BATTLE ROYALE
〜 黒衣の太陽 〜


67

[真夜中のものがたり(小金沢昇司)]

 時間の経過と共に寒さも増してきた。
 木下国平は水や食料の補給も兼ねてF−7にある商店街へと足を踏み入れていた。
 国平は心底怯えていることを自覚していた。
 今朝出会った北村雅雄の迫力と堀剛が追い詰められた為に狂っていく様を目の当たりにして、人間という生物に対しての恐怖感が銃を持つ国平の手を震えさせた。
「大丈夫だ、殺れる。この震えを止められさえすれば…」
 さっきから何度この言葉を繰り返したか判らない。
 だが、こうしていなければ自分もあの堀のように狂ってしまうような気がしたのだ。
 とにかくあの場所にいるのは嫌だったので住宅街に向かった。
 東町の住宅街に向かう途中で鄭華瑛の死体を見つけた。
 最初は死んだフリでもしているのではないかと疑ったのだが、彼女は間違いなく死んでいた。
 不思議な事に彼女の手は胸の前で組まれ、目も閉じられていた。
「誰なんやろう。あの子と仲のよかった奴かな…」
 国平はつぶやいた。
 それからずっと、さきほどの言葉を繰り返していた。
 しばらく商店街の履物屋に身を隠していたが、ようやく国平は決心をした。
「こうなったら優勝するしかない。そのためにはもっと強力な武器を手に入れないと…」
 ぐずぐずと考えを巡らせるよりも、行動することを選んだのだ。
 国平は履物屋を出ると、すっかり暗くなった商店街を西に向かって歩き始めた。
 銃を手にして文字通りゴーストタウンを歩く自分は、米帝の映画に出てくる牛飼いの主人公そのものに思えた。
 周りを警戒する事を忘れずに進んでいった。
 ふと足元に目をやると、左足の靴紐がほどけていた。今まで家の中にいたので気付かなかったのだろう。
 結び直そうとしゃがんだ瞬間、銃声が鳴り響いた。
 国平はあわてて右手にあった喫茶店の看板を盾にすると、マズルフラッシュのした辺りを凝視した。
 ───誰だあいつ?
 国平が看板の方に倒れこむ際に見えたのは、サブマシンガンらしきものを両手で持つ人物だった。
 身長や体格から推察する事は出来なかった。
 ごく標準的な体型だったので、伊達俊介や横山純子、中尾美鶴ではないだろう。
 どちらにしても国平の望む強力な武器を持っているのだ。恐いのは相手の持つ銃の性能だけである。
 『幸』と書かれた喫茶店の看板を盾に、そっと右手に持ったオート拳銃 Cz75を突き出すと二発立て続けに撃った。
 相手も出しかけていた首をあわてて引っ込めた。
 その際の動作でも国平には相手が誰か判らなかった。
 だが銃を撃ち慣れている感じではなかったので、多少の危険を承知で店一件分襲撃者に近づいた。
 相手もそれを見逃さず撃ってきた。
 このとき初めて国平は相手の持つ銃がUZIサブマシンガンだと知った。
 Czよりも装弾数が遥かに多く、当然破壊力も段違いであった。
 とりあえず自分の銃よりも優れたものが欲しかった国平だが、面と向かって撃ちあう危険は冒したくなかった。
 できればケガの心配も少なく、成功する率も高い不意討ちをしたかったのだ。
 そこで国平はある策を思いついた。
「おい、お前みたいな下手クソがオレに当てられると思うか。おとなしく投降すれば命は助けてやるぞ」
 相手に恐れをなさせようと精一杯の恐そうな声で言った。
 数秒待ったが相手からは何の反応もない。
 不審に思った国平はそっと顔を出した。
 すると、驚いた事に相手は道の真ん中をこちらに向かって歩いているのだ。
 国平は予想外の行動にあわてた。
「どどど、ど、どういうつもりだ」どもりながら言った。
 薄い月明かりに照らされたその顔は遠藤章次だった。
 遠藤章次は出発の際「本部」で恋人の笹本香織を殺され、怒りのあまり担当官に飛びかかろうとしたのだ。
「必ず優勝して、お前を殺してやる」出発の時にも担当官に言っていた。間違いなく今戦ってはならない相手だった。
「お前こそ当てられるのか…。他の男子ならともかく、お前やったら楽勝や」
 章次は弾装を交換する余裕まで見せて言った。
「お前誰かを撃った事があるのか? オレはもう神崎君を殺したんだよ、このCzでね」
 国平はCz75を見せながら続けた。
 フラフラとした足取りで歩を進めていた章次は不意に立ち止まった。
「あるよ…」
 章次はつぶやいた。
「えっ…」と、訊き返す国平に
「五代だ…五代を殺したのは…多分オレだ・・・・・・」章次はうわごとを言っているように答えた。
 国平は章次が恐くなり、あわてて逃げ出した。



 国平が走り去ったあと、章次はあえて追わなかった。
 正直いっていつもの章次なら楽勝で追いつけるスピードと距離だった。
 だが、胸部の痛みと今自らの発した言葉の重みのために走る事も出来なかった。
「誰か・・・誰かオレを殺してくれーーーーーー」
 商店街のアーケードに章次の叫びがこだましていた。

【残り 15人】


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