BATTLE
ROYALE
〜 時の彼方に 〜
28
ほぼ南中した太陽が照りつける中、遠山奈津美(女子13番)と中上勇一(男子11番)はエリアF=6に差し掛かっていた。といっても、林の中なのでさほど暑くはなかったが。
エリアC=5を出発した2人は、付近の山がちのエリアを充分に用心しながら探索してここまで辿り着いたのだが、誰も発見することは出来なかった。
「街の方へ行けば、誰かいるのじゃないかしら」
奈津美は、素朴な疑問をぶつけた。こんな山の中をウロウロしているよりも、街の方が仲間を発見しやすいように思えた。
勇一は振り返らずに答えた。
「そりゃ、いるだろう。でもね、多分俺たちが会いたい奴はいないさ」
「どうして?」
当然の質問に対して、こんな返事が返ってきた。
「多くの奴は、食料などを調達するために街へ行くだろう。でも、ゲームに乗ってる奴も同じ事を考えるさ。カモが集まって来るって。だから、生き残りたければ街には潜まないのが懸命だ。石本や松崎もアイテム収集には来るだろうが、長居はしないさ」
奈津美は感心するほかはなかった。どうしたらここまでプログラムの状況に即した思考が出来るのだろうか。自分も状況は理解しているつもりだが、勇一の足下にも及ばない。
「ねぇ、訊いていい?」
奈津美は甘えたような声を出した。
今度は勇一は立ち止まって振り向いた。
「どうしたんだい。急に」
一呼吸置いて、奈津美は口を開いた。
「勇一君の頭のよさはよくわかってる。でも、どうしてそんなにプログラムに詳しいの? 賢いだけでそれだけの判断が出来るとは思えないもの」
勇一は、奈津美の肩に軽く手をのせた。
「それは、当然の疑問さ。というより、ずっとそれを訊きたくて我慢していたんじゃないのかい? でも、今は言えない。無事に脱出できたらね」
奈津美は小さく頷いた。やはり何か勇一には秘密があるのだ。でもこの時点で、それを探るのは意味が無い。脱出が先決だ。
その時、少し風が吹いてきた。風は、何やら血なまぐさい臭いを運んできた。2人の顔に緊張が走った。
勇一が耳元で囁いた。
「ここで、待っててくれ。ちょっと、見てくる」
奈津美はかぶりを振った。囁き返した。
「勇一君と一緒なら、何があっても怖くない。連れてって」
勇一は、一寸考えてから答えた。
「わかった。ただし絶対大声を出すなよ。もし、大声を出しかけたら君といえども容赦なく当身を食わせるよ。それでもいいんだね」
奈津美は承諾した。
「うん。それでもいい。一人にされるよりは・・・」
2人はさらに注意深く気配を殺しながら風上へ進んだ。悪臭はだんだん強くなっていった。
突然、林が途切れ眼前に大きな岩が現れた。血痕が見えている。
勇一は周囲を充分確認した後、岩に近づいた。奈津美も後に続いた。
そして、見たものは学ランに包まれた血みどろの物体だった。
奈津美は口に手を当てた。声が出そうになったからではなく、吐き気が込み上げたからだ。
勇一は眉を顰めながらも、その元男子生徒を調べていた。そして、奈津美に耳打ちした。
「猛だ。マシンガンでやられてる」
泣き叫びそうになるのと吐き気をこらえながらも、奈津美は猛の屍を見詰め続けた。どうしても、奈津紀との誓いだけは果たさねばならない。一歩一歩近づいた。奈津紀の遺髪を猛の手に握らせた。そして、猛の耳元で奈津紀の代役として告白をした。当然ながら、猛からは何の応答もなかった。
そして奈津美は、猛の懐に血の付いた2枚の写真を見つけた。頬が思わず赤くなった。2枚とも自分の写真だったからだ。しかも1枚は水着姿・・・ 猛の自分に対する想いの深さは理解しているつもりだったが、これほどまでだったとは。
猛との多くの想い出が甦った。声は制御できても、溢れる涙は止められない。勇一がそっと肩を抱き寄せた。
奈津美の顔は自然と勇一の胸に埋まっていた。
しかしその感傷的な状況は、いきなり響いた川渕の声で打ち消された。
“担任の川渕だ。正午の放送だぞ。こらぁ〜! 俺は機嫌が悪いぞ。この6時間で死んだのは、女子15番 永田弥生ただ1人だぞ。もっと頑張れ、お前ら!”
途端に奈津美の心にまたまた怒りが込み上げた。
頑張ってますよ。頑張って生きてますよ。あたしたち。
あんたの言う“頑張れ”とは、意味が違うけどね。
といっても、続く禁止エリアの放送を聞き逃すほど取り乱してはいなかった。
“禁止エリアを発表するぞ〜 しっかり聞けよ! まずは午後1時からH=8”
市街地の一部だ。
“それから、午後3時からE=5”
半島の中央の山の南斜面だ。
“最後に午後5時からエリアI=7。以上だ。もっと積極的に殺しあうんだぞ、いいな!”
またまた、市街地だ。
奈津美は首を傾げた。抽選にしてはやや不自然に感じたからだ。
そんな奈津美の疑問を読み取ったかのように勇一が言った。
「川渕は間違いなく禁止エリアを操作してるよ。人の多そうな市街地を指名すれば戦闘の機会も増えるだろうからさ」
ふたたび物言わぬ猛に視線を向けた奈津美は、拳をグッと握り締めた。
あんたたち、絶対タダじゃすまさないからね!
ぎらぎら照りつける日差しの中、奈津美は決意を新たにしていた。
<残り29人>