BATTLE ROYALE
死線の先の終末(DEAD END FINALE


71:生きる意味〜人の章〜

 プログラム3日目、このプログラム生存者が今、この診療所に集結した。ここまで生き残ったのは4人だった。
 その4人は2つの目的に分かれていた。
 1つはプログラム脱出。
 1つは自分以外の参加者の抹殺。

 脱出を目的とする遠山 慶司(男子10番)黛 風花(女子17番)本条 龍彦(男子20番)はこの診療所を拠点に篭城をしていた。抹殺を目的とする者を待つために・・・
 そしてその男は来た。これまで11人の参加者と8人の妨害者をその手で葬ってきた鵜飼 守(男子3番)は最後の決着をつけに、3人の下に来襲したのである。
 脱出を旨とする3人にとって鵜飼は脱出のための最後の障害であり、鵜飼にとって3人は優勝するための最後の敵であった。
 つまり4人のこの時の目的はピッタリと一致していた。

「殺るしかない」

 お互い相容れぬ目的ゆえに、そのような結論に至るしかなかった。
 まず口火を切ったのは、龍彦のUZIであった。
 鵜飼は目の前の診療所の窓が開くのを確認すると、ズボンに挿してあったデザートイーグルを素早く抜く。
 バララララララ!! ドォン!!

 二人の銃撃音でその最終決戦の開始は告げられた。
 鵜飼は一発撃った後、UZIが被弾しないように木の影にすぐに隠れる。その弾丸は診療所窓の横の壁に当たった。
 デザートイーグルの弾は壁に抉り取るように弾痕を残した。

 龍彦はその反射神経の高さ以上に、あの冷静な顔、そしてあの体勢での正確な射撃に舌を巻いていた。
 間違いない、自分は今、戦場の死神と対峙しているのだと認識できた。
 鵜飼の奇襲は完璧だった。
 誰もが情報を欲するゆえに放送を真面目に聞く。誰もが聞くという考えが、誰もが動かないという妄想を生む。そこに絶対の強者であろうと死角が生まれるのである。
 その「先入観」を見事についたのだ、鵜飼という怪物は。

 あと一歩気づくのが遅かったら診療所内に進入されていたかもしれない。
 特殊工作員としてあらゆる任務をこなしてきた奴は接近戦での「殺し」は超一流だ。
 近づかれればやられる。そんな確信があった。
 そういった意味で鵜飼の接近を許さなかったこの状況は最高とは言えないまでも最悪の事態は回避されたと言ってもいいだろう。

 しかし、一方で龍彦鵜飼のあまりに冷静すぎるその表情に内心冷や汗をかいていた。奇襲は失敗に終わったはずだ。火力の違いは明らかなはずだ。
 それなのに、鵜飼のあの顔・・・、すべてを承知と言わんばかりのその表情・・・、すべてを見通しているかの如くこちらを見つめる氷のような瞳に・・・。
 それに戦慄していた。だがそんな気持ちはおくびにも出さなかった。自分がそんなヘタレな顔をしていては、慶司風花に恐怖を伝染させてしまう結果になるのは目に見えていたからだ。
 現役の兵士である自分でさえ恐怖を感じられずにはいられないのだ。一般人のこの二人には少々刺激が強すぎる。だから自分が導くしかない。

遠山、援護してくれ。このまま仕留めるぞ!」
UZIを威嚇気味に撃ちながら慶司に呼びかける。
「あ、ああ!」
 そして龍彦のUZIが弾切れになるのを見計らって慶司のスコーピオンが火を噴く。
 弾切れを待っていたと思われる鵜飼が飛び出そうとしたのだが、慶司のスコーピオンの弾雨に当たらないように再び隠れる。
黛さんは常にレーダーを監視していてくれ。不審な動きをしたら教えてくれ」
 UZIの再装填を済ます龍彦に、風花は無言で頷く。その顔は圧倒的な恐怖に気丈に耐えながら、強い表情をしている。

 そして龍彦は自分のそばにあるグレネードランチャーの感触を確かめた。
 これが・・・、決め手になるかな。
遠山、下がれ!」
 そう言って、今度はイングラムで応戦し始める龍彦。その間に慶司は後ろに下がり、空になったマガジンの再装填を行う。これだけ絶え間ないマシンガンの集中豪雨の中なら鵜飼といえども、弾切れを待つしかない。
 そして、今サブマシンガンで攻撃してきているので、隠れるしかないという選択肢が勝機であった。龍彦は片手で制御しにくいイングラムを押さえつけて使いながら、片手でグレネードランチャーを引っ張り出して、しっかりとグリップを握る。
 そして一瞬で、撃っているイングラムを下げ、グレネードランチャーを構える。

 だが鵜飼も並ではなかった。イングラムの銃音が鳴り止むやいなや、その盾にしていた木から横に走り出したのである。
 ボシュウ!! 
 龍彦はそれに気がつきながらもグレネードを発射していた。
 そして、龍彦の目には、新たな盾になる木に走りながら、体勢を崩しながらも、こちらに銃口を向けている一匹の狼が、映し出されていた。
 ドォン!!! ドカァァァァァァァァン!!! 
 龍彦のグレネードランチャーの一撃は、さきほどまで鵜飼がいた木の周辺を吹き飛ばす。鵜飼のデザートイーグルの一撃は、龍彦の顔の10cm横を通過して後ろの壁を吹き飛ばした。

「キャアアア!」
 風花の叫びが響き渡るが、龍彦は自分の命の喪失の危険にも怯まず、すぐさま空のグレネードランチャーからイングラムに切り替える。
 そして連続した攻撃を防ぐため、そして殺すために鵜飼に向かって撃ち始める。
 パラララララ!!
 だが、当然鵜飼はとっくに木に隠れており、龍彦のパラペラム弾は、鵜飼の木の盾に阻まれ、敵を貫くことができない。

 くそ・・・、バケモノか、奴は!
 もし、さきほどの攻撃がグレネードランチャーではなく、イングラムの弾幕だったら、鵜飼は死んでいたはずだ。
 しかし、奴はまるで計ったように、俺がグレネードランチャーを撃つのがわかったかのように、その場を離れたのだ。
 しかも、攻撃のタイミングを完全に読んでいるかの如くの、素晴らしいスタートダッシュ。一寸の遅れも許されない状況にもかかわらず、奴は動いてきた。

 龍彦は兵士という人種を、十分に理解していると認識していた。自分は幼い頃から、それを教わってきたのだから。
 だが、目の前の鵜飼は、そんな兵士の常識・タブーという概念の一つ上を行っている感覚がした。
 人間の常識を超えた動きをするのではない。とんでもない攻撃をしてくるわけでもない。
 ただ、俺を、俺のすべてを見通されている感覚。

 気味が悪い感覚だ。だが、負けるわけにはいかない。
 死んでいったアイツのために。俺が守るべきこいつらのために。
 何より俺のために!
「大丈夫か、遠山黛さん
 イングラムで応戦しながら、パートナーたちの無事を確認する龍彦
「あ、ああ。大丈夫だ」
「わ、私もです」
 さっきの流れ弾で、どちらか負傷したかと、少しは思ったが、これで安心だ。

 だが、戦況は膠着状態にあると言わざるをえなかった。
 このサブマシンガンの弾雨では、鵜飼は反撃・応戦はおろか、近づくことすらままならないだろう。
 だがこちらも、鵜飼を相手に、決定力に欠けていた。
 サブマシンガンで応戦している時は隠れられて当たらない。グレネードランチャーを使った場合、もしさきほどのように読まれら手痛い反撃を食らうかもしれない。
 確かにこちらが有利かもしれないが、弾薬が切れれば、一転してこちらが不利になる。接近を許せば、即座に死が訪れる。それが龍彦の迷いを生んでいた。

「なぁ、本条
 そんな交戦の合間にも考えを張り巡らせている龍彦慶司が声を掛ける。
「なんだ?」
「さっき、グレネード避けられたよな。あれ、お前がマシンガン撃っている間に、俺が撃つっていうのはどうだ?」
 龍彦は頭に雷が落ちたようなショックを受けた。
 そうだ、その手があった。まったく気づかなかった。その方法なら、例えグレネードを避けられても、俺がマシンガンで仕留めればいいんだ。
「お前はすごいよ。でも、俺たちも信用してくれよ」

 龍彦はそんな慶司を頼もしく思えた。
 思えば、龍彦はこいつらを守る存在として認識していた。共に戦っているという感覚はなかったのである。だから、龍彦には慶司のような考えが浮かばなかったのである。
「わかった。それじゃあ、次のタイミングで行くぞ」
 そうやって、イングラムを撃つ方向に集中した。

 そこには驚愕の光景が存在した。
 その瞬間、龍彦の眼前で確認したもの。それは、木からはみ出して、何かを下手投げしている鵜飼の姿であった。
鵜飼!)
 その無表情な作業をする鵜飼に向かって、イングラムの弾を吐き出す。
 パララララ!!
 さすがの鵜飼もこれを避けることはできず、はみ出した左肩が確かに被弾するのを確認できた。
 だが鵜飼を仕留めるまでにはいかず、再び木のそばに隠れてしまった。

 逃がしたことに舌打ちする龍彦だが、それ以上に気になることがあった。鵜飼が危険を冒してまで投げた『何か』である。
 その虚空を描く物体に目をやる。
 それは鉄色をした物体であった。そして、小さなパイナップルのような物体であった。
 それは、兵士の龍彦なら、嫌ほど見てきた物体でもあった。
(手榴弾!)
 それはこの診療所までは届かなかったが、森からでた地面に届いた。炸裂すれば、怪我じゃすまないかもしれない。

「全員、伏せろ!」
 龍彦の叫びに、全員が反応する。
 だが、龍彦は思いっきり叫んで気がついた。
 奴は俺たちの行動を読んで、行動している。その確信が、その手榴弾にもう一度目をやるきっかけになった。
 頭をふせながら、その手榴弾をしっかりと見る。
 そして、はっきりと認識した。手榴弾の安全ピンが抜かれていないことに。
 ピンが抜かれていなければ爆発はしない。

 そして、龍彦はギリギリのところで下にかがむのを我慢する。
 爆発しない手榴弾、それを投げた理由はただ一つ。
 龍彦は視線を手榴弾から、さきほど銃口を向けていた方向に移した。
 そこには姿を現した鵜飼 守がいた。ご丁寧にもデザートイーグルをこちらに向けながら、真っ直ぐにこちらに進んできている。だが、相手は屈むものだと思っていたのか、一直線の突進だ。
 つまり、龍彦にとっては格好の的。これ以上のチャンスはなかった。
鵜飼ィィィィィィ!!」

 龍彦はいつもより重く感じたイングラムの引き金を思いっきり引いた。
 パララララララ!! 
 奴は爆発しない手榴弾を投げ込んで、俺らが爆発をやり過ごすために屈む隙に、近づいて殺すつもりだったのだろう。
 つまりこの銃撃は鵜飼にとっても予想外のことだったのだろう。とっさに反応したものの、龍彦は見た。
 鵜飼の体に、胸に1発、腹に2発、龍彦の銃弾が突き刺さるのを。

 体に被弾しては、さしもの鵜飼でも万全の状態で行動することは不可能だ。いや、まともに動けるかどうかも怪しい。
 その瞬間、龍彦は勝利を確信した。
 だが、それゆえに気がつかなかった。
 鵜飼の動揺のない目に。

 龍彦が異変に気がついたのは、その確信のわずか一秒後であった。
 鵜飼はその回避行動により、再び最寄りの木に移動しようとしている。それまでは別に何でもなかった。
 だが、変なのは奴の銃口だ。さきほどまでは、こちらに向いていた銃口が、今度は少しずれた場所に構えられている。
 嫌な予感が龍彦の中を駆け巡った。
 その予感が龍彦に気がつかせた。鵜飼のその銃口の先に何があるのかを。

 それは・・・・、そこは・・・・、さきほど鵜飼が投げた手榴弾のある場所。
 ドォン!!! ドォン!!! ドォン!!! 

 鵜飼は隠れながら、デザートイーグルの弾丸を吐き出す。
 龍彦も危険を察知して、急いで下に屈む。3発の銃弾のうち、一発は手榴弾を見事に貫いていた。
 ドカァァァァァァァン!!!
 閃光の後、強大な爆音と爆風が吹き荒れる。
 とっさに自分の投げた手榴弾を撃ち抜くという芸当をやってのけた鵜飼
 だがそれも付け焼刃に過ぎないのでは・・・・ 
 だがそう思い、龍彦は体を持ち上げた瞬間、驚愕する。自分の目の前に広がっていた光景。
 それはもうすぐそこに、日本刀を水平にして猛烈な勢いで突進してきている鵜飼がいたからだ。
 それは龍彦にとって、信じられない光景であった。さきほど距離を詰められていたとはいえ、さきほどのイングラムの射撃で確実に相手は負傷しているはずだ。
 万全な状態ならともかく、負傷した身体でこの距離を詰められるなんてありえない話だ。

 だが、そんな驚いている暇がないほど、龍彦鵜飼の距離は縮まっていた。
 とっさに龍彦はイングラムを持ち上げる。
 もちろん、鵜飼にとどめを刺す為に、決着をつけるために。
 だが、鵜飼の凶刃も伸びるように龍彦の身体に迫る。
 二つの生命は交錯し、そして一つの結末が訪れた。

 身体に衝撃が走る。
 その後、訪れる鈍い痛み。
 体中の力が脱力していく感覚。
 何かが滴るような触感を体が感じている。

 男の体を鉄の塊が貫き通していた。背中には何か生えたかのように見える。
 慶司の目には確かに映し出されていた。
 二人の男が体を密着している。そして一人は無表情な顔、もう一人は苦悶の表情であった。狼の牙は龍彦の喉笛を見事に掻っ切っていた。
 勝ったのは鵜飼であった。

【残り・・・4名】
                           
                           


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