BATTLE
ROYALE
〜 黒衣の太陽 〜
15
[神々のたそがれ(ワーグナー)]
荘厳な音楽がプログラムの会場であるすべてのエリアに流れた。
ワーグナーの歌劇「神々のたそがれ」の序盤で流れる音楽であった。
一時の休息を取っていた者、怯えながら隠れていた者、そして隠れているクラスメイトを捜している者。すべての者が放送に聞き入った。
考えてみれば、昨日バスごと拉致されて以来、耳に届く音と言えば銃声や爆発音だけだったのだ。
一瞬とは言え、心が和んだ者もいた。だがそれは二度とは戻ってこない、昨日までの日常を改めて認識させられるものでもあった。
『神戸東第一中学三年四組の諸君、おはようございます。担任の朝宮みさきです。
現在午前6時、プログラムが始まって最初の放送だ。まず今日の天気だが晴れのち曇り、最高気温20℃、最低気温15℃。雨の降る確率は10%の予報だ。
それでは、まずこれまでに死亡した者の名前を読み上げる。男子からだ。男子2番石田正晴、7番神崎秀昭、11番柴田誠、12番高橋聡一、19番三浦信彦。続いて女子だが、女子4番北川美恵、7番迫水良子、12番玉置郁世、以上だ。順調ではあるが、もう少しがんばれ! 次に禁止エリアを発表するからメモの用意をする様に。いいか? 一度しか言わないからな、言うぞ。まず、これから1時間後の7時にB−8、9時にJ−2、11時にI−6だ、分かったな。
いいか、生き残る勇気の無いものは、戦う前に消えていく事になるぞ! 生き残りたければ勇気を持て! 各人の健闘を祈る。それではこれで放送を終わる』
どこにスピーカーがあるのか、真吾達の様に山の中にいてもはっきりと放送は聞こえた。
真吾は手早く地図に禁止エリアを書きこむと自分の荷物を持った。そして隠れている横穴の出口付近で周りをさっと見まわすと、中の2人を手招きで呼んだ。
「今なら大丈夫だ。おれももう行く。じゃあな!」短く言うと外に出た。
一輝と理恵子も続く様にしてそこを離れた。真吾は北東に向かって行ったようだ。
もう二度と結城には会えないような気がする・・・
一輝はそう思ったが口にはしなかった。自分が口にすることで、それが現実になってしまいそうだったからだ。
「さあ、街のほうにでも行ってみるか。隠れるところも多そうだしな」
一輝は努めて明るく振舞った。
この斜面を西に登っていったキャンプ場には、さっき名前を読み上げられた石田の死体が転がっている。 その死体が出来上がるところにいたし、一歩間違えば自分もさっきの放送で名前を読み上げられているところだったのだ。
一輝は死んだ連中の名前を聞いて、疑問に思った。女子はともかく、男子はわがクラスでもいわゆる不良グループといわれている連中ばかりであった。残っているのは自分と堀剛(男子18番)くらいだ。
だが、不良グループばかりを狙って何か得な事でもあるのだろうか?
確かにこいつらを先に倒しておけば、後々有利にはなる。しかしそれでなくとも体育会系運動部の一流どころが集まっているあの連中だ。はっきり言って、よほど武器の差があるか不意打ちでも掛けない限り普通の生徒には無理に思える。
それも無しで不良グループだけを選んで、しかもこの短時間に全員を殺すなどという離れ業は恐らく一人を除いて不可能だ。
そう結城真吾を除いて・・・
だが、あいつはさっきまで自分と一緒にいて、治療やアドバイスまでしてくれた。 じゃあ一体誰が・・・? オレを付け狙っているアイツの仕業か? それとも誰かが徒党を組んで、一網打尽にとあの連中を片付けたのか? 単なる偶然なのか?
あらゆる可能性が一輝の頭の中を駆け巡った。
そこで一輝は自分の命を狙い、石田を射殺した人物の名前を真吾に伝え忘れた事に気づいた。しかもその人物は真吾に・・・
ふと気が付くと理恵子が考え事をしている一輝の顔を見て、不安そうな表情をしていた。しかし、一輝がいつものように片方の口を吊り上げるようにして笑うとそれに答えるように「うん!」と元気よく言った。
だが先ほどの一輝の不安は的中した。二人が歩き始めてすぐ、真吾が行ったと思われる北東の方向で、激しい銃撃の音がしたのだ。
理恵子が先ほどと同じ様に不安そうな表情で一輝の顔を見た。しかし一輝は真吾の言葉を思い出し、理恵子の手をぎゅっと握ると南の方向に向かった。
オレはお前に言った通り、今からは理恵子を守るために行動する。だからお前を助けには行かないぜ。だけど・・・ 死ぬんじゃねえぞ! 結城!!
一輝はついさっき別れた、このクソゲームの中ででも信頼できるクラスメイトに心の中で叫んでいた。
【残り 33人】
第一部 完