BATTLE ROYALE
死線の先の終末(DEAD END FINALE


59:武闘演義

 プログラム会場である長野県山中は、次第に天気が崩れてきて雲に覆われていた。
 その中で首が吹き飛んだデビット=清水(男子19番)の最期を目をそらさず見つめる少年。さきほどまで激闘を繰り広げたその少年、そして勝利者として大地に君臨しているはずの鵜飼 守(男子3番)

 だが彼の表情は勝利した喜びの色ではなく、ましてや死闘中に浮かべていた機械のような冷静な表情でもない。
 彼は苦悶の表情を浮かべていた。闘いの間は何かスイッチが入ったようだった。ただ・・・相手を抹殺する術だけを考えていた。
 だが闘いが終わった後、デビットの死に触れ、再び起こる頭痛。そして「あの声」が脳内に木霊する。
「クッ・・・・!!」

 やはり・・・副作用なのか・・・? 
 だがこのような頭痛はかつて経験したことがなかった。「あの声」を聞くのもあいつが死んだ頃以来、一度も頭に響かなかった。すべてはこのプログラムからだ。
 何なんだ? この頭痛は・・・
 さらに謙信の声だと・・・
 分からない・・・分からない・・・・

 完全に困惑している鵜飼は自分の精神的動揺をどうしようもできなかった。
 だが、一瞬嫌な悪寒が体中を刺激した。それは幾多の死線を乗り越えてきた「刃狼」の第六感でもあった。
 すかさずその場を移動しようとする。

 ガァァン!!!! 

 遠くからの銃声、そして左肩に激痛が走る。
「ぐぅッ!!」
 どうやら撃たれたようだ。しかもこの音・・・、ただの拳銃ではない。
 そう思って鵜飼は改めて自分のいる場所の危険性を感じた。デビットとの死闘と頭痛であまり気にしなかったのだが、森の中にも関わらずこの場所は森が開けており、障害物がない。

 つまり「狙撃」しやすい場所なのだ。
 それを考えるとさきほどの銃はスナイパーライフル・・・
 そして考える間にさきほど落とした『紫電』を拾い上げ、一旦草陰に隠れる。
 そこで狙撃した人物を考えてみる。狙撃銃というのは一般的にすぐ使えるような代物ではない。ちかくの射撃ならできるだろうが、中距離・遠距離からの射撃となるとそれなりの狙撃訓練が必要だろう。

 大東亜の一般的な中学生ができるはずもない・・・
 そう、一人を除いては。
 資料を見た時、自分の相手になるであろう3人の人物をリストアップしていた。すでにその中の一人・デビット=清水はさきほど殺した。残るは・・・2人。そしてその中で『狙撃』の訓練を受けうるもの・・・ 資料で本条 龍彦(男子20番)は戦闘訓練を特化して受けており、まだ狙撃訓練を受けていないとの報告があった。
 そしてそれができるのはただ一人だと確信していた・・・
「暗殺」にはもちろん狙撃も含まれるだろう・・・ そう思い、狙撃ポイントを探り当てようとする鵜飼
 彼の思考はこう結論づけた。相手の憶測と共に。

「暗殺手」である奴なら可能だろう。


 鵜飼のいるポイントから大分離れた場所・・・、少し見晴らしのいいポイントで鵜飼を狙撃した人物は舌打ちをしていた。
 狙撃手であるその少年・・・・暗殺の申し子・李 小龍(男子17番)はさきほど自分の手で葬った御手洗 武士(男子14番)から奪った狙撃銃・H&K PSG−1で鵜飼を狙撃したのだ。

 実は小龍デビットより先に鵜飼を発見していた。だがあの洒落にもならない殺気、あれを感じた時まともに相手してはやられると思った。
 転校生3人よりも危険な匂いがプンプンした。もちろん相手をせず、逃げることもできた。
 だが、この最大の強敵である鵜飼は優勝するためには避けて通れない相手。さらにここで逃げては、自分のために殺した正義感の塊の春日部 大樹(男子5番)や自分に復讐の遺志を託して殺された御手洗に顔向けができないという思いが小龍を駆り立てた。

 さらにいつもの能面の表情とは一変した苦悶の表情をした鵜飼。さらに出発前は微塵も感じさせなかった凶悪な殺気。
 明らかに平常心ではないことが伺えた。そしてその後、外国人ハーフの転校生と戦いを始めたことにより、このプランを決めた。
 見晴らしのいいところから、勝利者を狙撃するというプランを・・・

 狙撃は完璧だったはずだ。確実に心臓を狙い撃ったはずだった。
 だがなぜかターゲットは右に反れて、結局は左肩を撃ち抜いただけだった。だが無傷よりかはましだった。
 相手は複数の銃器を持っている上に自分は銃といえば、この大きなスナイパーライフルだけ。近距離戦になれば圧倒的にこちらが不利だ。
 スナイパーライフルはあくまで遠距離狙撃に向いており、近くでは拳銃の方が使い勝手がいい。そういった意味で逃したのは痛かった。
 普通ならどこから撃ってきたといってその場で周りを見渡したり、動揺したりするのだが、鵜飼は一目散に近くの武器を拾い上げ森の中に隠れたのだ。
 奴が普通の中学生でないことは容易に想像できた。おそらくこの国で特殊訓練を受けた少年であろう。ならば今頃は狙撃ポイントを探し出し、接近してきているに違いない。

 ならば・・・、向かい撃ってやるさ! 
 俺には生き残る義務があるのだから・・・・。
 蓮花のこともさることながら、もはや2人分の命を受け継いで俺は生きていかなくてはならない。そんな強い意志を小龍は持っていた。
 とりあえずこの狙撃ポイントは探られる危険性があるので移動することにした。

 ポツ・・・ 

 そんな小龍の頬に何か落ちてきた。
 これは・・・、雨? 
 ポツ・・ポツ・・ポツ・・ 
 天候が崩れてきているとは思っていたがここで雨とは・・・・。
 そのうち雨はどんどん強くなっていった。通り雨のようだが、雨は小龍の頭上から重く降り続けていた。

 ザァァーーーーー!! 
 くそ! よりにもよって雨が降るとは! 
 この天候では音による察知も難しいだろうし、なにより視界が悪くなる。狙撃がしにくい条件なのだ。
 だが相手にとってもこちらを察知するのは容易ではないだろうし、さらに気配を殺せば発見の可能性はほとんどゼロに近い。
 自分のいる場所は前方は見晴らしのいい坂が下りになっている場所で、さらに周辺は障害物に囲まれている。自分の後方はちょっとした断崖があり、後方からの襲撃は皆無・・・
 もしこちらが発見されてしまうと、逃げ場がないという欠点もあったが、守勢に徹する気はさらさらなかったし、こちらが先に発見できる可能性の方が断然に高い。

 そんな有利な条件の場所を狙撃ポイントにしたわけだが・・・、肝心の鵜飼が探し出せないのでは話にもならない。さきほども言ったように雨で視覚・聴覚共に、探索能力が削られている。この条件下で獲物を探し出すのも難儀な話である。
 だが、この雨も長くは続きはしないだろう。急に振り出して強くなるのは通り雨の特徴だ。
 とにかく、この雨を止むのを待ってから・・・

 そう思っているとPSG−1のスコープにありえない光景が目に飛び込んできた。
 なんと100m先にもうすでに自分が仕留めそこなった鵜飼が居るではないか! 
 すでに右腕にはワルサーP−38が握られており、さらにさきほど撃ち抜いた左肩には応急処置をした形跡が見られる。驚くべきことはそれだけではない。まるで自分の位置がバレているように、正確にこちらの距離を縮めてくるのだ。

(くっ! バレているのか!? だがしかし・・・)
 小龍は一瞬迷った。撃つべきか、撃たざるべきか・・・ だがすぐに答えは出た。
 気配を殺し、ただ獲物を狩ることのみを考えて、PSG−1の銃口を鵜飼の心臓に合わせた。
 だがここでも鵜飼の行動は小龍の予測の上を行った。スコープを見た瞬間、こちらにワルサーの銃口を向けている鵜飼がそこにいたからである。
(何ィ!!)

 ドン!! ガァァン!!!! 
 咄嗟に防衛本能が働き、小龍の体は鵜飼の銃撃を避けるような行動をとったのだ。それが災いしてか、鵜飼に向けて放たれた銃弾は体を突き抜けることなく、そのまま通過していった。
「あそこか・・・!」
 鵜飼は獲物の狙撃ポイントが分かると猛然と距離を詰めるため走り出した。そのさい、ワルサーでの牽制も忘れることなく、銃を撃ちながらであったが。
「くそ・・・!」
 優勢な状況が一変、窮地に落とされた小龍。こうなったらいちかばちかの作戦にでることにした。
 ガァァン!!!! 
 もう一発ほど鵜飼に向けてPSG−1の引き金を引く。だが先手を取られているので、まずい姿勢での射撃であったので命中までもいかなかった。

「ウオオオオ!!!」
 そういいながら、突撃体勢で銃を構えながら鵜飼との距離を詰める小龍
 幸い、こちらが下りだったこともあってかなりスピードがでた。
 ガァァン!!!! ドン!!! 
 お互い一発ずつ撃ったが、両者共に雨と足場の不安定さに、相手に当てることはできなかった。
 そしてそこまで距離がなくなった時点で、小龍はPSG−1を投げる。
 狙撃銃だったので普通の銃より重量があった。それを見越して、鵜飼はとっさに右に避ける。
 ガシャン!!! 
 自分の後ろにあった木に勢いよく命中した。かなり派手にぶつかったのだ。これであの銃は使い物にならない。
 一瞬そう判断した後、鵜飼は自分の目の前にいるであろう小龍にグロックを向けた。

 だが小龍は目の前にはいない。
「ぐっ・・・!?」
 一瞬、どうなったかわからなかったが、すぐに理解した。なぜなら、自分の頬に衝撃が走ったからである。
 鵜飼の視界の頭上からやってきた小龍の飛び蹴りは見事鵜飼の頬にヒットしていた。
 鵜飼にPSG−1を投げた後、小龍は勢いに任せて跳躍していたのだ。雨で視界が狭くなっていた鵜飼には消えたように見えたのであろう。
 さすがの鵜飼もこの勢いに負け、吹っ飛ばされる。そのさいに手に持っていたワルサーはどこかに放り投げてしまった。

 体勢を崩す鵜飼を尻目に小龍は一気に勝負にでる。腰に挿してあった菊一文字を抜いて、鵜飼に斬りかかる。
 脳を揺さぶられるダメージを受けた鵜飼だったが、すぐに立ち直り、バックステップで避けようとする。
 それを見た小龍はさらに一歩踏み込んで斬りかかる。上段からの太刀が美しく舞う・・・ 確実にやられそうな太刀であったが、鵜飼の生存本能はさらなる力を呼び込んだ。
 バックステップからさらに力を入れて後方に飛んだのだ。

 スパッ! 
 紙一重で避けきった鵜飼。とはいえ、完全に避けきったわけではなく、胸には一筋の傷が刻まれていた。少し肉を斬られたようだ。もう一歩間違えば、確実に命を落としていただろう。
 しかしそんな鵜飼にさらなる追撃を重ねる小龍。自分の腰の『紫電』を抜く暇すら与えてくれる気はないらしい。
 今度は横薙ぎ。これもなんなく避けるが、次はそこからの切り替えしの袈裟斬り。決して悪くはない太刀筋。こっちが抜く暇すら与えない連続攻撃。
 しかも雨で視覚が鈍り、足場がどんどん悪くなっていく。

 しかしこのような絶体絶命のピンチにもかかわらず、鵜飼は冷静だった。
 幾度となく圧倒的不利な状況で生還してきた経験が鵜飼の精神を強固にしていたのだ。そして、小龍は上段からの斬撃を放つ。
(待ってたぞ!!)
 鵜飼はわずかのサイドステップでそれを避ける。そしてそのまま横から小龍の刀の峰を踏みつける。勢いと鵜飼の圧力によって小龍の刀はそのまま地面に食い込む。
「な!?」
 だがすかさずそこから鵜飼の上段のハイキックが飛んできた。咄嗟に左腕でガードする小龍
 だが上段のハイキックはフェイントで、そこから変化したミドルキックが小龍の腹部に命中した。その強烈な蹴りに後ろに下がる小龍
 すかさず、鵜飼は自分の愛刀『紫電』を抜く。 
 ヒュン!

 最初の居合いの一撃はなんとか避けたものの、次の追撃は避けきれない! 
 そう踏んだ小龍は後ろの腰に挿してあったサバイバルナイフをノーモーションで投げた。 
 あまりの動作の少なさに鵜飼も反応が遅れる。避けきれる距離ではなかった。このまま行けば頭にナイフが生えることになるだろう。

 その瞬間・・・勝負はついた。

 ドカッ!! 
 ナイフは確かに命中した。
 だが命中したところは頭とナイフの間に入れた鵜飼の左腕であった。ナイフが刺さってもかかわらず、鵜飼は右腕の『紫電』を全力で振り切った。
 ズバッ!! 
 そして今度こそ決着はついた。
 鵜飼の斬撃は小龍の腹部を確実に捉えていた。腹部から胸部にいたる横一文字の傷・・・ そこからはすべての決着をつけるかの如く、敗者の血が流れ落ちていた。

 勝者の名は・・・鵜飼 守、膝を付き死に行く者は李 小龍と言った・・・・・

【残り・・・6名】
                           
                           


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