BATTLE ROYALE
死線の先の終末(DEAD END FINALE


55:餓狼舞う修羅の樹海


 ブツッと通信機のスイッチを切る鵜飼 守(男子3番)。その目はまさしく敵味方を震え上がらせた『刃狼』の鋭い光を放っていた。
 よし・・・、これで準備万全だ。
 そう確認した鵜飼は改めて自分の装備の点検をし始めた。

 左の腰には『紫電』、後ろにはグロック17とワルサーP−38が収まっている。そしてどこから調達してきたのかはわからないが包丁を収納したホルスターとベレッタM92FGが右の腰にあり、自分のデイバックにはS&W M429・H&K USP・手榴弾4個が入っている。
 いわば「完全武装」状態である。

 武器に不備がないかどうか確認した鵜飼は首輪に解除コードを入力した。
 ピーーーという音と共に首輪の赤い表示が消える。
 首輪が無効となった瞬間でもあった。
「それでは・・・行くか。愚かなる反乱者の・・・・狩りへと」
 そういって『刃狼』は会場の外へと足を踏み出した・・・
 当然、会場の範囲を知らせるために有刺鉄線が引かれていたのだがすでに『紫電』により斬られていた。
 この有刺鉄線だが、所詮会場の範囲を知らせる程度で切ることは簡単だった。
 ただ、もし越えれば監視している本部から首輪が爆発させられるだろうし、万が一脱出できたとしても駐屯所の兵士に射殺されるわけである。

 だが鵜飼の目的は脱出をしようというわけではなかった。
 そもそもプログラムなど自分が本気を出していればの言うとおり一日で終わっていたかもしれない。
 プログラムはあくまで自分がここにいるための布石。本当の目的・・・「任務」はここにあった。
 総統閣下に渡されたプログラム詳細書類のなかに『刃狼』に渡された最終的な指令が書かれていた。
 一行ほど、こう書かれていた。

「プログラム中止を企む反政府思想の武装勢力を殲滅せよ」と・・・


 その頃、南側の駐屯所を壊滅させた後、服部率いる北上部隊8名は3名が先行し、5名がその後を付いていくという警戒フォーメーションで慎重かつ迅速に北に進んでいた。
 それもそのはずだ。これら一連の作戦『α作戦』は時間との勝負だ。

 この作戦の最初の難関は本部に一番近い南部の駐屯所において連絡されることなく、専守防衛軍を全滅させられるかにかかっていた。
 だが軍内部のスパイの情報提供により、兵士の配置・人数・状況が容易にわかったため、それが奇襲の成功率を格段に上げた。
 だがこれも作戦の第一段階に過ぎない。スパイの情報によると1時間ごとに定期連絡を本部にすることが義務付けられている。それにより駐屯所壊滅が知られるのは時間の問題であった。
 そしてその次の作戦、少数で本部に奇襲をかけてメインコンピュータを壊し首輪を無効にする。おそらく捜索隊を編成するであろう西部と東部の分隊がでるのを見計らって、スパイが合図した方角の駐屯所に奇襲を仕掛ける。
 そして生徒をつれて脱出する・・・それが反政府組織のプランであった。

 首輪の構造がわからない以上、首輪を管理しているメインコンピュータをどうにかするしかなかった。
 だが外部からのウィルス進入は事実上不可能に近く、反政府組織のシンボルでもあり、コンピュータ関係で無類の知識と技術を発揮する「三村 真樹雄」でさえ不可能であった。
 そこで残る方法は本部への直接的な攻撃であるが情報管理が厳しく、さらに最長3日しか時間により場所が特定できないという問題を抱えていた。

 だが今回は軍関係者からの情報がある。
 政府の罠とも思った組織だが、その流した本人がプログラム志願者であり、なおかつ救出後の組織加入を希望したことにより今回の実働部隊投入が決まった。
 危険は覚悟の上だったが、プログラム中止とプログラムの悲惨さを伝える「証人」の保護をすることはこの国に大きなダメージを与えることができる。
 それが反政府組織同盟「革命の月」が出した結論であった。

 服部はもちろん、神谷や他の兵士も「革命の月」所属の戦闘部隊であった。
 だが戦闘経験はほとんどの兵士にはない。
 プログラム経験者などがこの戦闘部隊に入っていることはあった。
 何を隠そう、この作戦の責任者である成瀬 省吾は何十年か前のプログラム経験者、つまり優勝者だ。
 プログラム経験者以外に政府に嫌気が指した者、政府に身内・親友・恋人を殺された者、元専守防衛軍の兵士、今の政府と対立している者と様々な人が集まっている。
 このうち服部は政府の政策に嫌気が指した者であった。そして自分の隣にいる神谷は政府に嫌気が指した元専守防衛軍の兵士であった。
「革命の月」の兵士たちが習う戦闘技術は、そのような元専守防衛軍の人たちから訓練を受けるのだ。

 そういった経緯で形では服部がリーダーなのだが、神谷の方が戦闘能力は上だった。
「そろそろプログラム会場近くまで着きますね・・・」
 地図を見ながら神谷はそう呟いた。
「うん・・・・、みんな気を引き締めていけよ!」
 そうやって一応リーダーらしい仕事をする服部
 そんな服部の言葉には不思議と励まされる。そんな能力があるから部隊のリーダーを務めているわけだが。
「はい」
「わかってますよ」
「頑張りましょ、服部さん!」
 そういって回りの兵士が返事をする。神谷も続く。
「僕たちが子供たちの命運を握っているんだ。なんとしても成功して助けないと・・・」
 悲痛な思いを胸に神谷は歩いていた・・・


 一方こちらは服部たち本隊とは別に先行している斥候部隊。
 あまり離れていないのだが、緊張した面持ちで歩いている。
 もし専守防衛軍の生き残りや予備の見張りなどがいたら大変なので、先行して様子を伺っているのだ。人数は3人。
 肩には『AK−47カラニシコフ』・・・アサルトライフルを掛けており、戦闘準備はいつでもOKだ。

 そして前方を注意深く見てみる。
 すると誰かがこちらに来るではないか!
「誰だ!!」
「止まれ!!」
 3人はとっさカラニシコフを構える。
「ちょっと待て! あれって、学生服じゃないか?」
 すると目の前の人物を見てみる。するとそこにはおそらく学生であろう制服を身にまとった少年がいるではないか!? 少しうつむき加減でこちらに歩いてきている。
 しかも右腰には刀を差しているあたり、おそらくプログラム中の中学生であろう。
「おい! 君、大丈夫か!?」
「怪我はないかい?」
「心配するな、俺たちは君たちを助けに来た」
 そう言いながら、自分たちが探していた人物に近づく3人。

 だが兵士の一人が咄嗟に気づいた。
 おかしい・・・、まだプログラム会場に入ってもいないのにどうして生徒に出くわすんだ・・・・? 
 そう思いふいに足が止まる。
 すると目の前で惨劇は起きた。何が起こったか目の前の男2人にはわからなかっただろうが、離れていた兵士は見た。

 二人が近づいた瞬間、少年は高速と言える速さで日本刀を抜き、一人を切り裂いたのだ。左腹から右肩への刀傷だったのだが、すさまじい威力だったのか、右肩はパックリと裂かれていた。
 何が起こったのかわからず口を開けている隣の男に、少年は振りぬいた刀をそのまま刺す。お見事、口から進入した刀はそのまま突き抜けて後頭部から刀身が姿を現した。
「う、うわ・・・・」
 そうやって自分のカラニシコフを構える兵士。
 だが日本刀を刺した手を離し、右のホルスターを抜く少年の手の方が早かった。すさまじい行動力、そのままホルスターにしまってあった包丁を抜くと、そのまま離れている兵士に投げつけた。
 ヒュン!! 
 それがその兵士が聞いた最後の音だった。その包丁は一直線に兵士の眉間に命中したからである。当然、即死であった。
 ほんの数秒で斥候3人はこの世から葬られたのである。

 目の前の敵が死んだことを確認すると、少年はさきほど男に刺した刀を引き抜いた。
 少し唾液と血で汚くなってしまったのを嫌ったのか、そのまま死体となった兵士のシャツで拭き始めた少年。
 だがすぐ気配を察知したのか、明後日の方向を向く。
「な・・・!」
 駆けつけて驚いている兵士を尻目に、少年は腰にしまってあったベレッタをすかさず抜く。そしてためらいもなく引き金を引く。
 バァン!!! 
 それが『刃狼』の狩りの始まりだった・・・


 なにやら先行した部隊の叫び声が聞こえたようなので、一人を様子見で行かせた服部率いる本隊。
 だがその数分もたたないうちに銃声が響き渡った。自分たちのカラニシコフではない、拳銃の音であった。
神谷!」
「この音・・・・、拳銃だ・・・! みんな気を・・・」
 そうやって前方を振り向いた瞬間、何かがこちらに飛んできていた。
服部君!!」
 そう言って目の前の服部にタックルしながら、自分ごと吹き飛ばした。
「な!?」
 服部も虚をつかれたのか、全く状況を把握していなかった。

 ドカァァァァァァァァァン!!!!!!! 

 すると自分たちがいたのと少し違う位置から爆音が響き渡り、爆風が吹き荒れた。
「うわああ!!」
「クッ!!」
 突然の爆発に多少なり動揺する服部神谷服部は恐る恐るさきほど自分たちが居た場所を見てみる。
 するとすでに原型を止めていない死体が一つと、うめき声をあげる重傷の兵士がいた。
松尾!!」
 服部が声をあげ、その場所に駆けつけようとする。
「うぁ・・・はっと・・・」
 バァン!!! 
 その轟音と共に松尾の頭が揺れた。そしてその兵士の命はあっけなく終わった。

まつ・・・!」
服部君!! 危ない、伏せてぇ!!」
 バァン!! バァン!! 
 呆然とする服部神谷が体ごと引っ張って伏せさせる。
 そのおかげで心臓と頭を通過する予定だった銃弾はなんとか当たらずにすんだ。
「クソォ!!」
 そういうと、銃撃が行われたと思われる場所へカラニシコフを構える。
 タタタタタタタ!!!! 
 軽快な機関銃音が響き渡る。体勢が崩れていた服部も同じように応戦する。

 しかしとっさに隠れる敵の姿を見て驚愕した。
「少年・・・・?」
 そう、明らかに専守防衛軍の服装ではなく、学生服に身を纏った少年が片手に拳銃を持っていたのが見えたのだから。
神谷、撃つな! 相手はプログラムに巻き込まれた少年だぞ!?」
「・・・なんですって!?」
 撃つのに夢中で相手を確認せずに応戦していた神谷
 だがそれならもっとわからなかった。
 さきほどの松尾服部への射撃、明らかに急所を正確に狙った射撃だった。銃もろくに使ったことない一般の中学生が行える芸当ではない。 あの様子からして一人だ。

 それにもかかわらず、元軍隊経験者に訓練を受けた兵士たち6人が数分で葬られるなんてありえない!
服部さん、相手は明らかに普通の中学生じゃない! もしかすると相手は特殊訓練を受けた政府側の人間かもしれない・・・!」
 その言葉を聞いた服部は目を見開いた。
 そういえば聞いたことがある。
 プログラム志願者システム・・・・、この導入の目的はプログラムに自主的に参加する有志ある若者を集うというのが表向きだが、本来はプログラムを円滑に進めるためにやる気のある者を募集するといわれている。
 しかし噂では、さらに裏の目的があるという。
 それは政府の特殊訓練を受けた少年の戦闘シュミレーションや、ある部隊の試験の一環をプログラムで実施するために設けられた・・・という話だ。

 もしそんな生徒がいるとすれば・・・最悪の可能性を考えた。
「もしかして・・・本条君に俺たちはハメられたのか!?」
 自分たちが襲ってくると考えてその生徒を予め送り込んで全滅させようというのなら・・・スパイの本条を疑うのは当然である。
「いや、それはありえない。それなら南部の駐屯所の警備を強化するはずだ」
 そう、そうすれば事足りることだ。ではなぜ・・・?
 バァン!! バァン!! バァン!!
 しかしそんな疑問は一瞬で吹き飛んだ。
 相手が自分たちの頭上をかすめるような正確無比の射撃を行ってきたからだ。
「クソ!!」
 服部神谷はすかさず反撃を行う。 
 タタタタタタ!!! タタタタタタ!!!
 さすがに拳銃とアサルトライフルでは火力が違いすぎるのか、咄嗟に隠れる少年。

 その少年・・・鵜飼の目は何の光も宿してはいなかった。ただ獲物を狩る「狼」と化していたのは確かであった・・・

【残り・・・8名】
                           
                           


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