BATTLE ROYALE
〜 黒衣の太陽 〜


48

[リフレインが叫んでいる(松任谷由実)]

 先ほどまで吹いていた心地よい風がやむと静寂が訪れた。それは時間が経つにつれ耳鳴りを覚えるほどであった。
 実際は全く音がしない訳ではなかったが、遠藤絹子(女子2番)の耳には何も届いてはいなかった。先ほどまで感じていた潮風の匂いや日の光も同じ事だった。
 ただ、先ほど左肩へ受けた一撃の痛みだけが絹子を現実に引き止めていた。それは北村雅雄(男子8番)が最期に残した、彼の生きた証のようであった。
 突然現れた雅雄は絹子に向かって得意の二刀を振るってきた。絹子は雅雄の事を同じ剣道部で日々切磋琢磨し、剣道以外の事でも相談の出来る『良き友人』と思っていた。それだけにいきなり襲われたのはショックだった。絹子にとっては自分の父や母、兄弟達に、いや自分自身にいきなり襲われたようなものだったのだ。
 雅雄が斬りかかってきた時、絹子は動揺を隠そうと無心になるよう努めた。無心になると、鍛練によって身についた太刀捌きは禁忌から解き放たれたように雅雄を襲った。
 我に返った時にはもう遅かった。絹子の足元には剣道の打ち込み人形のように雅雄の体が転がっていたのだ。雅雄の口が最期に何かを伝えたいかのように動いたが、絹子には読み取る余裕さえ無かった。
 絹子の頭には『どうして』の言葉だけが壊れたレコードのように反復されていたからだ。
「どうして・・・北村君までも。もう、誰も・・・信じちゃダメなの・・・・・・」
 絹子はつぶやくように言った。雅雄の亡骸にすがりつき、子供のように泣き出したかった。あまりの事に呆然となり、まわりで起こっている事にさえ関心を持たなくなっていた。
「あんたが…やったの?」
 その声に絹子はゆっくりと振り向いた。そこには西村観月(女子15番)が左手を押さえながら立っていた。絹子は否定も肯定も、いや返事をする気さえ無かった。観月も特に絹子からの返答を期待していなかったようで勝手にしゃべり始めた。
「さっき、あんたのいとこの銃をぱくってやろうと思って同じように近づいたんだけど・・・この通り返り討ちにあったわ」そう言って左手をさすった。
「あんたも章次も何かむかつくわ。自分一人で不幸を全部背負い込んだような顔をしていて。そんなに悩むんやったらさっさと退場したらええやん。」観月は興奮しながら続けざまに言った。右手をスカートの腰の部分に回すと、そこに差していたトンファーを手にした。
「どう、私と戦う?
やる気が無いんやったらじっとしといて。楽にかどうかは分からんけどあの世に送ってやるから」そう言うと観月はゆっくりと絹子の後ろに回り込もうとした。絹子は先ほどから雅雄の遺体に視線を落したままぴくりとも動かない。
「やめて!」
 トンファーを振りかぶった観月の動きを止めたのは沢渡雪菜(女子9番)の一言であった。
「ゆ、雪…菜…?」
 雪菜の登場を演出するファンファーレのように、遠くで銃声が鳴り響いていた。


【残り 25人】


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