BATTLE ROYALE
死線の先の終末(DEAD END FINALE


63:踊る盲信者・歌う抵抗者

 自らの眼前には裁くべき咎人がいる。しかも複数とは・・・、かなり都合がいい。

 そう思いながら、臆病な顔をしている真中 冥(女子15番)は内心ほくそえんでいた。
 外面は弱々しく見せるための『気弱な真中 冥』を演じきり、内面は殺意の刃をギラギラと研ぎ澄ましている『使徒・メフィスト=イオン』が目の前の相手をどう料理せんかと模索していた。

 遠山君に、黛さん。あとは・・・転校生・・・か。ちょっと意外な組み合わせね。
 完全にやる気で乗り込んできた転校生と思っていた本条 龍彦(男子20番)と、クラスでもお人好しの部類に入る遠山 慶司(男子10番)黛 風花(女子17番)が一緒にいることには少し疑問を抱いた。
 チームを組んでこのゲームに乗っているのか、それとも違う目的なのか・・・
 当然ながら慶司の「やる気がない」なんていう発言を信じてはいなかった。
 だが誰でもクラスで一番体格がない自分が相手であれば油断するはずである。騙しあいでに勝てる者などいないという確信が自分にはあった。
 さらにお人好しの甘ちゃんの慶司風花なら簡単に騙せるだろうと思って姿を現したのである。

 だが一人計算外の男がいた。そう、転校生・本条 龍彦である。
 この男は現実主義だ、そう目星をつけていた。
 少なくとも、転校生には今までの自分のイメージを知らないので、演技による策略は通用しないだろう。
 そういった意味で、転校生との対決は武器が充実してから、もしくは誰かと潰しあっている時にのみに相手をすることにしようと計画していたのである。
 だが意外にもこの目の前の短髪の転校生は甘ちゃんのようである。

 仲間なんて、最後になれば潰しあうだけの存在だろうに・・・
 いや、もしかしたら最大限に利用しているだけかもしれない・・・
 でも利用している場合でも、私の演技で仲間割れを起こさせてあげるわ・・・

 心の中の使徒と言う名の「悪魔」は笑顔でこの場を血の海にせんと画策していた。そして今の真中 冥はそんな使徒の一部分すら出さずに、3人と対峙している。
 色々と考えながら、お得意の演技を披露する。
遠山・・・・・・さん
 我ながら気弱で惰弱なの演技がうまいと使徒であるイオンは苦笑していた。
真中さん! 無事だったんだね・・・!」
 そうやって駆け寄ろうとする風花慶司が手を出して静止する。
真中さん・・・、君はやる気じゃないんだね?」

 フフフフ・・・、アッハッハッハ! 何言っているの、遠山君! 本当におかしいわ! 
 殺し合いがルールのこのゲームでまだそんな甘いことを言ってるなんてね! 
 やっぱりゼムス様の言うとおりだわ。この会場にいる生徒はみんな私に裁かれるだけの愚かな罪人だってことがね! 

 そんな慶司の言葉に大爆笑の心中とは裏腹に、外顔のは脅えきった表情でこう言った。
「わ・・・、私、これが始まってから・・・ずっと・・・隠れてたの・・・・ こ、怖くて・・・・」
 さらに演技の幅を広げるために小刻みに体を震えださせる。さらに涙を流す。
「で、でも・・・・、目の前で・・・・殺し合いが・・・あって・・・・必死で・・・・逃げてきたの・・・・ そしたら・・・・遠山君や・・・黛さんに・・・・会えたの・・・・」
(フフフフフ、本当は診療所に行けば誰かいるかな〜って思っていたんだけど、まさに正解だったわけね♪)

 凄まじい二面性を微塵も出さないの演技力に二人はまんまと騙されたようだ。安堵の表情を浮かべている。
「そうか、でももう安心だよ。みんなここから脱出できるんだ! さあ、こっちに来て・・・」
 その言葉を聞いてピーンときた。
 なるほど、転校生はこんな甘い幻想を餌に二人を騙しているのね。もしくは本当に脱出するつもりか・・・

(冗談じゃないわ! 私の使命は一人残らず神敵を抹殺することなのよ! 誰一人逃がすものですか!)
 脱出という罪深い行為にさらなる殺意を覚えたはあくまで脆弱な表情を崩さずに近寄ろうとする。
「あ、ありがとぅ・・・」
 だがそれを止める声が響き渡った。
「動くな」
 その声は遠山君のものでも、黛さんのものでもなかった。あの短髪の転校生の声である。

 龍彦は厳しい表情で腰に挿してあったコルトパイソンを抜いている。その銃口はしっかりとを捉えていた。
本条!」
遠山、少し試させてくれ。真中さん・・・といったか」
(やっぱりこの転校生・・・本条という名前らしいわね・・・油断ならないわね)
 使徒・イオンの中の警戒の鐘が鳴る中で、は至って冷静に脅えた声を出す。
「は・・・はい・・・」
 銃口を向けられて恐怖したことをアピールするためにさらに小声にする。
「お前の支給武器はその手に持っている銃か?」
 龍彦に言われて慶司風花は初めて気がついた。がその手に銃を持っていることを・・・
「はい・・・これ・・・・私の・・・・支給された・・・武器です・・・」
(本当の持ち主はもう永遠の眠りのなかにいるでしょうけどね・・・)

 すると目の前の龍彦は少し考えだした様子だった。
 そして急に思考を止め、こちらを向く。その龍彦はさきほどよりさらに厳しい表情をしており、ついにコルトパイソンの撃鉄を下ろした。
「墓穴を掘ったな、真中
(な、なんですって!? どういう・・・)
「ヒッ! ど、どうして・・・」
 狼狽する気持ちを抑えながらも、さらに演技し続ける
本条さん! 何で!」
本条! 真中さんを撃つつもりかよ!」
 慶司風花も突然の龍彦の行動に戸惑う。
「こいつはウソをついた。少なくとも一つな・・・」
 静かなる口調で龍彦は続ける。
真中。その銃、お前の支給武器だって言ったよな?」

 ここからは心理戦が展開される。もそのことは重々承知だったので頭脳をフル回転して答えを導き出した。
「はい・・・」
「その武器は『イングラムM11A1』というサブマシンガンだ。プログラムでサブマシンガンが支給されるのは多くて3つ、少ない時は1つだ。かなり強力な武器なんでな・・・」
(この男・・・、一目でこの武器の特徴がわかったっていうの!?)
 その知識力に驚嘆する
「そして、俺はその武器を一度このプログラムで見ている・・・ どこだかわかるか?」
(ま、まさか、この男!)
 は自分の失言にこの時気がついた。
「確かひ弱そうな男子生徒・・・、最初の方に出発した赤平ってやつが、能登って女子にその武器で射殺されていた。その時、俺は近くで目撃していたんだよ。スタートして本当にすぐだったからな・・・、そのイングラムは能登の支給武器だろーよ。つまりお前はウソをついているってわけだ」
 は自分のミスを悔いていた。
 だがまだまだ挽回できるくらいのミスだ。致命的ではない。
「あ、あの・・・、私・・・、これ・・・、は、能登さんの・・・・、あの・・・死体・・・から、拾った・・・の」
 そうして涙を浮かべる。当然脅えきって悲哀の篭った表情を創りだしていた。
「死体・・・なんかで・・・拾ったなんて・・・・言ったら・・・・私を・・・信じて貰えない・・・て・・・思ったから・・・・ごめんなさい・・・ヒクッ」
 そんなの演技に慶司風花は完全に騙されているようだ。
真中さん・・・」
本条、誰にだって間違いはあることだ。混乱してたのかもしれないしさ」

(フフフフ、まぁせいぜい仲間割れして頂戴。その隙にこのイングラムで蜂の巣にしてあげるから)
 だがそんなの演技や慶司の説得などまるで無視するかの如く、龍彦は不敵に笑った。
「クックック、これで決定的だな、真中
 そして殺気を放った表情に変化した。
「お前は卑劣な策を張り巡らし、演技によって人を食い物にする悪女だってことがな!」
 その急に増幅した殺気には怯みながらも答えた。
「ひ、非道い・・・ 私が・・・」
「お前はイングラムを能登の死体から拾ったといった。だがそんな暇がいつあったんだ?」
 が言い切る前に龍彦は反論で畳み掛けた。
 こう騙すのに長けた女に喋らせると、甘ちゃん・素直すぎる慶司風花が完全に騙される可能性があったからだ。
「お前は最初に確かに言ったよな? ずっと隠れていた・・・てな。そのお前に1日目の夜に死んだ能登のイングラムをいつ拾うことができたんだ!」
 よく龍彦の言っている意味がわからない慶司風花もようやく気づいた。
 は完全に目の前の龍彦に一本とられたと思った。

「つまりその手に持っているイングラムが支給品だろうがなかろうが、お前はウソをついているってことだ。おっと逃げている途中で偶然拾ったってのはなしだぜ。逃げるのに夢中だった上に日も暮れた状態で能登の死体があったとしても、その手にあるイングラムを見つけるなんてほぼ不可能だしな」
 そうやって龍彦の表情から一切の感情が消える。殺気が一つに集約され、研ぎ澄まされる。
「俺の結論はこうだ。お前は今の今まで動き回って少なくとも一人殺した。能登をな・・・ しかも能登はやる気の部類だから、自殺ってことじゃないだろ。マシンガンを持って敵を見つけたら容赦なく撃つような能登じゃ、ついやってしまったなんていい訳も通用しないぜ。つまりお前がやる気で、俺たちを騙して寝首をかこうというのは明白だ」
(くそ、こんなことで私の計画が破綻するなんて・・・! こうなったらとことん交戦してやろうかしら・・・)
 そんなことを内心思っていると慶司龍彦に食って掛かった。
「ちょっと待てよ! お前の言っていることは納得できる。でも確実じゃないんだろ!?」
(ア、アハハハハハ、遠山君ナイス! ここまで来ると馬鹿を通り越して、天然記念物モノだわ!)
 まだ自分の演技に騙されている慶司に感謝しながらも逆転のシナリオを必死に練り始めた。

「そうだな・・・、確かにお前の言うとおりだ」
遠山君、そのまま時間を稼いでいてね・・・、その間に・・・)
「だが」
 バァン!!! 
 頭脳をフル回転させているの心臓部に強烈な打撃が加わった。
 そのあまりに強い衝撃には派手に後ろに倒れてしまった・・・

 言葉を言い切る前に龍彦はコルトパイソンの引き金を引いたのである。しかも狙いは正確での心臓をしっかりと捉えていた。
「1%でも可能性がある限り、俺は殺る。ただそれだけだ」
 一瞬でを殺したことで、慶司風花は呆然としていた。ただ何が起こったのかわからなかった。
 いきなり大きな銃音が聞こえたかと思ったら、目の先にいたは倒れており、龍彦の銃からは硝煙が上がっている。
 これは・・・つまり・・・
本条・・・? 真中さんを・・・撃った・・・のか?」
 今だ自分の目の前で殺人が行われたことに信じられない慶司
「そうだ」
 だが龍彦慶司を夢心地から抜け出す一言を放ってみせた。当然、慶司は食って掛かる。
「何でだよ! 可能性はゼロじゃないって言ったろ!?」
 だが龍彦も負けてはいない。
遠山、いいか。人間にはお前らみたいに素直な奴もいれば、俺やあいつみたいに騙すことに長けた奴もいるんだ! そしてあいつにはその可能性があった」
 そういって語気を強める龍彦
「よく考えてみろ? 出会い頭からウソをつく奴と一緒に行動する気になるか? しかも俺たちを完全に騙すつもりだった奴だぞ! そいつを仲間にしてチームが破綻するようなことになったらどうするつもりだ! 俺やお前だけでなく、黛さんも命を落とすことになるんだぞ!」
 龍彦は厳しい顔を創りながらも、慶司を必死に諭そうとした。
「でも・・・!」

遠山、俺はお前らに生きて欲しいんだ。・・・・それだけはわかってくれ」
 静かながらも重みを感じさせる言葉。とてもウソをついているような言葉とは思えなかった。
 これが本条 龍彦の本音なのかもしれない。
 慶司は一気に頭の熱が冷めるような感覚に襲われた。
「・・・・悪かった。突っかかってさ・・・」
 素直に自分の暴走を謝罪する慶司
 この言葉に龍彦は少し笑いながらもしっかりと縦に頷いた。気にするなってことだろう。
 風花もほっとしていた。
 なんとかチーム崩壊の危機は去ったわけである。

 だが風花がその安堵な表情から驚愕の色に変わるのを龍彦は見逃さなかった。そして兵士として研ぎ澄まされた第六感はその危険を感じ取った。
遠山! 黛さん!」
 とっさに慶司風花を強く押す龍彦。その衝撃で慶司風花は後ろに下がって倒れる形となった。
 パララララララ!!! 
 龍彦は自分の肉体に銃弾が当たったことをその音の後に認識した・・・
 その音の発生源がさきほどコルトパイソンの弾丸を撃ち込んだ真中 冥の所から聞こえてきたことを知るのはほんの1秒後であった・・・

【残り・・・6名】
                           
                           


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