BATTLE ROYALE
〜 黒衣の太陽 〜


12

[孤独のランナー(Jackson Brown)]

 くそっ! どいつもこいつも、学校ではオレの事を避けるようにしているくせに・・・。
 だからいわゆる「普通の生徒」って奴がオレは大嫌いなんだ!
 オレの名前は藤田一輝。神戸東第一中学の3年4組男子17番だ。
 オレ達3年4組44人はボランティア実習で兵庫県の北部に向かう途中のバスごと拉致され、到着した所は当初の予定とまったく反対の方向にあるA島南東部の市街地だった。
 別にここでボランティアをやるためではない。
 オレ達は全国の中学3年生が最も話題にする恐怖の代名詞、悪名高き「プログラム」の対象クラスに選ばれた為だった。(高校受験が正の話題ならこっちは負の話題だな・・・。)
 ともかくオレ達は宝くじに当るよりも低いと言われる確率を引き当てたのだ。
 オレはいわゆる不良生徒のレッテルを貼られているが、さすがにこういう事態でハイそうですかとやる気にはなれなかった。そりゃオレはタバコも吸うし、酒も飲む。もちろん降りかかる火の粉を払うためにケンカもする。だがケンカでケガをさせても殺しまではした事はない。当たり前か・・・。
 ましてや別に憎くもない一般生徒とやり合うなんてゴメンだ。だからと言ってオレ自身ケガをしたくないし、もちろん殺されたくもない。
 そんなワケで、ほとぼりが冷めるまで隠れていようと「本部」を出る時まで思っていたのだが、オレの考えは母さんが作ったケーキよりも甘かったらしい。
 出口にはすでに一つの死体が転がっていた。それは迫水良子という女子だった。
 オレは女子とは、ほとんど話をした事がなかったからこの子がどんな子かはよく知らなかった。だが恐らくはごくごく普通の生徒だったはずだ。それを殺す奴がいるなんて・・・。
 とにかくオレは身を隠すため、人が来そうにないダムの方に行った。
 しかし同じ事を考える奴は大勢いるモノだ。そこに行くまでにオレは何人かの姿を見かけた。そのうちの数人は一人ではなかったので、オレは少し感激したのだ。このクソゲームの最中でも愛する者、信じる者と行動を共にするとは・・・。
 もちろんそんな奴ばかりではなかった。オレはようやく一服できる場所を見つけたのだが、そこに現れたヤツがオレを見るや否や、いきなり撃ってきたのだ。
 アイツ、教室では猫かぶっていたんだな。そんな事より逃げる事が先だった。かなりしつこく追いまわされたが、オレには反撃をする気も方法もなかった。
 二時間近くうろうろと山の中を動き回っただろうか・・・空も少し明るくなったような気がした。
 オレは明るくなる前に身を隠さなければ、と南へ移動を始めた。町の中なら家に隠れられるだろうと思ったのだ。
 それが裏目に出た。ヤツはまだいたのだ。オレが標的なのか、それとも誰でもいいのかは分からないがとにかく襲ってきやがったのだ。
 バババババババッという銃声がオレの背後から聞こえた。
 微妙な明るさの中、オレは必死で走り、斜面を登るとキャンプ場らしき所についた。
 そして話し声が聞こえるバンガローの影から警戒しながら顔を出すと、そこにはオレにいつもくっついて来て調子こいている野球部のバカ、石田が斉藤の手を握っていた。
 こんな時にチークダンスか? と思ったほど二人は接近していた。マネージャーと選手がダンス? だがその手の銃は?
 オレは不思議に思ったが、この状況は次の石田の言葉でよーく分かった。
「藤田さん! 今までどこにいたんです? 探しましたよ。女も二人いるし、とりあえずは楽しみましょうや!」と、下卑た言い方をした。
 斉藤の顔は恐怖のためか、いつものかわいらしい顔が醜くゆがんでいた。彼女は石田に銃ごと右手を握られ、腰も押さえられていたため逃げられないようだった。
 むこうには小田の姿も見えた。小田の長い黒髪が乱れ、セーラー服が破れて土ぼこりで汚れているのを見てオレは自分の血圧が上がるのが分かった。
 オレは石田に「離せ」と言った。
 石田はその言葉を聞き、すぐ清実から手を離した。
「なんだ藤田さんの好みは斉藤だったんですか。ちょうどいい、オレは細くて目がパッチリしている方が好みなんで小田の方がよかったんですよ」そう言うと石田はさっさと小田の方に歩き始めた。という事はまだ小田もヤられてないな・・・。
 斉藤はオレの方をじっと見ていた。こめかみ辺りから出ている血が見えたのか、ちょっとけげんな顔をしていたが・・・石田はその間にも雅代にのしかかろうとしていた。
「石田、オレの言い方が悪かった様だな。オレはやめろと言ったんだ」
 オレは少し怒ったような言い方で石田に言った。
 振り向いた石田は「ハァ???」といった顔をしていた。小田と斉藤も・・・。
 こいつらオレが喜んでレイプするとでも思っていたのか?  そりゃあオレも嫌いじゃないが、こんな外でやるなんて・・・動物じゃあるまいし。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、藤田さん。こんな事このゲームの前にもやってたでしょう。何で今さら・・・」
 石田は信じられないと言った表情のまま、オレに近づくとそう言った。
「オレは一度もそんな事をした覚えは無い。それにオレに逆らうのか? 石田・・・」
 オレは半分キレかけていたので凄みを利かせた声で言った。我ながら地元のヤクザどもでさえ震え上がるような声だった。
 しばらく下を向いて小刻みに震えていた石田だったが、ぱっと顔を上げると尻のポケットから黒いモノを取り出し、いきなりオレに襲いかかってきやがった。
「てめえ! いい気になりやがって。何がボスだ! 細かい事までいちいち命令しやがって! オレたちがおったから威張っていられたんやないか!? 一対一やったらお前なんかに負けるかい!」そういって手にもった黒いモノを振り回した。
 初めてはっきりとこいつ自身の口からこいつの気持ちを聞いたような気がした。
 オレは斉藤を小田の方に押しやると同時に石田の攻撃を避けた。
「ブラックジャックか・・・」オレは言った。
 石田に支給された武器は袋の中に鉛がぎっちり詰まったブラックジャックというものだった。
 サイズは30cm位で、ちょうどコンビニでペットボトルを買った時に入れてくれる袋を膨らませたような形であった。オレには膨らまし損ねた風船に見えたが・・・。とにかくオレは何も手にもっていなかった。オレの武器はその背のリュックに入っているが役に立たないし、取り出している暇が無いほど石田は絶え間なく攻撃をかけてきたのだ。
 こんな事をしている場合じゃない。今、ヤツに襲われたら石田はともかく小田と斉藤も巻き添えを食う! 何とかしないと・・・そう思った時
「やめなさい。今度こそ本当に撃つわよ!」と斉藤が石田に銃を向けた。
 グッドなタイミングだぜ、斉藤! かけっこでもしたのか? 自慢のロングヘアーがいくつか束になって口や額にくっついて、キュートな顔が台無しだけど・・・。
 だが石田の野郎は斉藤が撃てないと踏んだのか、それとも無視しているか、とにかくオレに対して執拗に攻撃を繰り返していた。だがその攻撃は一発もオレに当っていなかった。
 オレはタイミングを見計らって石田の足を引っかけると、斉藤と小田に
「今のうちに逃げろ! 早く・・・」と言った。
 斉藤はオレに言われるまでもなく落ちている荷物を2つ拾い上げると小田のほうに駆け出した。
「雅代! 早く!」と言って小田を助け起こすとその場から離れようとした。小田は破れたセーラー服を押さえながら走りだした。
 早く逃げろ! 出来るだけ遠くにな。でもちょっと惜しかったな・・・。イヤ、イヤ・・・。
 それよりもヤツに見つかったらオシマイやぞ。ヤツはこのオレにまで平気で襲い掛かってきたからな。オレは別に腕っぷしに自信があるわけではないが、まさか不良でも何でもないクラスメイトに不意打ちをくらうとは思ってもなかった。
 とりあえずこんな事をしている場合じゃないんだ。石田も、頭を冷やさせてこの場を離れんとな。ちょうど石田が立ち上がったところだった。
 おっ! さすが、不良とは言っても野球部。動きがすばやいねえ、じゃあオレの話を聞け。
「いいか、こんな所でこんな事をしている場合じゃあ無いんだ。オレはさっき・・・」
 ここまで言うと石田の奴また襲い掛かってきた。
 相変わらず短気な野郎だ。よくこんな事でスポーツできるよな。
 それにしても単調な攻撃だった。女の子でも落ち着いていれば、かわせそうだった。
 本当に時間がない。ちょっと当ったフリでもして一旦中止させるか・・・。
 そう思った時だった。斉藤と小田が逃げていったのと逆の方向で何かが動いた。
 オレがそちらに一瞬気を取られた隙に石田の奴がブラックジャックを振り下ろしていた。オレはまたも不意を突かれ、直撃ではないにしても肩に一発もらってしまった。
 クソッ! 駆けずり回っていたツケがまわって来たのか? 体が思うように動かない。
 腐っても野球部員だな。だが、その当たりだとホームランじゃあない。いや、そんな解説よりも、こいつに教えないと・・・。
 オレは神様のような寛大さでそう思った。
「おい! 伏せてそっちに移動しろ」やさしく近所のガキをあやす時のように言ってやった。
 だが石田の野郎、一発当てて調子に乗ったのか薄笑いを浮かべて近づいてきやがった。
 アホか、こいつは・・・。
 仕方ない、タックルしてでも斜面の方に移動するか・・・。
 そう思ってダッシュをした瞬間、オレの背中の方で気配がした。タックルは中止して、オレはそのまま石田の横を走り抜けた。
 そのオレの足跡を追うようにバババババババッという、テレビドラマで聞いたような銃の発射音がして地面が跳ね上がった。後方からヤツが撃ってきたのだ。
 角度からしてバンガロー側には逃げられない、逃げるのならさっきオレがここまで登ってきた斜面の方だ。
「グッ、グアッ・・・」という声が聞こえた。
 石田の奴やられたな・・・。人の話を聞かないからだ、アホ。
 石田を弾よけにした事を棚に上げて、オレはそう思いながら走った。
 オレは自分の名前のように一気に斜面に身を躍らせ、そこから転がり落ちていった。

【残り 33人】


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