BATTLE
ROYALE
〜 黒衣の太陽 〜
69
[Walking under the moon(The Police)]
夜空に浮かぶ三日月は、選手たちに十分な光を与えてはくれなかった。
結城真吾と沢渡雪菜は山の中を歩いているため、余計に暗く感じるのかもしれない。
雪菜は幼少の頃押入れに閉じ込められたことを思い出していた。
正に鼻をつままれても判らないような感じであった。
雪菜とは反対に、真吾は昼間と全く変らないようにスタスタと歩いていく。
手を引かれていなければ、雪菜はあっという間に迷子になるだろうと思った。
それだけに、自分の手を引いてくれる真吾の手が何よりも頼もしく思えた。
「誰かに襲われそうになったとき以外はしゃべっちゃダメだぞ」と、警察署を出る際に真吾から言われていたので一言も発してはいなかった。
目的地は聞いていたが、はたしてこの暗さで判るのかどうかが心配だった。
真吾が急に立ち止まった。
何かカバンから取り出し、雪菜の耳に当てた。
「聞こえるか、雪菜?」くぐもってはいるが、真吾の声が聞こえた。
雪菜はこくりとうなずいた。
紙コップと糸、そして油とり紙を使った糸電話だった。紙コップを雪菜の耳に、油とり紙は真吾のノドに当てられていた。
二人だけで意思の疎通を図るにはこれで十分だった。
雪菜がうなずくのが見えたようで、真吾は続けて
「今からこのゴーグルをお前に着ける。周りの風景を見て方向を確認して欲しいんだ」
そう言うと返事を待つまでもなく雪菜の顔に金属で出来たカステラの箱のようなものを押し付けた。
───もう少し優しくしてよ
雪菜は心の中で思いながら、自らの頭に合わせるべくベルトの調節をした。
それが終るのを待って真吾がスイッチを入れた。
途端に雪菜の前に山中の風景が広がった。
雪菜が装着したのはAM PVS−4暗視ゴーグルであった。
警察の押収品の中から真吾が失敬してきたこの機械は、星の光ほどの明かりを増幅し、この条件下でもはっきりと山の風景を映し出していた。
雪菜はちょっとした感動を覚えながらも、周りを見渡した。
真吾の求めるものはここからもう少し北に行ったところにあるはずだった。
今度は雪菜が油とり紙をノドに当て、真吾が紙コップを耳に当てた。
「もう少し北に行った所よ」
雪菜は教えられた通り、口を閉じた状態で話した。
真吾は「判った」とでも言うようにうなずき、雪菜が装着しているゴーグルを外した。
雪菜はまた手探りの状況に戻ってしまった事に不満だったが、真吾に手を引かれるまま先に進んだ。
数十分後、真吾は目的のモノを見つけた。
今度は真吾が暗視ゴーグルを装着した。
薄暮の状態ではあるが夜明けまではもう少し時間があるため、万全を期するために機械に頼ることにしたのだった。
光の増幅率を調整し、"それ"を調べた。
周りを警戒していた雪菜は気が気でなかったが、そんなことはお構いなしのようであった。
ようやく作業が終わった真吾は頭を下げて礼をした。
ベルトに引っ掛けている腕時計を見ると4時前だった。
伊達俊介に再び会うべく、雪菜と共にA−2へ移動を開始した。
遠くで銃声が鳴り響いていた。
【残り 15人】