BATTLE
ROYALE
〜 時の彼方に 〜
43
俺は何をやっていたんだ。あんな絶好の機会だったのに。どうして冷静に行動できなかったんだ。
浮かんでくるのは後悔の念ばかり。
藤井清吾(男子14番)はうつろな表情でエリアH=6の林の中を徘徊していた。
何度考えてもあれは失策だった。
川越あゆみ(女子6番)を支給の鞭の一撃で倒したところまでは上出来だった。
問題は、その後だ。
まず、あゆみが取り落とした銃を確保するべきだった。
そうしていれば、その後の展開が同じであっても最後にはあゆみを射殺出来たはずだ。レイプには失敗しても、屍姦ならば出来たのだ。
第一あゆみがその気になったら自分が射殺されていたのだから、致命的な失敗と言える。
まだある。あゆみが諦めたと思って油断してしまったことだ。
よく考えたら、芯の強いあゆみがあっさり諦めるはずがない。逆襲の機会を狙っていたに違いないのだ。
頬への平手打ちなどで安心してはいけなかった。死なない程度に首を絞めるとか、腹を強打するとかして抵抗力を奪っておかなければならなかったのだ。
だが、目の前に倒れているあゆみを見た途端に理性が消し飛んで、本能のままに行動してしまったのだ。これでは、まるで獣と同じだ。
自分は人間なのだから、もう少し考えて行動するべきなのだ。性欲ばかりが先走ってはいけない。
もし次に女の子を見つけたら気絶寸前まで鞭で連打してやろうと考えた。鞭だけでは不足なので、先刻民家に侵入して奪った刺身包丁もベルトにはさんで持っている。包丁を首に突きつければ、女の子は抵抗できなくなるだろう。よし、今度こそ。冷静に冷静に・・・
ふと、背後で足音がした。
振り向くと、スカート姿の影が近寄ってくる。手には大きめの銃を持っているようだ。
清吾は内心でガッツポーズをした。
やった、女だ。必ずレイプしてから殺してやる。
清吾は鞭を振りかざして突撃した。この距離なら、相手が銃を持ち上げても発砲する前に鞭を命中させられるはずだ。思い切り鞭を振るった。
仕留めたと思ったが、女子は身軽に鞭をかわしていた。
ん? この女、なかなかやるな。でも、逃がしはしない。
清吾はさらに鞭を振り続けたが、全く命中しない。少し疲れてきた。
やがて少し開けたところに出た。女子が月明かりに照らされた。
清吾は愕然とした。相手は、坂持美咲(女子9番)だったのだ。
清吾は以前から密かに美咲にあこがれていた。容姿はもとより、頭のよさ、気位の高さなど全てが清吾にとっては理想的だった。
ロールプレイングゲームなどをする際には、主人公の名前をいつも“ミサキ”にするほどだった。
授業中も、ちらちらと席の近い美咲を観賞していた。
もちろん美咲は、全く相手にしてはくれないのだったが。
本来ならば最もレイプしたい相手になるはずだが、こんな武器で美咲に立ち向かっても勝てるはずがないことはよく解っている。
それに美咲に対してはレイプなどでなく、堂々と交際を申し込みたい気持ちもある。オーケーされる確率は無限にゼロに近いけれど。
そんな相手を無謀にも襲ってしまった。また、後悔の念が募った。襲う前に相手の確認を怠ってしまうとは。
清吾は鞭を脇の下にはさんで、頭を深く下げた。
「ゴメン、許してくれ。君だとは思わなかった」
美咲の表情が険しくなった。ウージーの銃口を清吾に向けた。
「お、おい。勘弁してくれよ。こうして謝ってるじゃないか」
美咲は低い声を出した。
「何を謝ってるの一体?」
清吾は答えた。少し声が震え始めた。
「もちろん、君を襲おうとしたことさ。本当にゴメン」
美咲は小さくため息をついた後、呆れたような声で言った。
「バッカじゃないの、藤井君。このゲームは殺し合いのゲームでしょ。誰が誰を殺しても文句は言えない。そうでしょ。だから、あたしを殺そうとするのはそちらの自由よ。謝る必要もないし、謝って欲しくもない。でも、殺そうとした以上は殺される覚悟もしてもらわないとね」
ウージーの引き金に指をかけた美咲を見て、清吾の全身に戦慄が走った。思わず土下座していた。
「お、俺は君が好きなんだ。君と知っていれば攻撃しなかった。まだ、死にたくないんだ。頼むよ、見逃してくれよ。そして、出来ることなら今後は一緒に行動してくれよ」
今度は、美咲は語気を強めた。好きという言葉には何の反応もしなかった。
「冗談じゃないわよ。その程度の半端な気持ちで襲ってきたわけ? しかも、相手があたしと判ったとたんにそういう態度になるの? おおかた他の子だったらレイプでもするつもりだったんでしょ」
圧倒された清吾は口をもごもごさせるだけで反論出来なかった。美咲は続けた。
「この最低のゲームのルールは殺し合いだけど、ゲームに乗るかどうかは本人の自由だわ。でも、乗る方を選んだ以上、それなりの責任を伴うってことくらい理解できそうなものでしょ。そんなことも考えないで、あたしを襲ったわけ? 謝ってるのも、あたしが相手じゃ勝てないと思ってるからじゃないの?」
全て図星なので答え様がない。黙って頭を垂れるしかなかった。
美咲は、軽蔑したような声でゆっくりと言った。
「さっきも言ったけど、あたしを殺そうとしたこと自体をとがめる気はないの。でも、負けた時に死ぬ覚悟が出来てないのに襲ってくるなんて論外だわ。あたしは、とっくに覚悟してる。ゲームに乗ってはいないけど、襲われて負けたら仕方ないってね。といっても、藤井君のような人に負ける気はしないけどね」
清吾はやっとのことで答えた。
「そ、それも含めて全部謝る。とにかく、今回だけは見逃してくれよ。頼むよ。次に会ったら殺してもいいから」
再度、美咲の口調がきつくなった。
「この、卑怯者! あなたが万一生き残っても、国にとって有用な人材にはなりそうにないわね。国のためにもこの場で始末させてもらうわ」
清吾の全身がガタガタ震え始めた。
お、俺はここで死ぬのか。ま、まだ死にたくない。
泣き声で答えた。
「お願いだよ、坂持さん。手足なら撃ってもいいよ。でも、どうか命ばかりは・・・」
美咲は、表情を崩した。
「呆れたわねぇ。女の子に命乞いするなんて男として恥ずかしくないの? いいわ。一度だけチャンスをあげる。あたしの質問に答えて頂戴。今後は負けたら死ぬ覚悟でゲームを続けられるかどうかをイエスかノーかではっきり答えて欲しいの」
そして、美咲は視線を左の方向に向けながら続けた。
「それから、そこの木の陰に隠れてる人に言うけど、手出し口出しは無用だからね」
清吾はますます畏怖した。
何だって。もう1人隠れてるだって? もし美咲が見逃してくれても、そいつに殺られる危険もあるじゃないか。
美咲は視線を清吾に戻して言った。
「さ、答えて頂戴。どっちなの?」
清吾は地面に頭をこすり付けながら答えた。
ゲームを続けると答えれば、無条件に殺されると思えた。
「と、とんでもないよ。俺はもうゲームから降りる。誰も襲わない。ひたすら隠れるよ。だから、許してくれよ」
美咲のウージーを握った手に力が入った。
「藤井君、やっぱりあなたの存在は国にとって何の役にも立たないよ。ゲームに乗らないならはじめから乗るべきじゃないし、乗るなら徹底的にやるべきだし・・・ イエスと答えれば少しは見所があると思って見逃すつもりだったんだけど、失望したわ。さよなら、藤井君」
その時、左の方から小石がウージーめがけて飛んできた。
美咲はとっさに銃口を下げて、左の方をにらみつけた。
「邪魔する気? 手出しは無用と言ったはずだけど」
銃口は、いつのまにかその人物が隠れている大木の方向を向いていた。
清吾も、大木の方に視線をやった。
いずれにせよ、この場はその人物に救われた格好だ。場合によっては、礼を言わねば。
人物がゆっくり姿を現した。服部伸也(男子12番)だった。
新たな恐怖が清吾を襲った。
また、とんでもない奴が現れた。やっぱり、俺は助からんのか。
けれども、伸也は清吾には目もくれずに美咲に向かって話しかけた。
「充分に気配を殺したつもりだったが、流石は坂持だな」
清吾は視線を美咲に戻した。
美咲の表情は自分に見せたのとは段違いに厳しくなっていた。
清吾は舌打ちした。
ちっ、俺は完全にナメられてるってわけだ。伸也が相手じゃ仕方ないかもしれないが。
美咲の声がした。
「どういうつもりなの? こんな奴をかばうなんて。返答によっては、許さないけど」
清吾は2人が戦うことを期待した。そうなれば、自分は逃げ出すチャンスがあるだろう。卑怯者と言われてもかまわない。とにかくこの場は生き延びたい。しかし、見たところ伸也は武器を持っていない。マシンガンを持った美咲の前に体を曝すとは何を考えているのか。
しかし、事態は別の方向に向かった。
伸也が答えた。
「藤井をかばうつもりはない。でもそんな奴を殺したら、君のプライドが傷つくんじゃないのかい? 君にしては冷静じゃない行動だと思うんだが」
わずかの沈黙の後、突然に美咲が笑い出した。
「そうだね。あたしらしくないね。殺すにも値しないってのはこのことだよね。丸腰であたしの前に出てきた度胸に免じて藤井君は見逃すことにさせてもらうわ」
清吾は嬉しさと悔しさの両方をたっぷりと味わうこととなった。
どうやらこれで助かりそうだ。素直に嬉しい。だが、俺のことを殺す価値もないとは・・・
美咲の言葉に対して、伸也も笑いかえしながら答えた。
「それがいいさ。もっとも君が丸腰の俺を撃つはずがないのは計算済みだったけどね」
美咲は頭を掻いた。
「完全にあたしの性格、見切られてるね」
伸也は回れ右をしながら言った。
「それじゃ、俺は立ち去るからな。どうせ君は俺と仲間になる気はないだろうし」
伸也は、ゆっくりした足取りで去っていった。
清吾は、美咲を見詰めた。清吾の大好きな愛らしい表情になっている。惚れ直しそうだ。
美咲は清吾の方に向き直った。落ち着いた口調で言った。
「命拾いしたわね、藤井君。でも、半端な気持ちでゲームに乗る奴が許せない気持ちは変わらないわよ。さては、テレビゲームのようなつもりで乗ってたんじゃないの? 一度、頭を冷やすことね。あたしも、もう行くから」
立ち去りかけた美咲を、清吾は呼び止めた。何かがふっきれた。
「有難う、坂持さん。おかげで目が覚めた。確かに俺は半端な気持ちだった。テレビゲームの感覚だった。主人公が再起不能になることは無いという世界と混同していた。卑怯と言われても仕方ない。今後はレイプなんか狙わず、戦いに専念するよ。負けたら死ぬ気で。だから、今度会ったら全力で君の命を狙わせて貰う。もちろん、返り討ちにされても構わない」
美咲は振り向かずに首を傾げながら答えた。
「そっちの結論にしたのね。でも、あたしを狙うのは100年早いよ。せいぜい頑張りなさいな」
取り残された清吾は、静かに闘志を燃やした。次に見つけた者が誰であろうとも、性欲は封印して絶対に殺してみせる。
闇夜の中、清吾の目だけが輝いていた。
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