BATTLE
ROYALE
〜 黒衣の太陽 〜
≪第二部 序盤戦≫
16
[HOT FOR TEACHER(VAN HALEN)]
午前6時の初めての放送を終えた「本部」のその部屋には、プログラム担当官の朝宮みさき、軍服を着ている沼田、そして黒スーツの陣という名の男の他に、コンピューターを操作し画面から目を離そうともしない技師の連中が10人近くいた。そのほかにも廊下には10人の兵士が不測の事態に備えて交代で立番をしている。
3年4組の生徒が出発をした部屋の隣にコンピューターを持ち込み、プログラムの運営を行っているのだった。
ダムの工事をしている工事会社の、事務所兼作業員の宿舎になっているプレハブハウスを使用して、今回のプログラムを行う「本部」として使用しているのだ。
一階部分は、通常食堂として使用されている部屋とレクリエーション等に使う集会場、それに物置の部屋であった。
食堂をコンピュータールームとして使い、集会場を先ほど生徒達が出発した部屋として使用していた。二階部分は六畳ほどの部屋が十数室あり、作業員が寝泊りをしていたのだが、現在は大東亜共和国が誇る人口衛星との交信のためのアンテナや他の通信機器、電源となる大容量バッテリー等が置いてあった。
「くくくっ。『生き残る勇気の無いものは、戦う前に消えていく』か、なかなか名言だな。えぇ? 経験からくる、実に見事なセリフだ。なあ、みさき」
沼田は一回目の放送を終え、マイクのスイッチをオフにしたみさきに、楽しそうに言った。
沼田の言葉を聞いて、みさきは露骨に顔をしかめ
「沼田さん、何度も言うようだが、今は私がプログラムの担当官だ。ちゃかすのは止めてもらいたいな」と、言った。
そして、それを援護するように
「沼田さん、先ほどから手が止まっているようですが・・・先ほどまでの6時間で死亡した生徒の足跡について行動チャートは出来たのですか?」と、陣が聞いた。
沼田はいまいましそうに「今からやるよ!」と、言ったが
「困りますね。これが先送りにされると全部の書類が停滞しますからね。よろしくお願いしますよ。あぁ、そういえばあなたは元プログラム担当官でしたね。こんな事は正に馬の耳に念仏ですね」と、陣は挑発するかのように言った。
沼田はデスクをバンと叩くと
「陣よ、お前さん軍本部からの出向だからといって、ちょっと調子に乗っているんじゃないか?
確かにこのプログラムが無事に終われば、貴様はオレの手が届かないような地位に着くんだろう。だがな、今この瞬間は対等の立場なんだぜ。いつでもオレの銃がお前に風穴を開けることを忘れるな!」と、陣に向かって本気で言った。
「そういったチンピラのような脅し文句を吐くのはやめませんか。卑しくもあなたは専守防衛軍の兵士なのですよ。すべての兵士があなたと同じ様に思われるというのは、よろしくない事です。それに・・・」
陣はここまで言うと、すっと立ち上がった。
「あの結城真吾という少年でさえ言っていたはずですが、弾の補給を怠って一発しか入っていない銃など怖くもありません。ましてやこの距離であなたの銃では私のナイフに勝てない」
沼田との距離は約3メートル。少し前に出て手を伸ばせば届く距離だが、それでも銃の方が有利に思える。陣の自信はどこから来るのだろうか?
「もうよせ、2人とも! これ以上やると言うのなら、この私が処分するぞ!」
朝宮は怒気をこめて二人に言った。
沼田は怒りが収まらない様子であったが、陣に背中を向ける様に座り、先ほど言われた行動チャートを作成し始めた。
陣は何事も起こらなかった様に静かに腰を下ろすと沼田と同じ様に書類に目を走らせ、次々と処理をしていった。
周りで2人のやり取りを見守っていたコンピューターの技師達も一様に胸をなでおろし、自分に割り振られた作業をこなしていった。
もう誰一人として先ほどのやり取りを気にしていない様だった。
だが、ただ一人 朝宮みさきだけは沼田の言葉を思い出していた。
経験から来る、見事なセリフか・・・ プログラムが終了した時や病院にいる時は忘れていたが、あの結城という生徒に言われて急に思い出したよ。私もプログラム担当官を殺してやりたいと思っていた事を・・・
そう、私が優勝した時の担当官、沼田十蔵を殺してやりたいと思っていた事を!
だが今は出来ない。私には、どうしてもやらなければならない使命があるのだから・・・
みさきはセーラー服の中に隠れているペンダントを服の上から握り締めた。自らの身を挺してみさきを守り、命を賭けてくれたクラスメイトからもらった物だった。
『だから不思議に思ったのさ、何があんたを変えたのかを・・・』
結城真吾か・・・ つかみ所の無い、不思議な少年だ。
ゆるぎない意志と限りない優しさ、普段は隠しているが有事に最大限に発揮される実力。そしてそのすべてに裏付けられた、みなぎってくる様な自信。
まるで────そう、まるでアイツのようだ・・・
だから、私は彼に託してみようと思ったのだろうか?
みさきはその答えを求めるように部屋の壁の3分の1を占めるスクリーンを見た。
生徒の首輪から送られてくる信号により、モニター上にはいくつかの光点が表示されている。その中のM22という光点を探した。
ちょうど、その光点がM17とF11を示す光点から離れ、C−5とC−6の境目辺りから北東のエリアへ向かって移動を始めたところだった。
そこでは現在、何人かで戦いが行われている模様だった。かなりの人数が山の中にいる事をモニタースクリーン上の光点が示していた。
私の時もそうだったが、日が昇ると今度は街に集まり始めるはずだ・・・
ここでみさきは、先ほど沼田の言った言葉を思い出し、苦笑した。
これも経験者ならではの事だな・・・
結城真吾を示す光点は、常人とは明らかに違うスピードで移動をしていた。
死ぬなよ! 結城。偶然にも藤田一輝と同じ事をみさきは思ったのだった。
みさきがそう思いモニターから手元の書類に視線を移そうとした瞬間、B−7のエリアにある光点が一つ、死亡を示す赤い色に変わった。
【残り 33人】