BATTLE ROYALE
〜 黒衣の太陽 〜


14

[フレンズ(レベッカ)]

 谷村理恵子(女子11番)には突然そこに人が現れた様に思えた。
 だがそこに現れた結城真吾(男子22番)は、その理恵子の心を読んだかのように
「説明は後だ! 谷村さんはどっちから来たんだ?」と聞いてきた。
 理恵子は「こっちからだけど・・・」と今登ってきた道を指差して答えた。それを聞いて、今度は一輝に
「おい、走れるか藤田?」と聞いた。
 一輝が少しつらそうに「ああ」と答えるのを聞いて真吾は「よし!」とつぶやくと
「谷村さん、大丈夫かな? 薮の中に入るけど」と理恵子に言った。
 理恵子は何のことか分からなかったが、とりあえず「うん」と答えた。
 そして真吾は10センチ近く身長の高い一輝に肩を貸して担ぐ様にすると、さっき理恵子が銃を向けた辺りに移動を始めた。
「そっちは誰かいるわよ!」と理恵子は慌てて注意をしたが、真吾は
「死にたくなかったら黙って来い!」と少し怒鳴るように言った。
 理恵子は泣きそうになったが、とりあえず言われた通りにした。お尻をすりながら斜面を少し下ると小さな横穴があった。真吾はそこへ一輝を運び込むと理恵子も中に入れ、最後に自分も入った。
 真吾は小声で「さっきは怒鳴ったりしてゴメンな。でも追っ手が来ていたらやられていたぜ、二人とも・・・」と言った。
「ここはすぐに見つからないけど、襲われると厄介だから小さい声で話してくれな」
 と続けて言い、少しぎこちなくだがにっこりと笑った。恐らくその左頬にある傷のためであろう。今は血も固まっている様子であったが、笑い顔はそのために引きつって見えた。
 理恵子が何も言う間もなく真吾は一輝を座らせ、手当てを始めた。真吾の診断によるとほとんど打撲と切り傷だったそうだ。
「さて、谷村さんお待たせ、何でも聞いて。でも悪いけどあんまり時間がないから手短に質問してくれな」と、真吾は言った。
 理恵子はその時になって「私、何を聞きたかったんだっけ?」と思った。考えている雰囲気を察したのか、一輝が先に
「お前、なんであそこにいた?」と、聞いた。
「ちょっとな」と、真吾は軽く言った。一輝は少し怒ったように
「それじゃ答えになってないやろう!」と言った。
「分かったよ。でかい声出すな、アホ。探しモノをしていたんだよ。そしたら銃声がしたんでな、そっちの方に行ってみた。そこで不良のボス猿を助け起こす やさしい女生徒を見つけたって訳や」
「猿は余計やろ」一輝も真吾に言われて苦笑いしながら言いかえした。
「お前らこそ何をしてたんや? あんな道の真中で・・・ 俺、自殺志願者かと思ったぞ」
 真吾に言われて一輝は
「オレも好きであそこに居たんと違うわい・・・ 小田と斉藤を助ける為にだな・・・」と説明をしたが、真吾は「ハイ、ハイ」と、どうでもよさそうな表情をしていた。
「私は・・・ 山頂まで行こうと思っていたの・・・ そうしたら、いっちゃ・・・ 藤田君が倒れていたから・・・」
 真吾はにっこり理恵子に微笑むと
「分かった。じゃあ2人ともやる気じゃあない訳だ・・・」
 今までと同じ様な口調で真吾は言った。それを聞いて一輝は真吾の胸ぐらをつかむと
「当たり前やろうが、お前しばくぞ!」と怒鳴った。
 真吾は少しも慌てた様子もなく、すっと左手を一輝の手に添えると体を入れ換え、一輝を地面に押さえつけた。理恵子はあまりの早業に呆然とし、ぽかーんと口を開けて幼馴染が押さえつけられているのを見た。
「お前、短気すぎるぞ。カルシウム足りんやろう? 煮干食えよ」と、真吾が一輝を起こしながら、さっき自分が石田に対して思ったのと同じ事を言った。
「ちっ、分かったよ」一輝は素直に言った。理恵子にはそのやりとりが懐かしく思えた。
 ────昔のいっちゃんはこうだったんだよね。
 そんな理恵子の顔を見て一輝はバツが悪くなったのか
「ほら、ナンか聞きたいことがあったんだろう」と、言った。理恵子は笑いをこらえながら
「結城君、何を探しているの?」と、聞いた。
「とりあえず、人・・・ かな。冬哉か俊介見なかったかい?」真吾は尋ねた。
「私は誰にも会わなかったの。いっちゃ・・・ 藤田君が最初」と、理恵子は言った。真吾はにっこり笑って
「そうか・・・ で、いっちゃんは?」と、一輝に聞いた。
「お前が呼ぶな! ─────オレは結構見かけたぞ、とりあえずこの上で石田の死体が転がっている。あとさっき言った斉藤と小田の野球部マネージャーコンビ、顔は分からなかったが女子が2、3人と、それに横山の姉の方、純子(女子20番)か? そうそう伊達は見てないけど五代の奴、沢渡といたぞ。それと・・・」
 それまであまり反応のなかった真吾が突然
「雪菜が冬哉と? どこにいた!!」と脅す様に一輝の胸をつかんで聞いた。
 だが、はっと我に返ると「すまない。人に教えてもらう態度じゃないな・・・ どこにいたか教えてくれないか」と、言った。一輝は少し驚いたようだが、別に気にした風もなく
「見たのはオレが逃げ回っている時だからな・・・ 多分、西町の方に下りて行ったと思うぞ」と答えた。
「そうか・・・ ありがとう。俺は生きているヤツは永井しか見てない」
「生きているやつだと?」一輝は聞いた。
「ああ、生きている人間に会ったのは永井だけだな。死んでいたのは『本部』の出口で迫水さん、ここから山頂に向かう途中の山の中で、北川さんと玉置さんがやられていた。一応、大勢でそこに向かった様にこいつで音を出しながらだったけど、もう少し早く着いていたら俺も危なかったかもな・・・」と、真吾は腰に下げていた、石を包んだ手ぬぐいを振った。
「で、これからどうするつもりなんだ?」
 と、真吾は2人の顔を交互に見ながら続けた。
 一輝と理恵子は顔を見合わせた。
「どうしようもないな・・・ オレのケンカと同じで降りかかる火の粉は払うが、それだけじゃあ生き残れないしな・・・ だが、理恵子とも会えたんだし、こいつだけはオレが守る」
 理恵子はその言葉を聞いて涙を流した。こんな最悪の状況でこんなうれしい言葉が聞けるなんて・・・
 真吾は一輝の肩をポンと叩いた。
「分かった。じゃあ、おれは行くけど・・・ ちょっと忠告な。谷村さんはお前のそばにいると、とばっちりを喰う可能性が高いぞ。俺もそうだけど一度貼られた『普通じゃない』っていうレッテルはついてまわるからな。他の連中は、俺やお前は自分が助かるために、やる気になっていると思い込んでるぞ。そこらへんも頭に入れておけ。それでも一緒にいるんやな?」
 一輝も理恵子も、そこまでは考えていなかった。
 確かに一輝のそばにいれば理恵子はとばっちりを喰う可能性が高いのだ。一人でいる事以上のリスクは付きまとうであろう。だが一輝の気持ちは変わらなかった。
「こいつはオレが守る!」真吾の目を見て力強く言った。そして理恵子もコクッとうなずいた。
 それを見て真吾はにっと笑うと「よし、じゃあこれからはこんな穴ぐらに隠れるなよ。こんな所で撃たれたら一発でやられるからな。逃げ道は確保しておいた方がいいと思う。近くで銃声がしたり、争うような声がしたらさっさと逃げろ。正義の味方と、やる気になっているやつは必ずそういう所に駆けつけるからな。あと、谷村さんにもちょっとアドバイスしとくな。着替えがあるんならスカートはやめて、ジャージでもいいからズボンにした方がいい。草や木で切ったりすると後が厄介だからね。で、これは俺からのプレゼントだ」
 そう言ってズボンのベルトにはさんでいたワルサーPPKと予備のマガジン2本、弾薬を理恵子に渡した。
「これは弾を込めても重さは1kg無いからな、弾はマガジンに7発入る。こっちの方が谷村さんには使いやすいだろう。そっちの銃は重いし、ちょっと特殊だから藤田が使った方がいい。使い方は分かるな?」
「でも・・・ 結城君はいいの?」と、理恵子は聞いた。
「これ、俺のじゃない。北川さんのモノだから・・・」一瞬、もう会う事も無いクラスメイトの顔が浮かんだ。
「俺も藤田と一緒で出来ればやりたくない。何とかみんなで逃げ出す方法を見つけたいんだけど、それには俊介と冬哉の協力が必要なんだ・・・ だからまず、あいつらと合流する」真吾は力強く言った。
「出来るのか?」一輝は身を乗り出して聞いてきた。
「今は・・・ まだ分からない。だが何としてでもやってみせるさ」
 真吾は自信に満ちた声で言った。そしてリュックの中から赤い棒のようなものと、半透明のプラスチックケースを取り出すと一輝に手渡した。
「こっちのケースには薬やら包帯が入っている。こっちの赤い筒は発煙筒だ。緑色の煙が出るからな、どうしてもピンチの時はこいつを焚いてくれ。生きていたらそこに駆けつけるから。俺も脱出方法のめどが立ったらこいつを焚くから、その時は、えーっとA−5にある教会の墓地の所に来てくれ」真吾は地図を見ながら言った。
「結城、死ぬなよ」一輝が真吾の顔をじっと見ながら言った。
「俺は不死身なんでな。それより藤田、もしお前や谷村さんを襲ってくるやつがいたらためらわずに撃て! いいな。この幸せゲームで長生きするコツは、自分以外のすべての人間を疑ってかかる事だ。中にはおれみたいに親切面して寄ってくる奴もいるかもしれない・・・ だからお前は、今から谷村さん以外の人間を信じるな!」
「それが五代や伊達・・・ 沢渡でもか?」一輝は真剣な顔で聞いた。
「谷村さんを守るためだったらな・・・」真吾は即座に答えた。理恵子はそれを聞いて恐怖のあまり座り込みたくなった。
 話の内容もさることながら、真吾がいつもの温和な表情と違って一輝をも凍らせるような表情をしていたからだ。
「分かった・・・ だけど、今言った3人は、多分オレ達をいきなり襲ったりはしないだろう。お前も含めて、不良のレッテルを貼られたオレに普通のクラスメイトとして接してきたヤツらだからな。そのうちの誰かに会ったらお前の事は伝える。合流の方法もな。つまらない質問して悪かった」一輝は頭を下げた。
 真吾は一輝の右手を取るとガッチリ握手をした。そして理恵子とも・・・ 
 突然、彼らの耳に重厚な雰囲気の音楽が聞こえた。
 出発して初めての放送の時間であった。

【残り 33人】


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