BATTLE
ROYALE
〜 黒衣の太陽 〜
30
[?(NENA)]
拓史は一体何が起こったのかと思った。相沢芳夫と東田尚子の3人で逃げ込んだ病院で永井達也(男子14番)、伊達俊介(男子13番)、結城真吾(男子22番)の3人に会った。
侵入した際、自分ではドラマの主人公のように上手く出来たと思っていたのだが、過大評価だったらしい。侵入した部屋から廊下に出た瞬間に相沢共々拘束され武器を奪われていた。
一時間ほど前にも尚子に同様にして武器を奪われたのだが全くそれが役に立っていなかった。病院にいた3人がやる気でなかったので助かったが、自分の不用心さは情けなくなった。だが、拓史は再度その思いをする事になった。
真吾と俊介が電算室を出て行き、達也と尚子が二人で話し始めたので手持ち無沙汰でそこにあるコンピューターをいじったのだ。
それはたまたま入った大手電気店のデモ用のパソコンを何気なく触るような感覚であった。
マウスを少し動かすとハードディスクの回転音と共にコンピューター自体が朝日を浴びて目覚めたように起動した。いつもの感覚で画面が表示されるまでにリターンキーを数回押した。そして画面が表示されると何かプログラムが走っているようだった。
何気なく見ていた画面いっぱいにあの専守防衛陸軍のマークが表示されたのだ。
拓史と相沢は「うわわわ〜〜〜〜〜〜」と情けない声をあげた。
達也と尚子があわてて来たが2、3秒で画面が切り替わった。『警告!』と画面上に大きく表示され、その下にこんな文章があった。
『ハッキングを試みた生徒に告ぐ。プログラム運営コンピューターへの介入は国家反逆罪に相当する。罪状に照らし合わせて処刑する。』
拓史と相沢は顔を見合わせ震え始めた。彼らがリターンキーを押した為に待機状態にしていたコンピューターがウィルスを送ってしまったらしいのだ。
警告文と同時に画面の右下には別のウインドウに
『M16・M01・M14・F16 02:00』という表示が出ていた。番号はこの部屋に居る四人を表し、時間はタイムリミットを表しているのだろう。順次カウントダウンされていた。
「くそ! 何で勝手に触ったんだ! お前達自分のした事が分かっているのか!?」と達也は怒鳴った。
「永井君どうなっているの?」尚子が心配そうに達也に聞いてきた。
「伊達と一緒に『本部』のメインコンピューターにウィルスを送るようにしていたんだ。プログラム自体をぶっ潰してやろうと思ってね。でも、まだ準備ができていなかったんだ!」と、答えた。
「こいつが作動しない限りみんなで逃げ出すような事は不可能なんだよ。オレ達の最後の希望だったのに…」
達也は無念そうに言うと回線を切ろうとした。
「他に何か方法は無いの?」尚子が聞いてきたが達也は首を振った。
「もうだめだ。オレ達の命はあと1分だ」
画面に表示された残り時間を見て達也は言った。
「そんな…」尚子は絶句した。拓史や相沢も同じだった。プログラムに参加させられるとなった時と同様、こんな形で自分の最期を迎えるなんて思ってもみなかったからだ。
相沢は何とか外れないかと涙を流しながら必死で首輪をいじくり回している。
達也はそれでも後の事を真吾達に託そうと、自分のパソコンのメモ帳にこの事を急いで打ちこんだ。
残り時間のカウントが00:30になった時、急に別の画面に切り替わった。
「永井君ちょっとこれを見て!」尚子は達也を呼び画面を見せた。
そこには二頭身のかわいいキャラクターが3人走り回っていた。銃を撃ちまくっている軍服の男の子、セーラー服のヨーヨーを持った女の子、黒い服を着たナイフを持った男の子。「本部」で会った3人であった。
しばらくすると軍服の男の子が画面に近づいてきたように表示されにっこり笑うとセリフが表示された。
『すごいね! プログラムの運営コンピューターにハッキングをする事が出来るなんて。君が優勝したら防衛軍の情報部に入ることをお薦めするヨ。本来なら首輪を爆破して処刑をするのだけど、君たちはラッキーな事にサバイバル・プログラム《スフィンクス》に当選しました。おめでとう!
』
「サバイバル・プログラム? な、何の事?」尚子は彼女の知識に無い言葉を聞いて明らかに狼狽していた。その質問に答えるように画面に表示された軍服の男は答えた。
『え? サバイバル・プログラム《スフィンクス》って何かって?
それは、ひ・み・つ。と言うより、君が生き延びた時にすべての事が分かると思うよ!
それじゃあ今からクイズを出すから君はそれに答えてね。解答する時は半角英数文字で入力するんだよ。一問に付き一分の持ち時間で10問正解すれば合格だよ。お手つきは三回までだから気をつけてね。それ以上間違えると首輪が爆発するよ!』そう言って銃を向けた。
「何なんだこれ?」拓史が恐怖のあまり小刻みに震えながら言った。達也も同じように震えていた。恐怖の為でなく怒りで!
「遊んでいやがるんだ! ヤマテツと防衛軍のプログラム運営コンピューター担当技師がプログラム開催時のハッキング対策に組み込んでいるソフトなんだけど…イカレたオタク野郎たちが仕掛けた、電脳世界のクソみたいな罠さ! ハッキングがバレないように準備を進めていたのに…でもある意味ラッキーなのかもな。確かこのクイズ画面に行くのは一年で一クラス、つまり50分の1だ。このクイズを切り抜ければ、とりあえず首輪は爆発しない。だが間違えれば…即、あの世行きだ」と、唇を噛んで言った。
尚子は呆然とした顔をしていた。無理も無い、下手をすればあと10分以内の命なのだから。拓史と相沢は自分達のしでかした事の重大さが今ごろ分かったようで画面を食い入る様に見つめていた。
画面に映っている軍服の男の子はそんな4人の感傷を吹き飛ばすように容赦なく進めた。
『それじゃあ準備はいいかな? いくよ第一問、トランプはジョーカー1枚を入れると一組何枚でしょうか?』
一瞬、四人ともが引っかけ問題かと考えた。
「これって普通に考えていいのかな?」拓史が不安そうに言った。
「そうでしょう。そんなに手の込んだ事なんて出来ない筈よ、永井君そうでしょう?」
尚子が言った。達也は頷くと答えの欄に『53』と入力してエンターキーを押した。すると画面上の軍服の男の子が
『正解! あと9問だよ、がんばってね。』と言った。そして間髪を入れずに
『第二問、わが国で一番高い山は富士山ですが一番大きな湖は何湖でしょう?』と出た。
「これは簡単よ、琵琶湖だわ」尚子がすぐに答えた。
「そうだな。でも右下の表示が気になるんだ。M16だけ消えずに残っているんだよ」と、達也が解答欄に『biwako』と打ちこみながら言った。それを聞いていた拓史が
「M16って僕の番号だよね。という事は…もし、失敗したら僕が…」と言った。
拓史を含めて自分の頭に浮かんだ不吉な光景を無理矢理打ち消した。達也も尚子も拓史にかける言葉が無かった。順番はどうあれクリアできなければ4人とも死ぬのだ。
二問目ももちろん正解だった。間を空けずに出題される。
『第三問、1997年のヒット曲「銀河のマグナム」を歌っていた剣崎順矢が所属するグループの名前は?』
「東田、分かるかい?」達也は尚子に聞いた。こういった問題は女子の方が強いと思ったのだ。だが、尚子は怒ったように
「知らないわよ! わたしが低俗な音楽を嫌いな事は永井君も知っているでしょう!」と言った。確かに尚子はクラッシック音楽を好んで聞いていた。だがそれは彼女の父親の影響も少なからずあると達也は思っていた。
「そうだったな。福田分かるかい?」達也はこういった事に詳しそうな拓史に聞いた。
「何て言ったかな…ここまで出ているんだけど…」
拓史は涙ぐみながら言った。無理もない、この中で真っ先に死ぬのは彼なのだ。彼のオタク知識も冷静で無ければ正しい答えを導き出せなかった。そして
『ブー! 時間切れ。正解は「フリップサイド」でした。これでお手つきは一回だよ、気をつけてね』と表示された。
拓史は真っ青になり粘つく汗が額を濡らした。あと2問間違えば自分は死んでしまうのだ。その気持ちを察したのか
「大丈夫だ。みんなで考えれば…」達也は言った。
『第4問、漢数字の「一」以外で画数が1の漢字が一つありますそれは何でしょう?』
続けて出題された。
「そんなのあるか? 画数が1の漢字…」達也は懸命に考えた。しかし全く頭に浮かばない。プレッシャーのせいもあるのかもしれないが時間内には浮かばなかった。
『ブー! 時間切れ。正解は「乙」でした。もうこれ以上間違えられないよ。がんばってね。』こう表示された。もう後が無い、そう思うと頭の中は真っ白になった。しかしそれでも容赦無くクイズは続けられた。
『第五問、DBSで制作された大ヒットドラマ「今夜、いつもの場所で」に主演した女優は誰でしょう?』
「また、芸能の問題か! オレは全然分からない。福田分かるか?」
達也は自分自身に歯がゆさを覚えた。数分前まではコンピューターウィルスを使ってクラス全員の命を助けようとしていたのに、今は隣に居る福田の命を助ける事も出来ないのだ。
福田自身もその問題を見たっきりつめを噛みながら、せかせかと歩き回っていた。カウントは00:30を切った。絶望的であった。
するとそれまで一言も話さなかった相沢が消え入りそうな小さな声で
「北川…安奈…」と言った。全員が相沢の方を見た。
「そうだ北川安奈だよ! 永井くん」と、拓史は相沢の手を握るとうれしそうに言った。
達也はすぐに『kitagawaanna』と打ちこみエンターキーを押した。『正解!』残り時間は17秒だった。
「相沢ありがとう。次も頼むぜ!」達也は画面から目を離さず言ったが、視界の隅で相沢がうなずくのが見えた。そして画面には次の問題が表示された。
『第六問、1947年に四月演説が行われましたが、その時の総統閣下は第何代目だったでしょうか?』
この問題を見て尚子がすぐに答えた。
「317代よ。間違い無いわ!」
達也は『317』と入力してエンターを押した。結果は『正解!』であった。さすがは専守防衛軍関西方面本部長の娘だなと達也は思った。
『第七問、わが国で一番大きな湖は琵琶湖ですが世界で一番大きな湖はどこでしょう?』
「せ、世界で…。ど、どこ? 永井君わかる? よっちゃんは?」
拓史はキョロキョロと落ち着き無く周りを見回した。だが全員が目を見開き、記憶を手繰ろうとしている。まったく分からないのだ。
「世界で一番? どこなのかしら…どこ…」
尚子は地理で習った様な気がしたのだが全然浮かんでこない。
そうしている間にもどんどん時間が経過していく。まるで自分の首輪が爆発するかのように思え、気分が悪くなってきた。ノドの奥から苦いモノがこみ上げ口の中は乾いていく。顔が青くなり額に脂汗が出てきた。残り時間はもう15秒もなかった。
「イ、 イヤダ! 死にたくない!!! 死にたくないよーーー!」
拓史は半狂乱になり、本能なのかコンピューターから離れようと廊下側の壁に張り付いた。
「いやいや」とするように小刻みに首を動かしたが、目は残り時間にくぎ付けになっていた。
全員が何とかしようと知恵を絞ったが緊張感と恐怖感が邪魔をして、上手く考えがまとまらない。残り時間が10秒を切った時、拓史はドアを開け部屋の外へと逃げだした。
「福田君!」尚子が叫んだと同時に残り時間が00:00になった。
そして廊下からボンッともバズッとも表現できそうなこもった爆発音がし、その後続いて何か重いものが倒れるようなドサッという音が聞こえた。
尚子はぎゅっと自分自身を抱きしめるようにして目をつぶった。あとの2人は呆然と立ち尽くしていた。
今までここにいた福田が死んだとは信じられなかった。だが、確認をしに行く勇気も時間も3人には無かった。コンピューターの画面は軍服の男の子が銃口をこちらに向けているシーンになっていて、その銃口からは煙が出ていた。
『ブー! 時間切れ、答えは「カスピ海」だよ。M16はここでリタイア。残念でした。次はM01を対象にしたクイズだよ。今まで正解した4問は持ちこせるから、あと6問正解すればいいんだ。ラッキー!』と表示されたからだ。
「ふざけやがって! サイコ野郎ども!」達也は拳でドンと机を叩いた。しかしそんな怒りとは関係なく、容赦無しに次の表示が出た。
『さっきの正解分を持ちこせる代わりにタイムリミットが30秒になるから気をつけてね。それじゃあいくヨ。』
「勝手にルールを変えないでよ! 30秒なんて…!」尚子は怒鳴った。
尚子以上に相沢は怒鳴りたかった。しかし、そうする時間さえ無駄には出来なかった。
『それじゃあ行くヨ。二回目のチャレンジ第一問、国語の教科書に出ている川端康成の小説「雪国」で、最初に出てくるひらがなは何?』と表示された。
先ほどと同じで答えは分からず、時間だけが過ぎていく。3人は福田と同じようにこの場から逃げ出したかった。しかしそれは即、死を意味する行為なのだ。お手つきはリセットされたものの、徐々に難しくなる問題に半ば諦めかけていた。その時、勢いよく部屋に走りこんできた人物がいた。
伊達俊介と結城真吾であった。
【残り 30人】