BATTLE ROYALE
死線の先の終末(DEAD END FINALE


70:悪夢の最終ラウンド

 この夜明け前の診療所には3人の人影があった。遠山 慶司(男子10番)黛 風花(女子17番)本条 龍彦(男子20番)の3人の男女である。
 この3人はいつ襲い掛かってくるかわからない鵜飼 守(男子3番)の襲撃に備えていた。
 龍彦がいう「もう一つの脱出プラン」はひたすら待つことが前提らしい。そして時間を待つのに一番注意しなければならないのが、敵の襲撃である。
 鵜飼が完全にやる気なのが残念でならないが、相手が政府関係者となると脱出プランを持ちかけて万事解決とはいかない。

 よって見つかれば、殺しあわなければならないのだ。
 慶司としては「もう一つの脱出プラン」がこのまま発動してくれれば言うことはないのだが、すでに禁止エリアも狭まっている。見つかる可能性も高い。
 さらに闇に乗じての奇襲なんて、兵士としての経験がある鵜飼ならお手の物だろう。
 故に龍彦が張り巡らしたトラップと、レーダーに常に注意を注ぐ。

 奇襲さえ防げればかなりの確率でこちらが優位に立てる。
 この意見は龍彦の意見であった。
 こちらの武装は、サブマシンガン3丁、ショットガン、レーダー、防弾チョッキ、拳銃も4丁、さらにグレネードランチャーなんて代物もあるほど、豪華な装備だ。
 相手も武装しているだろうが、武器の火力ではこちらが上回っている。
 いかに鵜飼が優秀な兵士であろうと、銃弾を受ければ死ぬし、弾丸を避けるほどの素早く動けるわけでもない。
 要は奇襲で接近を許さなければいい。圧倒的火力でこちらが圧倒すればいい。
 それは龍彦が一番と思っている理想だ。

 自分一人なら鵜飼に勝てる自信はあまりなかったが、今は遠山がいる。黛さんに銃を持たせるのは酷なので、最低限の護身用の武器を渡しておいた。そして遠山と俺で、鵜飼を迎え撃つ。
 そう思いこの夜中、常に監視を緩めず警戒を行っていた。
 俺が奴なら夜陰に乗じて仕掛けてくるはず。
 そう思った、だが結局鵜飼は現れずに夜も明けようとしている。

 龍彦は首を傾げるしかなかった。
 もうプログラムも3日目、奴ならさらに人が集まりそうな場所を探しているに違いない。だとすると廃工場か、この診療所を探すはずだ。
 一応警戒しながら慎重に探しているのか、それとも・・・

 正直言って、鵜飼が自分が仕掛けたトラップに引っかかるとは露とも思っていなかった。
 鵜飼ほどの兵士ならこの手のブービートラップなど猫の手を捻るより簡単だろう。
 正直、夜の闇と鵜飼が油断して引っかかってくれれば、そのくらいの気持ちである。
 本命は今黛さんが持っているレーダーである。これがあれば近くに接近してきた相手を探知できる。
 さきほどレーダーの監視を怠った浪瀬 真央(女子20番)の時とは違い、今度はこちらが篭城戦のように待機している状態だ。さきほどのような状態には決してならない。
 そしてある程度の緊張感を保ちながら、休息も交代で取っていたので、だいぶ体力が回復してきたのも好材料だ。
 幾分、遠山黛さんの顔色がよくないものの、睡眠不足で眠気が襲ってくるというほどの疲れでもなさそうだ。

 この状態でいければ、「もう一つのプラン」の発動まで持ちこたえれそうだ・・・
 そんな考えが頭に浮かぶ。そしてそのプランのキーマンとも呼べる人物との邂逅が思い出される・・・


 それは龍彦慶司と照明弾を取りに行った時にまで遡る。
 波山邸に潜入した龍彦はひとまず台所に向かった。
 そして台所から包丁など武器になりそうなものを回収して、台所の戸棚の裏に隠してあった照明弾を回収する。
 これは脱出作戦『α』で使うものだったからだ。

 そして龍彦は目的の物を取ると、台所をでて2階へ上がる階段の側面にでる。
 どこにでもある階段。その階段の側面にでる道の先には寝室があるが、別にその寝室には用はない。
 そしてその階段の側面に手をかける。
 普通に見れば何もない木の壁。だが龍彦が力を押すと壁は回転し、中に少しだけある「小部屋」が姿を現した。
 そう、これは忍者屋敷などに使われる「どんでん返し」である。
 会場をくまなく調べる専守防衛軍と言えども、まさか一般の市民の家にこのような仕掛けが施されているとは微塵も思わなかったらしい。
 何せここは住宅街、周りには無数に家はあるのだ。「木の葉を隠すなら森の中」とはよく言ったものだ。

 そしてその小部屋には地下へ続く階段が存在していた。龍彦はその階段を下りる。
 少し降りた所に扉が姿を現す。龍彦はその扉を開ける。
 その部屋は無数のコンピュータ機器で溢れかえっていた。
 はたから見れば研究者の作業場のようだ。
 そんな地下で地上の光が届かないこの場所にいる、今は椅子に座って何か作業をしている男がいた。

 その男は龍彦が入ってくると机に置いてあった銃を素早く構える。
「誰だ?」
 鋭い殺気を放ちながら男は問いかける。
「俺ですよ、本条 龍彦です」
 その言葉を聞いて男は安堵したのか、銃を下げる。
「そうか、君か・・・・」
 男は口髭を生やしており、外見は凛々しく、一般的な評価をすれば「ナイスミドル」と言ったところか。
「お久しぶりです。三村さん

 自分の目の前にいる男は反政府組織同盟『革命の月』の中でも主要メンバーの一人と言われ、コンピュータ知識から戦闘能力までトップクラスの実力を誇る幹部、三村 真樹雄であった。
「さすがの政府もここは発見できなかったようですね」
 三村は専守防衛軍にここの周辺住民が強制退去させられる前からここに潜んでいた。
 プログラムまで持ちこたえられる食料、自家発電装置、政府本部へハッキングするためのコンピュータ機器に、それを可能にする環境・・・

 脱出作戦『β』とはここに潜む三村が政府コンピュータにハッキングをかけて、ウィルスによって政府の管理コンピュータを麻痺させようとする作戦であった。
 外部からのハッキングは難しいが、この周辺のサーバなら何とかハッキングできるような環境を1ヶ月以上前から構築してきた。
 それを成功させたのが、専守防衛軍内部のスパイ・龍彦のプログラムの開催場所に関する情報である。
「さすがにこんな隠し部屋まで目が回らなかったのだろうな」
 三村は余裕の笑みを浮かべる。顔は笑いながらも手はしっかりと作業をしている。
「どうですか、『β』の進行状態は?」
 龍彦としても気にかかる点だ。何せ『α』が失敗するともう三村の力が命運を分けるといってもいいくらいだからだ。
「やはり難しいな・・・・。政府の最新式に比べて、こちらは2世代は遅れている。やはり3日目以降になる・・・」
この当時、政府のコンピュータと市販のコンピュータとでは処理速度に段違いの差があり、三村の腕を持ってしてもハッキング・セキュリティ突破・ウィルスを送るという一連の作業には時間がかかったのだ。
「できればこの作戦は実行に移されない方がいいのだがね・・・」
 三村は神速とも言える作業をしながらも、皮肉そうな表情を浮かべた。

 そうなのだ、この作戦が実行に移されるということは、『α』の失敗。
 つまり本部襲撃班の全滅も考えられるからだ。
 それは同胞の多大な犠牲を意味する。三村としてもこの作戦は実行に移されたくないわけである。
「ですが、あなたの力は必要です。尊い生命がかかっているのですから・・・」
 龍彦とて三村の気持ちは痛いほどわかっていた。そして現在政府に戦いを挑もうと命を賭けている反政府組織のメンバーも同じ気持ちである。
全員が「このプログラムで犠牲になろうとしている生徒を救いたい」という思いを胸に作戦を展開している。
「そうだな・・・ 犠牲は覚悟の上かもしれないな・・・ すべては罪もない子供たちを救うため・・・」

 反政府組織に参加している者は、そのほとんどが政府に何かを奪われている。
 それが権力であれ、財産であれ、家族であれ、恋人であれ、友達であれ、何の罪のない者たちから国家は奪っている。
 正常な民主主義なら選挙などで国民の意見を反映すればいいが、あいにくここは「共和国」なんて言葉だけの飾りの「総統」という独裁者と一部の権力者が権勢を振るう独裁国家。
 今も国民から何かを奪っている国家と権力者たち。
 罪もない人々を救うには、戦うしかないのだ。

 例え国家から「反逆者」と言われようとも。
 それが本当の意味で人を救う行為なのだから。
 もう犠牲者を出したくない。

 三村はそう願っていた。
 自分のように理不尽な権力に運命を狂わされて、悲劇を味わう者をこれ以上増やしたくない。だから第一等市民なんて裕福な地位を捨てる覚悟をした。
 すべては自分の「理想」のために。「本当の自由」を味わえる国を作るために。
「ええ・・・・・、それは俺の望みでもありますから・・・」
 そう言って龍彦は天井を見上げる。
「誰か・・・、連れてきているのかね?」
 上が少し気になる様子で心配そうな顔を浮かべる龍彦三村が問いかける。
「ええ・・・、ものすごい甘ちゃんな奴ですけど・・・」
 龍彦は苦笑いを浮かべながらも、何か嬉しそうだった。
「現実主義の俺より、あいつのような人間がこの国には必要だと思うんですよ・・・」
 その時、龍彦の表情が何か虚しさを浮かべて、何か死に行く者のような様相がでていた。

「そうか・・・」
 三村はその死相を幾分か心配しながらも、龍彦の無事を祈るしかなかった。
 この幼いながらも一流の兵士でもある彼、彼もまたこの狂った国が生んだ犠牲者であるのに・・・。
 哀れみを感じながらも、それだからこそ彼にも見せてあげたいと感じていた。
 自分たちが生み出す国を。
「生きて帰ってきなさい、本条君。必ずだ」

 そんな言葉はこの戦場では気休めにしかならない。
 だが龍彦はそんな三村の言葉が嬉しかった。
 三村が最初に自分にいった言葉を龍彦は鮮明に覚えている。
「この国の子供たちの未来を守りたい」
 その子供に自分が入っているのだとわかったからだ。
 自分の未来は血塗られた未来しか思い浮かばないが、三村の言葉をしっかりと受け取っておこうと龍彦は思った。
「はい、三村さんも気をつけて」

 そしてそのまま波山邸を後にしたのであった。その後、見張りをしていた遠山の姿が見えず、探し出した時にはクラスメイトに殺されそうになっている時には驚いたものだ。


 そんな2日も経っていないのに、まるで昔のことのように思い出されるなんて、俺もヤキが回ったかな? 
 そんな自分に少し自嘲気味だった。
 とにかく三村さんの言うとおりなら、今は3日目。もうそろそろなんだ。
 本部コンピュータがウィルスによって管制不能なれば、間隙をついてここから脱出することも可能だ。
 とにかく待つことこそ、最重要項目なんだ・・・
 それは祈りでもあった。だが生きるという強い意志でもあった。

 険しい表情で警戒に当たる龍彦に、慶司風花は話しかけることができなかった。
 自分たちも寝ている場合ではない。もうすぐ脱出するかもしれないのだから。
 その緊張感が二人の状態を逆によいものにしていた。

 すでに日は昇り、陽光が差し込んでくる。
 もう夜も明け、そろそろあのうるさいの放送が流れるはずだ。
 騒音と蔑むの放送だが、正直慶司はこの時まで生きていられるか不安だったので、少し安心するという複雑な気分だ。
 するとガガッと放送のスイッチが入る音がする。
「あーーー! 諸君、お早う! 元気に朝を迎えられたか〜!」

 相変わらず騒音とも取れる凄まじい音量。 
 こいつと近所には絶対住みたくない。慶司は心底そう思っていた。
「あ〜、うっるさいなぁ・・・」
「ほんと・・・」
 風花も呆れ顔だ。だが重要な情報を流すの放送なので聞き逃すわけにもいかない。

「ふぅ・・・」
 龍彦はこの放送で少し気が抜けた感覚になった。
 だがそれに激しく違和感を感じた。
 なぜ、俺は気が抜けるんだ。
 そうだ、担当官の放送はチェックしなくてはならない。禁止エリア・死亡生徒などは重要な情報だからだ。
 聞き逃せば命が・・・・

 そして龍彦は自分を包み込む嫌な違和感に気づいた。
 まてよ・・・! もう死亡生徒は関係ないんじゃないか? 
 残りも少ない。禁止エリアも数時間でケリをつけてしまえば・・・・

 そして一つの結論に至る。

 もし俺たちが一つに固まっていることを奴が知っていたなら・・・・! 

黛さん! レーダーを貸してぇ!!」
 放送を聞いている慶司風花が驚くような大声で龍彦が叫ぶ。
 龍彦は目を離しているレーダーを風花から奪い取る。そして龍彦はレーダーを見る。

 点は・・・4つ! 

 しかも外部からとんでもない速度で近づいてきている。
遠山、東だ!」
 その言葉に慶司は戦慄した。
 つまりその意味は敵が近づいてきた・・・という意味だった。
 龍彦は自分の武器を持って東の部屋に向かう。慶司も準備してあったものを持って龍彦に続く。風花も同様だ。

 の騒音放送はまだ続いている。
「ど、どういうことだよ!」
 走りながら龍彦に問いかける。
「奴は放送が始まるまで待ってたってことだ!」
 要は放送時に襲撃することを鵜飼は選んだということだ。
 放送の騒音のような声は音を掻き消し、聞く者もその時だけはその声に集中する。
「奴はこの放送は意味がないと判断したんだ!」
 そう、つまり1時間以内に決着をつける。
 鵜飼が至った結論とはそんなところだろう。

 東の部屋に着くと龍彦は窓を開ける。そしてすぐにUZIを構える。
 その銃口の先の森の奥には、瞳には無を、体には嵐を宿した鵜飼 守が猛然とした勢いでこちらに近づいてきていた。
「・・・・では、諸君の健闘を祈っているぞ!」
 このの放送の最後の言葉が銃撃戦の開始の合図になった。今、最終決戦の火蓋が切って落とされた・・・・

【残り・・・4名】
                           
                           


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