BATTLE
ROYALE
〜 時の彼方に 〜
37
突如、静寂を破って会場中に大声が響いた。
“川渕だぞー。皆、頑張ってるかー。午後6時の放送だ。まず、死んだ奴からな。男子2番 大槻貴之、男子3番 長内章仁、女子8番 久保田智子、男子8番 堂浦修 以上4名。なお、大槻と長内は政府特製の罠にかかってくれた。俺はとても嬉しかったぞ。まだ、罠はあるからな。せいぜい気をつけてくれよ”
続いて、禁止エリアの発表があった。
“午後7時からE=6”
山の東南斜面だ。
“午後9時からB=5”
半島北部の森林地帯だ。
“午後11時からD=10”
東の海岸だ。
手ごろな石に腰掛けてメモを取り終えた遠山奈津美(女子13番)は、側の中上勇一(男子11番)に小声で話し掛けた。
「本当に卑劣よね。罠なんて。ゲームに乗ってる子以外に、罠にも注意しなきゃいけないなんて」
勇一はいつも通り冷静に答えた。
「プログラム自体が充分卑劣だから、それを言っても仕方がないさ」
奈津美は、勇一の顔を覗き込むようにして続けた。
「でもね、例えばだけど、あたしたちが進もうとしているこの3歩先に地雷が埋まってるかも知れないってことじゃない」
勇一は、奈津美の目をしっかり見つめ返した。
「政府だって戦闘実験としてプログラムを施行している。例えば、極限状態で人間がどんな行動をとるかを調べたいのさ。何パーセントが錯乱したかとかもね。だから、データ集めの邪魔になるようなつまらない罠はかけないさ。用意されているのはおそらく、無理に脱出しようとした際にかかるような罠だと思う。これなら、脱出できそうなチャンスに危険を顧みずに飛びつくかどうかという1つのデータになるからね」
「だったら、無理な行動をしない限り大丈夫ってことね」
奈津美の問いに、勇一は即答した。
「多分ね。とにかく、脱出できそうな手段がその辺に転がっていたら要注意だね。それより、急いでE=6を探索しよう。隠れてた奴に会えるかもしれない」
「わかったわ。行きましょう」
奈津美は快諾した。川渕に鉄槌を下したい気持ちは人一倍強かったが、ひとまずは勇一に従って仲間探しをするしかなかった。そして、必ず勇一と一緒に脱出したかった。もちろん、出来る限り大勢で。
エリアF=5にいた2人は、E=6に急行した。以前にも一度通過したエリアだが、もう一度調べ直すのだ。
制限時間まであと20分になったが、誰も発見できぬまま2人は狭い道を歩いていた。左側は下りの急斜面になっている。
「全然、見つからないね。皆、どこに隠れてるんだろう」
弱音を吐きかけた奈津美を勇一は振り返った。
「諦めたら終わりだよ。大丈夫、何とかなるさ」
「うん、そうだね」
奈津美が俯いたまま返事をしたその時だった。
コンクリートを砕くような音とともに、奈津美の足元の小石が火花を散らして跳ね上がった。
「走れ!」
勇一の声がしたが、疲れていた奈津美は足がもつれてしまった。
片足が斜面の石に乗っている感触があった。
しまったと思った時には遅かった。踏ん張ろうとしても石車は止まらない。
視界が回転し始めた。全身に痛みが走る。斜面を転げ落ちているのは間違いないようだ。
このまま、岩にでも叩きつけられて一巻の終わりか。まさか、こんな死に方をするなんて。
観念した奈津美の頭にいろいろな思い出が走馬灯のようによぎった。
家族のこと。奈津紀のこと。勇一のこと。猛のこと。その他、いろいろ・・・
そして、衝撃が訪れた。あぁ、これで奈津紀に会える。ゴメンね。仇、討てなかったよ。
・・・
あれ、あたし死んでるのになぜ体中が痛いのかな?
奈津美は目を開いた。どうやら死んではいないようだ。
偶然にも潅木の茂みの中に突っ込んだため、事なきを得たらしい。
そうだ。勇一君は?
奈津美は斜面の上を見上げた。勇一が、斜面を降りようと身構えているのが見えた。
そこは、危ないよ。遠回りでいいから、安全なところを降りてきてよ。
ところが、再度先刻の音がして、勇一の足元の斜面に土煙が立った。
やっと、奈津美は状況を把握した。そう、自分たちは襲撃されたのだ。
さらにダダダダという音が続き、勇一は斜面を降りるのを諦めて道を左の方向へ走り去った。
入れ替わりに右の方から大き目の銃を乱射しながら1人の男子生徒が走ってきて、一旦立ち止まり斜面の下を見下ろした。
奈津美は反射的に茂みに身を隠した。今、見つかったら確実に仕留められてしまうだろう。
既に日が落ちかけて、斜面の下が暗くなっていたことも幸いしたらしく、男子生徒には奈津美の姿は見えなかったようだ。
再度、乱射を開始しながら男子生徒は勇一の後を追っていった。
その横顔を奈津美はしっかり確認した。松尾康之(男子15番)だった。
不気味な転校生だと思っていたが、どうやらゲームに乗ってしまったようだ。
そして、あの連続する銃声。あれがマシンガンというものだろう。とすると、猛を殺したのは康之なのか。
むろん、マシンガンを持っている者が1人とは限らないのだが。
銃声は、少しずつ遠ざかりながらも聞こえつづけていた。
時折、単発の銃声が混ざっているのは、勇一がベレッタで反撃しているのだと思われた。
やがて銃声は消えた。まさか・・・
勇一の無事を祈りながら呆然としていた奈津美は、ふと禁止エリアのことを思い出した。
時計を見ると、あと10分しかない。とにかく移動しなければならない。
痛む体を引きずりながら、奈津美は必死でこのエリアからの離脱を開始した。
<残り25人>