BATTLE ROYALE
〜 時の彼方に 〜


第2部

序盤戦


 トップバッターとして指名されたのは
梶田広幸(男子4番)だった。
 広幸は、無言で立ち上がると自分のバッグを持ちゆっくり歩み出た。
 奈津美は、その後姿を見た。右手を軽く握り、小さなガッツポーズをしているように見えた。
 何、今の? ひょっとして、あたしたちに宣戦布告してるの? まさか、そんなことないよね・・・
 広幸のことを考えてみた。潜水という変わった趣味を持っていることを除けば、特に特徴のない男だ。体格も成績も平均レベル。帰宅部で、親しいのは
森山文規(男子19番)や既に退場した樋口勇樹。性格は・・・ 殆ど会話したことないからよく分からない。
 勇一がボソッと言った。
「内容は判らんが、何かの決意をしたようだな。しかも、トップバッターになったのを喜んでる感じだ」
 そして、猛の方を振り向いて、口を開いた。
「いきなり襲撃される可能性もある。外へ出る時充分注意するんだ」
 猛は、半分震えながら頷いた。猛は男子5番だから次の次だ。
 勇一君、やめてよ・・・ でも、そう考えるのが現実的か・・・ うーん。
 そんなことを考えているうちに、広幸は扉を開けた兵士に導かれ、デイパックを受け取って階段に消えていった。トントントンという軽やかな足音がやがて聞こえなくなった。
 川渕が、嬉しそうに言った。
「皆、見たか? 梶田は、やる気満々だぞ。お前たちも、気合入れてけよ」
 奈津美は奈津紀と猛と勇一に向かって言った。
「一緒に、行動しようよ。外で、待ってて。できれば、はる奈や他の子も集めて・・・」
 勇一は、静かに答えた。
「そうしたいが、危険だ。河野と俺の間には11人もいる。さらに、俺と君たちの間には服部や塩沢がいる」
 確かに、クラス1の不良である
服部伸也(男子12番)や、不気味な塩沢冴子(女子11番)が間に入っている。彼等が仲間になってくれるとは考えにくいし、一緒にいても不安でたまらないだろう。
「だから、半島の北の端・・・ というのは、他の連中と鉢合わせしそうだから、エリアC=5の中央くらいの地点で待ち合わせだ。いいな」
 3人は、頷いた。
 周囲からも、相談しあう声が聞こえる。
 他の者に聞かれないように、ひそひそ話をしている者も多い。
 つまり、親友以外は信用しないという態度だ。
 なかには、話しかけられても返事をしない者さえいるようだ。
 そんなのダメ! あ、でもあたしたちも似たようなことしてるんだった。いったい、どうすればいいのよ・・・
 奈津美は、再度周囲を注意深く見た。
 服部伸也や、
坂持美咲(女子9番)、塩沢冴子あたりは、全く動ぜずに川渕をにらんでいたが、多くのものは奈津美と同様にクラスメートの表情を窺っていた。
 視線の合った者全員に、微笑みながら目配せをした。不良の
豊浜ほのか(女子14番)に対してさえも。
 ね、あたしたちクラスメートじゃない。団結しようよ・・・ って、わけだ。
 しかし多くの者はサッと視線をそらし、微笑み返してくれたのは僅かだった。その僅かの中にほのかが入っていたのは、奈津美としてはうれしい誤算ではあったが・・・
 そして、
佐々木はる奈(女子10番)が自分を見つめているのを感じた。奈津美は、はる奈とも行動を共にしたかったのだが、大声でないと聞こえない距離だった。やむなく、口の動きだけで集合場所を伝えようとしたが、はる奈は首を傾げるばかりで通じないようだった。
 奈津美の頭に、ひらめきが走った。はる奈と勇一(男子11番)の出発が連続していることを思い出したのだ。そこで勇一に、はる奈と行動を共にするように話してみた。しかし、勇一はまたも首を振った。
「佐々木の方が先だ。もう他の連中とも相談してるだろうし、俺を待つとは思えん」
 奈津美は、改めてはる奈を見た。もう、こちらを見てはいなかった。
 川渕の声がした。2分が経過したようだ。
「よし、女子4番!」
 指名された
大薗規子は、ふらふらと立ち上がった。完全に青ざめている。
 隣にいたはる奈が、規子の手を取って何か言っているようだったが、無論奈津美には聞き取れなかった。
 やがて規子は、覚束ない足取りで出て行った。兵士が銃を突きつけなければ、おそらくいつまでも出て行かなかっただろう。
 それを見送った川渕が言った。
「お前ら、もっと元気出せよ。あれでは、自殺志願者にしか見えんぞ。いいか、お前達はこの世で体験できる最高のゲームに参加しているのだからな。もっと、名誉に思ってもらいたい。胸を張って、出てってくれよ」
 次に出発する猛の腕が震えているのを、奈津美は見た。恐怖と怒りの入り混じった震えだっただろう。
 そして、猛は奈津美をじっと見詰めた。奈津美も見詰め返した。
「奈津美、生きて会おうな。必ずだぞ」
 奈津美は答えた。
「勿論よ。そっちも気を付けてね」
 2人は頷き合った。
 そして、猛の順番が来た。
 猛は、勇一・奈津紀・奈津美の3人とかわるがわる手を握り合った後、立ち上がった。
 そして、
石本竜太郎(男子1番)の方を一瞬見たかと思うと足早に出て行った。
 奈津紀が手を合わせて祈りのポーズを取った。猛の足音が消えた後も、しばらくその姿勢のままだった。


                           <残り40人>


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