BATTLE
ROYALE
〜 時の彼方に 〜
33
まばゆい日差しの中、エリアC=10の磯浜を歩いていた松崎稔(男子16番)は目を瞠った。
遠くに、人間のようにも違うようにも見える不思議な物を見つけたからだ。
稔は一段と警戒心を強め、慎重に接近した。
稔の父は小さな町工場の社長だった。
父はほそぼそと小型の家電製品を作る一方、故障した機械や電気器具の修理も行っていて、気さくな人柄も幸いして近所では人気者だった。
そんな父を見て育ってきた稔は、やがて父の仕事を手伝うようになり、中学に上がる頃にはほとんどの仕事をマスターしてしまった。
最近では、友人たちの持ってくるラジカセなどの修理を無償で引き受けていた。もっとも、授業中に作業していて教師から大目玉を貰ったりしていたが。
成績も良かった稔は、一流大学の工学部から大企業に就職することを目標にしていて、研究室で新製品を開発するのが夢だった。
ところが、待ち受けていたのはプログラム。
夢をかなえることなく死ぬわけにはいかない。
もちろん、クラスメートを殺す気にもなれない。
とすれば、方針は脱出以外にありえない。
自分の夢自体は外国でも実現可能なものなので、脱出成功した暁にはそのまま国外亡命すればよいのだ。
体育館にいる段階でここまで考えていたが、具体的な脱出方法が浮かばなかった。親友で知識の豊富な石本竜太郎(男子1番)とじっくり策を練る予定で、エリアC=1で待ち合わせをした。
出発順が先だった稔は、先客がいないことを祈りながらC=1に向かったが幸いにも人影はなかった。
大きな岩にもたれて竜太郎を待つこととしたが、いきなり冷泉静香(女子20番)に襲撃されてしまった。ただの深窓の令嬢だと思っていた静香が、意外にも果敢に攻撃してきたため面食らった稔は、軽症を追わされて逃走する羽目となった。逃げないで静香を殺してしまうことも可能だったが、そんな気にはなれなかった。
逃げ出した稔の背後から静香の怒声が聞こえてきた。もはや、とてもお嬢様とは思えない声だった。
ようやく、静香の姿が見えないところまで辿り着いた稔は、背筋が寒くなるのを感じた。
プログラムという魔物は、あのお嬢様をあんな風に変えてしまったのだ。単に隠れていた静香の本性が現れただけかも知れないとも思ったが、この状況下ではあまり事態を楽観的に考えない方がよさそうだった。
とすれば、不用意に親しくないクラスメートとは会わないほうが安全だ。
竜太郎、中上勇一(男子11番)、佐々木はる奈(女子10番)そして遠山奈津美(女子13番)。
会いたいのは、この4人だけ。その他の者を発見したら、隠れてやり過ごすこととした。
しばらく息を潜めた後、そっとC=1に戻ってみた。
静香は立ち去ったようだが、会いたい竜太郎の姿も無かった。
おそらく、自分を探して移動してしまったものと思われた。
そこで、自分も慎重に仲間を探すこととした。
そして、結局誰に会うことも無くエリアC=10に辿り着いたのだった。
稔は、一歩ずつ周囲に気を配りながら謎の物体に近づいた。何かの罠かも知れないと思うほど不気味だった。
が、その姿がハッキリ見える地点に来たとき、稔は思わず生唾を飲み込んだ。
それは、首から上が消失した2人の人間だったのだ。
思わず駆け寄った。
周囲には血痕や頭部の残骸が散乱していて凄惨の一言だった。
体中の血液が逆流するような不快感を抑えながら、稔は死体を調べた。
落ちていた生徒手帳などから、2人は梶田広幸と尾崎奈々であることがわかった。
この2人が親しいという印象は全く無い。偶然、一緒にいたのだろうか。
それに、ここは禁止エリアではないのに、なぜ2人は首輪を爆破されているのか。無理に外そうとでもしたのだろうか。
あらためて、2人を観察した。
そこで、稔は広幸の服装が潜水服であることを発見した。奈々の方はセーラー服だったが。
稔は思わず「そうか」と呟いた。
潜水を使えば、理論的には脱出可能だ。広幸は水中から脱出するつもりだったのに違いない。
無論、潜水の経験のない稔には真似できないし、既に潜水服は破れていて使えそうになかった。
おそらく、脱出しようとしたことが政府に露見して首輪を爆破されたのだろう。奈々は、巻き添えと考えられる。
しかし、なぜ政府に露見するのか。会場内各所にスパイでもいるのか。
考えていた稔の頭に、ひとつのひらめきが稲妻のように舞い降りた。
ポンと手を打った稔の表情はとても生き生きとしていた。
<残り26人>