BATTLE ROYALE
〜 黒衣の太陽 〜


22

[ARE U WAKE UP?(STAEE GAZER)]

 部屋中に響いたその声は、どこから発せられたのか分からなかった。
 真っ暗闇の中で聞こえたその声は、時間が経つにつれ、まるで地獄の底から響いてきたように思えてきた。
 長いソファーに座っていた遠藤絹子(女子2番)と横山千佳子(女子21番)はソファーの両端にすばやく下り、姿勢を低くして周りを見た。
 一人がけのソファーに座っていた広瀬知佳(女子17番)と黒田亜季(女子5番)を見るとそれぞれのソファーの後ろに隠れ自分の武器を持ったまま震えていた。
 全員が周りを見回したが、今の人物がどこにいるのか分からなかった。
 絹子はひざを立て、腰の刀をいつでも抜けるように柄に手をかけると
「だれっ?」と、鋭い声で聞いた。
 返答があっても無くても、彼女たちには脅威であった。
 返答があった場合、問答無用で戦う状況になる可能性が高いし、無かった場合はこの建物を探索しなければならないからだ。
 緊張感を沈黙が包んでいく・・・・・・
 それに耐え切れず知佳が
「だれ? 誰なのよ!?」と叫んだ。
 すると、千佳子の正面にいた亜季が絹子の後ろを指差し、
「あ、あれ・・・」と言った。
 千佳子達が侵入してきたガラス戸にぼんやりと男の姿が映っている。
 絹子は振り向き様に腰の刀を抜き、一気に間合いを詰めるとその影を横なぎに斬った。
 しかし、手応えは全く無かった。本当に影を斬ったかの様に刀はすり抜けたのだ。
「そ、そんな・・・」
 絹子は現実離れしたものと相対し、そのためにパニックになった。
 相手がどんな武器を持っているか、どれほどの実力なのかを考えずにむやみに突っ込んで行ったのだ。
 思い切り刀を振りかぶり相手の顔面を斬ろうとした時、相手の姿は消え絹子は何かに激突した。
「大丈夫? 遠藤さん!」千佳子が駆け寄って絹子を抱き起こした。
「・・・ありがとう。ひざと肘をぶつけただけよ。でも、あれは一体・・・」
 絹子は落とした刀を拾い上げ、不思議そうに言った。
 ソファーのところに戻りながら千佳子は
「急に消えたわね。顔はよく見えなかったけど・・・ でも、男だったのは確かよ」と絹子に言った。
 亜季と知佳も寄り添うようにして座り込んでいる。知佳は何故か支給されたメンコを握り締めて震えていた。
「何なの? 私もう嫌や! 帰りたい〜〜〜」
 亜季も中華包丁を握り締めたまま言った。絹子は二人の所に行って、優しく肩を抱いた。
 千佳子も彼女たちの側に行き、周りに気を配っていたが頭に何か硬いものを押し付けられたかと思うと
「動くな!」
 と、耳元で言われた。
 突然現れた人物とこの状況に驚いたため素直に従ってしまい、簡単に銃を奪い取られた。
 絹子がそれに気づき、またもや一刀で切りつけようとしたが
「遠藤さん、あんたが動いたらこいつを撃つぜ・・・」と言った。
 後ろにいる人物が誰か分からないが、こう言いながらもいきなり殺す気は無さそうだった。
「全員、武器を出しな。出したらソファーに手をついて並ぶんだ」
 と、言ったその声は先ほどよりも優しかった。
「ちょっと待って、私たちやる気なんてないわ! お願い、話しを聞いて!」
 亜季は半狂乱になって言った。そんな言葉は全く聞こえていないかのように
「おい、身体検査をしてくれ」とその人物が言った時、四人は初めて闇の中にもう一人の人物がいることに気づいた。
「こんな事をしなくても・・・」という声に聞き覚えがあった。
 千佳子と亜季が同時に
「雪菜!」
「沢渡さん!」
 とその人物を呼んだ。その声を無視するかのように
「いいからやってくれ。お前も生き残りたいんだろう? 嫌ならオレ様がやるぜ・・・」と、千佳子の後ろにいる人物が雪菜に言った。
 雪菜は迷っていたが
「ごめんね・・・」と繰り返して言いながら全員の身体検査を終えた。
 冬哉は四人の武器を取り上げると
「よし、これでお前達に用はない。とりあえずここから出ていきな」と、冷たく言った。
 この言葉に雪菜は
「ちょっと待って。冬哉君それはあんまりだわ! 彼女たちは何もしていないのよ」
 と、怒りを隠さず言った。そして、知佳も
「さっき亜季が言ったでしょう。私たちはやる気なんて無いわ。ただ純ちゃんを待っているだけよ」と静かに、だが怒気を込めて言った。
 しばらくの沈黙の後、冬哉は鼻で笑うと
「分かったよ。お前達がどう思っているのか、本当の所を知りたかったんだ」
 そう言って、並んでいる四人におどけて見せた。その表情を見て
「脅かさないでヨ!」
「ひどい!」
「わたし、わたしぃ・・・」
 と、それぞれが不平や不満を口にした。冬哉は苦い表情をしながら
「うるさい! オレ様は女にキャアキャア言われても、ギャーギャー言われても同じ様にムカつくんだ。・・・このゲームで長生きをするコツって言うのは、自分以外の人間を信じない事だからな。だからお前達がおかしな真似をしたら、オレ様は容赦しない。いいな!」と言った。
 千佳子どころか雪菜や絹子さえも、冬哉のその言葉に気圧された。
 冬哉は全員の顔を睨む様にして見回すと、
「で、後は誰が来るって?」と言った。
 千佳子が姉の事を言おうとしたのだが、それよりも早く知佳が口を開き、これまでの経緯と純子の事を説明した。
 知佳の説明を一通り聞き終わると、冬哉は千佳子の方を向き
「そうか、心配だな横山。姉ちゃんが来てないなんてな・・・」と言った。
 一瞬、知佳がムッとした様に思えたが気にはせず
「五代君、純ちゃんを見なかった? 雪菜、あなたも」と訊いた。
 だが2人とも首を横に振った。確かにこのような状況では、彼女たちの様に特定多数の人間と合流できる方が不思議なのだ。
 冬哉は千佳子に
「元気出せよ。お前たちはここに来れる様に手がかりを残してきたんだろう? だったら大丈夫さ」と言った。それは冬哉自身が自分に言い聞かせる為に言った言葉でもあった。
 千佳子は気休め程度の言葉とは分かっていたが、冬哉に感謝した。
 冬哉は千佳子を励ました後、時計を見て
「もう、4時前か。順番に休もうぜ、これから体力勝負になりそうだしな」と言って全員の顔を見まわした。
 知佳がうなずき、絹子も従った。亜季と千佳子はそんな気になれないと言う事だった。
 冬哉は雪菜の顔を見て
「じゃあ、オレ様が添い寝をしてやるよ。2階の部屋でな。沢渡、6時の放送前には起こしてくれ。頼んだぜ」
 そう言って2人をエスコートする様に2階に連れていった。
 知佳は冬哉に手を引かれて、顔を赤らめた。絹子は逆に利き手である右手をつかまれ、迷惑そうであった。
 3人が部屋に入ると沈黙が部屋を支配した。まるでエレベータに乗った時のように何となく気まずい、しゃべりにくい雰囲気が漂っていた。
 何をするでもなく30分近く経過して、雪菜がふと見ると亜季がソファーにもたれて船を漕いでいた。雪菜は自分の荷物からバスタオルを取り出し、亜季にかけた。
 雪菜が座るのを待って、千佳子は
「雪菜、何で五代君といっしょなん?」と訊いてきた。
 雪菜はどう答えようか迷ったが、
「出発する時にトラブルがあって一緒になったの」とだけ答えた。
「それじゃあ、あの銃声って・・・ そう、あなた達も大変だったわね」と、千佳子は青い顔をして言った。
 雪菜は良子の事を話そうかと思ったが、冬哉にクギを刺されていたので余計なことは言わない事にした。
「千佳子は姉さんと一緒じゃあなかったのね・・・ でも観月は? 千佳子を何処かで待っていたんじゃあ・・・」
 と、雪菜は千佳子の親友である西村観月(女子15番)の名前を出した。
 しかし、千佳子は怒った様にきっと眉を吊り上げると
「雪菜は私が純ちゃんよりも友達を選ぶと思うの!? 私はそんな事、絶対にしない!」
 と、肩を震わせながら言った。雪菜は少し面食らったが
「そんなつもりで言ったんじゃあない・・・ 私が清実たちと会えなかったのと同じかなと思って・・・ それだけよ」と、千佳子の目を見て言った。
 雪菜のそんな表情を見て、千佳子は言いすぎたと感じた様で
「・・・別に、観月とは特別仲が良いわけじゃあないわ。少なくとも、雪菜と清実が仲良しなのとは違っていると思うの・・・ 観月とは部活とクラスが同じっていうだけよ。まあ、他の人に比べて共通の話題は多いけれどね」
 と、特に訊いていない事まで雪菜に話した。
 雪菜は千佳子の話を聞いて、軽いショックを受けた。雪菜の目には千佳子と観月は、自分と清実の様に何でも話し合える関係だと映っていたからだ。それなのに千佳子は共通の話題が多いだけの友達だと言う・・・ では、千佳子にとっての親友とは一体どんな人なのかと訊いてみたい衝動に駆られたが、それ以上の詮索はやめた。
 雪菜は話が続かなくなったので、壁に掛かっている時計に目を移すと5:15少し前であった。
 その時、遠くの方で爆竹が鳴るような音がした。雪菜と千佳子は顔を見合わせた。
「今のって、まさか・・・」千佳子は否定して欲しいというような言い方をしたが、間違いなく昨夜から何度か聞いた銃声であった。
 千佳子は自然と雪菜のほうに行き、腕をつかんでいた。しばらくその状態でいたが再び一発の銃声がし、約5分後に先ほどの様な連続する銃声が聞こえた。
 千佳子は水質試験場での恐怖が甦り、震えも止まらなくなっていた。
 雪菜の肩に顔をうずめると涙が出てきた。
「雪菜・・・ お願いがあるの・・・」と千佳子は小声で言った。雪菜が千佳子の顔を見ようと体をずらせようとすると、千佳子がそれを阻止するようにして抱きついてきた。
 いきなり抱きつかれたような形になった雪菜は驚き、振りほどこうとした。
 すると千佳子は雪菜の耳元へ口を寄せ
「雪菜、このまま聞いて!」と小声で言った。雪菜はとりあえず抵抗をするのはやめたが、いつでも千佳子を突き飛ばす事が出来るように身構えていた。
「純ちゃんに会えるまででいいから、一緒に居させて」と千佳子は言った。
 雪菜はいぶかしそうな表情をしたが、千佳子からは見えないようで
「広瀬さんたちは・・・ 信用できないわ。いつ私が放り出されるか分からない。だから・・・お願い!」と、続けて言った。
 雪菜は亜季の方を見た。先ほどと同じ様な格好で眠っている。今の話は聞かれていないようだった。
「私だけじゃあ返事は出来ないわ。冬哉君と相談しないと・・・」と言って千佳子の腕をふりほどいた。千佳子は雪菜から離れると
「そう。いい返事を待っているわ」と言った。
 助けを求めるようなその言葉は、雪菜の心と先ほどの銃声で目を覚ましていた亜季の耳に響いていた・・・

【残り 31人】


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