BATTLE ROYALE
〜 黒衣の太陽 〜


[STATE OF SHOCK(ジャクソンズ)]

 雪菜と冬哉が走り去ったのを見届けると遠藤章次(男子4番)は
「これで五代に借りは返せたかな?でも何で沢渡と一緒なんやろう? ────それより、オレ以外にやる気になっとるやつがいるんやな・・・」とつぶやいた。
 章次はその事実に少々恐怖を感じた。
 自分は最愛の笹本香織を目の前で殺した朝宮と黒スーツの男に復讐をすると誓ったのだから一応の理由はあったが、少なくとも今まで出発した者の中でこの最悪の椅子取りゲームに積極的に乗る様な奴がいるとは思わなかったのだ。
 誰でも自分がかわいいのか・・・。
 オレ自身もそうだったのではないのか?
 あの時、香織の方にオレが駆け寄っていれば香織は死ぬような事は無かった。
『彼女がもう少しだけお前を信じていたら・・・死ぬことはなかった・・・』
 朝宮が言った言葉が甦ってきた。
 確かにそうかも知れない。だがあんな状況で平静を保っていられる女の子が何人いるって言うんだ? それに何故、香織が死ななければならないんだ・・・。
 章次の問いに答えてくれるものはいなかった。恐らくその問いに答えられる者はただ一人・・・。
 ならば、もう一度朝宮の前に立ってやる! そしてあの黒スーツの男共々、この銃で穴だらけにしてやるぜ! 章次は自分に支給された武器UZI9ミリサブマシンガンを握り締めた。
 朝宮にやられた右脇腹はかなりの重傷の様で、息をする度に胸にまで激痛が走る。だが章次にはちょうどよかった。
 この痛みを感じる度に朝宮と黒スーツの男への復讐心を思い出す。
────やってやる! 必ずあいつらを香織の遺体の前に這いつくばらせてやる!
 章次は自分の怒りをぶつけるかの様に、まだ朝宮たちのいる建物に向かってUZIの9ミリ弾を放った。

§

 出発を待つ教室で悲鳴が上がった。
 五代冬哉(男子10番)が出るまでは何事も起きなかったのだが、竹内潤子(女子10番)が荷物を受け取り、他のみんなと同様に宣誓をし部屋から出た瞬間「ダラララララッ────ダラララララッ────」というものすごい音がした。
 部屋にいた全員がその銃声に反応した。そして男子の約半数、女子のほとんどが熱病にかかったかの様にガタガタと震え始めた。
「今のってまさか・・・」
 と、西村観月(女子15番)が涙声で誰かに同意を求めるかの様につぶやいた。
「その通り、銃声だ」と朝宮が答えるように言った。
「何で? 誰が撃ってるんだ? まさか・・・」と、三浦信彦(男子19番)が言ったがその言葉をさえぎるように東田尚子(女子16番)が
「この人たちの手下よ。私達を怯えさせるためにわざわざ撃っているんだわ。ご苦労な事ね、まったく」と先ほどとは違い、うわずった声で言った。
 朝宮は「フッ」と鼻で笑うと
「今の音だとUZI9ミリ・サブマシンガンだろう。我々専守防衛軍の装備しているサブマシンガンはH&K MP−5Kクルツというサブマシンガンだ。だからあれは我々では無い」と言った。
────それじゃあ・・・今のは・・・。観月は、もう何も信じられなかった。今日の昼にはあれほど仲良くバスに乗ってふざけあったりしていたのに・・・。
 はっきり言って観月は調子に乗るタイプだったのでクラスの中では浮いていた。仲のよい友達も同じ陸上部の横山千佳子(女子21番)だけだった。クラスの中でも先ほど出て行った竹内潤子と、同じく不良達のボスである藤田一輝(男子17番)以外の人間とは話をした事はあったが、それだけの関係だった。
 自分には実は友達がいないのではないか・・・。
 観月は朝宮のルール説明の時からその事ばかりを考えていた。
「次、男子11番 柴田誠」朝宮が先ほどと同じ調子で次に出発する柴田誠(男子11番)の名を呼んだ。
 観月は柴田が自分の荷物を取って前に出て行く際、隣の席の高橋聡一(男子12番)の机に小さな紙片を置くのを見た。
 それは先ほどあの吐き気をもよおす宣誓文を書かされた紙の切れ端であった。聡一はギョッとしたが、サッカー部のキーパーらしい大きな手でサッと隠すとその紙片をそっと開いた様だった。どうやら朝宮たちには気づかれなかったらしい。何も咎められるような事は無かった。
 聡一の横にはバスケット部の三浦信彦(男子19番)がおり、その横にはレスリング部の堀剛(男子18番)ら各体育会系クラブに所属する男子が並んでいた。
 きっとあの紙片には集合場所が書いてあるのだろう。誠は宣誓した後、聡一に目で合図を送るようにして出て行った。
 観月はその場所を知りたかった。この4人なら比較的仲がよかったので、自分を守ってくれるのでは無いかと思ったのだ。
 だがこの4人の中に観月の出席番号に近い男子はいなかった。どこまでついていないんだろう、私って・・・。そう思ったとき
「ダララララララララ──────ッ」と新たな銃声がした。
 今度は銃声の合間に、観月たちのいる部屋の窓側の壁が「ガンガンガンガンガンガン」とかなづちで鉄板を叩くような音を立てた。
 そこで初めて観月はこの建物の窓の外に鉄板が張ってある事に気づいたのだが、そんな事はどうでもよかった。それよりも先ほどと違って建物に向かって撃っているものがいるのだ。
 そう思うと観月はたまらなく怖くなり「キィヤーーーーーーーーー!」
 という叫び声を上げていた。もちろん叫んだのは観月だけではない。窓際の席に座っていた横山純子(女子20番)などは叫びながら白目をむいて失神寸前だった。
「静かにしろ!!!」そう言って軍服の男は銃を抜き、セーフティを親指で解除すると窓側に向かって一発撃った。
 その直後、観月の隣の席に座っている御影英明(男子20番)が「ウッ」とうめくと左手をおさえて机に突っ伏した。軍服の男が撃った弾が跳ね返り、英明の腕に当ったのだ。
 手当てをしなくちゃ・・・観月は思ったが、立ち上がれば自分のほうが危なかった。
 その時、朝宮がじろりと部屋に残っている者を見渡して言った。
「出発直後にここを襲撃か・・・。なかなか勇敢な事だ、だが、今見た通り無駄な事だからな! 先に言っておくぞ。それとお前達はまだ分かっていない様だったが今のではっきりしただろう。自分はそうでなくてもやる気になっている奴はいるぞ。油断していれば自分がやられる。信じられるのは・・・自分だけだ・・・」
 最後は少し悲しそうな口調だった。
 その言葉を真っ向から否定するように「そんな事分かるものですか・・・」と尚子がつぶやいた。一番前の席だから朝宮には聞こえたのだろう。
「分かるさ・・・」朝宮は尚子を見ながら言った。
 全員の視線が朝宮へと向いた。軍服の男や黒スーツの男さえも・・・。
 そして朝宮は静かに、だが力強く言った。
「私は1994年度第44号プログラムの優勝者だからな───────」

【残り 40人】


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