BATTLE
ROYALE
〜 死線の先の終末(DEAD END FINALE) 〜
57:淘汰なる存在の否定
1日目はあんなに快晴な天気だったにもかかわらず、2日目の現在は次第に雲行きが怪しくなってきて、もう日も暮れようかという頃・・・、島中を大音量の上にこの上なく元気な騒音が響き渡る。
担当教官・森の定例の第6回目の放送であった。
「みんな〜! 元気にやっているか〜! すでにプログラム日程の半分を消化した! 残り人数も少ないのであと一分張りで優勝だ! みんな気を引き締めて頑張れよ! では恒例の亡くなった生徒と禁止エリアを発表するぞ! 男子13番張本 祐輔、男子14番御手洗 武士、女子8番小船 麻理夜、以上3名だ! 次は禁止エリアだ。1時間後にH−7、2時間後にE−5、4時間後にC−6、5時間後にA−5だ! お前ら、ついに一桁を切った! 全員正々堂々と闘えよ! あ、でも不意打ち、騙し討ちも使いながら闘えよ。そうじゃないと生き残れないからな、ハッハッハッ! では諸君の健闘を祈りながら、最後の勝者を先生は待っているぞ!」
そういって放送が切れる。
「フム・・・、残リハ8人デスカ・・・」
そういって金髪の髪をなびかせるデビット=清水(男子19番)は余裕マンマンの表情でその定例放送を聴いていた。
さきほどなかなかの強敵との闘いに気分をよくしていたのか、表情も少し明るい。
そしてこれからさらなる強敵と闘えることに興奮したりもしていたのだ。
これまで退屈な相手ばかりで6人目でやっと当たりが来たデビットだったが、これから来る未来は良好に感じていた。
だが、本当の命のやりとり・・・真の殺し合いが自分とできる人間というと・・・、数が限られていた。
やはり本条君しかいないですかね・・・。でも・・・李とかいう奴もおもしろそうですね・・・
デビットは現在残っている8人のうち、二人の少年の名前を挙げた。
本条 龍彦(男子20番)は自分と同じ専守防衛軍。同期で同い年。両方とも優秀な少年兵士といって軍でも結構有名なので、お互い知らない仲ではなかった。
だが面識があるわけでもなかった。つまり、顔と名前は知っているが、話したこともないただの同級生・・・といった感覚である。
その一因としてデビットはあくまでハーフ、龍彦は純血の大東亜人であったことが挙げられる。
色々とある環境だったが、デビットが総合的に見てお互いの実力はおそらく拮抗。
もし闘いになれば楽しめる・・・、本物の殺し合いになるであろう。まぁ、勝つのは私ですがね。
その身体能力と過酷な鍛錬が、デビットの自信となってそう言わしめた。
そしてもう一人、自分の直感で何か感じた李 小龍(男子17番)。
こいつは人を殺していると感じた。しかも自分の意志で、人数も一人ではない。
そういう感じは隣の浪瀬 真央(女子20番)にも感じたが、真央との違いは小龍にある一般生徒にはない「覚悟」で、これをデビットの直感は感じ取っていた。
こういった修羅場で兵士と民間人とで一番違うところは人を殺す時の「覚悟」の違いだ。
民間人は生き残りたいから殺すという覚悟でこのゲームに乗る。つまり生存のために人を殺す覚悟を決めるのだ。だが本物の兵士は殺す覚悟だけではなく、殺すなら殺される覚悟も決めているという違いがある。
命を捨てて殺す者と、命を守りたいから殺す者ではこの一瞬の動きが命を左右する修羅場では明確な差がでる。
「生」への渇望は時に思わぬ力を出す時がある。だが戦場で生き残る奴はあくまで冷静な判断を下す者だ。そして本当の極限状態でそういった冷静な判断が出来る者は命を捨てる「覚悟」がある者なのである。
すでにスタート時点で転校生と一般生徒との間にはこのような差がでていた。だが転校生以外でそういった「覚悟」を決めている気を出していたのが小龍であった。
こいつは残るな・・・ 最初直感で感じ取り、ひそかにそう期待したデビットの思惑通り、小龍は今現在一桁の時点まで残っている。
だが他はというと、あまり楽しめそうになかった。女は言うに及ばず(浪瀬に関しては別格だと思ったが、あくまで一般レベルだろうと判断している)、他の男子二人もそこまで興味を持つような直感は働かなかった。
デビットは自分の直感には自信があったからだ。それゆえ、他の人間には興味を失っていた。
「マァ・・・、楽シンデ勝テバソレデイイノデスガネ」
このプログラムで優勝すれば『ハーフブラッディ』の正式採用が決まる。そうなればデビットは将来を約束された身分となれる。
危険な任務が伴う仕事だが、闘いに事欠くことがない上に、大東亜でも上級身分の昇進が約束される。
例え安息がなくても、淘汰に怯えることはなくなるのだ。それを得るためにデビットは死ぬ思いでこれまで生きてきたのだから・・・
デビットは大東亜人で現在陸軍中尉である父と、東欧系である民間人の母との間に生まれた子であった。
出張先であるその異国の国で当時は大使館勤めであった父が母を見初めたのがきっかけであった。
二人はその国で愛を育み、そしてデビットが生まれた。二人は現地で結婚。
その後、軍の赴任任期が終わり二人はデビットを連れて帰国の途につく。
3人はごく当たり前な幸せな家庭が築けると信じていた。
だが、現実は甘くはなかった。準鎖国制の大東亜に外国人が入国するには厳しい監査が必要であったからだ。
一般の民間人、しかも友好国ではないというそれだけの理由で、母は強制帰国させられてしまったのだ。
ハーフであるデビットはいうと近年制定された「混血人特定保護条例」によってなんとか帰国を逃れ、そのまま大東亜に父と居つくことになった。
だが近年ハーフが増えてそれが受け入れられているとはいえ、外国人に対する差別は社会的に根強かった。
学校でイジメといったことはまだ易しく、社会にでるともっと露骨であった。多くのハーフたちは一般の大東亜の職種につくことすらできず、純血の大東亜人とはかけ離れた生活をしていた。
一部、裕福なハーフたちはそういった事態を回避していたが、それ以外のハーフたちの環境はすこぶる悪かった。
そういったハーフたちの実情を誰よりも理解していた父親は、デビットを社会的差別をものともしない職種に付かせようとした。
そして父親にとって一番身近な・・・「軍隊」に入隊させたのである。
この時デビットは8歳であった。
幼いデビットであったが、大東亜に来て人間の様々な醜い部分を見てきた。幼いながらも将来くるであろう社会淘汰に怯えていたのかもしれない。デビットは反対することもなく、むしろそれを望んで専守防衛軍兵士養成学校に入った。
この大東亜で特別裕福でないハーフたちは自分自身の手でまともに生きることを勝ち取らなくてはいけなかったからだ。
軍隊に入隊したデビットは生き残るという信念とハーフゆえに体格のよさに恵まれたことも重なって、自然と力を付けていった。13歳になる頃には身長は170cmを超えており、すでに一般兵士となんら遜色のない体格をしていた。
そして幼い頃から闘いに明け暮れたデビットは、その闘い自体を楽しむようになっていった。
淘汰されるべき自分に相手が淘汰されることが、今まで自分が受けてきた現実に打ち勝つような気分がして愉快に感じるようになっていったのだ。
そしてそれの覚醒を決定付けたのが、本物の殺し合いの時だ。去年東南アジアの戦争に介入した大東亜派遣軍の中にデビットも本格的に参軍しており、そこで練習では味わえない殺し合いを体験したのだ。
そこでデビットは感じてしまった。社会で下位の地位にいる大東亜において劣等種である自分が、まともな庇護を受けた地位の人間を抹消する優越感・・・
それだけではない、相手が強ければ強いほど自分の存在がより高位なものに昇華されていく感覚がしたのだ。
そして勝利するたびに自分がさらに強い人間だと確信する。
劣等種から優越種へと進化していく感覚に見舞われたのだ。
普通の大東亜人は大東亜の社会のなかでは「ゼロ」で出発する。だがデビットは大東亜においては「マイナス」からの出発であった。社会的に「プラス」の人間を殺すことによって、自分の「マイナス」が減っていき、いずれ「プラス」になっていく・・・
デビットは勝利と他者淘汰の味に酔った。
闘いは自分を満たしてくれる!
自分を「淘汰される生物」から「人間」にしていく!
俺は勝つ!
勝って淘汰する側になるんだ!!
生きる権利を勝ち取るんだ!!
そしてそのことが、死を恐れぬ闘いぶりと闘いを求める姿から「狂戦士」と名づけられた少年・デビットが形成されていったのである。
『ハーフブラッディ』の試験の一環のこのプログラムに勝つことによって自分が「プラス」の人間になれると信じて疑わなかった。このプログラムに参加している人間は、自分に「優越」と「勝利」を感じさせてくれる存在としか感じていなかった。
「サテ・・・、ソロソロ・・・・・!!!!!!!!!」
獲物を探しに行こうかと言おうと思った瞬間、デビットの警戒網にとんでもない殺気を放つ人物が入ってきたのだ。
どの程度かというと、泣いている子供でも殺気だけで黙らせてしまうくらいである。
「何ダ・・・・コノ殺気ハ!!」
今までに感じたことのない殺気に驚かせた自分を落ち着かせて、気配を消して、その人物を確認するため物陰に隠れながら進むデビット。
そしてその殺気の元の人物を見つけた。
少し長髪の少年。腰に下げてある刀剣が非常に目立つ。だが明らかに血の匂いが漂ってきそうな返り血を浴びたその姿。表情は苦悶の表情を浮かべ、溢れんばかりの殺気を周囲に撒き散らしている。
そう、それはさきほど反政府の人間の狩りを終えた『刃狼』鵜飼 守(男子3番)であった。
デビットは信じられなかった。
これほどの殺気を自分が選定した以外の一般生徒が放っていることに・・・
(私ノ直感ガ外レルナンテ・・・・初メテデスネ)
心の奥底でそう思っていた。
殺気というものは修羅場を潜り抜けて精錬されていくものだ。
いわば「人を殺す」という覚悟の計りでもあった。そうしてみると現在鵜飼が放っている「殺気」の量は十人や二十人、いや二桁殺した人間でもこれほどの殺気を放てるかどうか・・・
(間違イナイ・・・・、コイツハ極上ノ獲物ダ!!)
思わず唇を舐めていた。今まで経験した戦場でもこれほど高揚したことはなかった。
こいつを殺せば間違いなく自分は人生の勝利者になれる!
その確信が脳内に響き渡った。
デビットはすかさず臨戦態勢に入り、奇襲の用意をする。
これほどの強敵相手に正面から行っては勝っても傷を負うだろう。それを避けるためにある程度傷を負わすことは大切なことであったからである。
すかさず腰に挿してあったデザートイーグルを抜き、気配を消す。森と同化したように体が静かになっていく。不用意に殺気を出せば気づかれる。
銃を撃つ瞬間、つまり攻撃する瞬間はデビットがいくら優秀とはいえ殺気がでるだろう。しかし撃つ瞬間気づいても遅いのだ。気づいて避けても体勢はある程度崩れる。そこを狙い撃ちすればいいのだ。
(ヨシ! ソレデハ戦闘開始・・・)
そう思った瞬間、鵜飼の殺気が一気に引いたのである。
あれほど場を包んでいた激烈な殺気はなく、鵜飼の表情はさきほどの苦悶の表情ではなく機械のように無表情になっていた。
(ナンダ・・・? ドウイウコトダ?)
気づかれた可能性を考えたが、完全に気配を消している上に物音も立てていない。軍隊でも潜入術と尾行術は群を抜くものがあったデビットがこの場でミスをするわけがなかった。
しかし目の前の鵜飼の行動はデビットの予想を遥かに超えていた。
すかさず腰に挿していたベレッタを抜くと、なんとデビットの潜伏している方向へ銃を構えたのである。
「刃狼」と「狂戦士」の死闘はこうして幕を開けた・・・
【残り・・・8名】