BATTLE ROYALE
〜 黒衣の太陽 〜


31

[サバイバル・ホスピタル 前編(山本麻里安)]

「なにがあったんや!」部屋に入ってくるなり結城真吾(男子22番)は言った。永井達也(男子14番)はあわてて
「そんな事より、この問題分かるか?」と、今この部屋に飛び込んできた2人に言った。
 真吾と一緒に入ってきた伊達俊介(男子13番)は急いで表示された画面を読んだ。
「何だこれ? あと13、12秒か?」俊介は言った。後ろから真吾が
「のだ!」と言った。俊介は真吾が何を言っているのか分からなかった。しかし達也には通じた様で『o』と打ち込みエンターを押した。
『ブー!正解は「の」でした。』と表示された。
「落ち着け!
『の』って言ったやんか!」と真吾は言った。達也に入力のミスを指摘しているのだった。
「『国境の長いトンネルを抜けるとそこは雪国だった。』で始まるやんか? だから最初に出てくるひらがなは『の』なんだよ」と解説までしてくれた。
「スマン、あと一問しか間違えられない・・・結城、伊達頼む!」
 と達也は二人に言った。尚子は福田が死んだショックでまだ混乱している様子だった。相沢も自分の番という事でかなり精神的にキている状態だった。
 達也が今必要な事だけを説明して次の問題に挑んだ。
『第二問、古代ギリシャ・ローマ建築の影響を受けたといわれる法隆寺金堂の柱のふくらみを何と言うでしょう?』
「オレはダメだ・・・誰か・・・分かるか?」達也は搾り出すように言った。
「エンタシスだ」と、すかさず真吾が答えた。
 達也は『entasisu』と打ち込み、真吾に向かって「これであっているか?」と、確認の為に聞いた。真吾は達也のノートパソコンに向かっていたが振り向き、一つ一つの文字を確認してから「OK!」と言った。
『正解!』の文字を見て達也はほっとした。相沢や尚子も同じだったようだ。
 真吾は俊介に次から問題を読み上げるように言った。
「第三問は、『有形文化財に傷をつけると文化財保護法違反に問われますが無形文化財、いわゆる人間国宝に傷をつけるとどんな罪に問われるでしょうか?』またキテレツな問題が出たな・・・オレ、パス」俊介は問題を読み上げた後あっさり言った。
「やっぱり同じ文化財保護法違反じゃないの?」
「オレもそう思う」尚子と達也は顔を見合わせて言った。相沢は「・・・・・・」と、先ほどからまたしゃべらなくなっていた。真吾は落ち着いた声で
「永井、お前あせりすぎ。落ち着け、人間国宝って人間やんか? だからそれを傷つけたら傷害罪や」と言った。
 達也は『bunnkaz』まで打っていた解答をすぐ消し、『syougaizai』と入れ直した。結果は『正解!』
「危なく引っかかるところだった。助かった〜」俊介は少しおどけて言った。
「お前、パスって言っていたやんけ! お前が言うな」と真吾が突っ込んだ。
 達也はやはり真吾が不思議な奴に思えた。ピンチやプレッシャーを感じさせないのだ。
 しかしそんな感傷に浸る間もなく次の問題が表示された。
『第四問、弱冠15歳などと使う「弱冠」は実際に何歳の事をさすのでしょうか?』
 表示された問題を俊介が読み上げると全員が真吾の方を見た。それほど手には負えないと言う事なのだ。
「20歳だよ」真吾は何でもないといった感じで答えた。そしてもちろん『正解!』
「だんだん難しくなっていないか、これ?」達也が言った。尚子も相沢もうなずいた。
「よっぽど根性の曲ったヤツが作っているんやろうな」俊介が言った。
 その言葉に反応するかのように画面に次の表示が出た。
『だんだん難しくなっているでしょう? でもこのゲームに当たらなかったら元々死んでいたんだから我慢してね』
「うるさい! サイコ野郎!」と言いながら達也が画面を小突いた。
『あと三問だね。さあ30秒あげるから深呼吸して、準備が出来たらリターンキーを押してね。これからは解答時間が20秒になるからね。気をつけてね!』と表示された。これには俊介がすばやく反応した。
「ナメてんのか! このクソコンピューター!!」そう言ってディスプレイを殴ろうとした。真吾が怒鳴るように俊介に
「やめろ! それで画面が見えんようになったら全員その場で終わりや!」と言った。
 その言葉を聞いた俊介は自分を押さえようと深呼吸を繰り返した。それを見て達也は真吾に
「なあ結城、お前これ使えるか? これから打ちこむ時間も惜しくなるから出来たら変わってくれ」と言って席を空けた。真吾はこくりと頷くとすばやくその席についた。
 入れ替わる際、真吾はすばやく達也にメモを渡した。達也は目を通すとOKサインを出し、何やらやり始めた。画面には次の問題が表示された。
『エベレストの次に世界で高い山の名前は?』真吾は少し考えた後打ちこみを始めた。『goddowinno-sutexinn』と解答欄にあった。もちろん『正解!』であった。
「何や? 珍しく分からんかったんか?」と俊介が聞いた。真吾はにやりと笑うと
「いいや。英語の綴りで打った方がいいんかなと思っただけ」と言った。
 そして次の問題『セメントと水を混ぜた物をセメントミルクと言いますが、セメントと水と砂を混ぜて練った物を何と言うでしょう?』が表示された。
 今度は問題の途中で答えを打ちこみ始めた。『morutaru』であった。しかし真吾は先ほどと同じように少し時間を置いてエンターを押した。そして『正解!』の表示。
 達也以外の3人は、先ほどからチラつく画面を眺めているだけだった。いよいよあと一問正解すればこの見えない処刑台から開放されるのだ。
 尚子は何か真吾に声をかけようと思ったが気のきいた言葉は浮かばず、祈るようにぎゅっと自分の手を握るだけだった。そして運命の問題は
『2008年に我が国でオリンピックが開催されます。その開会式で、最初に入場してくる国はオリンピック発祥の地ギリシャですが、最後に入場してくる国はどこでしょうか?』だった。
「これどこだ? アルファベット順だとYかZではじまる国名やなあ。
どこ? ザンビアあたりか?」と言った。相沢もうなずいて尚子を見た。
「そうね。ザイールよりは後みたいだし、間違いないんじゃあない!?」と尚子も言った。
 だが真吾は何か別の単語を打ちこみ、達也の方をみた。達也がOKサインを出したのを確認してエンターを押した。
「さすがに体育大学付属高校に推薦入学するだけの事はあるな、俊介。でもこれ引っかけ問題やな。正解は開催国、つまり大東亜共和国だ」と真吾は言った。
 表示は『正解!』だった。全員、緊張から解き放たれる事ともう少しで間違った解答をする所だった恐怖でどっと汗が出るのを感じた。
 開始時よりチラつく画面には、最初に出ていた3人が手を叩いている画像が出て
『おめでとう! よくがんばったね。君は知力と運がある事が証明されたよ。』と表示された。尚子は怒りで震えながら
「うるさいわね。本当に腹が立つわ! 見ていなさい、あなたたちの思い通りになんかならないわ」と言った。それに答えるように
『それじゃあ今からは体力も使って「プログラム」がんばってね! あぁそれともうハッキングなんかしちゃあダメだよ。このクイズも無いから次は警告の後すぐボンッだからね。じゃあねー』と出た。
 その表示をまるで無視するかのように真吾は達也の方を向いた。達也はまたもOKサインを出した。それを見て真吾はようやく深々とイスに腰をかけた。
「何だ? 何かしていたのか、真吾?」と、俊介は言った。真吾は尚子と相沢に余った包帯を渡し、自分の首を指差した。そして『首輪で盗聴、盗撮されている。』と書いた紙を目の前で見せた。それを見た二人はあわてて首輪に包帯を巻いた。
 真吾は達也の側に行き、いくつか確認をすると全員にその部屋を出るように促した。どう考えても電算室にはセンサーがあるし、おおよその目的は果たしたからだ。
 全員が荷物をまとめる中、真吾は他の四人よりも先に部屋を出て行った。
 俊介は相沢と肩を組むようにし、尚子は達也に寄り添うようにして部屋を出た。
 廊下に出ると真吾が白いシーツに手をあわせている所だった。福田拓史の遺体であった。
 真吾は、吹き飛ばされて転がっていた拓史の頭部を元の位置に戻すように置き、その上にシーツを掛けていたのだ。
 全員が同じ様に手をあわせ、拓史の冥福を祈ると一階へと移動した。



【残り 30人】


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