BATTLE
ROYALE
〜 時の彼方に 〜
20
どこにスピーカーがあるのやら見当もつかないが、とにかく響き渡るような大声だった。
思わず奈津美は顔を顰めた。声は続いた。
“頑張ってるかぁ。担任の川渕だぞ。朝6時の最初の放送だ。よーく、聞けよ。まずは、今までに死んだ奴の名前を発表するぞー。出発前に死んだ2人は省略なー。死んだ順番に言ってやるからな。女子7番 木原涼子、女子12番 遠山奈津紀、男子10番 富崎勝利、男子17番 溝下慎二、男子18番 桃田昇、女子2番 伊佐治美湖、男子5番 河野猛、男子7番 城川亮、男子4番 梶田広幸、女子5番 尾崎奈々 以上10名だ”
ある程度覚悟していたとは言え、猛の死が現実の事となったショックは計り知れない。
奈津美は目の前が真っ暗になってしまった。まだ放送は続いていたが何も聞こえなかった。われに返ったときには、放送は終わっていた。
あ、しまった。禁止エリアを聞き逃した。なんたる不覚・・・
慌てて勇一の方を見た。丁度、地図をデイパックに戻そうとしているところだった。
勇一は前方を見詰めたまま、諭すように言った。
「人間として感情が豊かなのはいいことだ。感情の無い奴ほど恐ろしい奴はいない。ただ、プログラムの下では少々感情を殺す必要があると思う。まぁ君の場合はすぐに正気に戻るから通常は問題ないわけなんだけど、禁止エリアの聞き逃しは命取りになりかねないからね。猛のために泣くのは、脱出に成功してからにしよう」
勇一とて仲間を失った辛さに変わりは無い。握り締めた拳が悲しみの深さを物語っていた。
涙腺から溢れ出しそうな涙をこらえて、奈津美は答えた。
「そうだよね。猛君と奈津紀のために、あたしたちは絶対に脱出しなきゃね。泣くことは、いつでも出来るものね」
勇一は、無言で頷いた後、デイパックに戻しかけた地図を奈津美に差し出した。そこには、放送された禁止エリアが書き込まれていた。
奈津美は、自分の地図にそれを書き写した。
“午前7時からC=4”
自分たちが今いるところ(C=5)の西隣にあたる。
“午前9時からF=2”
半島の西の海岸地帯だった。
“午前11時からJ=6”
半島の付け根の有刺鉄線のところだ。
C=4とC=5の境界線が地面に描かれているわけではないので、どこからが禁止エリアなのかハッキリしない。C=5の中心あたりにいる自分たちはおそらく大丈夫だろうが・・・
勇一に地図を返しながら、言った。
「もう、10人もやられちゃったんだね・・・ 信じられない・・・」
言いながらも、僅かに体が震えるのはどうすることもできなかった。
体育館で散った2人を加えれば、既に12人。クラスの4分の1を超えている。
「人数も人数だがメンバーが気になる」
勇一の言葉に、奈津美は訊きかえした。
「え? どういうこと?」
勇一は首を傾げながら答えた。
「服部の仲間が3人とも入ってた。そう簡単にやられる連中じゃない」
奈津美は、訥々と言った。
「まさか・・・ 服部君が・・・ 仲間を裏切ったとか・・・」
勇一は、大きく首を左右に振った。
「それはない。服部は間違っても仲間を裏切る男じゃない。むしろ仲間のために命を捨てることも出来る男だ。仲間でないものには、容赦ないけどね」
奈津美は黙って勇一の次の言葉を待った。
「おそらく川渕たちに逆襲しようとして返り討ちに遭い、服部だけが生き残ったと考えるのが自然だ。だとすると、あいつに会うと危ない。優勝して川渕と刺し違える決意をする可能性もある」
奈津美は身震いした。もともと、服部伸也(男子12番)は恐ろしかったが、さらに恐怖心が募ってきた。自分が伸也に殺される場面まで想像した。
奈津美は、勇一がこちらを振り向くのを見た。優しい視線を奈津美はしっかりと感じ取った。
そうだよ。あたしには、勇一君が付いてるんだもの。大丈夫だよね。
勇一のポケットにささっている拳銃も頼もしく見えた。勇一に支給された武器は本物のベレッタM92Fだったのだ。
ちなみに先刻、支給されたモノをお互いに見せ合った2人は大笑いをしたばかりだった。
再度、勇一は顔を前方に戻しながら続けた。
「もう一つ、川渕の言い方も気になる。最初の放送までに10人消えるなんて、奴らにとってはいいペースのはずだ。でも、奴は何か不満そうな口調だった。ひょっとしたら、溝下たちの他にも政府に消された奴がいるんじゃないかなぁ。脱出しようとしたとかで・・・」
一度、口をつぐんだ後、別の話題を続けた。
「これ以上、憶測していても何も解決しない。ゆっくり移動しよう。とにかく、石本たちに会わないと」
奈津美は立ち上がりながら、声は出さずに大きく頷いた。
2人は、ゆっくりと歩き始めた。いつのまにか朝もやは晴れ上がって、森は朝の光と小鳥の声に満ちていた。
<残り30人>