BATTLE
ROYALE
〜 黒衣の太陽 〜
39
[GET CRAZY! (PRINCESS PRINCESS)]
堀剛(男子18番)は自分の行きたい方向を見失っていた。6時の放送で、彼の仲間である柴田誠(男子11番)、高橋聡一(男子12番)、三浦信彦(男子19番)が死んだ事を知った。その時、剛は「やはりな…」と思った。
「本部」にいる時に集合場所が書いてあるメモが廻ってきてったのだが、剛はその場所には行かなかったのだ。
順番からすると一番左端に座っている柴田から横に回ってきたように思えたのだが、その文字を見て違うと判断した。
剛は本当のボスである竹内潤子(女子10番)が自分たちを集合させ、何かをしようとしているのだと思った。潤子の下にいて女に不自由をする事は無かったが、彼女のやり方には付いていけないと思っていたのだ。
案の定、誠たち3人は死んだ。恐らく潤子にやられたのだろうと思った。
剛はC−1付近の山の中で適当な所を探してずっと隠れていた。
ここは、北は貯水池に繋がる川が流れ、西は高圧電線のフェンスがあり万が一誰かが近づいてもすぐ分かるような地形になっていた。
幸い誰も近くに来る様な事はなかったので、夜をあかす事が出来たのだが6時の放送を聞いて急に恐怖感が襲ってきたのだ。隠れているのは山の中の方が圧倒的に良いのだが剛にはそんな判断は出来なくなっていた。しばらく悩んだが、そそくさと荷物をまとめると住宅街の方に向かって山を下り始めた。
銃声が聞こえるたびに薮の中に隠れ、安全な事を確認してから動いたので4つのエリア約2kmを下るのに2時間近くかかった。
F−1とG−1の境目付近に来た時、少し休憩をとった。また姿を隠せそうな薮の中に入るとバッグの中から水を出して飲んだ。一口で止めるつもりだったが半分ほどを一気に飲んでしまった。
朝の心地よい風が木々を揺らしている。
───プログラムが行われていても、風はいつもと同じ様に吹くんだな。
剛は自分が妙に感傷的になったように思った。目をつぶって頬に当る風を感じているうちにウトウトとしてしまったようだ。その眠りを銃声が吹き飛ばした。
それは遠藤章次(男子4番)が五代冬哉(男子10番)を救うためにコテージに向かって撃ったものだった。
剛はあわててバッグから自分に支給された武器を出すと両手で握り締めた。グリップから出ている鎖の先に鉄球が付いているモーニングスターという武器だった。
中世の力自慢の騎士が使っていたらしいその武器は、レスリングをやっている自分にはぴったりであると思ったが「プログラム」には向いていないと思った。剛は指先が真っ白になるほどモーニングスターのグリップを握り締めていた。
そしてそのままずっと拝んでいた。
「お願いだ、オレはまだ死にたくない…。助けて・・・助けて…」
ずっと祈っていた剛の祈りが通じたかのようにその後はぴたりと銃声も止んだ。
剛がようやく落ち着き、場所を移動しようとしたその時、東の方で爆発音がした。しばらく間を置いてもう一度。後に起きた爆発音の方が大きかったがパニックに陥った剛には関係なかった。剛はあまりの恐怖に失禁していた。
どうすればよいのか考える事も出来なかった。そうなると逃避する事が頭の中を占め始め、がたがたと震えながら出した結論は
「街の方に行くのは間違っていた。最初に隠れていた山の中に戻る」というものだった。
そうと決めるとすぐにバッグを抱え、走り出した。
だが方向を確認せずに走ったため、1時間ほどぐるぐると走り回っただけだった。
疲れて立ち止まったところは、走り出した所からあまり離れていないG−2とF−2の境目あたりだった。
剛はバッグからペットボトルを取り出すと一気に飲み干した。口をぬぐいながら空になったボトルを捨てると
「ゴミはゴミ箱に捨てないと」と、声を掛けられた。
剛が驚いて声のした方を振り向くと、そこには木下国平(男子9番)が立っていた。
普段のように教室で声を掛けられたのであれば「お前、何を偉そうに言うてるねん!」と言って小突いたりするのだが、それは出来なかった。国平の手には銃が握られていたからだ。
剛は口の中がカラカラに乾いていくのが分かった。かろうじて出た言葉は。
「こんな所で何をしている?」だった。国平は薄笑いを浮かべながら
「誰か通るのを待っていたんだ。ほら、オレって少し太っているから運動が苦手やん。だから動き回るより、待っている方がいいかなと思ってさ」と言った。
───コイツ、何を言っているんだ?
と剛は思ったが、それを察したかのように国平は銃を剛に向けた。
「六時の放送を聞いた? 神崎君を殺したんはオレや、コイツを使ってね。でも神崎君に支給された武器って油絵に使うペインティングナイフでさ、全然役にたたへんねん」と本当に残念そうに国平は言った。
「お前・・・お前が・・・・・・オレも殺す気か?」
剛は震えながらいつもと違う情けない声で聞いた。それを見て国平は
「何で普段威張っている奴に限って、銃を突きつけられると情けなくなるかな? まあ、いいや。じゃあね」そう言うと構えていたCz75に左手を添え、腰を落した。
剛の全身が小刻みに震えていた。その時、右手の少し崖のようになっている斜面の下から
「待て、何をやっているんだ!」と、声がした。
剛は銃を凝視していたが、国平は声のした方向を見た。
そこに北村雅雄(男子8番)が両手に木刀を持って現れた。少し息を切らしているものの、いつもと同じ精悍な表情であった。
「何って、『プログラム』やろ? 人殺しに決まっているやん」国平が面倒くさそうに言った。
雅雄はギョッとしている剛とふてくされている様子の国平との間に入り
「とにかく銃を下ろせ。こんなゲームに踊らされるんじゃあない。分かるだろう?」と言った。国平は不思議そうな顔をしながら
「何を今さら・・・ 命が助かるのは一人だけ、それなら自分が優勝するために他の人間を殺すのが普通やろう!?」と、言った。
「お前、本気で言っているのか?」雅雄は国平に怒りを覚えながら言った。
だが国平には雅雄の気持ちが全く通じないようで
「もうええわ、お前もここで死ぬんやから。じゃあな」そう言ってトリガーを絞った。だがハンマーが落ちる直前にスッと前に出た雅雄が、右手に持った長刀で下から国平の持つ銃を跳ね上げた。
ドンッという発射音はしたものの、弾は誰にも当らなかった。国平がしびれた右手を押さえ、自分の股にはさむような格好をした。
「お前をこのまま見逃す訳にはいかないようだな・・・」そう言うと雅雄は国平の方に向かって一歩前に出た。多少ケガをさせても国平が他の連中を襲ったり出来ない様にしようと思ったのだ。
国平は大きく目を見開いた。
直後、雅雄は後頭部に経験した事も無いような衝撃を受けた。
何が起こったのか分からず、反射的に頭を押さえつつしゃがみこむ自分の腹に、間髪いれずに国平が蹴りを放ってきた。
「うううっ」といううめき声をあげて雅雄は左側の斜面を転がり落ちながら、かばっていた剛に後ろから攻撃されたのだと理解した。薄れていく意識の中で遠藤絹子(女子2番)の事だけが鮮明に残っていた。
一方、残された国平は剛の顔を見て、それまでいい気になっていた気分が吹き飛んだ。
何のためらいも無く後ろから雅雄にモーニングスターを叩き込んだ剛は、定まっていない視点で周りを見ており、その口からはだらしなくよだれが垂れていた。
「コイツ・・・狂っている・・・」
国平は自分がそこまで剛を追い詰めたとも思わず、結果的に狂ってしまった剛を恐れた。
恐怖のあまり自慢のCzをポイントする事もせずいきなり発射したが、痺れた手では銃の反動を押さえる事が出来なかった。それでも弾は剛の上顎をかすめた。
剛は血が吹き出す上顎を押さえ、獣の様なうめき声をあげながら脱兎のように逃げ出した。
急に静まりかえった山中で、国平は「プログラム」が始まった時と同じ様に“自分が襲われる”という恐怖を感じていた。
【残り 27人】