つまり祖母は嫌がる父への警告のために、母へ暗殺の依頼をしたのだ。暗殺界の重鎮とも言える祖母ならばいとも簡単なことだろう。
『家業を継がなければ次はお前か子供たちだよ』
このような恐ろしい警告のように聞こえたのだ。
もちろんそれは単なる妄想で父たちが亡命した後犯人は捕まったのだが、そんなことは知るよしもなかった。
父はそばにいた蓮花を連れて、母の知人の外交官の元に駆け込んだ。事情を察した外交官は大東亜への亡命の手続きをすぐさま終えて、その日のうちに二人は韓半民国から脱出したのだ。
祖母の元に出かけていた小龍を置いて・・・
この日、父に見捨てられた俺にとって、祖母だけが唯一の肉親となった。
そしてこの日になって今まで父に習っていた格闘術とは違う李家の『闇』を初めて祖母の口から聞かされた。
「小龍や・・・、幼いお前にこの術を教えるのは私の情が痛む・・・・。だが、李家の業をここで絶やすわけにはいかぬ。お願いじゃ・・・・、我が孫よ・・・」
祖母の目にはすでに涙が流れていた。
ああ、そうなんだ、祖母も悲しいのだ。父に見捨てられたことを・・・
父も大好きだったが、祖母も大好きだったのだ、俺は・・・・
そして俺は祖母を抱きしめ、出来るだけの笑顔で優しく答えた。
「喜んで・・・・、お祖母様・・・」
その日から『暗殺術』を習い始めた俺がそこにはいた。
まさしく人殺しの術・・・、格闘とは違う人をより効率的に殺すかという術・・・
すでに俺自身、このプログラムに来る前から血に染まっていた。
14歳という若い年齢で『暗殺手』となった俺は地元の厄介なチンピラやヤクザなどを、依頼を受けて闇に葬ってきたからだ。
『李家の天才少年暗殺手』
それが俺の今の闇の世界の通り名・・・
だが3年間、俺が蓄積してきた思いがあった。他でもない自分の妹、『蓮花』に会いたいという思いだった。
蓮花は非常にお兄ちゃんっ子で常に自分にくっついている女の子だった。さらに自分がやることをやりたがる子で、俺が父に拳法を習っていると、蓮花もそんな真似事をしだしていた。
そんなかわいい妹であったが、俺にとっても非常に大切な存在になっていった。
父も母も優しく大切に思っていたが、蓮花への想いは兄妹という関係を超えて熱い想いだった。恋愛感情と違う感情だったが、とにかく蓮花と一緒にいたい、会いたいという思いは日に日に高まっていった。
そして15歳・・・大東亜で言う中学3年になったあの日・・・
「お祖母様・・・・、私を大東亜に行かせてください・・・・」
ここ最近俺自身がしきりに大東亜へと行きたいということを告白していたので、祖母は常日頃から反対していた。そして答えはいつも通りであった。
「ならぬ・・・! 何度言っても同じじゃ。お前は李家にとって最後の誇り、そのようなことは認めぬ」
しかし俺はこの日は違った。ある決意を胸にこの場に臨んでいたからだ。
「私は行きます・・・、たとえお祖母様をここで殺そうとも・・・・!」
そこですさまじい殺気を祖母に向かって放つ。百戦錬磨の祖母はそんな殺気もいなしていたが、普通の人間なら怯むだろう。
「小龍・・・、本気なのかい・・・?」
すると俺は殺気を収め、真剣な顔で訴えた。
「父の元へ帰ろうというのではありません。ただ・・・・自分の妹の蓮花に会いたいだけなのです! もはや押さえられないのです! お願いします! お祖母様!!」
そして頭を地面にこすり付けて懇願した。
しばらくの沈黙・・・・、俺も祖母も一言も喋ろうとはしなかった。
そして先に口を開いたのは祖母だった。
「知り合いに・・・、大東亜に顔の効く奴もいるじゃろう・・・ そいつにお前を留学させるように言うておく・・・・」
その言葉に俺は嬉しさから祖母の顔を見上げた。
だが俺は驚いた。祖母が泣いていたのだ。祖母が泣くのを見たのは、3年前に父が亡命して以来だった。
「だが・・・一つだけ約束しなさい・・・、小龍や・・・ 必ず・・・、生きて・・・私の前に戻ってくるのですよ・・・・」
俺は祖母に愛されていることをこの時さらに再確認することができた。
そしてそれだけで十分だった。
「はい・・・お祖母様」
俺にとって一番大切な存在は・・・・父でも母でも祖母でもない・・・ 蓮花なのだから・・・
夏休みが始まったら本格的に捜索を始めようと思ったのだが、まさかこんな殺し合いに巻き込まれるとは思ってもみなかった。
この血で血を洗う凄惨な場にいると韓半民国に居た頃、闇の中を生きた『暗殺手』としての自分を思い出す・・・
李家の業とはいえ、人を殺すことを最初は躊躇した。
だが今はどうだろう・・・・、何のためらいもなく人を屠っている。
これが・・・人間の本来の姿なのかもしれないな・・・
だが人間の醜き本性を少しは嫌悪しながらも、蓮花のことを思うと何も思わなくなった。
「俺は・・・唯一つの思いのために・・・罪のない人を殺す・・・ 贖罪はいつかしよう・・・・だが、俺は・・・」
そう息をつき、呟く。
「俺は蓮花に会うまで死ねないんだ」
その時、遠くの方から轟音が聞こえた。何か爆発したような音。そして銃撃音・・・・
しかし小龍はおかしいと思った。
銃撃がしている方向は南だ。だが自分は現在会場の最南端のエリアにおり、エリア外で銃撃や爆発が起こるはずもない・・・
一体、どうなっているんだ?
全く解せなかったが、なにかトラブルがあったのかもしれない。そう思って爆音により近くなる方角まで近づいてみることにした・・・
「ふぁああ〜〜・・・。暇だなぁ・・・」
見張りをしている大東亜兵士が呟く。
「しかたないだろ? プログラムで脱走者でも出ない限り俺らの出番はないんだからよ」
そういってもう一人の兵士が話しかける。
ここは会場の南・・・4箇所ある大東亜専守防衛軍が配備した臨時駐屯所である。
この駐屯所は東西南北に配備しており、プログラムにおいて脱走者がないか見張る役目を負っている。
一時、首輪の誤作動により脱走しても気づかなかった所をたまたま見張りをしていた兵士が見つけて射殺したことから、完璧を期すためにそれぞれの方角に駐屯した軍隊を配備することが決められていた。
だが実際はそれ以降、首輪の誤作動というトラブルはなく、兵士たちは暇をもてあますことが多くなっていた。それどころか、これを一種の休暇と考えている者もいた。
敵もほとんど現れることもない、万が一現れてもそれは中学生・・・、そういったことから見張りの兵士以外はほとんどゆったりと休んでいる者がほとんどだった。
「あ〜ぁ・・・、見張り早く終わらねぇかなぁ・・・」
「もうすぐだよ、ちっとは我慢しろよ」
そんな会話に花を咲かせていると足元に何かが転がってきた。
「ん・・・? なんだ?」
だがその二人の兵士たちはそれが何かを確かめることはなかった。すぐにそれは炸裂して、兵士たちをバラバラに吹き飛ばしたからだ。
ドコォォォォォォォォン!!!!!!!
強烈な爆発音が駐屯所を包み込む。
「何だ!?」
「何が起きたんだ!!」
完全にリラックスモードだった兵士たちは何が起こったかわからずとりあえず狼狽していた。
ガガガガガガガガガ!!!!
ドドドドドドドドド!!!!
複数のマシンガン音が駐屯所に響き渡る。
「があ!!」
「うわあああああ!!」
ろくに兵装もせず、リラックスしきっていた兵士たちにとってその奇襲は致命的なダメージを与えた。さらにプログラム予算委員会によって、脱走者があまり出ないことから兵士の削減が最近試行されて駐屯所に配備していた兵士は10数名といったところだった。
その襲撃者の鮮やかな奇襲により、本部に連絡することもなく駐屯所の兵士は全滅した。
「よし・・・、とりあえず作戦第一段階は成功だ」
といって、その襲撃者の隊長のような男が言う。
「やりましたね! 成瀬さん」
その傍らに侍る青年風の男は隊長の男・・・成瀬と呼ばれた男に話しかける。
「コラ、服部。まだ作戦は長いんだ。安心するのは早いぞ!」
そういって成瀬は青年風の男・・・服部に喝を入れた。
「わ、わかってますよ〜。すんません」
するとピピピピピピピと何かが鳴り始める。成瀬がその鳴っていた通信機を取り応答する。
「はい、こちら成瀬です・・・。おお、三村さん。ええ・・・、とりあえず作戦の第一段階は成功です。・・・・・・・ええ、すべて本条君の情報通りですよ、かなり警備は手薄でした。さっそく第二段階に移行します。・・・・・・ええ、三村さんも気をつけて・・・ では!」
そう言って通信を切る。
「それでは服部、お前は神谷を含む7人を率いて北上しろ。残る俺たちは『α作戦』と万が一の『β作戦』の準備に入るからな」
そういわれると神谷と呼ばれた細身の男が服部のそばによる。
「任せてください、成瀬さん。服部君は守りますんで♪」
そう言われると服部はカチンときたようだ。
「大丈夫ですよ! 俺だって部隊率いるんですから! 成瀬さんこそお気をつけて!」
そういって敬礼をする服部。すると成瀬はしっかり敬礼をし返す。
「それでは再び生きて会おう! この『革命の月』に誓って!!」
そう言うと服部と神谷は二人とも同じ言葉を叫ぶ。
「「『革命の月』に誓って!!」」
そういうと襲撃者の部隊は二手に分かれ始めた。こうしてプログラムは新たな段階に進み始めた・・・
【残り・・・8名】