BATTLE
ROYALE
〜 時の彼方に 〜
21
川渕源一(プログラム担当官)は書類を見詰めながら、険しい表情で煙草に火をつけた。
「不機嫌そうですね」
お茶を運んできた長身の兵士が話しかけた。
「原田か。不機嫌にもなるぞ。今までに死んだ12人のうち7人は俺たちが殺したんだぞ。罠にかかった者以外は、極力政府の手で殺してはならんのだ。それに、さっきは本当に冷や汗を掻いた」
原田という兵士は、肯定のしぐさをしながら答えた。
「そうですね。潜水艦の手配を致しましたので今後は心配ありませんが、あのような脱出方法が存在したとは・・・ 完璧なシステムだと思っておりましたが」
川渕はいまいましそうに口を開いた。
「全くだ。すんでのところで、本当に脱出されてしまうところだった。脱出されたら俺たち全員の切腹は免れなかっただろうからな」
原田は苦笑して答えた。
「確かに、命拾いしましたね。皮肉な話ですが、あの尾崎と言う女生徒に助けられましたね。彼女が梶田に声をかけなかったら、脱出は阻止できなかったでしょう。だから彼女の首輪を爆破する時は、流石の私も心が痛みましたね。脱出可能な方法を知られた以上やむをえないとはいえ、命の恩人を殺したようなものですから」
川渕は煙草の火をもみ消しながら言った。
「そうだな、命の恩人だよな。もっとも、本人にその気はなかったわけだが・・・ プログラムが無事終わったら、尾崎の家族への慰安金を倍額にするように取り計らっておこう」
原田は首を傾げた。
「政府が、そんなことを認めますかね」
川渕は鼻で笑った。
「何を言ってるんだ。俺とお前たちのポケットマネーで出してやるのさ。もちろん、極秘にな。受けた恩は必ず返すのが俺の主義だ。恨みの方は倍返しにする性格だけどな。依存はないだろうな」
「御座いません」
原田の即答に、川渕の不機嫌な表情が少し緩んだ。
「ところで担当官、トトカルチョの方の自信はどうですか? 坂持美咲を買われたようですが」
川渕は、再度煙草に火をつけた。思いっきり、煙を吐き出した後に口を開いた。
「まあまあってとこだな。奴ならゲームに乗ってくれると思ったのだが・・・ といっても、気が変わるかもしれないしな」
「お言葉ですが、服部や浅井の方が強いのではないでしょうか?」
原田の質問に、川渕は静かに答えた。
「プログラムってのは強さだけじゃない。知力・精神力を含めた総合力が問われる。担任として観察していた俺が一番よく判るさ。陸軍大臣は服部を、教育長は浅井を買っているが確実に外れるだろうな。2人とも戦闘力は高いが知力に難があるからな。むしろ性格的にはゲームに乗りそうに無いが、石本や中上のほうが気になる。あいつらがもしやる気になれば、間違いなく優勝候補と言えるだろう。あとダークホースは転校生の2人、松尾と塩沢だ。あいつらはどういう人間なのか俺にもよく分からんのだ。松尾は既にやる気を見せているが、優勝するほどの能力があるかどうかは未知数だがな。塩沢にいたっては、クラスで無理に孤立しているように見える。何か秘密がありそうなのだが・・・ そういえば、お前は誰を買っているのだ?」
「自分ですか? 自分は佐々木を」
原田が言い終える前に川渕が遮った。
「佐々木だと? 知力や人徳ならトップクラスだが、ゲームに乗るとは思えんし戦闘力が高いとも思えんぞ」
「承知の上です。ただ佐々木ならクラスのほぼ全員に信用されるでしょう。その気にさえなれば、いくらでもだまし討ちに出来る立場です。自分は、彼女の変身を密かに期待しています。本音を言いますとね、佐々木は自分の妹にソックリなんですよ。だから、何となく生き残って欲しいわけなのです」
原田の言葉に、川渕は遠くを見詰めたまま言った。
「なるほどな。半分は感情的な応援か。賭けに徹する者もいるし、本当にいろいろな考え方があるものだ。冷泉も変身したことだし、俺は坂持の変身に期待するとしよう」
川渕は、煙草の火を消しながら続けた。
「さて、少し仮眠を取らせてもらうぞ」
言うが早いかソファに体を横たえた川渕は、まもなく静かな寝息を立て始めた。
<残り30人>