BATTLE
ROYALE
〜 黒衣の太陽 〜
55
[HOT SUMMER NIGHTS(NIGHT)]
がちゃがちゃと乱暴にドアのノブを回す音だけが響いてきた。
それはまるで自分たちの心の扉を暴力的に扱われているような感覚であった。
若松早智子(女子22番)は沢渡雪菜(女子9番)と手を握り合っていた。
先ほどの管理室よりも奥に位置する機械室へと移動をしていたのだ。
ダムの心臓部ともいえる機械室は上部と下部に分かれており、早智子達は上部のキャットウォークのようになっている通路にいた。
ネット状になっている足元から下部を見渡すと体育館がすっぽり入るほどの広さだった。
「プログラム」のために電気を止められているので数箇所の明かり取りだけでは夜明け前の様な状態だった。
僅かな明かりに照らされる巨大な機械類や水槽は古代遺跡を思わせ、別の空間に放り込まれたような感覚がした。
早智子達を先に行かせた五代冬哉(男子10番)は、鍵の無い扉を閉ざすためにドアノブを固定しに戻った。
女子二人になった事でより不安は増していた。
───遠藤君かしら。それとも他の誰かなの? 怖い・恐い・こわい・・・。
早智子の不安は膨らんでいくばかりであった。
「大丈夫よ、大丈夫」雪菜が笑顔を見せた。だがそれは自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
早智子も何か気の利いたことを言おうとしたがどーんというドアにぶつかる激しい音が言葉を飲み込ませた。数回の衝撃の後、早智子たちの思いもむなしくドアは開いた。
早智子の鼓動は早くなり、手もじっとりと汗ばんでいた。
誰が入ってきても隠れてさえいれば大丈夫だと確信していた。
ドアの前で侵入者が仁王立ちしているが、逆光で誰なのかまだ分からなかった。
一歩
侵入者が機械室に入った。
二歩
周りを見渡す。
三歩
入ってきた扉の方を向いた。
「ひっ」早智子の口から悲鳴が漏れた。侵入者は堀剛(男子18番)であった。
動物のように低いうなり声を上げる堀を見て早智子の脳裏に昨年の事が甦った。
早智子はその日夏期講習の日程をすべて終え、後一週間残った夏休みを満喫しようと思っていた。一週間しかないだけに宝物のように思えた。
「明日からというより、今から楽しまなくちゃ損ね」と、早智子は塾のある三宮の町をぶらぶらと歩いた。
今まで気にも留めなかった街の明かりが新鮮かつ刺激的であった。
ネオンまでもが早智子の休みに彩りを添えようとしてくれているように思えた。
別の世界のような街の明かりに後ろ髪を引かれながら駅に向かうと、見慣れた顔がいくつかあった。
テニス部の柴田誠とサッカー部の高橋聡一、そして帰宅部で太鼓持ちの安田順であった。
3人とも別のクラスだったが、それぞれのスポーツに秀でていたため早智子も名前は知っていた。
「若松、おーい若松」と、早智子と面識のある柴田が声をかけてきた。早智子は会釈をするようにして応えた。
すると他の二人も馴れ馴れしく話し掛けてきた。
「塾か? 大変やな」
「もう終わったん? 遅くまでゴクロウサンやなあ」
意外と気さくに労をねぎらわれ、早智子の警戒心も薄らいでいった。
ケータイで話をしていた柴田も話しに加わり。しばらく駅の階段に座り込んでこの夏の事をお互いに話した。
「もう、帰った方がええんと違うか」高橋が時計を見て言った。早智子も時間を確認したが、今日の講義が早く終わったためかまだそれほど遅くは無かった。
「まだ、大丈夫やんなあ。オレ達がいつも遊んでいるところに行こうや。校区内やからここよりも早く帰れるで」安田が言った。
迷っていた早智子の心は好奇心に勝てなかった。
言われるままに運河の近くの倉庫に行った。
ドアを開けると中にはさらにプレハブのようなものが立っていた。そこから微かだが音楽が聞こえてくる。それは早智子の聞いたことの無い音楽「ロック」というものだった。
早智子は妙な胸騒ぎと恐怖を覚え、帰ろうとした。だが、安田と高橋に掴まれたままプレハブに連れ込まれた。
そこには野球部の石田正晴、バスケット部の三浦信彦、レスリング部の堀剛、そして不良グループのナンバー2 神崎秀昭がいた。早智子は自分の身に何が起こるのか察知し、その場から逃げようとした。
だが運動部でもトップの実力を持つ彼らの前には、なす術も無かった。
逃げまどううちに一枚、また一枚と衣服を剥ぎ取られ、ついには下着のみとなった。
興奮しきった顔で近づいてくるケダモノたちを前に、早智子のした抵抗は儚いものだった。
7人に代わる代わる陵辱された後で解放された。
忘れようとしていた当時の記憶が甦り、早智子は悲鳴をあげた。
雪菜の制止する涙声も、冬哉の新たな侵入者を告げる叫び声も、堀の雄たけびのような声も、悲鳴をあげ続ける早智子の耳には届いていなかった。
早智子は悪夢の再来から逃げるように機械室の下部フロアへ駆け降りていった。
【残り 22人】