BATTLE
ROYALE
〜 黒衣の太陽 〜
40
[いいことばかりはありゃしない(RCサクセション)]
小野田進(男子5番)は、かなり怒っていた。
最初に迫水良子(女子7番)に手傷を負わせ、その後は隠れながら移動を続けた。6時の放送で良子が死んだと聞いた時は、少し心が痛んだ。
「あいつは良いお母さんになれたのに。一体誰が・・・」
実際は進が沢渡雪菜(女子9番)を狙った玉が逸れて良子に当たり彼女の命を奪ったのだが、進はその事実を知らなかった。
その後、山の中で倒れている斉藤清実(女子6番)から銃を奪った。
さらに、クラスで美人の部類に入る清実の体をまさぐった。大きすぎず、また小さくも無いその胸のふくらみは、進が今まで経験した事もない感触であった。
しかし、順調なのはここまでであった。
その後は、追われながら地図の北東付近にある山の中を駆けずりまわり、ようやくC−9にある南おのころ総合病院にたどり着いた。
病院の建物に近づいた時、顔中が血まみれの安田順(男子21番)が巨大な筒といった感じの銃を構えて引鉄を引くのを見た。
轟音と共に病院入り口のガラスは砕け散り、サッシもグシャグシャになっていた。
病院の中に悠々と順が入っていくのを見て後を追おうとしたその時、先ほどの数倍の轟音と共に玄関ホールが吹き飛んだ。
進は何が起きたか判らないまま爆風に吹き飛ばされた。軽い脳震盪を起こし、顔には小さな傷がいくつか出来ていた。
それにもめげず起き上がって中に入ろうとしたのは、他でもない東田尚子(女子16番)の嬌声が聞こえたからであった。
進は、自分がどうも強い女性に惹かれているようだと分析した。
他に誰かが居るかもしれないが、もう進の頭にはセーラー服をはだけた状態の尚子の姿しかなかった。
ちょうど目の前の窓が開いているのでそこから進入した。
階段の陰から薬局の方を覗くと、尚子の他に男子が2人いた。だが、二人とも背を向けている状態なので、銃を持っている自分には物の数ではないと思った。
清実から奪った銃をゆっくりと構え、引鉄を引こうとした瞬間
「ちょっと待って!
結城くん、このレーダーは死んでいる人は表示が変わるのよね?」尚子が叫ぶように言った。
進は自分の心臓が口から飛び出るかと思うほど驚いた。
2人の男子のうち、一人はあの「ブラック・サン」結城真吾(男子22番)なのだ。
───ヤツが相手なのはマズイ、ここは逃げた方がいい。
頭ではそう思ったが、訓練をしていない体はすでに引鉄を引いていた。
その後、数発銃を撃ったが当った様子は無い。だが段々自分の思った所に弾が当るようになってきたようだ。6発を撃ち終えたので排莢し、弾をつめ直すと先ほどよりも慎重に狙って二度引鉄を引いた。その時、「ううっ!」という声がした。
当ったのだ!
進は跳び上がらんばかりに喜んだ。
───オレって射撃の才能あるんだ。
進のイメージの世界では、もう自分が無敵のアクションスターになっていた。銃口を上に向けたままロビーを横切り、右手に折れる廊下のそばで壁際にくっついた。
そっと覗きこもうとしたその時、目の前を何か黒光りのするものが通過して行った。
進はそれを目で追ったが、次の瞬間には目に火花が散って気絶していた。
目が覚めると病院のロビーでは真吾と誰かが戦っていた。よく見るとそれは中尾美鶴(女子14番)であった。しばらく頭にもやがかかった状態で眺めていたが、美鶴が急に自分の方に向かってダッシュしてきた。
手には恐ろしい形の刃物を持っており、今にもそれで斬りかからんばかりの表情だった。
進は恐怖のあまりへたり込んだまま動けなかった。だが目の前で美鶴は方向を変えると再び真吾にその刃を向けた。
それを見て進は脱兎の様に駆け出し、病院から逃げ出した。
メガネにヒビが入ったこともあり、何処をどう走ったのか判らなかったが気がつくと海岸沿いに来ていた。
進はもう「プログラム」などどうでもよくなっていた。
迫水良子や沢渡雪菜を攻撃した事でサディスティックな感情が芽生え、それが斉藤清実の身体をもてあそんだ事で猟奇的な快感へと結実していったのだ。
進の頭には自分の命よりも快感を優先するという、ある種の動物的な本能だけに支配されていた。そして、その欲求が満たされない事により徐々に怒りが増していった。
だが、進の本能は次の獲物を敏感に感知していた。
進の視線の先には漁業組合の事務所が波の音と共にたたずんでいた。
【残り 27人】