BATTLE ROYALE
死線の先の終末(DEAD END FINALE


73:生きる意味〜Last Standing・・・〜

 遠山 慶司(男子10番)黛 風花(女子17番)は今現在、非常に不可解な現象に直面していた。
 このプログラムという雰囲気も異常だったが、頭の中から声が聞こえてくるなんて現象は全くもっておかしかった。
 目の前の本条 龍彦(男子20番)の死によって気が触れてしまったのではないかとも思ったが、鵜飼 守(男子3番)が苦しみだしてから、この現象と、耳鳴りと頭痛は起き始めていた。
 つまり、鵜飼がこの現象を引き起こしているのだろうか・・・?

 慶司風花もそう思っていたが、今は聞こえてくる声に耳を傾けるしか他なかった。
 なにせ、頭の中から聞こえてくるのだ。耳を塞いでも聞こえてくる。慶司風花は、聞こえてくる「音」に耳を傾けてみた・・・

 ・・・・成功です!
 おお・・・、そうか。
 ついにやりましたね、教授。
 うむ・・・。だが胎児の脳手術とだけあって、さすがに成功率は低かったようだが・・・・
 そうですね。まさか100体のうち、1体しか成功しないなんて・・・
 まぁ、無事な被験体があっただけでもよしと考えるべきだろう。これで一応は『OMEGA』の第一段階は成功といえるのだからな。
 そうですね。

 何やら、やりとりが繰り返されているような、二人の男女の会話。
 その中で慶司は『OMEGA』という単語に聞き覚えがあった。確か、鵜飼が関わっていたという極秘プロジェクトのことだったのでは・・・・
 だが、耳鳴りがその思考を中断させる。

 教授・・・、あれから一年ですが、胎児に変化は・・・?
 うむ・・・、私の元で育てているのだが、特に身体能力に変化はない。もしかすると・・・失敗かもしれない。
 そんな・・・!
「きょーじゅ?」
 な・・・・!
 今・・・、胎児が喋りませんでしたか?
「せいこうひけんたいって・・・なぁに?」
 教授、そんな驚かれた顔をなされていかがなさいました?
 もしかすると・・・、この子は!

 キィィィィンという耳鳴りと共に、再び頭痛が起きる。

 教授、この子をこんな隔離施設に収容してどうする気なのですか?
 間違いない、この子は精神感応能力者だ。
 え!
 なぜ、言語の習得が早いのか。それは、他人の心を読んで、普通の胎児より、言葉を聞いていたからだ。
 この前聞いた「成功被験体」も私が心の中で喋っていたことだ。
 それはつまり・・・
 そうだ。この子は人類が放つある特定の精神波を読み取る能力を得ていたのだ。
 それでは、研究は成功したことに・・・
 だがこの精神感応は危険性も孕んでいる。おそらく人類が言葉という概念を持たなかった頃にあった能力だろう。もし、無尽蔵に精神波を感知すればどうなると思う?
 本人の容量を超えて、壊れてしまう・・・
 そうだ。だからこの人の制限がかかる隔離施設で、精神感応の制御を訓練しなければならない。早急にな。
 わかりました。
 これが人類にとって、新たな一歩となるのだ・・・ 頼むぞ、No.77マモル・・・

 この会話を聞いて理解した。これは鵜飼のこの現象の原因なのだということを。
 信じがたいが、今聞いている声は鵜飼の過去のやりとりなのだ。
 二人は困惑しながらも、さらに聞こえてくる音を聞く。

 教授、軍に預けるというのは本当ですか。
 ああ、さきほど決まった。
 でもマモル君はまだ5歳ですよ。それを・・・
 いずれそうなる運命だ。君もわかっているだろう。
「心配しないで、お姉ちゃん」
 だいぶ制御できるようになったが、決して死ぬんじゃないぞ。マモル
「はい、教授。今までありがとうございました」
 お前の姓名はこれから、鵜飼 守だ。よく覚えておくのだぞ。

 耳鳴りと共に、再び声の質が変わってくる。

 鵜飼少尉、入ります。
「どうぞ」
 少尉、新しい副官の配属が決まりました。
「今度は恐怖に押しつぶされない程度の輩かい?」
 少尉・・・・
「気休めはいい。私のことを恐怖しない人間はいない。もちろん君とて例外ではない」
 ・・・・・すでに副官を連れてきています。お入り下さい。
 失礼します。黛 謙信と言います。以後、よろしくお願いいたします。
 では私はこれで・・・・

「若いな・・・・」
 へぇ〜、俺も若いと思っていたが、さらに若いな。
「は・・・?」
 ボウズ、名前は?
「ボウズ・・・! あなたは口の利き方が成っていないな」
 ボウズなものはボウズだろうが。第一、俺はお前と同じ階級だし。副官っていってもお前の監視役ってことはわかってるんだろ?
「じゃあ私の名前くらい・・・」
 それが一回も聞いていないんだよ。鵜飼としか聞いたことがないからな。だから困っている。
「・・・鵜飼 守だ」
 へぇ〜。それじゃ、俺はお前を、そう呼ぶぜ。俺のことは謙信でいい。OK?
「いきなり呼び捨てか」
 だから俺も呼び捨てでいいって言ってるだろ。
「ふぅ・・・、疲れる・・・」
 まぁ、これからよろしくな、
「・・・ああ、よろしく」

 この声を聞いて、風花は驚いていた。
 謙信お兄ちゃんが、鵜飼君と知り合いだったなんて・・・・
 そしてもう忘却の彼方にあった兄の声をなつかしく思いながらも、さらに声は続く。

謙信・・・・」
 よぉ、。どうした?
「眠らないのか・・・」
 まぁ・・・な。さすがに震えが止まらなくてよ。俺も死にたくないと思っているんだって驚いているところだ。
「明日から、チェチェンに向けて出発するからね。本物の激戦地だから、今回は」
 お前って奴は、涼しい顔をしてやがるな〜。怖くないのかよ?
「さぁな。人の様々な感情を感じていく内に、自分の感覚が麻痺しているのかもしれないな」
 ・・・
「そんな自分を恐ろしく思ったこともあった。他人を信じられない時もあった。だが・・・、今は信じている奴がいる。それがあるだけで私は生きている感覚がするんだ」
 お前・・・、すっかり俺に対して使わなくなったんだな。精神・・・なんたらを。
「お前だけは信用しているからな」
 俺は・・・、死ぬのが怖いさ。俺にも家族がいるから。
「結婚していたのか?」
 違うわ! ・・・・そっちの家族じゃなくて、親兄弟のことだ。親父やお袋も元気にしているか・・・ってな。何より、妹のことだ。
「・・・・」
 俺の妹、風花っていうんだが、こいつが可愛くてな。絶対美人になるぜ! っておい、聞いてるのか!?
「え、あ、ああ・・・聞いている。家族か・・・」
 あ、スマン。お前は・・・
「いや、いい。俺にとって家族はお前と・・・、あとは二人だけだ。お前がいるから寂しくはない」
 、今回生き残ったら、風花を紹介してやるよ。俺の義理の弟だってことでな。
「楽しそうだな」
 まぁな。だから・・・、生き残ろうぜ!
「ああ・・・」

 風花は多少なりとも、驚いていた。
 知らなかった。お兄ちゃんと、鵜飼君がここまで仲がよかったなんて・・・
 そういえば、お兄ちゃんが同僚に面白い奴がいるって言ってたっけ・・・ そして今度無事に帰ってきたら、そいつを紹介してやるって・・・
 そしてその後、私はお兄ちゃんを・・・生きた姿で見ることはなかった。
 それは風花にとって聞きたくない声だったのかもしれない。だが頭に響く声が嫌でも真実を紡ぎだす。

謙信謙信! しっかりしろ、謙信!」
 へへ・・・、ドジ・・踏んじまった。
「どうして私を庇った!」
 へ・・・、確かにな・・・ でもよ、気に・・・すんなよ・・・ お前の・・・、せいじゃ・・・ないぜ・・・・ それに・・・、俺は・・・後悔なんか・・・していないぜ・・・
「嫌だよ、謙信! 頼むからしっかりしてよ!」
 、総統を、国を守ってくれ・・・ そして、国民や俺の家族を、風花を守ってやってくれ・・・・ 
「・・・・謙信?」
 いや・・・・いやだよ・・・・ また孤独になるの? いや・・・・
「・・・・殺す」
 俺を孤独にした連中を殺してやる。謙信を、俺の家族を、殺した奴らを殺してやる!
「うおおおおおおおおおお」

 地獄のような咆哮が響き渡った後、慶司風花はこれまでに感じたことのない頭を締め付けられる感覚に陥った。
 そして、次の声が聞こえ始める。

 チェチェンの連中はほとんど無抵抗な状態で、鵜飼に抹殺されたとか。
 信じられん。しかもほとんど刀で殺したとか。
 いや、ついに第二段階が覚醒したのだ。
 どういうことだ?
 チェチェンの連中はおろか、味方まで軽い頭痛や、精神的障害を起こしている。これがどういうことかわかるか?
 精神波の影響か?
 そうだ。つまり・・・、鵜飼は今まで精神波を受信することしかできなかったのだが、今度は送信したのだ。悪意の精神を・・・
 それが本当だとすれば、とんでもない兵器だ。
「どうでもいい・・・・」
 う、鵜飼君。目が覚めていたのかね?
「別にどうでもいい。私は、約束を果たすだけだ・・・」
 や、約束?
「国を守ること。そのためなら、この命、惜しくない」


 キィィィィィンと言う耳鳴りと共に、最後の頭痛が引いていく。おそらく、この声を聞き始めて5分と経っていない。
 だが、二人は確かに聞いた。
 鵜飼のその人生のすべてを。喜び、悲しみ、苦しみ、痛みを。

 そして、目の前にはさきほどの苦痛に歪んだ顔はすでになく、龍彦を殺した時のような機械の顔に戻っていた。
「そうだ・・・ 約束を破るわけにはいかないんだ・・・」
 そして、両肩を怪我しているのにもかかわらず、刀を拾い上げて、再び殺意を露にする。
「今度は見逃す気はない・・・」
 刀を持ち、ゆっくりとした足取りで風花に近づいていく。

黛さん・・・!」
 慶司は必死に動こうとしたが、さすがに片足を打ち抜かれているだけあって、立ち上がれそうもない。
 だが、その死と恐怖に晒されているはずの風花の様子がおかしい。
 泣いているのだ。しかも、恐怖からくるものではなさそうだ。その表情は何かを悲しいものを見て、哀れんでいるようだった。

鵜飼君・・・、あなたって哀しいね・・・」
 その言葉に鵜飼はピクリとして反応する。
「私が・・・?」
「お兄ちゃんがあなたを義理の弟って言ったね。だったら、私たちって義理の兄妹ってことだよね?」
「・・・・」
「だから・・・、こんなところで殺しあっているなんて・・・私は、とても悲しい」
「私の同情を誘っているのなら、無駄だ。私は約束のためならなんでもやる。ただ、それだけだ」
「じゃあ、なんで苦しんでいるの?」

 その言葉を聞いた瞬間、鵜飼の顔に動揺の色が見られた。
「あなたは人を殺すたびに苦しんでいるわ。何も感じていないようで、とても苦しんでいる」
「・・・・・」
「私、わかるの。お兄ちゃんがあなたにそんなことを望んでいたはずないって。お兄ちゃんは誰よりも、何よりも家族思いだったから。あなたを本当の弟と思っているのなら、あなたが苦しむようなことを望んでなんかいないよ」
「・・・黙れ」
「お兄ちゃんは、あなたに幸せになって欲しかったはずなの。あなただけじゃない。私や、この国に生きている人々全員の幸せを願ってたはずなのよ」
「黙れ黙れ黙れぇ!!」

 ついに鵜飼が癇癪を起こす。顔が紅潮し、血が上っている状態だ。こんな鵜飼は始めて見る。慶司はそんな風に思っていた。
「お前に何がわかる? 謙信の最後の言葉を聞いた私の気持ちが。私の何がわかるというんだ!」
 その怒声の後、一瞬の沈黙が流れる。風花がどのような真意で、こんな話をしているのか、慶司には理解できなかった。
「・・・わからないかもしれない」
 風花は沈黙を破る声を発した。
「私はあなたのように心を読めるわけでもない。他人を完全に理解しあえるなんて、もしかしたら不可能なのかもしれない・・・」

 それは、慶司もこのプログラムで嫌と言うほど感じてきた。
 信じてきた者に裏切って裏切られて、嘘をついて騙して騙されて、誰かを愛して愛されていて・・・・
 俺は自分の周りの人間を何も、本当に理解できていなかったのかもしれない。そんな風に思っていた。
「でもね、あなたを信じてあげることはできると思うの」
 その言葉に鵜飼は体中から電撃が走る思いがした。
 それはかつて、自分を孤独という地獄から抜け出してくれた生涯の友の言葉と瓜二つであったからだ。

「私はあなたを信じている。お兄ちゃんが信じた人ですもの。だから、わかるの。今のあなたは間違っている」
 その言葉はに偽りはなかった。鵜飼は心が読めるゆえに、それが真意であることを理解できていた。
「あなたもわかっているはずなの。自分で間違っていることに気がついているから、苦しんでいる」
「・・・・・・黙れ・・・」
「私は覚悟ができています。だから言わせて。あなたは・・・」
「黙れぇぇええええええええ!」
 その瞬間、鵜飼は刀を振り上げた。

 慶司風花の落ち着いた態度にある程度の冷静さを戻しつつあった。
 そして思い出した。自分のふところに拳銃があったことに。苦痛とこの場の混乱にすっかり忘れていた。
 慶司はコルトトルーパーを抜き、構える。撃鉄を下ろし、振りあがる凶刃を止めようとする。
鵜飼ぃぃぃぃいいい!」
 慶司にも信念があった。必ず風花を守るという友との約束があった。俺らしくあろうとする思いがあった。
 慶司は、鵜飼を撃とうとしている。鵜飼風花に刃を振り下ろさんとしている。風花は、そんな二人を両方とも信じていた。そして、言いかけた言葉を紡いだ。
「大好きなお兄ちゃんを裏切っている」


 ここは、プログラムを管理している廃校・・・・
 その管理を一手に司っている一室で、担当官のは生徒の生存状況がわかるモニタの画面をイライラしながら見つめていた。
 M20の反応が消えてすでに5分以上が経過している。それなのに、残りの3人の反応は消えるどころか、動く気配すらない。
 どうやったらこんな状況になるのか、説明が欲しかったが、にはそれを知る術はない。

 すでに本条 龍彦が死んだ時点で勝敗は決した。優勝は鵜飼だ。
 そんな思いがありながらも、はこの膠着状態が、奇跡の逆転劇に繋がるのではないかという淡い期待を抱いていた。
 鵜飼が優勝すれば、自分の軍部での昇進はあまり望めなくなる。それは歓迎すべきことではない。自分の悲惨な未来を思い描くと、腹が痛くなる気分だった。
「くっそ・・・・」
 腹を抱えこみながら、うめき声を上げる。
「おい、少しトイレに行ってくるからな!」

 そう言って、その部屋から出て行く
 は当然だったが、上官の不機嫌に付き合わされる兵士もたまったものではない。確かに気持ちは察するところはあるが・・・
 そんな気分であったが、その気分もモニタに変化があると、一気に消し飛んだ。
 一つの反応が消えたのである。
 そしてその数分もしないうちに、もう一つの反応も消えた。
 そう、残っている反応はただひとつ。それはこのプログラムの優勝者なのである。

「おい、森担当官を呼んで来い!」
「わかった!」
 兵士たちの動きも慌しくなる。そして一人の兵士がトイレに向かっている途中に帰ってきているを見つけた。
「どうした?」
森担当官、優勝者が決まりました!」
「何ぃ・・・、どいつだ!」
 は緊張した面持ちで答えを聞こうとする。
「優勝者は・・・・・」
【残り・・・1人/ゲーム終了・海音寺中学校3年C組プログラム実施本部管理モニタより】

【残り・・・1人/ゲーム終了・海音寺中学校3年C組プログラム実施本部管理モニタより】
                           
                           


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