BATTLE ROYALE
〜 黒衣の太陽 〜


[SCARY MONSTER(デビット・ボウイ)]

「チェッ。沢渡ははずしちゃったなあ。でもいいか、迫水も痛い目に会わせたし・・・」
と言うと小野田進(男子5番)は銃声に驚いてしりもちを着いた際にズレたメガネをかけ直し、手にしたスリングショットをかばんの中にしまった。
「それにしてもさっきのマシンガン誰かな? もうちょっと楽しみたかったのに・・・」
 進はあの建物を出た後、少し道なりに歩くと右手の林の中に入り、とりあえず自分の武器を確認するためにバッグを開けた。
 説明書と一緒に出てきたものは子供のころ遊んだこともある、いわゆるパチンコだった。
 あの頃のY字型のモノではなくテコの原理でグリップも握りやすく、しっかり狙いもつけられるモノであった。玉もゴム製と金属製の2種類が入っており、ゴム製を使えば狙った相手を殺さず、ケガをさせるだけに止める事も出来た。進にはこのパチンコは果たして「当たり」の部類に入るのかどうか分からなかったが進の目的を果たす為には十分であった。
 迫水良子(女子7番)と本田洋子(女子19番)に復讐するために・・・。

 進は陸上部に所属し長距離のランナーだった。
 兵庫県下でも上位の成績を収め、いくつかの高校から誘いも受けていた。
 だが進はそんな高校に行って、つらい練習をするよりも普通の共学に行って青春を謳歌したいと思っていた。
 そのためにはまず彼女を作らなくては・・・と、今年の夏休み前に同じクラスの洋子に告白したのだ。
 洋子は美人という事もあったが水泳部でシンクロナイズドスイミングをやっており、かなりの成績を収めていた。その実力は将来のオリンピック候補だという話も聞いたことがあった。他のクラスどころか神戸市内のよその中学でもファンクラブがあって、大きな大会前は取材を受けていたようだ。
 そんな洋子だったが付き合っていると言う話は全く聞いたことが無かった。
 もちろんシンクロの練習のためにそんな暇が無いのかもしれないが、ひょっとしたら告白されるのを待っているのではないかと思ったのだ。
「陸上で県下トップクラスの自分なら洋子と釣り合うだろう」
 進は真剣にそう思っていた。
 そしてある日、洋子を学校の中庭に呼び出したのだ。
 夏休み前なので県大会を勝ち抜けなかった3年生はとっくにクラブを引退し、授業が終ると家路についていた。
 校舎の旧館と新館の間にある中庭は趣のある庭園風であったが、特に誰が通る訳でもなく注意して見なければ木々の影の為に見とおしが効かず告白には絶好の場所だった。
『そう言えば3組の西川がうちのクラスの沢渡に告白したのも、ここだったらしいな』
 進は洋子と同じ位人気のある沢渡雪菜のことを思い出した。
 沢渡は5月位までは結城真吾と付き合っていたらしいが、その後3組の西川というお調子者と付き合い始めたらしい。
 人の事はどうでもよかったのだが、沢渡も捨てがいと思ったのだ・・・。
 そんな事を考えていると新館校舎から洋子が出てきた。練習の合間に出てきたのだろうかジャ−ジの胸のふくらみのところまである髪は濡れていた。
「なに、話って?」と洋子はつっけんどんに言った。進は少し戸惑いながらも
「練習抜けてきたの?」と聞いた。
 それは洋子の気持ちを逆なでしたようで、先ほどよりも語気を強めて
「そうよ!
大会が近いからね。まだちょっと練習が足りないねん。だから話があるんなら早く済ませて!」と、腰に手をあてて言った。
 進はその言葉に気押されたが
「オレと付き合って・・・。彼女になって」と言った。
 まるで陸上のスタート時のように口の中が乾き、視線が定まらなかった。心臓が頭の中にあるように自分の鼓動がやかましく思えた。
 洋子はさっきと同じポーズのまま首をうなだれ「ハァ〜ッ。」とため息をついた。
 そしてすっと顔を上げると少し怒ったように「私そんなことに興味ないの、他の人をあたって。じゃあね。」と言ってさっさとその場から立ち去った。
 進にはそこで時間が止まったような気がした。
「なんで? 興味が無いって、そんな事でオレと付き合わないのか?」
 進には全く理解が出来なかった。
 自分は県下でもトップのランナーだし理系の科目なら成績もばっちりだ・・・進は自分のことはよく分かっているつもりだったし、確かにそうではあった。だが容姿に関しては少し・・・いや、かなり自信を持ちすぎだった。
 体型は陸上ランナーらしく痩せ型で顔もほっそりしていたが、ついでに目もほっそりしていたのでメガネを外すと狐のような顔だったのだ。
 それに女子の間では「胸を見ながら話す男」としてかなり気味悪がられていた。そんな進だから洋子ならずとも女子が断るのも当たり前なのであった。
 がっくり肩を落とす進の後ろから声をかける女の子がいた。
「振られちゃったね」そう言ったのは迫水良子であった。
「うるさいな!」進は告白する所と振られた所を見られたことでかなり動揺した。
「まあ、またいい事あるよ元気出して」そういうと良子は立ち去った。
─────お前に何がわかる。進はそう思ったが八つ当たりはしなかった。
 その後、良子とはいろいろと話すようになった。
 良子は自分の性格と容姿に自信が無い事、でもせめて性格は自分で変えていかなければ一生このままだろうと言う事を学校の帰りに話したこともあった。
 夏休みも終わりに近づいたある日「キスでもすれば変われるかなぁ?」良子が進の顔を見ながら言った。進は答えず良子の顔を見た。二人は何も言わずくちづけをした。文字通り口をつけただけのものだったが良子は感激したようだった。
 だが夏休みが明け登校した際、お調子者の上島裕介(男子3番)から
「お前、本田にフラれたんやって? 鏡を見た事あるのか? 自分を知らないと・・・」
 と言われた。
 進は頭にくるよりも誰がしゃべったのだと思った。裕介などにコケにされるのは進にとって屈辱的な行為だった。
 ちょうどその時、良子が教室に入ってきた。
──────こいつだ。こいつ以外にあの事を知っているやつはいない。──────
 それから進は良子と距離を置くようになった。だがあの時の屈辱感はより強くなり、その憎悪は裕介にではなく良子に向かい始めたのだ。
 そしてそれはついに爆発した、プログラムというゲームによって。
 どんな暴力も、殺人でさえも罪には問われない。こんなチャンスはそうそう無いのだ。だが良子にはゴム玉を撃った。
 殺すほどの怒りは無かったのかそれとも・・・。
 良子の後に出てきた北村雅夫(男子8番)や木下国平(男子9番)は彼女に目もくれず走り抜けたので、狙いさえつける事も出来なかったが、その後に出てきた沢渡は絶好の標的だった。
 だが進は暗闇の為に分からなかった。沢渡を狙ったつもりの金属玉が良子の頭部に突き刺さり、彼女の命の炎を吹き消した事を・・・。
「あんな女がオレの撃った弾に当ったらどんな風に苦しむんだろう? もし銃の弾だったり刃物で切り付けられたりしたら・・・」
 進の口元には自身が知らぬ間に笑みが浮かんでいた。
 進はさっき自分の邪魔をした奴が持っているような強力な武器を手に入れようと思った。どこかで待ち伏せて一人でいる奴をスリングショットでしとめる。そしてその武器を順番に奪っていけば・・・。
 進の頭に邪悪な計画が浮かんだが、それをかき消すかのように先ほどと同じような
「ダララララララララ──────ッ」というすごい銃声がした。
 とりあえず進はさっきからずっと我慢していた小便をするのも兼ねて待ち伏せに手ごろな場所を求めて移動をはじめたのだった・・・。

【残り 40人】


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