BATTLE
ROYALE
〜 死線の先の終末(DEAD END FINALE) 〜
58:究極のサバイバー
デビット=清水(男子19番)はこれほどまで人生で驚いたことがあるだろうか?
目の前で奇襲を行うべき標的・鵜飼 守(男子3番)が奇襲に気づいただけでなく、こちらの存在も承知の上でこちらに銃口を向けているのだ。これを驚くなといわずにいられるだろうか?
(ナッッ!!!)
バァン!! バァン!!
方向・正確性ともに完璧な射撃であった。デビットも一瞬驚いたが弾道外へと体を移動してデザートイーグルを撃った。
ドォン!!!
これを予測していたのか、鵜飼もなんなくデビットの銃口の外に外れる。
「クッ! ナンテコトダ!!」
奇襲をしかけようとした自分が逆に先制攻撃を食らうとは!
デビットにとってこれは屈辱以外の何物でもなかった。
純血の大東亜人で何の苦労もなく暮らしている普通の中学生に、混血で社会的差別を克服するために死にものぐるいで戦闘訓練を受けているこの私がだ!!!
この攻撃はデビットのプライドを深く傷つけた。
しかし兵士の冷静な頭脳は即座に判断していた。
あの射撃・・・、素人の射撃ではない。明らかに訓練を受けた者の射撃だ。素人ではない、戦闘のプロか!?
そして障害物からでると横に走りながら射撃を行う。
そのさい緩急をつけた動きをしながら進んだ。
ドォン!!! ドォン!!!
負けずに鵜飼も緩急をつけながら射撃を行う。
バァン!! バァン!!
両者ともにぎりぎりのところで被弾を間逃れていた。
カチ!!
両者一斉に弾切れになる。ここで二人の動きはぴったり一致していた。
まず片手で空の弾倉を抜く!
もう片方の手で後ろに手を回す!
リロードはせずに手の方向の腰にしまう!
そして後ろに挿してあった銃を抜き相手に向ける!
流れるような作業で鵜飼はグロック17、デビットはコルトガバメントを抜き横に避けながら撃つ!!
ドン!!! ドン!!!
「ちっ!!」
「クッ!!」
二人ともなんとか避けきったが、両者ともに高度な戦闘を繰り広げていた。二人は一旦呼応したように物陰に隠れ、様子を伺っていた。
デビットはかつてないほど興奮していた。これほど闘いが楽しいと感じる相手に出会ったことはかつて一度もなかったからだ。
しかし興奮しながらも自分の武器を正確に把握して、戦略を立てる必要があった。これほどのスピードを要する戦闘でデイパックなど持っている暇などなかった。
ゆえにあと自分の武器はコルトガバメント・トカレフTT−33・毒入りスペスナズナイフだ。
これを元手に有効な戦術を考えていく・・・
一方の鵜飼は頭からつま先まで冷静そのものだった。ただ相手を屠ることのみを考えている、そんな感じだった。
デビット同様、デイパックは置いてあるので自分の現在の所持武器は『紫電』・グロック17・ワルサーP−38・包丁であった。
そして二人とも優秀な兵士ゆえに同じ結論に行き着いた。
「接近戦で決着をつけてやる!」
遠距離での射撃ではお互い熟練されすぎておそらく決着がつかなくなるだろう。
ならば近距離での射撃、もしくは接近用武器で決着をつけるという作戦に達したのである。
先に動いたのはデビットだった。
「ハッハァーーッ!! 死ネェェーーーー!!」
ドン!! ドン!! ドン!!
手に持っているコルトガバメントで牽制の射撃を行う。
一方、鵜飼もそのまま行けばジリ貧なのはわかっていたので、グロックで応戦する。
ドン!! ドン!!
お互いの銃声が木霊する中でデビットのコルトガバメントが先に弾切れを起こした。
「!!」
この瞬間を鵜飼が逃すわけもなかった。
お互い徐々に距離を詰めていたのでデビットとはいえ、正確に撃てば完璧に被弾する距離だった。
鵜飼は冷静に銃口を合わせる。デビットはそれを見て猛然とこちらに向かってくる。
手を腰に回してトカレフを抜こうとするデビット。一撃で仕留めるため心臓を狙う鵜飼。
終わりだ!
そう思って引き金を引こうとする瞬間、デビットは地面を思いっきり蹴り上げた。
土がこちらに舞い、その土埃がこちらに覆いかぶさってくる。
「くっ!!」
少し目に入り、それが少しの躊躇に繋がった。
一気に距離を詰めたデビットはグロックを握る手の下を蹴り上げる。グリップの下から蹴り上げられたためそのまま腕が上に上がり、グロックも吹き飛ばされる。
そしてすかさずデビットはトカレフを抜く!
だが鵜飼もそれを予期していたかの如く、振り回される体を逆らおうともせず、後ろを向く。
デビットがこちらに銃を向けるその瞬間、勢いそのままに鵜飼は右の後ろ回し蹴りをデビットの右の甲に当てる。
「グゥッ!!」
その強烈な蹴撃のおかげでデビットもトカレフを落とす。すかさず鵜飼は右手で腰に掛けてあるホルスターから包丁を抜く。だがデビットも空いていた左手でスペスナズナイフを抜く。
キィィン!!!
二人にとっては望むべくしてなった状況だった。見事接近戦に持ち込んだのだ。
一旦刃を交えたが、二人は少し離れて一旦距離をとる。
デビットの状況はというと銃器はもうなく、武器は左手にあるスペスナズナイフだけ。
一方、鵜飼は現在包丁を右手に持っている。まだ『紫電』とワルサーがあったが、それを抜いているとあっという間にデビットのナイフの餌食になるだろう。それほどお互いの実力は接近していた。
ナイフでの接近戦・・・それが両者の命運を分ける闘いとなった。
鵜飼・デビット共にナイフを持っていない腕を後ろに回す。不用意に、空いている腕をさらけ出していると瞬時に動脈を切られるからだ。
ナイフを前面にだし、突きの体勢に入る。ナイフは刀身の短さゆえに斬っても致命傷には至らないので、突いて殺すのが常道である。
お互い熟練した兵士であったゆえ、その闘いの準備はまるで演習のようにすみやかに整えられた。
デビットにとってこのナイフ同士の接近戦は望むところであった。
デビットデビットのナイフには即効性の毒が塗られており、その効力は2人目に殺した深矢 萌子(女子14番)の時にすでに実証ずみだ。
つまりかすり傷を負わすだけでもこちらが勝利する。さらにこのナイフが奇襲・暗殺用に作られたスペスナズナイフだということもデビットにとっては好材料だった。
なんにしても最初はまともな接近戦をやっておいてデビットはスペスナズナイフの刀身を飛ばす作戦を練った。
一方、鵜飼も自分が勝利する作戦を練っていた。それは一種の賭けであったが、これからまだまだ難儀な闘いが続きそうである。あまり苦戦するわけにもいかない。
では・・・
デハ・・・
行くぞ!!!
始メマショウカ!!!
先に仕掛けたのは鵜飼だ。
包丁を水平に構え、デビットの喉を狙う。これを横に反れて回避して、反撃に腕を切りつけようとするデビット。
だが鵜飼はとっさに腕を引っ込める。そしてバネのように再び包丁の打突が返ってきた。デビットはそのまま斬りつけた方向に体を移動させる。
だが完全には避わしきることができず、肩に切り傷を負った。
「クッ!!!」
この純血大東亜人のくせに・・・・!
裕福でぬくぬくと学園生活を送ってきた奴に・・・・!!
この私が傷をつけられただと!!!
この屈辱に虫も殺す殺気を迸らせるデビット。
数々の経験で築かれたプライドゆえに、一般生徒の鵜飼に傷つけられることにこの上なく自尊心を傷つけられた結果となった。
だが強者を淘汰する興奮と、いままで鍛え上げてきた兵士の本能がデビットの頭を冷静に、かつ効果的に動かしていた。
今度はデビットが動いた。
狙うは心臓、一直線にそこを狙う。しかしこれを鵜飼は横側になんなく回避する。
だがこれもデビットにとっては計算づくであった。すぐに横薙ぎの斬撃に繋げる。
これでかすり傷でも負えば・・・!!
だが鵜飼はさらにバックステップをし、紙一重でその横薙ぎを避ける。
な・・・・!? 普通の兵士の反応ならば、片手でナイフを止めて心臓を狙うはず・・・!
こいつ、なぜ!?
だが鵜飼はデビットの狼狽を見逃さなかった。すかさず突きの動作に入る。横薙ぎの動作のために少々隙ができてしまった。
しまった!
さすがに回避ができない。鵜飼の包丁は デビットの喉を捕らえる!
ドカッ!!
鵜飼の包丁は確実にデビットの肉を貫いていた。だがそれは喉ではなく、咄嗟に防御にまわした右腕であった。
「ぬぅ・・・!!」
デビットもさすがに苦痛を感じたが、これはチャンスだ。
これで奴に傷を与えられれば!!
そうやって左手のナイフに力を込める。
だが鵜飼はすぐに行動に出た。すかさずデビットの腹部に蹴りを突き出してきたのだ。その蹴りで鵜飼の包丁はデビットの腕から抜けて、デビットがよろめく。
その間にすかさず鵜飼は最初の距離に戻ってしまった。
こいつ・・・、これが毒ナイフだと見抜いているのか!?
そうとしか思えない行動だ。こいつの作戦は私のナイフを受けずに、常に一撃必殺を狙う・・・
毒ナイフを見破られたことは怪訝だったが、確かに自分の行動にも非があった。明らかに殺すつもりではなく、傷をつければいいという戦いぶりをしていたのだ。
これでは毒があるかも・・・と熟練の戦士なら気づくかもしれない・・・
(ダガ・・・コレハ読メマイ!!)
そう、これが『スペスナズナイフ』だとわかるのは自分だけ。右腕も負傷した今、これで奴を殺すしかない。
一方、優勢に立っている鵜飼も油断はしていなかった。手負いの獣ほど怖いものはないのだから・・・
最後の喉笛を噛み千切るまで・・・・油断はしない!!
そして最後の攻防が始まった!
仕掛けたのは鵜飼。今度は体重を乗せず、軽いジャブのような突きをする。軽めの牽制といったところか。
だがデビットは冷静に鵜飼の腕を狙いにいった。軽めのジャブの突き出るところを狙った。だが鵜飼はまたしてもバネのように腕を引き戻し、派生の急所狙いの打突をお見舞いする。
デビットもこれをもちろん読んでおり、すかさずカウンターを合わせる。だが鵜飼の方はフェイントだったらしく、途中から前進をやめて、バックステップで間合いをはずす。
ここでデビットは賭けにでた。怪我した右腕をおもいっきり振りぬく。すると血飛沫が舞い、鵜飼にとっては目潰しになる。
「ウッ!!」
鵜飼は思わず顔を覆う。
(今ダ!!)
心の奥底で勝利を確信して、スペスナズナイフのスイッチに力を込める。
(死ネェッッ!!!!)
ヒュン!!
スペスナズナイフの刀身が飛び、そのまま一直線に鵜飼の方向に飛んでいく!
だがデビットは人生で一番の驚愕を味わうことになる。
スッ・・・
なんと飛んでくるのを予測したように体を回転しながらスペスナズナイフの刀身を避けたのだ!!
(ナッッ!!! 馬鹿ナ!!!)
だが驚愕するデビットに間髪入れずに鵜飼は回転しながら包丁を納めて、『紫電』の柄を握る。少ししゃがんだ状態からの居合いが綺麗に一閃を描き出した。
ズバッ!!
スペスナズナイフを発射するために突き出していた左腕は見事に一刀両断されていた。デビットの左腕は自分の立っている大地に落ちる。
「グオオオオオォォォオオ!!!!」
馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!!!
なぜあの状態でナイフが避けられる!!
なぜ私の腕が落ちているんだぁああああ!!!
鵜飼はそんな信じられないという表情を浮かべるデビットに一瞥もくれずに、追撃の二の太刀を演じる。
ヒュン!!
だが兵士としての性か、それとも執念か、デビットの意識とは裏腹に体が動いた。横薙ぎで払った『紫電』の一撃を大きなバックステップで避けたのだ。
だが鵜飼はその場で『紫電』を捨てて、再びホルスターの包丁を抜く。そして抜いて投げるという流れるような作業を美しくやってのけた。
ヒュン!!
『紫電』の一撃を避けるのに精一杯だった体はそれについていけず、さらにデビット自身の思考もまだ回復していなかった。
馬鹿な馬鹿な!!
何故だ! 何故だあああああ!!
カッ!!
それは何かに当たる音だった。その音で現実に引き戻されたデビット。目の前には何かを投げたような格好をしている鵜飼が立っている。
なんだ・・・?
自分の体の下に目をやってみる。すると・・・自分の喉に包丁が刺さっているではないか!? いや正確にはプログラム用の首輪に刺さっているといったほうが正確か。
幸か不幸か、デビットは首輪に命を助けられたのである。
(ソウダ! 私ハコンナトコロデ負ケルワケニハイカナインダ! 勝ツンダ・・・)
ピ・・・・、という音が響き渡る。
なんだ・・・?
ピ・・・ピ・・・
不意に森の言葉が甦る。
「首輪は壊そうとした場合は爆発するからな」
と、ということは・・・・!
ピ・・ピ・・ピ・・
そんな馬鹿な!!
私は淘汰する側になるんだ!!
こんな温室のような環境で育ってきた奴に・・・!!!
ピ・ピ・ピ・ピ・
ふいに自分の足元にさきほど落としたトカレフがある。それを負傷した右手に握り、持ち上げる。
俺は勝つんだ!!
こんな所で死んでたまるか!!
勝つ勝つ勝つ勝つ殺す殺す殺す殺す!!!!!
ピピピピピピピピピ
「負ケテタマルカァァァァァッッ!!!!!」
俺がこんな奴に・・・!!
ピーーーーーー
ボォン!!
その音を聞いた瞬間、デビットの見ている世界がひっくり返った。
そして意識が遠のいていく・・・
そんな・・・・馬鹿な・・・私が・・・負けるなん・・・て。
首を吹き飛ばされても、自分の意識が暗闇に包まれる瞬間までデビットは勝利を求め続けていた。
私は・・・勝つ・・・・んだ・・・・
現実世界でデビットは引き金を引くことはなかった。
引き金を引く前に首輪が爆発して、デビットの首は見事消滅していたからだ。堕ちたデビットの頭の表情は現実を信じられないという顔をしていた。
デビットにとって、唯一にして決定的な誤算は一つ。
自分以上に経験を積み、地獄を経験してきた人間を認めようとしなかったこと。
実際、鵜飼はデビットが軍の養成学校に入る頃にはすでに戦場を経験しており、デビットが『ハーフブラッディ』候補生になる頃には『ロイヤルガード』の一員になっていた。
身体的な能力でいえば、デビットが上だったかもしれない。だが経験というスキルははるかに鵜飼の方が勝っていた。その差をデビットは認めようとはしなかった。
すでに物言わぬ首無し死体と頭だけになったデビットにとってはどうでもいいことかもしれない。
こうして「狂戦士」は鵜飼によってその人生に幕を下ろした。皮肉にもその死に方は、出発前に彼が挑発ついでに踏みつけた頭部・・・このクラスの前担任糟谷と同じ死に様だった。
【男子19番デビット=清水 死亡】
【残り・・・7名】